外国人が日本で働くには、法律で定められたルールに従う必要があります。このルールに違反した不法就労には厳しい罰則が定められており、外国人労働者本人だけでなく、外国人労働者を雇用した事業主も処罰の対象になります。
事業主が不法就労であることを知らなかった場合でも、不法就労を防ぐための確認を怠っていた場合には罰則を免れることができません。この記事では、外国人労働者の不法就労を防ぐために事業主が注意すべき確認ポイントを解説します。
目次
外国人労働者を雇用する事業主の義務
外国人雇用状況の届け出
外国人労働者を雇用する事業主には、外国人労働者を雇入れ、または離職の時に外国人労働者の氏名や在留資格などの情報を厚生労働大臣(実際の窓口はハローワーク)に届け出ることが義務付けられています。
不法就労を防ぐ取り組み
不法就労を防ぐために、外国人労働者を雇用する事業主は、その外国人が就労可能な人物であるかを確認しなければなりません。在留カードやパスポートを確認せずに雇用した場合、後に不法就労が発覚した段階で「知らなかった」と主張しても罰則を逃れることはできません。
不法就労となる3つのケースとは?
不法滞在者や強制退去となった外国人の場合
不法滞在者とは、許可された期間を超えて日本に滞在している「オーバーステイ」や、適切な手続きを受けずに入国した「密入国者」が該当します。
また、在留資格が取り消されたなどの理由で「退去強制」の処分が下った外国人を雇い入れた場合も不法就労になります。
適切な在留資格を取得していない外国人の場合
在留資格とは
在留資格とは外国人が日本に滞在するための資格のことです。在留資格にはさまざまな種類があり、外国人が日本で行える活動内容(就労や留学など)とその期間が定められます。
在留資格の種類
在留資格には就労が認められるものと認められないものがあります。例えば、観光の目的で短期滞在中の外国人は就労することができません。
就労が可能な在留資格のことを指して、「就労ビザ」という言葉が使われることもありますが、法制度上「就労ビザ」という用語は存在しないため注意が必要です。
在留資格の範囲を超えて働いた場合
就労が認められる在留資格を取得していても、その在留資格で認められた業務と異なる仕事につくことはできません。例えば、語学学校の教師として在留資格を取得した外国人労働者が建築現場で働くことは禁止されています。
在留資格の種類による違い
就労可能な在留資格である「技術・人文知識・国際業務」や「法律・会計業務」などは、それぞれの在留資格ごとに従事できる業務内容が指定されています。
一方で、身分・地位に基づく在留資格である「永住者」「日本人の配偶者」などを取得している外国人には就労に関する制限がありません。そのため業種を問わずに就労することができ、単純労働への従事もできます。
外国人労働者の不法就労などに対する罰則
外国人労働者の不法就労に関連する罰則規定は「出入国管理及び難民認定法」と「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」に定められています。
事業主に対する罰則
不法就労助長罪
「出入国管理及び難民認定法」の第73条の2では、外国人に不法就労をさせた事業主に対して、「3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、又は両方」という厳しい罰則が定められています。
先に述べたように、事業主には雇い入れ時に在留資格を確認する義務があり、知らなかったからという理由で罰則を逃れることはできないため注意が必要です。
適切な届出をしなかった場合
「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」の第28条では、外国人労働者の雇用、離職時の届出を義務付けています。この届出を怠った場合や虚偽の届出を行った場合には、30万円以下の罰金が科せられます(同法の第40条の2)。
事業主が外国人の場合
事業主が外国人の場合、事業主自身が「退去強制」処分の対象となる場合があります。退去強制は、一般的に強制送還などと呼ばれているもので、日本国内に留まることができなくなります。これまでに日本で積み上げてきた生活基盤や人間関係を喪失することになりますので、不法就労防止が重要な課題と言えます。
外国人労働者に対する罰則
不法就労を行った外国人労働者本人に対する罰則は、その違反の程度によって変わります。在留資格で認められていない活動を「専ら行っていると明らかに認められる者」には「3年以下の懲役もしくは禁錮300万円以下の罰金、又は懲役もしくは禁錮と罰金の両方」が科せられます。常習性や違反の程度が低い場合の罰則は、「1年以下の懲役もしくは禁錮200万円以下の罰金、又は懲役もしくは禁錮と罰金の両方」です。
これらの罰則の他にも、退去強制処分や、在留資格の更新が認められなくなるという悪影響があります。もし不注意で不法就労状態になっていることに気づいたら、早期に不法就労状態を解消し、出入国在留管理庁に申告することが大切です。
不法就労を防ぐためには在留カードの確認が大切
外国人労働者を雇用する事業主が行える防止策の基本は、在留カードの確認です。在留カードを適切にチェックできれば、ほとんどの不法就労を未然に防ぐことができます。
在留カードとは
在留カードは、合法的に日本に中長期間滞在する外国人に交付されるカードです。顔写真、氏名や生年月日といった基本的な情報に加えて、日本国内で認められている活動についての情報も記載されています。
在留カードの確認ポイント
在留カードで就労に関する情報が記載されているのは次の2つの箇所です。出入国在留管理庁のWebページでは在留カードの見本画像が公開されています。
「就労制限の有無」欄の情報
カード表面の中央に「就労制限の有無」という欄があります。就労制限の無い在留資格を取得している場合には「就労制限なし」と記載されています。
就労制限がある場合、次のようなパターンに分けられます。
①「在留資格に基づく就労活動のみ可」
認められている在留資格によって就労できる業務内容が制限されます。在留資格が「特定技能」の場合は、②のパターンと同様に指定書で詳細を確認してください。
②「指定書により指定された就労活動のみ可」
法務大臣が「指定書」によって活動内容を定めているケースです。在留カードに加えて「指定書」を確認してください。
③「就労不可」
原則として雇用することはできませんが、一定の条件で就労が認められている場合もあります。次に解説する「資格外活動許可」の欄を確認してください。
「資格外活動許可」欄の情報
在留カードの裏面には、「資格外活動許可」の欄があります。この欄に次のような記載があれば、制限の範囲内で就労が可能です。
①「許可(原則週28時間以内・風俗営業等の従事を除く。)」
複数の場所でアルバイトを行う場合、合算した時間が28時間以内である必要があります。
②「許可(「教育」,「技術・人文知識・国際業務」,「技能」に該当する活動・週28時間以内)」
地方公共団体との雇用契約に基づく活動であれば可能です。
③「許可(資格外活動許可書に記載された範囲内の活動)」
認められている活動の範囲が「資格外活動許可書」に記載されていますので、確認してください。
在留カードの確認ポイント
在留カードには、カードが有効なものかどうかを簡単に確認できる仕組みが盛り込まれています。
在留カード番号
在留カードの右上には在留カードの通し番号が記載されています。出入国在留管理庁のWebページ上でこの番号のカードが有効かどうかを確認することができます。
番号が有効だとしても、実在する有効なカードの番号を利用した偽造の可能性は残ります。そこで、次の2点の偽造防止ポイントをチェックすることも重要です。
偽造防止ホログラム
在留カードには、偽造防止のためにホログラム技術が使われています。
①カードを上下方向に傾けると、表面左側の色がグリーンからピンクに変化します。
②カードを上下方向に傾けると、表面中央下部の「MOJ」の文字周囲の色がグリーンからピンクに変化します。
③顔写真の下部にあるホログラムは、見る角度によって文字の色が反転します。
裏面の透かし
在留カードの表面から強い光を当てると、裏面に「MOJ」の文字が透けて見えます。見えにくい場合は暗い場所で確認してください。
在留カードを持っていなくても就労できる例
次の3つのケースでは、例外的に在留カードを所持していなくても就労できる場合があります。
①在留カードを後日交付することになっている外国人(パスポートに記載される)
②3ヶ月以内の短期間の在留期間が認められている場合
③「外交」や「公用」などの在留資格が認められている場合
これらの例に該当する場合は、パスポートなど他の書類で確認する必要があります。
在留カードの確認に役立つ情報
在留カード等読取アプリケーション
在留カードが真正なものであるかを確かめる手段として、「在留カード等読取アプリケーション」が無料で公開されています(出入国在留管理庁 「在留カード等読取アプリケーション サポートページ」)。
このアプリケーションを使うと、在留カードのICチップに記録されている情報を読み取り、カードに記載の情報と突き合わせることができます。PC版(Windows、Mac版)の他、Android、iOS版も公開されているので、スマートフォンでも利用可能です。
在留カード確認方法の動画解説
出入国在留管理庁では在留カード等読取アプリケーションの操作方法や、目視による在留カードの確認方法を解説した動画を公開しています(出入国在留管理庁 「動画ライブラリー 不法就労対策」)。
事前に動画を視聴しておくことで、スムーズかつ確実に在留カードを確認できるようになります。
在留カード以外の書類について
在留カードは最も基本的な確認ポイントですが、事情によっては他の書類を確認する必要が生じることがあります。
指定書
指定書とは、日本に在留する外国人に認められる活動内容の詳細を記載したものです。在留カードだけでは分からない就労条件は、指定書で確認する必要があります。指定書は通常パスポートに添付されます。
指定書に記載される内容は在留資格によって異なります。例えば「特定技能」の在留資格の場合、就労できる産業分野を指定書で確認できます。
資格外活動許可書
資格外活動許可を得ると、本来就労が認められていない在留資格でも、制限の範囲で就労が可能になります。資格外活動の代表的な例は、留学生が学業と並行して行うアルバイトです。
資格外活動許可書には、外国人労働者の情報と許可された活動の詳細が記載されています。在留カードと併せて資格外活動許可書を確認し、許可範囲を超えないように注意をはらう必要があります。
仮放免許可書
仮放免許可書は、退去強制手続き中や退去強制処分が決まった外国人のうち健康上の理由等で収容を免れている人に対して発行される書類です。仮放免許可書の裏面には「職業又は報酬を受ける活動に従事できない」という条件が記載されている場合があります。
まとめ
不法就労の防止は法律で定められた事業主の義務です。不法就労の状態になると外国人労働者を雇用し続けられないだけでなく、外国人労働者本人と事業主の両方が厳しい罰則の対象になります。
不法就労を未然に防ぐためには、この記事で解説したポイントに注意しながら、在留カードなど書類の確認を徹底していく必要があります。