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特定技能「飲食料品製造業」とは
特定技能「飲食料品製造業」とは飲食料品製造業の人手不足を解消するため、外国人の従事を可能にした制度です。少子高齢化の影響で労働力不足が続くため、令和6年3月までに8万7200人もの特定技能外国人の受け入れを予定しています。
受け入れ先企業の受け入れ人数は、建設や介護の分野では分野別運用方針による制限がありますが、特定技能「飲食料品製造業」では無制限となっています。
飲食料品製造分野の現状
飲食料品製造分野が、少子高齢化以外で慢性的な人手不足に陥っている理由を、簡潔に説明いたします。
若者に人気がない
なくてはならない仕事ですが、IT企業などと違い若い世代に人気があるとは言えません。また肉体労働が多いため、今後も若い世代から人気を集める見込みは薄いと考えられています。
鮮度が重要! 工場の海外移転ができない
鮮度を重視する飲食料品を扱う場合には、賞味期限のため日本での製造が必須となり、国内在住者の労働力のみで賄わなければなりません。
「人の手」が不可欠な仕事
機械にはできない肉体労働が多くあります。粉体コンテナの運搬や設置、農産物原料の処理などです。細かなトッピングや小物の整形などの多くも人手に依存しており、機械化すると採算が取れない工程も数多くあります。
また食中毒などを絶対起こさないため、2021年6月1日から日本でも、HACCP(ハサップ)に沿った衛生管理を行う人材が必要になりました。
HACCPは、食品規格(コーデックス)委員会から発表された、国際的に認められた製品の安全性を確保する衛生管理の手法です。
まず、食中毒、異物混入等のハザードの把握をしっかりします。把握した上で、原材料の入荷から製品の出荷という最終工程までの中で、危害要因を除菌させる、もしくは限界まで低減させるために工程を管理し製品の安全性を確保します。
これら衛生管理については当然機械に任せることができないため、この点においても人手が必要です。
不正な留学生アルバイトを減らすため
令和2年10月末時点で、食料品製造業に従事する外国人は13.6万人(全産業の7.9%)です。
農林水産省食料産業局によると、そのうちの18%、25,247人が資格外活動、つまり留学生や短期滞在者のアルバイトです。
本来は、留学生がアルバイトしても問題ありませんが、近年、来日の本当の目的は「出稼ぎ」で「留学」は建前という偽装留学生が増えています。そのような偽装留学生が不法就労者になるケースもあります。
政府は偽装留学生の数を減らすため、留学の在留資格を厳格にし、代わりに人数の管理が可能な「特定技能」で働けるように整備したという一面もあります。
そのため飲食料品製造業界には偽装留学生が多くいましたが、現在は減少傾向にあります。
6次産業化によって、どんどん需要が高まっている
日本では6次産業の発展のため、どんどん飲食料品製造業に従事する人手の需要が増しています。
6次産業とは漁師や農家などの生産者が加工や流通まで行うことです。
農林漁業の1次産業、工業の2次産業、商業の3次産業、全部を掛け合わせると6となるため6次産業と呼ばれます。
この6次産業化が進み、農家などが加工品の製造や販売を行うケースが増えて業務の幅が広がりました。
ですが農業の技能実習生は、農業の手伝いも農産物の加工も行うというように様々な業務を行う動きができません。農産物の加工では季節によって必要な人手も作業内容も変わってきます。
そのためマルチな動きができる特定技能「飲食料品製造業」の需要がますます増しています。
特定技能で対象としている業務内容
業務内容についてのルールはあまり厳しくなく、1号特定技能外国人は飲食料品製造業の業界内の仕事であれば、ほとんどどの仕事でも行うことができます。
具体的には、酒類を除く飲食料品の製造・加工、安全衛生などの飲食料品製造業全般に従事できます。
さらに上記の業務を行っている日本人が通常行う関連業務、例えば清掃や、事務所の管理などにも従事できます。そのほか原料の調達・受入れ、製品の納品などができます。
詳しくは「日本標準産業分類」における下記7分類に該当する業務が対象です。
①食料品製造業
・畜産食料品製造業
・水産食料品製造業
・野菜缶詰
・果実缶詰
・農産保存食料品製造業
・調味料製造業
・糖類製造業
・精穀・精粉業
・パン・菓子製造業
・動植物油脂製造業
・その他の食料品製造業
(デンプン、めん類、豆腐・油揚げ、あん類、冷凍調理食品、惣菜、すし・弁当・調理パン、レトルト食品等)
②清涼飲料製造業
③茶・コーヒー製造業(清涼飲料を除く)
④製氷業
⑤菓子小売業(製造小売)
⑥パン小売業(製造小売)
⑦豆腐・かまぼこ等加工食品売業
注意点は飲料製造業である②清涼飲料製造業、③茶・コーヒー製造業(清涼飲料を除く)には「酒類」の製造業は含まないことです。
また⑤菓子小売業⑥パン小売業には、製造小売も含んでいます。この製造小売とは、菓子やパンを製造して、製造したその場所で販売する業務です。街のケーキ屋さんやパン屋さんのイメージで問題ありません。
スーパーなどの場合には、注意が必要です。お惣菜の調理や加工を行うバックヤードは「小売業」と見なされ、特定技能「飲食料品製造業」の対象ではありません。
ですがスーパーと、調理や加工を行う部門が別法人の場合や、スーパーの売り上げの過半数以上がバックヤードで製造・加工された飲食料品である場合には特定技能の対象となります。
雇用形態
雇用形態は直接雇用のみです。
例えば農業業界のような特定技能外国人の派遣雇用は認められていません。
報酬※
報酬は当然、日本人と同じ額を支払わねばなりません。能力で差をつけることはできますが「外国人である」ことを理由に低賃金にすることは外国人差別になりますのでできません。
そのため特定技能外国人を雇うにあたって受け入れ先企業は「日本人の報酬と同じ、もしくはそれ以上であること」を文章で作成し特定技能外国人に示す必要があります。ちなみに「日本人の報酬と同じ」とは、最低賃金などを含む日本人の賃金規定がある場合は、特定技能外国人にも適用するという意味になります。
特定技能「飲食料品製造業」を取得するためには?
特定技能「飲食料品製造業」を取得するためには、技能実習生から移行する方法と試験を受ける方法の2つがあります。
2号技能実習を良好に修了※
技能実習2号までを良好に修了している場合、試験なしで1号特定技能に移行できます。
ちなみに「良好に修了」とは、技能実習を2年10ヵ月以上で修了し、技能検定3級に合格していることです。技能検定3級相当の技能実習評価試験の実技試験に合格している場合も「良好に修了」となります。技能実習生に関する評価調書の書面がある場合にも同様の扱いになります。
技能試験&日本語試験に合格
技能実習2号を修了していない場合は試験を受けて合格点を取る必要があります。
受験資格は試験日に満17歳以上であり在留資格を有していれば原則得られます。
試験は飲食料品製造業分野で業務を行うのに問題ないか確認するため、「日本語能力を測る試験」と「技能を測る試験」の2つが科されます。
日本語試験
日本語試験には2種類あり、国際交流基金日本語基礎テストと日本語能力試験で、どちらかで合格点が必要です。
技能測定試験
飲食料品製造業特定技能1号技能測定試験は「一般社団法人外国人食品産業技能評価機構」が実施します。
コンピューター・ベースド・テスティング(CBT)方式、もしくはペーパーテスト方式で行われます。
学習用テキストは一般社団法人日本フードサービス協会のホームページ内の「外食業技能測定試験学習用テキストについて」からダウンロードできます。日本語、英語、ベトナム語、クメール語、ミャンマー語に対応してます。
HACCAP(ハサップ)など衛生管理の知識
飲食料品の製造工程では衛生管理ができる人材、具体的には以下3つの知識を備えた人材が求められます。
農林水産省食料産業局のページには、以下のように記載があります。
以下引用です。
飲食料品の製造工程で衛生管理ができる人材
主な食中毒菌や異物混入に関する基本的な知識・技能
→食中毒菌の繁殖防止や殺菌の方法について正しい知識を身につけ、適切に対応できる。
食品等を衛生的に取り扱う基本的な知識・技能
→原料の選別・洗浄から製造・保管までの間、食品を常に衛生的に管理できる。
施設設備の整備と衛生管理に関する基本的な知識・技能
→施設内外の清掃・点検を的確に行い、施設設備の衛生状態を良好に管理できる。
引用終わり
また前述の通り、2021年6月1日から日本でもHACCP(ハサップ)に沿った衛生管理を行わねばなりませんので、HACCPに沿った衛生管理知識も問われます。HACCPは前述のとおり、製品の安全性を確保する衛生管理の手法で、原材料の入荷から製品の出荷という最終工程までの中で、危害要因を除菌や低減のために工程を管理して製品の安全性を確保する手法です。
特定技能「飲食料品製造業」を採用するには
受け入れ先企業が特定技能外国人と雇用契約を結ぶためには、下記のAとBの二つを満たさねばなりません。
農林水産省の「受け入れ要件」をクリア
農林水産省により4つ条件が定められています。
①「食品産業特定技能協議会」の構成員になること。
②同協議会に必要な協力を行うこと。
③農林水産省が主導する調査に必要な協力を行うこと。
④支援を委託する場合は上記の①~③を満たしている登録支援機関に委託すること。
ちなみに①「食品産業特定技能協議会」とは農林水産省や関係業界団体、登録支援機関その他の関係者で構成される協議会です。
支援体制を整える
特定技能外国人と直接雇用契約を結ぶためには、日本での生活に困らないように義務的支援を行わねばなりません。
具体的には、入国前の事前ガイダンスをはじめ、出入国送迎、生活オリエンテーション、日本語学習、相談苦情対応などの義務的支援です。
過去2年間、外国人材の受け入れ実績がない場合には、登録支援機関に委託しないといけません。この登録支援機関も食品産業特定技能協議会の構成メンバーです。
飲食料品製造業で特定技能外国人を採用する注意点
飲食料品製造業は外国人には人気の職種ですが、少子高齢化による慢性的な人手不足の為、採用を希望する飲食料品製造業の企業が非常に多いです。そのため条件の良いほうに求職者は流れがちですので、他社の給与設定も見た上で、求人票を作成する必要があります。
まとめ
今回の記事の内容を簡単に振り返ります。
特定技能「飲食料品製造業」は同業界の人手不足を解消するための制度です。
飲食料品製造業は、IT企業などと違い、肉体労働が多く、重労働もあるため若者に人気があまりありません。また一部業務は機械化できず、鮮度を重視する飲食品の場合には工場の海外移転をすることが困難です。
そのような背景から、特定技能外国人を受け入れが認められています。
特定技能外国人の飲食料品製造業での業務内容は、同業界の業務のほとんどと言っても過言ではありません。飲食料品の製造はもちろん、関連業務である清掃や事務所の管理、また一部条件を満たしていれば製造と販売両方を行うことができます。
派遣での雇用は禁止されています。外国人差別になるため、日本人と同等以上の報酬を支払わねばなりません。
特定技能「飲食料品製造業」を取得するには、技能試験と日本語試験にパスする必要があり、現在はHACCAP(ハサップ)など衛生管理の知識も必須です。
受け入れ企業は、農林水産省の「受け入れ要件」をクリアし、義務的支援を行える体制を整える必要があります。