日本の人手不足問題。業界ごとに状況と原因を解説

日本の人手不足問題。業界ごとに状況と原因を解説

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企業の人手不足の問題は、さまざまな業界で発生しています。日本の企業の大半が人手不足を経験しています。農業の業界では、高齢化や若者の都市への流出などによって、人材不足が年々、深刻化しています。農業の作業は体力や技術が必要なために、若者の就業意欲の低下や労働環境などの条件の厳しさも人手不足の原因となっています。農業は季節労働者が必要になる事業であることに加え、長時間の労働や労働条件の厳しさ、報酬の低さなどが若者の就業意欲を減退させています。体力が必要なことからも、高齢者にはむずかしい点も人手不足を深刻なものにしています。建設業界でも人手不足が深刻です。農業の業界と同じく、厳しい労働条件や環境があげられています。特に躯体工事や土木工事では、深刻な状況にあります。高齢化社会の進展で、医療や介護業界でも人手不足が深刻です。医師や看護師、介護士の数が需要に比べて、かなり不足しており、深刻な状況にあります。労働環境の過酷さや労働時間の長さ、賃金の低さが人材確保問題解消の課題となっています。

人手不足の業種

人手不足の業種

帝国データバンクの2023年4月、人手不足に対する企業の動向調査によれば、従来からの農業、建設、医療・介護の業界に加えて、コロナ禍の影響もあって、正社員の人手不足は51.4%となって、高止まり状態が続き、「旅館・ホテル」は8割に近い高水準となっています。
ホテルや観光業は、もともとインバウンドなどの観光業の成長に伴って、ホテルや旅館などの宿泊施設でも人手不足が顕著でした。コロナ禍が収束したこともあって、急速な訪日外国人の増加に対応するために、外国人雇用が増えていますが一部にすぎず、まだまだ需要を満たすまでには至っていません。深刻な状況に至っています。
観光業は、訪日外国人観光客の増加によって、需要が高まっていますが、その一方で、外国人のスタッフの不足も深刻になっています。言語の壁や文化の違い、短期間の雇用などが外国人労働者の確保をむずかしくしています。
日本の政府は、2023年4月28日に新型コロナウイルスの水際対策を終了して、さらに、同年5月8日には感染症法上の分類を5類に移行しました。行動制限の緩和にともなって、人流が戻ってきたこともあって、消費マインドが改善して、「アフターコロナ」に向けて、国内景気は回復傾向にあります。
コロナ禍で2年以上にわたって悪化していた需要が急に回復したために、多くの業界で、供給が需要に追い付かない状況が続いており、就業者数の伸び悩みや、人材不足の解消に至っていない状況が続いています。特に、春や秋など行楽シーズンを迎えて、観光業や飲食業などの業種で人材不足が顕著となっています。
この調査によれば、人手不足の割合は正社員で51.4%、4月としては過去最高だったとのことです。非正規社員でも、4年ぶりに3割を超えています。

人手不足割合の推移

正社員の業種別では、「旅館・ホテル」が75.5%でトップとなっているほか、DX対応の「情報サービス」業界においても、7割を超えています。 「メンテナンス・警備・検査」業界では、67.6%となっており、9カ月連続、「建設」は、65.3%で12カ月連続で6割超の高水準となったとのことです。2024年4月から時間外労働の上限規制が設けられることによって、「物流2024年問題」として注目されている「運輸・倉庫」も63.1%と高水準となっています。レンタカー業界などを含んでいる「リース・賃貸」も60.7%、コロナ禍以降で、最高水準となっています。コロナ禍という一時的な要因があるものの、構造的に人材不足問題のある業界では、引き続き不足の解消には至っておらず、業務の効率化を望むことから、IT業界の人材不足に拍車がかかっているような状態がこの調査から伺えます。
非正規社員の業種別においては、「飲食店」が85.2%で8割を超えており、最も高くなっています。飲食店は、パート・アルバイトなど非正社員の就業者が7割以上を占めているために、就業者数がコロナ以前に回復していません。コロナが収束して、お客さんが戻ってきたのに、従業員がいなくて、店を開けることができない皮肉な状況に陥っています。正社員で業種別トップだった「旅館・ホテル」、78%は、2番目の高い水準となっています。

日本の人手不足の現状と課題

日本の人手不足の現状と課題

同じく、帝国データバンクの調査で、コロナ前の調査から、日本の構造的な人手不足の影響をみていきます。日本の人手不足は、コロナの影響だけでなく、かなり以前からある構造的な問題でもあります。
帝国データバンクの調査によりますと、「正社員の人手が不足している」と回答した業種のトップ5は以下の通りです。
1位:情報サービス 74.0%
2位:建設 68.1%
3位:運輸・倉庫 65.9%
4位:メンテナンス・警備・検査 65.4%
5位:自動車・同部品小売 63.5%
(出典)帝国データバンクの「人手不足に対する企業の動向調査(2018年1月)
企業規模別に見ていきますと、正社員が不足していると回答した企業の中で、大企業が59.1%、中小企業が49.1%、そのうち小規模企業が44.2%という結果になっています。全体の平均は51.1%で、企業規模に関係なく日本の全国の企業各社が人手不足の問題を持っていることがうかがえます。2017年には人手不足倒産が106件となり、前年比から47.2%増という深刻な状態となっています。コロナの影響もあって、今後も、人手不足によって倒産してしまう企業の増加が予想されています。

1位 情報サービス業

情報サービス業の原因としては、ITの普及など、業界の著しい成長にともなって担当者が慢性的に不足しています。コロナで、在宅勤務が増えたことも人手不足に拍車をかけています。経済産業省の調査によりますと、日本国内には現在、約91万人のIT人材がいるにも関わらず、約17万人ものIT人材が不足しているとされています。市場の規模拡大が見込まれている「セキュリティ」や「AI、人工知能などの先端分野」における人材不足は深刻な状況となっています。

2位 建設業

仕事の環境の過酷さ、肉体的な重労働などが、原因とされています。総務省統計局の労働力調査によりますと、建設業界では、2000年から2015年までの5年間だけで、労働者数は約50万人も減少してしまっています。

3位 運輸・倉庫業

アマゾンや楽天などの大手ネット通販によるインターネット販売によるEC市場の拡大が原因となっています。従事者数は、例年と比べても、横ばいにも関わらず、アマゾンや楽天などのEC市場規模の拡大によって、流通量が増えたことで、人手不足の大きな原因となっています。2010年からの過去6年間において、ネット販売、ECの市場規模は日本国内で1兆円まで拡大しており、今後も、市場規模は一層拡大するとされています。情報サービスと同じくコロナで拍車がかかったとも言えます。EC事業の拡大と比例して、業務量が増大する運輸や倉庫業は、今後も慢性的な人手不足が続いていくと予測されています。

なぜ人手が足りない?人手不足の原因

日本の企業の人材不足を引き起こした要因はたくさんありますが、大きな理由としては、少子高齢化、働き方の変化、雇用の多様化が影響していると思われます。構造的な問題は、企業文化、企業風土の見直しも迫られています。
少子高齢化の進展については、内閣府の「令和3年版高齢社会白書」によりますと、日本の総人口1億2,571万人のうち65歳以上人口は3,619万人となっています。高齢化率ということでは、28.8%まで、上昇してしまっています。15歳から49歳までの女性の年齢別出生率を合計した「合計特殊出生率」は低迷しており、15歳未満の人口割合は12.0%となっており、少子高齢化が年々すすんでいっているのがわかります。進展が止まる気配はありません。
構造的に、日本は就労人口の減少が続いています。一部の業種だけではなく、すべての業種の企業が慢性的な人手不足になっていますし、今後も人手不足が続くことがわかります。総務省統計局の「労働白書令和3年版」によれば、2020年3月からの新型コロナウイルスの影響もあって、完全失業率は2020年10月に3.1%にまで上昇しています。新型コロナ禍以前の完全失業率については、2019年まで2.4%でした。平均就業者数も増加の傾向にありました。
原因の一因としては、労働者の少子高齢化にともなった働き方の意識の変化もあります。昭和から続く特徴的な日本の雇用モデルである終身雇用制度は、平成に入ってから労働者と企業側の双方で変化が出てきています。特定の会社のために一生、働き続けるという意識や考え方は、大きく変化しています。企業も、働き方改革を推進しだしたのも、この頃からです。
若年層の労働人口の減少もあって、企業では新卒採用時に新入社員を集められない状態が続くようになりました。新卒採用で人材不足となった会社では、労働環境がさらに悪化することが多いために、早期の退職も発生しやすくなります。あわせて、代替の人材を雇用する難しさもあり、人手不足がさらに深刻化するという事態が発生しています。
厚生労働省によれば、新型コロナウイルスが流行して以来の有効求人倍率は減少傾向にあります。有効求人倍率とは、企業が希望する求人の数をハローワークに登録している求職者数で割った値です。有効求人倍率が1を上回るときは、企業側が人手不足のために、売り手である求職者の市場となっており、1以下のときは買い手である企業側の市場になるために、求職者にとっては就職難ということになります。求職者に対する求人数は減っているために、企業にとっては人材採用がしやすいように見えますが、求職者は求める就業条件やスキルに沿った仕事を選ぶ傾向が強いために、統計上は人手不足解消に見えても、実際は、限られた求職者を企業で奪い合うという状況になっています。

企業が人手不足となっている原因としては、以下の4つが考えられます。

・少子高齢化による就業年齢人口の減少
・雇用形態や働き方の多様化
・企業と求職者とのニーズのミスマッチ
・顧客の多様化で業務が複雑化している
パーソル総合研究所と中央大学が共同研究した「労働市場の未来推計 2030」によりますと、日本の生産年齢人口は減り続けていて、2017年から2030年にかけて767万人減少すると試算されています。2030年の労働需要7,073万人に対して、労働供給は6,429万人と予測されています。2030年には644万人の労働者が不足することになります。2021年11月8日に厚生労働省が発表した「令和2年転職者の実態調査の概況」によりますと、転職者の直前の勤め先の通算の勤務期間は「2年以上5年未満」が26.9%と一番高くなっています。この傾向は20〜40代の労働者にも多くみられます。20〜40代の3人に1人は、2〜5年で転職していることになります。転職する人は増える傾向にあります。
独立行政法人労働政策研究研修機構の「人手不足などをめぐる現状と働き方に関する調査」では、人手不足の理由として新規の人材獲得が困難になっていると答えた割合が一番多くなっていました。顧客のニーズの多様化によって、業務が複雑化、煩雑化している点ですが、高度経済成長期は、大量生産、大量消費の時代でしたが、日本経済が成長すると、消費者の個性が重んじられるようになって、個性的なニーズへと変化しました。所得、職業や学歴などのデータだけでは顧客のニーズを把握できなくなっています。

人手不足の対策

人手不足の対策としては、人口構造自体が、少子高齢化社会で、就業人口が減少していく中で、むずかしいのですが、一般的に言われているのは、労働環境の改善、ITによる仕事の効率化、退職後の再雇用、在宅勤務の充実などがあげられます。
労働環境の改善ですが、転職を思いとどまらせる意味でも、長い間、働き続けられる職場環境が重要になってきます。従業員が働きやすい環境が重要になってきます。従業員が働きやすい環境とは、多様な働き方の選択肢が多く、在宅勤務ができて、福利厚生が充実している、社員の自己実現達成、スキルアップを支援するなどがあげられます。フルタイム制だけではなくて、在宅勤務、時短勤務やフレックスタイム制などの導入があげられます。
デジタルトランスフォーメーションは、 デジタルテクノロジーによって、ビジネスプロセス、文化、顧客の体験を新たに創造して、創造しなおして、変わり続けているビジネスや市場の要求を満たそうとするプロセスです。デジタル変革やDXとも言われています。DX、すなわちデジタルトランスフォーメーションを推進することで、業務を効率化させることができます。このDX化では、導入にコストがかかったり、使えるようになるまでに、時間と労力がかかったりして、導入したら、すぐに効果が出てくるものではありませんが、適切にDX化ができれば、将来的には、業務効率化を実現して、労力や工数が削減できます。人手不足の解消にはなります。
2018年10月23日に発表されたパーソル総合研究所と中央大学が共同研究した「労働市場の未来推計 2030」によりますと、25~29歳女性の労働力率88.0%が45~49歳にまで、維持された場合は、102万人の労働力が確保できるとされています。
人手不足に女性の社会進出は、大きな助けになります。女性だから、男性だからと性別や労働時間で採用の要件を設けずに、会社にとって、必要な人材はどんな人なのかなど、採用の要件を見直すことも重要です。結婚後、子供が生まれるなどで、女性の退職を食い止めるためには、子供を預かる施設をつくったり、手配したり、できるだけ在宅勤務も可能にするなどの工夫も必要になってきます。
工場などの作業現場においては、肉体的な力が必要な業務に機械などの設備を導入したりして、女性や高齢者ができる作業や仕事はないかを検討したり、業務を細分化して、時短勤務でも作業ができるようにしたりするなどの工夫も必要になってきます。
定年退職後の再雇用制度は、65歳までの雇用が義務化されたこともあって、多くの企業で再雇用制度は、採用されていますが、再雇用している社員は、業務の経験があるために、即戦力としての活躍が期待できます。今後は、65歳から70歳まで、再雇用の義務が延長される可能性が高いために、再雇用社員の活用は、人材不足の解決策として重要になってきます。定年退職した社員を再雇用する制度は、外資系企業では一般的です。再雇用の受け入れは、人手不足を補ってくれる解決策になります。

企業の風土や文化に対する対策

企業風土、職務内容、会社制度、組織体制など、新入社員の採用後にミスマッチが起こらないように見直ししたほうがよいでしょう。職務内容、会社制度、組織体制は、比較的、他社との違い、同業内での違いは分かりやすいので、比較検討したほうがよいでしょう。
組織風土とは経営学用語の一つとのことですが、組織において、表面化されている価値観のこととなります。これは構成員である社員に明示的、あるいは黙示的に知覚されていること、文化であり、これが構成員である社員の考え方や行動や感情に影響をおよぼしています。感情にも影響を与えているので、そう簡単には変えられません。企業文化とは、従業員と企業との間で共有されている価値観や企業規範のことになります。企業文化は、企業の歴史、これまでの歩みや経営方針、実績などを積み上げていく過程などで培われるものとなります。代々の経営者、社長、会長たちの考え方、あるいは伝統とも言われるものによって形成されてきています。企業文化とは、企業において共有されている価値観であり、能動的に作り上げていくことができます。
これに対して、企業風土とは、経営陣と社員間で暗黙的に共有されている行動パターンであって、自然に醸成されたものという意味合いが強くなります。この企業風土が新入社員などにネガティブな影響を与えている可能性があります。よい企業風土というと、従業員が明るく、生き生きして働く様子や、社員同士の仲がよくて、良好な関係や良好なコミュニケーションが育まれている状態を想像しますが、実際には、それだけではなさそうです。企業風土が悪いということになると、従業員同士の仲が悪くて、元気がない様子で、労働意欲や士気のあがっていない状態を想像してしまいます。今よく指摘されているのは、企業風土が悪いと言われている会社では、風通しが悪く、組織内で情報の行き違いが起こったり、期限通りに、仕事がすすまないことが多かったり、失敗、事故や問題があったときに、隠蔽する企業体質があったりする企業風土の事例が多くあります。

会社組織の社風の事例として、次のようなものがあります。

・職制の上下関係の厳しい会社
・風通しの良い・悪い会社
・部門で一丸となって仕事をすすめる会社
・個人プレーで業務を行う会社
・個人の能力や実績を重視する会社
・結果だけでなく努力やプロセスなども評価してくれる会社
・会社の伝統を重んじる会社
・新しいことにチャレンジする会社
一般的に、企業文化、企業風土、社風がよい企業とは、優れた精神性を持っていて、社会的に存在価値があるだけでなくて、社員ひとりひとりを大切にする企業のことと言われています。社会や顧客だけでなくて、自分の会社の社員からも信頼される企業こそが、本当の意味で良い社風、風土、文化を持つ企業であるといえます。 そのような企業であれば、経営上の危機的な困難が発生したとしても、それを乗り越えて、さらなる発展を遂げる底力があります。企業文化、風土の変革において、重要なことは、社内のルールや慣習・習慣を急に変更することではなくて、まずは、変更の必要性を強く社員に訴えて、社内に広く周知することと言われています。
社員の相互理解なくして、企業文化、風土の変革はできません。 そうした上で、社員と経営者が十分な議論を重ねて、共通の認識、行動様式や価値を形成していくことが、変革の第一歩となります。

まとめ

一般的に、企業が人手不足・人材不足となっている原因としては、次の4つがあります。
・少子高齢化による就業年齢人口の減少
・雇用形態や働き方の多様化
・企業と求職者とのニーズのミスマッチ
・顧客の多様化で業務が複雑化している

人手不足の対策としては、次の2点があげられます。
・労働環境の改善
ITによる仕事の効率化、退職後の再雇用制度、在宅勤務の充実などがあげられます。
・企業風土や企業文化への取り組みも重要
一般的に、企業文化、企業風土、社風がよい企業とは、経営者などが優れた精神性を持っていて、社会的に存在価値があるだけでなくて、社員ひとりひとりを大切にする企業のことと言われています。社会や顧客だけでなく、自分自身の会社の社員からも信頼される企業こそが、本当の意味で、良い社風、風土、文化を持つ企業であるといえます。 そのような企業であれば、たとえ経営上の危機的な困難が発生したとしても、それを乗り越えて、今以上の発展を遂げる底力ができます。企業文化、風土の変革においては、重要なこととしては、社内のルールや慣習、習慣を急激に変更することではなくて、まずは、変更の必要性を、力強く社員に訴えて、社内に広く周知することだと言われています。
社員間の相互理解なくして、企業文化、風土の変革はできません。そのような環境を醸成したうえで、社員と経営者が十分な議論を重ねて、共通の認識、共通の行動様式や価値を形成していくことが、企業文化や風土の変革の第一歩となります。

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