日本の産業の現場では、人手不足が深刻化しており、現在は、外国人労働者が日本の労働現場の一部を支えています。
ですが希望を抱いて来日した技能実習生の中には、失踪する人もいます。
たとえば出入国在留管理庁の国籍別の失踪者の発生状況と取組によると、令和6年には、技能実習生の失踪者数が6,510人でした。また令和2年〜令和6年までの技能実習生の失踪者は、合計38,321人で、そのうち、令和7年5月時点で現在も所在が不明な者は9,416人にものぼります。
なぜ技能実習生は「失踪」を選ぶのでしょうか?
その原因として、賃金の不払い、実習実施側の不適切な取扱い、入国時に支払った費用の回収、実習生側の経済的な事情などが原因としてあげられます。
技能実習生の失踪を防ぐために、「3つの主な原因」について見ていき、最後に対策について考えていきます。
失踪の3つの主な原因
①経済的要因(借金と手取り収入)
来日する目的はもちろん様々ですが、「稼ぐ」ことを最大の目的としている方が最も多いです。そのためまず、収入面での理想と現実のギャップが原因の1つにあげられます。
出入国在留管理庁の技能実習生の費用負担に関する実態調査(令和4年7月)によると、技能実習生の約85%が、来日前に母国の送出機関に費用を払っています。
そしてその費用の平均値はなんと52万1,065円でした。
この金額だけでも、非常に高額ですし、発展途上国の外国人には額面以上の負担です。
送出機関に払う費用以外に、出費を強いられている技能実習生もいます。
この送出機関以外、いわゆる仲介者には、技能実習生の約11%が費用を払っており、その平均金額は33万5,378円です。
そもそも来日するため母国で借金をしている技能実習生の割合自体が、55%に上り、その借金の額の平均値は54万7,788円だとわかっています。
「日本で頑張って働けば、すぐに返せるよ!」と技能実習生に告げる送り出し機関や仲介者がおり、その言葉を信じて借金をし来日する方もいます。
ですが実際に来日して、収入面の現実とギャップに失望するケースが多々あるようです。
まず日本では、社会保険料や、税金が控除されます。
またその控除には、日本独自のシステムがあります。例えば厚生年金や健康保険、もちろん所得税や住民税も引かれます。
ですが出入国在留管理庁の技能実習生の費用負担に関する実態調査(令和4年7月)によると、来日前に説明を受けた給料の平均値が14万9,146円で、21%が来日前に聞いた給料は「期待より少ない」と回答しています。
その上、約33%が「日本では給料から税金・保険が引かれることを知らなかった」と回答しています。
つまり母国では「総支給額(額面)」通りの金額をもらえると思っていたが、「予想より残業が少なかった」「控除があることを知らなかった」などという理由から、失望を感じる外国人労働者が多数いるようです。
またそれだけではなく、寮の家賃や、光熱費などが、給料から天引きされる場合もあります。借金返済や家族のための送金があるため、かなり生活が厳しくなってしまう労働者も多いです。
②心理的・社会的な孤立
また、「心理的・社会的な孤立」も挙げられます。
日本人が日本で困った場合には、日本人の仲間や行政に助けを求めます。
ですが職場は日々の中で、かなり多くの時間を過ごす場所ですが、日本人スタッフとの間に厚い壁がある場合も多々あります。
職場に自分の居場所がないと感じたり、相談する相手がいなかったりする場合には、前述の「借金が返せない」「送金額が少ない」「生活がしんどい」という思いが重なり、失踪してしまったり、不法就労という選択をしてしまうというケースが多々あります。
③ハラスメント
また職場でのハラスメントも、「失踪」を選択させる決定的な要因の一つです。近年は被害者が外国人・日本人にかかわらず、指導の範疇を超えた激しい叱責などが、問題になるケースが増えています。
技能実習生は、やむを得ない事情による場合を除き、本人の意思による転籍は原則認められていません。そのため、過酷な環境から解放される唯一の手立てとして「逃げるしかない」「失踪するしかない」と思い詰めてしまうケースがあります。外部の相談窓口を利用するという選択肢が思い浮かばないことも多く、結果として「耐えるか、逃げるか」という極端な二択に追い詰められてしまうのです。
失踪リスクを減らすための施策
①キャリアパスを示す・昇給制度
「この会社にいてもだめだ」という想いを抱くと、その思いがそのまま、「失踪」という選択肢を選ばせる可能性があります。技能実習生も、特定技能外国人も、もちろん例外はいますが多くは「母国の家族を養うため」だったり、「より高い収入を得たい」だったりという目的・想いを持っています。
前述の通り、中には多額の借金を背負って来日する方もいます。
そのため、事前に提示した額の給料がしっかり払われていることや、日本での税金や社会保険料についてちゃんと案内がされていることはもちろん、「未来がない」と思われないようにすることが非常に重要です。
これを防ぐためにまず取り組むべきことは、キャリアパスの提示です。例えば技能実習制度は育成就労制度へ今後切り替わりますが、特定技能への移行について案内をする、移行してより長期間就労したい場合は、移行のためのバックアップとして何ができるのか、ここをはっきりさせると良いでしょう。
またそのさきでのポストを明確にすることも重要です。
「3年後、5年後にこのポジションで活躍し、○○円の収入を得ている」という目標や、ロードマップがあることは、モチベーションにもつながります。
そしてもちろん、明確な昇給制度の構築も必要です。
「努力が報われる」という思いは、帰属意識を高めることにもつながります。
②安定した給与の支払い
出入国在留管理庁の技能実習生の失踪者数の推移によると、令和6年の失踪者のうち建設関係職種が約50%を占めています。
なぜ、これほどまでに建築業界で失踪が相次ぐのでしょうか。
それは日給制・日給月給制による収入の不安定さも要因の一つとして考えられています。
日給月給制とは、「日給×その月の労働日数」で、給与が計算されて、毎月1回まとめて給与が支払われる方式のことです。たとえば欠勤、もしくは遅刻や早退をした場合、欠勤の日数、もしくは時間分の賃金がその月の給与から差し引かれることになります。
では「真面目に毎日働けば問題ないのではないか」となりますが、そうではなく、建築の現場は、天候にも左右されます。大雨や台風、雪などの悪天候が続くと、現場が休みになり、その日の給与の支払いは無くなります。
来日に多額の借金を背負っている外国人労働者にとっては死活問題です。
技能実習制度には人権侵害等を理由とする転籍を除き、転籍には制限があるため、「生活のため」失踪して不法就労してしまうというケースもあります。
そのため現在、建築業界では、「月給制(固定給制)」が積極的に導入されています。多くの企業と同じ支払い方法である月給制の場合には、悪天候が多い時期・閑散期の時期だったとしても、毎月決まった額の基本給が確実に支払われます。
もちろん受け入れ先企業には、稼働が少なくても、固定で人件費が発生するというデメリットがあります。
ですが「毎月、確実にいくらもらえるか」「確実にこの額を仕送りできる」とわかっていることは、将来への失望や不法就労には繋がらないため、将来へのとても有効な投資となります。
③労働環境の改善
外国人労働者に、働き続けたいと思ってもらうためには、何よりも職場の環境が重要です。仮に平均よりも給料が良くても、職場にいることがしんどいと思われてしまうと、転籍を検討したり、最悪の場合には失踪につながったりする可能性があります。
職場の環境を決定づけるものは、現場のトップと言えるでしょう。
現場のトップが、外国人労働者を下に見るような態度を取れば、それは全従業員に影響します。
そのため企業はまず、その現場のトップやマネージャーに対して、マインドセットの部分から教育することが必要となります。
そしてトップをはじめとする全員が、外国人労働者に対して、「共に働く仲間」であるという意識を持ってもらうことが、労働環境の改善のため、最も重要であると言えるでしょう。
小さなことですが、「外国人労働者にのみ挨拶をしない」や、休憩時間に「いつも一人で過ごさせる」など、そういう日本人とは違う扱いの積み重ねも、疎外感を感じさせるきっかけになります。
困ったときには気軽に相談できる。
そんな心理的安全性の高い労働環境を作ることができれば、失踪リスクは最小限に抑えられる可能性があります。
失踪したとき、まずなにをする?
①事実確認
失踪の可能性がある場合でも、焦ってすぐ通報するのではなく、最初に事実確認を必ず行いましょう。まずは本人への電話、可能ならSNSでの連絡や、同僚や友人に確認を行います。
急病で突然休みをとっているが連絡を忘れているという場合もありえます。
②報告
確信が持てなくても、失踪の可能性が極めて高い場合には関係機関、まずは監理団体への連絡が必要です。
あわせて、本人が居住していた社員寮や、アパートの捜索も必要です。荷物がすべて消えているのかどうかの情報は、本人の失踪が間違い無いのか、計画的なのかを、はっきりさせることができます。
同僚などに確認し、アパートや寮も調べても何もわからない場合には、事件や事故に巻き込まれている可能性を考慮し、警察へ行方不明者届の提出を検討しましょう。
警察が見つけ出してくれる場合もありますし、もしパスポートや財布を持たずに失踪している場合には、何らかの事件に巻き込まれている可能性もあります。
まとめ
外国人労働者の中でも、技能実習生は失踪という形でいなくなることがまれにあります。
技能実習生の失踪の理由として、経済的な苦境や日本の職場での孤立、また職場の環境などが原因で引き起こされます。
経済的な苦境で言えば、実習生の多くが、借金して来日しているという事実を知っておくことが必要です。
だからこそ期待していた額と実際の給与額のギャップ、税金や保険料の天引きについての知識不足などが、失踪・不法就労などへと走らせてしまいます。
また建築業界で多く見られる「日給制」では、天候に左右されるため仕方がなかった部分はあるとはいえ、日々の生活への不安という、失踪を後押しする要因となっています。
こうした事態を防ぐため、共に企業を支え、共に成長するパートナーとして、従業員全員が尊重する職場環境を作ることが必須です。
また日給制であれば、月給制を導入して経済的安定を保証する、また昇給制度やキャリアパスを明確にして、「ここでは努力は報われる」と思ってもらえる環境も有効です。
また万が一、外国人労働者の失踪が疑われる事態になった際には、焦って通報するのではなく、まずは冷静な事実確認が必要です。
その後、関係機関への迅速な報告が必要となります。
ですが当然、大切なことは事後対応ではなく、失踪を未然に防ぐ努力になります。
外国人労働者が抱えている不安にしっかり寄り添い、経済的にも、心理的にも、安心して日々を送れる環境を作ることが、失踪リスクを大きく低減するための有効な取り組みです。







