「人手不足の解消のために外国人を雇用したい」
と考えている漁業・水産事業者は、特定技能制度の活用をおすすめします。
従来漁業・水産業界では技能実習生の受け入れも進められてきましたが、在留資格「特定技能」を取得した外国人であればより柔軟な人材配置も可能です。
この記事では外国人の働き手によって人手不足を解消したいと考えている漁業・水産事業者向けに、特定技能を雇用する場合のポイントや流れ、技能実習生との違いについて解説します。
目次
漁業・水産業でも特定技能外国人の受け入れは可能
現在日本では少子高齢化により年々労働力となる人材が減少しています。特定技能制度はこうした働き手不足の影響を特に大きく受け、必要な人材の確保が難しい産業を対象に、外国人労働者の活用を認めるための制度です。
2024年現在、日本国内の12の産業が対象となっていますが、漁業・水産業もその中の一つとなっています。
働き手の高齢化や若いなり手の減少が進む一方で、食生活に直結する漁業・水産業が抱える人手不足の課題は早急に解決しなければならない問題です。
海外の人材を活用できる特定技能制度は、
「人手不足を解消し経営を安定化させたい」
「一人あたりにかかる負担を少しでも軽減したい」
と考えている漁業・水産事業者にとって問題解決のための一つの手段となるかもしれません。
特定技能の産業分野
日本国内で働きたい外国人のための在留資格である「特定技能」は、就労に際して従事できる業務の範囲が在留資格で定められています。
外国人が在留資格で定められた範囲外の業務に従事した場合本人が不法就労の罪に問われるだけでなく、使用者側も罰せられる恐れがあるため、特定技能外国人を雇用する場合は在留資格で定められた範囲内の業務を任せなければなりません。
特定技能の在留資格は12種類の産業に分類されています。一口に「特定技能」と言っても取得した産業分野以外の産業で労働に携わることは認められていません。
例えば建設分野で特定技能の在留資格を取得した外国人を、在留資格の変更手続き等を行わないまま漁業で雇用することはできないのです。
外国人を雇用する場合、必ず本人の在留資格で定められた業務範囲を確認しましょう。
特定技能外国人を雇用する場合の業務は「漁業」と「養殖業」の2つに分類される
特定技能制度において漁業・水産業分野はさらに「漁業」と「養殖業」の2つの業務区分に分類されます。
漁業
業務区分「漁業」には主に、漁具の製作・補修、⽔産動植物の探索、漁具・漁労機械の操作、⽔産動植物の採捕、漁獲物の処理・保蔵、安全衛⽣の確保などの業務が含まれます。
他にも、
漁具・漁労機械の点検
船体・漁具・倉庫・番屋・事務所などの清掃
燃料や食料、日用品などの仕込・積込
などの業務も付随的な業務として認められています。
養殖業
業務区分「養殖業」には主に、養殖資材の製作・補修・管理、養殖⽔産動植物の育成管理、養殖⽔産動植物の収獲(穫)・処理、安全衛⽣の確保などの業務が含まれます。
他にも、漁業と同様付随的な業務に従事することも可能です。
事業者は在留資格で定められた産業分野・区分に則った雇用をしなければならない
特定技能に限らず就労目的で日本に来る外国人に発行される在留資格は全て在留資格で定められた範囲内の業務にしか就労できません。
漁業で特定技能外国人を雇用する場合も雇用する前に必ず本人の在留資格をチェックしましょう。
「付随的な業務」とは
直接的な「漁業」ではないものの、本来の業務を行う中で発生する、関連性があると考えられる業務のことを「付随的な業務」と呼ぶことがあります。
例えば船体や関連機器の整備や事務所の清掃、運搬などが挙げられます。
こうした業務は在留資格で定められているものではなく、特定技能外国人にこうした業務のみを任せることは認められていません。
しかし業務上必然的に発生するものであれば、在留資格で定められていない業務でも特定技能外国人であれば任せることができるのです。
特定技能外国人の受け入れ事業者に求められる要件
漁業事業者が特定技能外国人を雇用するためには出入国在留管理庁に設けられた条件を満たす必要があります。
以下では満たさなければならない条件と、その概要を解説します。
法令を遵守している
外国人を雇用する事業者には高い倫理観が求められます。
そのため、労働や社会保険に関する法律を遵守し、適切に納税を行っているかどうかは非常に重視されるポイントです。
他にも雇用に際して提出しなければならない書類の作成や保管管理体制を整える必要があります。
日本人と同等以上の待遇で雇用する
特定技能に限らず外国人を雇用する場合は、給料などの待遇を日本人と同等に設定する必要があります。外国人だからという理由で給料を安く設定することは認められていません。
また、これから雇用する特定技能外国人と同種の業務に従事する労働者を過去1年以内に非自発的に離職さている場合や、事業者側の問題によって外国人の行方不明者を過去1年以内に発生させている場合は新たに特定技能外国人を雇用することはできません。
待遇を日本人と同等のものに設定し、適切な労働環境を整えることが求められます。
なお、これまでに技能実習生などの外国人を雇用したことがない事業者でも条件を満たしていれば特定技能外国人を雇用することは可能です。
協議会に加入する
特定技能外国人の受け入れ事業者は、農林水産省水産庁が主体となって結成される「漁業特定技能協議会」に加入し、構成員になることが義務付けられています。
漁業・水産業で特定技能外国人を雇用する方法
以下では漁業・水産業で特定技能外国人を雇用する代表的な方法を紹介します。
海外にいる外国人材を特定技能として雇用する
日本語試験と漁業の技能試験を受験し、合格した外国人であれば海外にいる人材だったとしても特定技能として雇用することができます。
技能試験は外国人が特定技能として日本で働くに際して必要な日本語力と業務に関する知識・技術を有しているかどうかをチェックするために実施される試験です。
日本語試験は日本語能力試験(JLPT)でN4レベル以上か、国際交流基金日本語基礎テストでA2レベル以上を取得していることが求められます。
人材紹介サービス等を活用し、人材を見つけるのが主流です。
技能実習2号を修了した人材を雇用する
すでに日本国内の漁業・水産業で技能実習生として働いている外国人を、在留資格を特定技能に移行させることで雇用することができます。
技能実習2号を修了した人材であれば、業種によっては特定技能の在留資格取得のための試験が免除されます。
技能実習として、
- かつお一本釣り漁業
- 延縄漁業
- いか釣り漁業
- まき網漁業
- ひき網漁業
- 刺し網漁業
- 定置網漁業
- かに・えび かご漁業
- 棒受網漁業
に従事していた技能実習生であれば業務区分「漁業」としての特定技能の在留資格が、
ほたてがい・まがき養殖
に従事していた技能実習生であれば業務区分「養殖業」として特定技能の在留資格が試験を免除された上で取得できます。
日本での労働にある程度慣れており、試験が免除された上で雇用できるため、技能実習2号を取得した人材には雇用に際してのコストを抑えられるといったメリットがあります。
ただし、技能実習2号だった人材であっても、特定技能外国人の受け入れ事業者に義務付けられている「支援」をしなくてもいいというわけではないため注意が必要です。
漁業では特定技能外国人であっても派遣として雇用できる
特定技能制度での雇用形態は基本的には直接雇用であることが求められますが、12産業のうち漁業・水産業と農業だけは派遣雇用が認められています。
直接雇用とは労働者と事業者が直接雇用契約を交わすことを指します。
一方で間接雇用の一種である派遣雇用は、労働者と事業者の間に第三者である派遣会社などが立つことによって雇用契約を交わす雇用形態です。
以下では漁業・水産業と農業で例外的に特定技能外国人の派遣雇用が認められている理由と、派遣雇用をするにあたって事業者が満たすべき条件を解説します。
漁業と農業では例外として派遣での雇用が認められている
漁業・水産業、そして農業は地域や季節によって繁忙期と閑散期の差が激しく出ます。そうした業界で認められている雇用形態が直接雇用のみという状況では、事業者間で人材の過不足による問題が生じてしまいます。
人材の流動性を高め、業界全体で1年を通じてより効率的に人材を配置できるようにするために、漁業・水産業、そして農業では他の産業分野とは異なり例外的に派遣雇用が認められているのです。
派遣として雇用するための条件
外国人労働者と派遣雇用契約を結ぶためには、事業者は直接雇用の場合と同様法令の遵守実績や欠格事由に該当するかどうか、1年以内の離職者、行方不明者の有無等がチェックされます。
漁業・水産業における技能実習生
これまでにも漁業・水産業では技能実習生として働く外国人はたくさんいました。
しかし技能実習生は在留資格で定められた業務範囲が特定技能に比べて限定的である上に実習時間や内容に対する業務の割合が定められているため、繁忙期など柔軟な人材配置が求められる場合に不便な面があります。
技能実習制度では漁業における業務を、
- 必須業務
- 安全衛生業務
- 関連業務
- 周辺業務
に分類し、技能実習生として働いている外国人の業務割合は必須業務を50%以上に、安全衛生業務を10%以上になるよう割り振らなければなりません。
そのため技能実習生には現場での業務を担当させなければならない場面が多く、一年を通して柔軟に業務を任せることが難しいという面があります。
技能実習生を受け入れるための要件
技能実習生を受け入れる上でも事業者はさまざまな要件を満たす必要があります。
基本的な要件
技能実習制度においても事業者は法令の遵守等の条件を満たさなければならないという点は同じです。待遇も日本人と同様のものに設定しなければなりません。
社会保険や雇用保険などへの加入もする必要があります。
また、技能実習生を受け入れる場合は、技能実習責任者・技能実習指導員・生活指導員の配置や実習生の住居の確保なども事業者には義務付けられています。
漁業業界ならではの要件
他にも漁業業界ならではの要件も存在します。
技能実習生を受け入れる場合、事業者は、
漁業許可をとっていること
技能実習生が乗り込む漁船と乗っていない者の間で無線など何かしらの通信手段が常に確保されていること
特に通信手段については、万が一連絡が取れない状況に陥った場合管理不届として罰せられる恐れもあるため注意が必要です。
技能実習生受け入れまでの流れ
技能実習生を受け入れる方法は、
- 企業単独型
- 団体監理型
の2つに分類されます。
企業単独型は海外に支店や取引先などがあり、現地での技能実習生の募集等を自社で行う場合を指します。
団体監理型は監理団体に技能実習生の求人から受け入れまでのサポートを依頼する方法です。
雇用までの大まかな流れは、
監理団体に加入
求人及び人材との採用活動の実施
入国や日本で就労させる上で必要な手続き
入国後講習の実施
となっています。
特定技能と技能実習の違い
「外国人を雇用する」という点においては特定技能も技能実習も共通していますが、両者は制度の主旨や在留資格で認められている業務範囲が異なります。
本人の在留資格に定められた範囲外の業務に従事させた場合は本人だけでなく事業者も罰せられる恐れがあると同時に、誤った制度の主旨の解釈によるリスクも存在します。
さまざまなリスクを回避するためにも、外国人労働者を雇用する場合は必ず本人の在留資格を確認するようにしましょう。
制度の目的の違い
技能実習制度は日本での労働を通して培った技術や知識を母国の経済・技術発展に役立ててもらうことを目的として作られた制度です。国際貢献が目的であるため、人手不足解消のために利用することは認められていません。
一方で特定技能制度は人手不足を解消し、国内の産業の安定的な操業を目的として作られた制度です。
人手不足を解消したいという場合は特定技能制度の活用を検討しましょう。
任せられる業務内容の違い
特定技能と技能実習では在留資格で定められた業務範囲が異なります。
また、技能実習では全実習内容に対する業務の割合も定められているため、繁忙期や閑散期などに合わせた人材配置がしにくい傾向があります。
繁忙期と閑散期の差が激しい漁業・水産業では、特定技能の方がより柔軟な人材配置ができる人材を確保できます。
まとめ
技能実習生とは異なり、特定技能外国人は在留資格で認められている業務範囲が広く、柔軟な活用ができる人材です。季節や地域によって繁忙期・閑散期の波が生じる漁業・水産業界では人手不足を解消する有効な手段の一つと言えます。
外国人を雇用することにはさまざまな責任を伴うものです。不法就労などのリスクを回避するためにも法令の遵守や制度に対する理解を深めた上で活用するようにしましょう。