在留資格「特定技能」とは
日本に住む大部分の外国人は、日本人と同じようには働けません。外国人が日本で働くには、就労が可能な在留資格が必要です。就労が可能な在留資格には、できる仕事や働く時間に制限があるものと制限がないものがあります。外国人を雇うときは、その仕事をしてもよいと許可されているか、つまり、適切な在留資格をもっているかを、在留カードやパスポートで確認する必要があります。在留資格「特定技能」は、制限つきで就労が可能な在留資格です。
2019年から始まった特定技能制度のもと、現在、12の産業分野で「特定技能1号」という在留資格をもった外国人が働いています。このうち2つの産業分野(建設分野、造船・舶用分野)には、「特定技能1号」より高い技術や豊かな経験をもつ外国人向けの「特定技能2号」という在留資格もあります。
「特定技能1号」と「特定技能2号」の在留資格で働く人たちは特定技能外国人と呼ばれます。
「出入国在留管理庁 特定技能運用状況① 人数の推移 R4年6月.pdf」によると、2022年6月時点で87,472人の特定技能外国人が働いていて、この人数は在留外国人総数296万1969人の約3.0%にあたるそうです。特定技能外国人は、一定程度の日本語力と技術をお持ちです。日本語力と技術は基本的には試験合格で証明されます。特定技能外国人は、工場で働いたり、レストランで働いたりすることができます。
目次
産業で雇用する場合
工場やレストランなどで働く特定技能外国人を雇いたいと思ったとき、まずすべきことは、その事業場が特定技能外国人を受け入れることのできる産業分野に属するかどうかを確認することです。現在、12の産業分野が特定技能外国人を受け入れることのできる特定産業分野に指定されています。12の特定産業分野とは、介護、ビルクリーニング、素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業、建設、造船・舶用工業、自動車整備、航空、宿泊、農業、漁業、飲食料品製造業、外食業です。
特定技能外国人を受け入れたい事業所が特定産業分野に属するかは、慎重に判断しなければなりません。分野によっては日本標準産業分類の細分類まで確認して判断しなければなりません。例えば、訪問介護等の訪問系サービスをおこなう事業場やアルコール飲料を製造する工場では特定技能外国人を受け入れることができません。建設分野では建設業許可を得ていなければなりませんし、自動車整備分野では地方陸運局長の認証を受けた事業場を有さなければなりません。
特定産業分野に該当しないことがわかった場合は、必要な許可や認証を受けたり、事業場を再編したりすることで特定産業分野に該当すると認められうるかどうか、検討していくことになります。
特定技能外国人ができる仕事
次に確認したいのは、従事する業務の内容です。
各事業場には様々な仕事があります。特定技能外国人を受け入れることができる事業場で働くからといって、そこでの仕事であれば何でもできるというわけではありません。特定産業分野ごとに主に従事すべき業務と関連業務が指定されています。例えば、ビルクリーニングでは、メイン業務は建物内部(商業ビルなどの玄関、トイレ、階段など)の清掃です。その他の仕事のうち同じ業務に従事する日本人が通常おこなう関連業務は付随的にならやってよいとされていますが、外壁などの清掃はできません。また、外食業では調理・接客・店舗管理をまんべんなくおこなう必要があります。ホールスタッフとして接客ばかりをやることやキッチンで調理ばかりをやることは許されません。
特定技能外国人の受け入れを検討するときは、事業場内の業務を洗い出し、どの業務をやってもらえるかを整理することが大切です。また、特定技能外国人ができる業務とできない業務とを従業員全員によく理解してもらう必要もあります。特定技能外国人が従事できない仕事を現場の上長がさせてしまったというようなことが起きた場合、知らなかったでは済まされません。会社にとっては大損害になりえます。そのようなことが起こらないように、行政書士を呼んでの社内研修の実施も検討されるべきです。
特定技能外国人を受け入れられる会社等
特定技能外国人を受け入れる会社等(受入機関といいます)には様々な条件が課されています。課題が多いとされている技能実習制度の反省を踏まえてのことだと思われます。 まず、受入機関が特定技能外国人と結ぶ雇用契約を適正に履行できるかどうかを確認する条件があります。すべての特定産業分野に共通する条件の数は15です。例えば、
- 労働関係法令・社会保険関係法令・租税関係法令を守っているか
- 非自発的離職を発生させていないか
- 技能実習生や特定技能外国人が行方不明になっていないか
- 法律違反をして罰金刑などを受けていないか
- 外国人従業員のパスポートを取り上げたり、残業代を払わなかったりしていないか
- 経営状態は安定しているか
など、特定産業分野によってはこれに上乗せの条件が加わります。
ざっくり言うと、事業を営む者として守るべきルールを守っていますかということです。しかし、日々の業務に追われるなか、すべてのルールを守っていますか、と聞かれると不安になります。法改正は頻繁に行われますから、ルール変更に気づいていないことがあるかもしれません。納税が少しだけ遅れてしまった、今期は業績がかんばしくなかったなどということは、それほど珍しいことではないと思います。
さらに、受入機関に課された条件を規定する法令の表現は必ずしもわかりやすい表現ばかりではありません。行政書士等の専門家といっしょに一つひとつの条件をていねいに確認するとよいです。クリアできない条件があるかどうか、クリアできない条件がある場合に何らかの対応や追加の資料またはていねいな説明でカバーすることができるかどうかなどについては、行政書士がアドバイスできます。労働関係法令や社会保険関係法令については社会保険労務士、租税関係法令については税理士にアドバイスをもらうことをおすすめします。
支援計画の実施
次に、特定技能1号については、支援計画を適正に実施できるかどうかを確認する条件が6つあります。特定技能1号の在留資格をもつ特定技能外国人には‟支援”をすることが求められます。支援は支援計画を立てて、計画どおりにおこなわなければなりません。この支援をきちんと実施できる体制が受入機関にあるかどうかが問われます。支援の内容については後述しますが、支援計画の適正な実施について、次のことをクリアしなければなりません。
- 就労の在留資格をもつ外国人の雇用や相談業務の実績がある
- 特定技能外国人の母国語または十分に理解できる言語を使用しての支援ができる
- 支援に関する書類を作り備え付けておく体制が整っている
- 中立的な立場で支援の実施ができる
- 過去5年間に支援を怠ったことがない
- 3か月に1回以上の面談をおこなう
特定産業分野によっては、これに上乗せの条件が加わります。
条件を箇条書きにするとたいしたことがないように見えますが、条件一つひとつの内容を正確に理解しておかないと、知らないうちに違反していたというようなことが起こりかねません。 なお、登録支援機関に支援の全部を委託した場合には、上記の基準は満たすとみなされます。登録支援機関については後述します。
一般的な雇用契約では不十分
第三に、雇用契約の内容です。労働法の諸規定の条件をクリアしたものであることが大前提です。最長5年しか働けない1号特定技能外国人にはパートタイム・有期雇用労働法の適用があることは見落とされがちなポイントです。加えて、特定技能用の入管の基準を満たすことも必要です。
一般的に、従業員を雇い入れるときには、賃金、所定労働時間など、雇用条件書に必ず書かなければいけない項目が決められています。入管は、受入機関と特定技能外国人との間に結ぶ雇用契約の内容を示した雇用条件書のひな形(参考様式)を用意していて、参考様式を用いて条件提示することを推奨しています。雇用条件が特定技能外国人がわかる言語で示されることも求めており、英語など10か国語の様式が準備されています。
入管の参考様式には、日本人を雇い入れる場合には通常書かれない条件も含まれています。例えば、従事する業務内容は、特定技能で認められる業務しか書けません。報酬は、おなじ業務に就く日本人と同等以上でないといけません。一時帰国を希望した場合には、有給休暇を取得させる必要があります。入管の参考様式を使わないで雇用条件を示すこともできますが、参考様式の項目を網羅したものを作成しなければなりません。
日本の会社では雇用契約書や雇用条件書に加えて、就業規則に雇用のルールが定められていることが多いと言われています。雇用契約を結ぶ前に、雇用条件書を十分に説明することが大切なのは言うまでもありませんが、就業規則に詳細規定がある場合には就業規則も含めて説明することが就労開始後のトラブル発生を減らすことにつながります。就業規則の周知義務という観点からも、就業規則を特定技能外国人の母国語に翻訳しておくことが求められます。
安心して働いてもらうためのサポート
第四に、特定技能外国人が安心して働けるための措置が求められます。会社を辞めて帰国するときの旅費を負担したり、心身ともに健康に過ごせるようにしたりすることが必要です。
1号特定技能外国人には支援が必要
さて、いよいよ支援についての条件です。2号特定技能外国人には支援の実施は求められません。以下の対象となるのは1号特定技能外国人のみです。
1号特定技能外国人には10種類の支援をしなければいけないことになっています。 まずは支援の種類をみてみましょう。それぞれの支援の種類ごとに必ずしなければいけない内容(義務的支援)が定められています。義務的支援のほかの支援を任意でおこなうこともできます。
①事前ガイダンス
受入機関と特定技能外国人候補者が雇用契約を結んだ後、入管への申請をする前に実施します。受入機関でどのような仕事をするのか、就労開始までにどのような手続きがあるのか、保証金を徴収しないこと、などについて説明します。対面またはテレビ電話などで、3時間程度おこないます。技能実習生が引き続き同じ受入機関で特定技能外国人として働く場合でも、最低1時間程度は必要だとされています。雇用条件や従事する業務内容に変更があるからです。
②出入国する際の送迎
国外に住んでいる特定技能外国人が就労開始に先立って入国するとき、到着する空港で出迎えて、事業所や住まいまで送り届けます。また、特定技能外国人が本国に帰国するときは、空港の保安検査場まで送り届け、出発を見届けます。送迎には、支援をおこなう者の社用車や自家用車を使うことも公共交通機関を使うこともできます。
③住居確保・生活に必要な契約支援
特定技能外国人の希望を聞いたうえで、特定技能外国人として働く間の住居を確保する手助けをします。社宅を提供すること(社宅として賃貸物件を借りることも含まれます)や賃貸物件探しに同行したり契約をするときに連帯保証人になったりすることが想定されています。 また、銀行口座を作ったり、携帯電話、電気、水道など生活に必要な契約をしたりするサポートをします。一定程度の日本語力がある特定技能外国人ですが、特に国外から来たばかりのときは不安でしょうから、しっかりサポートします。なお、すでに国内にいる外国人を特定技能外国人として雇い入れるときは、すでに銀行口座を持っているなど、不要なサポートもあります。そのような場合は入管に事情を説明します。
④生活オリエンテーション
日本で円滑に暮らせるようにするサポートです。ゴミ出しや騒音に関するルール、交通ルール、公共機関の利用方法、市役所や病院などの連絡先、災害がおきたときの対応方法、困ったときの相談先、日本ではどんな行為が違法になるかなどが、オリエンテーションでカバーすべき内容になります。 すでに国内にいる外国人を特定技能外国人として雇い入れるときでも、生活オリエンテーションの実施は必要です。ただし、通常8時間以上の生活オリエンテーションが必要だとされているところ、4時間以上であれば良しとされます。ある程度慣れた日本での生活ですが、改めてルールを確認しておく機会になると思います。
⑤公的手続等への同行
初めて日本に住所を定めたときや転居したときは、市区町村の役所に住所を登録します。そのほかにも、どのようなときに公的手続きが必要になるのかを説明しておきます。実際に公的手続きが必要になったときに同行したり、書類を作るのを手伝ったりします。
⑥日本語学習の機会の提供
日本語の上達は日本社会への適応をスムーズにします。職場の同僚との良好な人間関係を保つのにも日本語力が必要です。技能実習では、日本語がよく通じないことが原因で、指導のつもりでかけた言葉がパワハラだと誤解されるケースもあると聞きます。日本語教室を案内したり、日本語学習に使える教材を紹介したりします。
⑦相談・苦情への対応
仕事上、生活上の不満や不安の相談に乗り、必要に応じて対応します。場合によっては、入管や労働基準監督署などを案内したり同行したりすることも必要です。職場の上長には伝えにくい声もくみ取れるように、相談対応者の中立性が求められます。 相談を受ける曜日や時間帯を設定するときは、相談しやすい体制を作ることに配慮します。相談や苦情を受けたときは、相談・苦情の内容と対応内容を相談記録書に記録し、定期的におこなう入管への届出(定期届出)の際に相談記録書を提出します。
⑧日本人との交流促進
地域の行事の情報を伝えるなどして、地域の人と交流をする機会を提供します。お祭りに一緒に参加するなどして、日本での生活がより豊かになるようにサポートします。
⑨転職支援(人員整理等の場合)
受入機関の都合で雇用契約を解除する必要が生じた場合、転職先を紹介したり、推薦状を書いたりします。面接などのために仕事を休む必要があれば、有給休暇を付与したりします。不安なく新しい職場で仕事を続けられるようにします。
⓾定期的な面談・行政機関への通報
少なくとも3か月に1回は、特定技能外国人とその上司と面談します。必ず対面で、定期面談報告書の項目に沿って聞き取りをおこないます。定期面談報告書は定期届出の際の必須書類です。定期面談時に賃金不払いなど何らかの法令違反等があることがわかったときは、関係行政機関に通報しなければなりません。 以上のような支援は、特定技能外国人が十分に理解できる言語でおこないます。通訳者を活用することも可能です。
登録支援機関に支援を委託したいとき
支援計画を適正に実施できるかどうかを確認する6つの条件(上乗せ基準がある分野は7つ)を満たす受入機関は、全部の支援を自社で実施することができますし、できる範囲の支援を自社で実施し、できない支援を登録支援機関に委託することもできます。6つ(または7つ)の条件をクリアしない受入機関は、全部の支援を登録支援機関に委託することになります。
登録支援機関は、1号特定技能外国人支援の実施を提供する法人や個人です。条件を満たす法人や個人が入管に登録申請をして許可された者は登録支援機関のリストに掲載されます。2022年11月29日現在、7,718の登録支援機関が登録されています。
登録支援機関登録簿は入管のウェブサイトから見ることができます。出入国在留管理庁(登録支援機関)
検索エンジンで検索しても、本当にたくさんの登録支援機関のウェブサイトが出てきます。それぞれ対応可能言語等に特徴がありますから、比較検討されるとよいです。支援料金にも差があります。登録支援機関には内訳を含めた支援料金を示すことが義務づけられていますから、サポート内容と支援料金を確認することから始めるとよいと思います。
受入機関は、どのような支援を、だれが、どのようなタイミングで行うかなど、詳細を支援計画書にまとめて入管に提出します。支援計画書に書いたことはそのとおりに実施する必要があります。義務的支援の実施は当然として、任意でおこなうと書いた支援についても、支援計画書に書いたら義務になります。支援の実施の全部を登録支援機関に委託している受入機関も、自らが支援計画書を作る必要があります。支援計画書作成についてのアドバイスを登録支援機関から受けることはできますが、登録支援機関に作成を任せることはできません。登録支援機関の役割は、あくまで支援を実施することです。
ここまで受入機関側の条件を説明してきました。とても大変だなという印象をお持ちになったことと思います。
特定技能外国人を雇い入れるためには、たくさんの条件を満たす必要があります。条件を満たすために会社のルールや慣習を変えなければいけないこともありえます。今までやっていなかったことを新たに取り入れなければいけなくなる場合もありえます。これらの条件は、特定技能外国人を雇い続けている間ずっと満たし続ける必要があるのです。一つでも条件を満たさなくなった状態での雇用継続は違法です。刑事罰もありえますし、向こう5年間外国人労働者を雇うことができない事態に陥る可能性もあります。
私は、入管への申請を取り次ぐ行政書士として特定技能の申請にも携わっています。特定技能外国人の受け入れ準備がよりよい就労環境を作ることにつながってほしいと願いながら相談や書類作成をしています。外国人が同じ職場で働くことが増えています。むしろ、外国人がいなければ、私たちの衣食住が成り立たないのが日本の現実です。特定技能外国人を受け入れることで、それ以外の在留資格で働く外国人、そして日本人にとっても働きやすい環境になるのではないでしょうか。行政書士、社会保険労務士、税理士、中小企業診断士等、専門家の力を借りながら、適法で魅力ある職場づくりが実現することは、労働者側だけでなく、会社さんにとってもメリットがあると考えていただければと思います。
特定技能外国人に採用内定を出す前に
さて、受け入れ側の条件が整ったところで、ここからは、外国人側の条件を説明します。
まず押さえたい条件は、18歳以上で健康であることと、必要な日本語と技能の試験に合格していることです。技能実習生については、3年間の技能実習を実習計画通りに修了していれば、あるいは、修了見込みであれば、条件を満たすと考えてよいでしょう。
年齢や健康状態の確認は、パスポートや聞き取りで行うことができます。技能実習修了あるいは終了見込みの外国人は、技能実習3年目で合格することになっている実技試験の合格を、合格証書で確認します。それ以外の外国人は、日本語と技能レベルを確認する必要があります。日本語の条件は、国際交流基金日本語基礎テストや日本語能力試験JLPTのN4などの合格で確認します。技能の条件は、分野や仕事の内容に応じて決められた技能試験の合格で確認します。
では、技能実習修了見込みであれば、あるいは、日本語と技能の試験に合格していれば、特定技能の在留資格を必ずもらえるでしょうか。有料職業紹介業者から「この方はすぐに働けます」と言われたら、あるいは、求人に応募があったら、候補者に採用内定を出していいでしょうか。それがそうでもないのです。
試験に合格していても、特定技能の在留資格が許可されない場合があるのです。国内にいる候補使者の場合でいえば、例えば、難民申請をしていてその結果を待つために「特定活動」の在留資格で在留している外国人や「短期滞在」の在留資格で在留している外国人は、日本にいながらの特定技能への変更は通常認められません。留学生で成績や出席状況がよくない場合やアルバイトをしすぎている場合などは、特定技能ビザへの変更許可のハードルが高いです。
現在技能実習中で、実習修了見込みの外国人の場合は、現在実習を行っている実習実施機関や監理組合などと話し合う必要があります。技能実習生は実習修了後帰国することが前提となっており、帰国させるまでが実習実施機関や監理組合の責任だからです。帰国させないことの同意をもらい、必要書類を提供してもらうことになります。ときに話し合いが難航することもあります。例えば、技能実習の受入機関が自社で技能実習(3号)を続けてほしいと思っている場合です。また、特定技能への変更申請の結果が出るまでに1~2か月かかりますから、実習を終えてから変更許可が出るまでの間の住まいが問題になりえます。技能実習生は受入機関が提供する寮に住んでいることが多く、実習を修了したら住み続けることができなくなるからです。また、実習修了後は働くことはできませんから、生活費をどうするかという課題があります。生活費の課題は、留学生にとっても同じです。留学生が学校を卒業したらアルバイトができなくなるからです。
採用内定を出して、入管に申請をして、不許可通知を受け取ってからでは、そこまでの過程で費やした時間とお金が無駄になってしまいます。国内在留中の候補者に採用内定を出す前に、特定技能制度に詳しい行政書士に相談することを検討されるとよいと思います。行政書士に相談すると、許可をもらえる可能性があるのかどうかについて意見がもらえます。ビザ変更の申請をするのか、あるいは、いったん帰国してもらって呼び戻すべきなのかなど、許可の可能性が高まる申請方法についてアドバイスがもらえます。実習中の外国人を受け入れている会社との話し合いのしかたや入管への申請時期の調整についてのアドバイスももらえます。
国外にいる候補者の場合、入管への申請(在留資格認定証明書交付申請)に加えて、在外公館(日本大使館・領事館)でビザを申請する必要があります。通常は、入管が交付した在留資格認定証明書があればビザが発給されます。しかし、在外公館が独自にもっている情報や、在外公館での本人インタビューの結果によっては、ビザの発給が拒否される場合もあります。ビザ発給が拒否されても、通常、その理由を説明されることはありません。残念ながら他の候補者を探すしかありません。
本国の手続きもお忘れなく
ところで、外国人側の条件で忘れてはいけないのは、外国人の本国のルールです。日本は、特定技能外国人に関して、フィリピン、ベトナム、タイ、ネパールなど、現在15の国との間で協力覚書を作成しています。念のためですが、協力覚書を作成していない国の国籍を持つ外国人を特定技能外国人として雇うことも可能です。
協力覚書を作成している国のうちいくつかの国は、特定技能外国人を受け入れる際に必要な本国手続き(送出手続)を定めています。カンボジア、タイ、ベトナムについては、入管への申請の前に手続きをすませておくことが必要です。手続き終了時にもらった書類を入管への申請書類に添付します。本国手続終了を証明する書類を入管に出す必要がないものの、日本のビザがあっても本国手続をしていないと出国ができないフィリピンのような国もあります。通常は、採用したい特定外国人が決まったら、入管への申請と本国手続を同時進行で進めていきます。
詳しい情報は、入管のウェブサイトに掲載されています。ご参照ください。
特定技能に関する二国間の協力覚書(登録支援機関)
入管への申請書を作れる人
最後に、入管への申請について触れておきます。忙しい通常業務のかたわら、大量の申請書類を作るのは大変です。受入機関の方が書類作成や申請を外注したいときに、お読みください。 申請書や添付する参考様式などを作ることができるのは、以下の者だけです。
- 申請人が作るべき書類:申請人(採用内定者)
- 受入機関が作るべき書類:受入機関の役職員
- 全部の書類(健康診断書を除く):受入機関または申請人が委任契約を結んだ行政書士(本人の署名が必要な書類もあります)
有料職業紹介業者や登録支援機関などがパートナーシップを組んでいる行政書士に書類作成を任せることはあるでしょうが、そういうときでも受入機関とまたは申請人とその行政書士が直接契約し、面談し、一緒に書類を仕上げていく必要があります。書類作成をおこなう行政書士が採用内定者と直接面談することも大事なステップです。
申請の際に添付した書類に不足があると、資料提出通知書が入管から届きます。この手紙が来たからといって、申請が不許可になるということではありません。しかし、入管は追加資料を受領してから審査を再開させますので、少なからず時間をロスしてしまいます。提出書類にもれがないかを行政書士に確認してもらうことは、就労開始が早くなることにつながります。
特定技能外国人の転職を防ぐ受入れを目指して
余談になりますが、特定技能外国人は転職することが可能です。技能実習生はよほどの事情がない限り転職ができませんが、特定技能外国人は自己都合の転職であっても認められます。地方から最低賃金の高い大都市圏への流出を問題視する報道に触れたことがある方もいらっしゃると思います。
私の所属する行政書士法人にも転職相談が多く寄せられます。転職希望者の中には、特定技能の在留資格をもらって働き始めて1か月しか経っていない方もいらっしゃいます。特定技能の在留資格をとるのが大変だということを知っている行政書士としては、受入機関さんのことを考えるととても心が痛みます。
転職希望者の話をうかがうと、想像していた仕事と違っていた、仕事がきつい、もっと高いお給料をもらいたい、とおっしゃる方が多いです。外国人は、じつに広く多彩なネットワークを築いておられます。同郷の友人からの話を聞いたり、母国語のSNSサイトで求人広告を見つけたりする機会が、私たちが想像するより多いようです。
最低限の対策として、相談や苦情に対応する窓口を手厚くサポートして、離職希望者が出ないようにしたいものです。また、先にも少し触れましたが、就業規則、賃金規定、36協定など、働くことについての様々な社内ルールを特定技能外国人がわかる言語に翻訳しておかれるといいですね。
受入機関の方たちが、適宜専門家の力を借りて、適正な特定技能外国人の受け入れを続け、事業の継続・拡大を成し遂げていってくださることを祈りつつ。