外国人が日本の介護現場で働く場合、適切な在留資格を取得する必要があります。介護職に対応した在留資格は複数存在しますが、その中でも特に特定技能は人手不足の問題を解決する可能性のある在留資格です。
特定技能は業務に関する相当程度の知識・技術および日本語能力を備えた人しか取得できない在留資格であるため、即戦力を確保したい場合に向いています。
この記事では在留資格「特定技能(介護)」について、在留資格の概要や雇用に際してのポイントなどを解説します。
目次
介護職で働く外国人
少子高齢化により年々労働力の確保が難しくなりつつある中で、介護職は特に人手不足が深刻化している業種です。需要が増える一方であるにもかかわらず、働き手が常に不足しています。
日本国内での働き手の確保が難しい今、介護の現場では外国人労働者の活躍が目立ちつつあります。
外国人が介護士として日本で働くための在留資格には、
- 特定技能
- 技能実習
- 介護
- 特定活動EPA
の4種類がありますが、特に特定技能外国人は人材の確保がしやすく雇用後すぐに業務にあたらせることができるため非常に便利な制度です。
特定技能外国人とは
特定技能とは深刻化する人手不足を外国人労働者によって補うことを目的として2019年4月に創設された在留資格です。少子高齢化に伴い、特に労働力確保が難しいと考えられる産業分野で活用できます。
介護は創設時から対象分野であり、比較的活用が広がっている産業です。
多くの産業分野で在留期間や技術水準などに応じて1号と2号の分類が設けられている中で、介護は2号の在留資格が存在しません。
特定技能の在留資格で認められている在留期間内に介護福祉士の資格が取得できれば、在留資格を「介護」に移行させることができるためです。
現在介護現場で働く外国人が増えている
令和5年3月に出された厚生労働省の資料によると、現在4万人ほどの外国人が介護関係の在留資格を取得し日本で働いていることになっています。
特定技能として日本に在留している人も年々増えており、創設当初の2019年には16人だったのが、2023年には17,066人まで増加しました。
在留資格取得に際して合格する必要がある技能試験も海外では11ヵ国の国・地域で実施されていることから他の産業分野に比べ取得しやすい傾向があります。
技能実習との違い
「技能実習制度によっても人手不足を解消できるのでは?」
と考える人も少なくありません。
しかし技能実習制度は日本で培った技術や知識を母国の発展のために活かしてもらうことを目的とした、国際貢献意識に基づいて作られた制度です。
そのため人手不足の解消を目的として活用することはできません。人手不足の解消が目的の場合は特定技能制度などを活用しましょう。
また、技能実習の場合は業務範囲が限定的であり、人材の入国後すぐに働かせることができない上に記録や報告の手間がかかるといったデメリットがあります。
在留資格「特定技能(介護)」の取得条件や概要
特定技能は外国人材による人手不足を目的として作られた制度です。この制度に基づいて日本で働く外国人は産業に対応した特定技能の在留資格を取得しなければなりません。
以下では外国人が日本の介護職で働くために必要な在留資格の一つ「特定技能(介護)」の概要や取得条件等を解説します。
在留資格とは
外国人が日本に入国し、何かしらの「活動」をする場合、活動内容に応じた在留資格を取得する必要があります。この「活動」とは就労や留学などを指し、期間によっては観光なども該当することもあります。
さらに永住者などは活動に制限が無い在留資格です。また、日本国籍を取得し、帰化することと永住権を取得することは意味が異なり、永住者はあくまでも外国人として日本で生活するという意味になります。
在留資格を取得した外国人は取得した在留資格で定められた範囲内での活動のみが認められているため、外国人を雇用する場合は在留資格の種類や活動範囲などをチェックしなければなりません。
特定技能の在留資格取得に際して合格する必要がある技能試験と日本語試験
特定技能の在留資格を取得するためには、技能試験と日本語試験によって相当程度の知識や技術および日本語能力を持っていることを示す必要があります。
特定技能の在留資格における日本語能力
業務にあたるのに十分な日本語能力を持っていることを示すための試験として、「日本語能力試験」と「国際交流基金日本語基礎テスト」があります。
産業分野に関係なく特定技能の在留資格を取得するためには「日本語能力試験」ではN4レベル以上を、「国際交流基金日本語基礎テスト」A2レベル以上を取得しなければなりません。
どちらも日本語で日常生活および身近な話題について意思疎通できることを示す水準です。
特に介護の特定技能における日本語能力
業務の上で利用者である被介護者とのコミュニケーションも非常に重要になってくる介護職では、上記の特定技能全般に適用される日本語能力の他に、介護ならではの日本語能力が求められます。
そのため特定技能の中でも介護分野だけは、通常の日本語能力試験に加えて介護日本語評価試験にも合格しなければなりません。
技能試験
業務に従事する上で必要な技術や知識を相当程度身につけていることを示すためには、産業分野ごとに実施される技能試験に合格する必要があります。
介護の場合は介護の基本や心と体の仕組み、介護現場でのコミュニケーション技術や生活支援技術に関する知識や技術の有無が問われることになります。
海外でも技能試験は受験できる?
介護の技能試験は日本国内だけでなく海外でも広く実施されており、2024年時点では、
- バングラデシュ
- カンボジア
- インド
- インドネシア
- モンゴル
- ミャンマー
- ネパール
- フィリピン
- スリランカ
- タイ
- ウズベキスタン
- ベトナム
といった国が試験実施国となっています。
「特定技能(介護)」の在留資格で認められている業務
特定技能(介護)の在留資格では身体介護等のほかこれに付随する支援業務にも対応できます。
具体的には利用者の入浴や排泄、食事、衣服着脱時や移動時の補助・介助などがあげられます。さらに機能訓練の補助や施設内での掲示物の作成・管理、レクリエーションの企画などに携わることも可能です。
さらに特定技能の他の産業分野では一人での夜勤は認められていませんが、介護だけは外国人従業員による一人夜勤が認められています。
他にも介護の特定技能の在留資格は老人ホームなどだけでなく、病院や診療所、地域福祉センター、障碍者支援施設などでも働けます。
ただし、特定技能の在留資格では訪問介護などの訪問系サービスには従事できないため注意が必要です。訪問系サービスに対応できる外国人材を求める場合は、特定技能ではなく「介護」の在留資格を取得している人材を探す必要があります。
その他「特定技能(介護)」の取得要件
他にも、
- 技能実習2号からの移行
- 介護福祉士養成課程の修了
- EPA介護福祉士候補者として4年間の在留期間を満了する
といった場合は介護の産業分野での特定技能の在留資格を取得することができます。
上記の場合は業務にあたる上で必要な知識・技術および日本語能力がすでに身についているとみなされるため、技能試験や日本語試験を経ることなく特定技能の在留資格が取得できます。
介護職で特定技能外国人を雇用する方法
雇用条件
特定技能制度での雇用形態は原則としてフルタイムでの直接雇用である必要があります。派遣やパートなどでの雇用は認められていません。
また、労働時間や報酬といった労働条件も日本人の労働者と同等以上に設定しなければなりません。外国人材だからという理由で日本人よりも安く雇用できるわけではないため注意が必要です。
雇用までの大まかな流れの具体例
求人サイトや登録支援機関を活用して人材の募集・面接など実際の採用活動を行います。適切な人材と雇用契約を締結し、在留資格取得申請を行うことで雇用することができます。
自社で求人活動を行うことも可能ですが、手続き等が煩雑になりやすいため、特に初めての場合などには登録支援機関の利用がおすすめです。
受け入れ企業が満たさなければならない要件
特定技能の外国人材を雇用する場合、受け入れ企業も数々の要件を満たしている必要があります。保険関係や納税関係に滞納等がなく、コンプライアンスを遵守しているかどうかが重視されます。
具体的には、労働・社会保険および租税に関する法令の遵守や、1年以内の非自発的に離職した労働者や行方不明者の有無、関連文書の作成・保管体制の整備などが挙げられます。
介護職で特定技能外国人を雇用するメリット
人手不足が解消できる
介護は需要が高まりある分野であるにもかかわらず、働き手となる人材が減りつつある日本国内で十分な人材を確保することは年々困難になっています。
こうした人手不足の問題を解決する方法として、特定技能制度および外国人材は非常に有効です。
海外に目を向けることで体力のある若い労働力を確保することができるかもしれません。
即戦力を確保できる
介護職で雇用できる在留資格の中でも、特定技能は特に即戦力として使える人材が確保できる在留資格です。
特定技能の在留資格を取得しているということは、実際の現場で業務にあたるに十分な日本語能力と技術・知識を持った人材であるということでもあるため、教育や研修等のコストを削減できます。
雇用後すぐに活用できる人材を求める場合は、特定技能制度の活用を検討しましょう。
介護職で特定技能外国人を雇用する際の注意点
外国人を雇用する場合、日本人とは異なるポイントを意識する必要があります。以下では特定技能の在留資格上および外国人を雇用するにあたっての注意点を解説します。
訪問介護には対応できない
特定技能の在留資格を取得した外国人を訪問系サービスにあたらせることは認められていません。
訪問系サービスに対応させる場合は、特定技能ではなく「介護」として在留資格を取得している必要があります。
適切なフォローが必要
労働観や生活習慣に関する価値観が全く異なる外国人を雇用する場合、適切なフォローが必要になるケースも少なくありません。日本で働く外国人本人も不安を抱えているものであるため、親身になって対応するようにしましょう。
また、特定技能外国人の受け入れ期間には、受け入れ人材に対する「支援」が義務付けられています。義務付けられている「支援」の内容は、
- 事前ガイダンスの実施
- 出入国する際の送迎
- 住居確保・生活に必要な契約支援
- 生活オリエンテーション
- 公的手続等への同行
- 日本語学習の機会の提供
- 相談・苦情への対応
- 日本人との交流促進
- 人員整理等の場合の転職支援
- 定期的な面談・行政機関への通報
が挙げられます。
転職のリスクがある
人手不足の解消を目的とした制度である特定技能は人材の流動性を一定水準で保つため、特定技能の在留資格では転職が認められています。
そのためせっかく確保した人材が何らかの理由で他の事業者に転職してしまう可能性があります。
転職が原則として認められていない技能実習とは異なるということを意識しましょう。
長期的な人材確保が難しい
特定技能の在留資格で認められている在留期間は最長5年です。
介護の場合在留期間中に介護福祉士の資格取得ができれば在留資格を「介護」に移行し、永続的な就労が可能になりますが、資格が取得できなければ母国に帰国しなければなりません。
長期的に人材を確保したい場合は、特定技能として在留している間に介護福祉士の資格取得支援をするなどの工夫が必要になります。
在留資格「介護」への移行をした場合
特定技能として日本の介護現場で仕事をしている間に介護福祉士の資格が取得できれば、在留資格を「介護」に移行することで永続的に日本の介護職で働くことが認められます。
雇用している特定技能外国人が介護福祉士の資格を取得した場合は、出入国管理庁で在留資格の移行手続きをしてください。
介護業界では特にフィリピン人が多い
日本の介護業界で働く外国人労働者は現在増えつつありますが、その中でも特に多いのがフィリピン人です。他の産業と比較しても介護ではフィリピン人の活躍が目立ちます。
フィリピンは他の国と比較して技能試験が受験しやすい
現在世界各国で介護の特定技能の技能試験が実施されていますが、フィリピンは国内でも複数箇所で受験ができる上に実施回数も多いため、比較的受験がしやすい国です。
また、技能試験の合格者数もフィリピン人は特に多いです。日本国内でも各地で技能試験は頻繁に実施されていますが、フィリピンの合格者数は日本国内での合格者数を上回ります。
受験者・合格者共に多いため、介護職においてフィリピン人材は確保しやすいと言えます。
フィリピン人を雇用する際のポイント
介護職では比較的確保しやすい人材ではあるものの、フィリピン人を雇用する場合は他の国籍の人材を雇用する場合とは異なるルールが存在します。
フィリピンでは海外で働く人の権利を守るための機関として「海外雇用庁(Philippine Overseas Employment Administration /POEA)」が設けられています。特定技能の在留資格を取得したフィリピン人を日本で雇用する場合、POEAによる雇用契約の内容などのチェックを事前に受けなければなりません。なお、POEAは2022年秋の省庁編成によりDMW(移住労働者省)に統合されました。
さらに日本政府とフィリピン政府は二国間協定を締結しています。フィリピン人を雇用する場合は両国の間に結ばれた二国間協定に従って雇用しなければならないため、内容は事前に確認するようにしましょう。
介護職で特定技能外国人を雇用する場合の便利なオンラインクラウドツール「dekisugi」
外国人を雇用する場合、日本人を雇用する場合とは異なる手続きや書類作成・管理が必要になります。
「dekisugi」は特定技能・技能実習として外国人を雇用する際の業務の負担を軽減できるオンラインクラウドツールです。
「dekisugi」では書類の作成や管理、スケジュールのチェック、業務マニュアルの作成などがクラウド上で簡単にできます。また、別の担当者への引き継ぎなども簡略化できるため、担当者の業務負担を軽減できるだけでなく、外国人の雇用に際してのあらゆる煩雑さを解消できるでしょう。
特定技能をはじめとする外国人の雇用に際しての手間やコストを削減したい事業者におすすめです。
まとめ
日本の介護現場で活躍する外国人労働者の数は年々増加傾向にあります。今後も介護人材の需要は高まるばかりであるため、外国人材は必要不可欠になるかもしれません。
特に特定技能制度は人手不足の解消に最適な制度であるため、人材を確保したい場合は活用を検討しましょう。