特定技能外国人を雇用する場合、その人材の出身国と日本との間で結ばれている雇用上の約束「二国間協定」の内容に従って出入国や雇用などの手続きを進めなければなりません。
職場での差別的扱いの防止や悪質なブローカーの排除、両国の利益増大のために二国間協定は締結されます。実際に特定技能外国人を雇用する際には二国間協定の内容をしっかりと把握しておくようにしましょう。
この記事では二国間協定の概要と実際に特定技能外国人として雇用する際の手続きの流れを解説します。
目次
二国間協定とは
二国間協定とは特定技能外国人として雇用する人材の出身国と日本との間で決められた、雇用上でのルールのことです。特定技能外国人の送出し国・受入れ国双方がトラブルを回避しながら円滑に手続きを進められるようにすることを目的として交わされます。
二国間協定を締結する目的
二国間協定を締結する具体的な目的には主に以下の3つがあります。
1.両国間で円滑かつ適正な人材の送出し・受入れを実現させる
1つ目の目的は外国人人材の送出し・受入れの手続きを円滑にすることです。
国によって外国人人材の送出し・受入れのために必要な手続きや書類は異なります。そのため手続きが複雑なままでは双方にとって機会損失につながる恐れがあります。
本来ならば複雑な手続きを円滑にし、双方が利益を享受できるようにするために二国間協定は締結されます。
2.日本で働く特定技能外国人の保護
2つ目の目的は日本で働く特定技能外国人を搾取や悪質なブローカーなどから守ることです。
残念ながら外国人を差別的に扱う企業も存在します。「外国人だから」という理由で外国人労働者が不当に低賃金を強いられたり、過剰労働をさせられるといったことは本来あってはならないことです。
また、不当な手数料・保証金などを日本で働きたいという人から搾取する悪質なブローカーによる犯罪も排除しなければなりません。
二国間協定は特定技能外国人が過剰労働や低賃金に苦しめられることを防ぎ、外国人が安心して日本で働ける環境を整備するために結ばれるものでもあります。
3.送出し国・受入れ国双方の利益享受
3つ目の目的は、送出し国・受入れ国双方が利益を享受することです。
現在日本では少子高齢化が進んでいるため、年々労働力の確保が難しくなっています。一方で日本で働きたいという外国人は海外にたくさんいます。
しかし本来ならば外国人を雇用したり、逆に雇用されるためには煩雑な手続きをしなければなりません。
二国間協定はこうした複雑な手続きを簡略化し、お互いのニーズを満たすために締結されます。この協定によって手続きがスムーズになり、日本の企業は労働力を確保でき、外国人人材は日本で働きやすくなるのです。
上記の目的を達成するためにとられている手段
上記の3つの目的を達成するために、二国間協定では主に以下の2つの手段を用いることが約束されています。
- 双方にとって有益な情報交換をすること
- 定期または随時協議を行い問題を是正すること
虚偽の求人情報、必要な書類の偽造、職場での人権侵害といったことを防ぐため、二国間協定が交わされた国とは双方が情報や課題を共有し、解決を目指します。
現在日本と二国間協定が締結されている国(2023年3月現在)
2023年3月現在、日本と二国間協定が締結されている国には以下の15ヵ国があります。
- フィリピン
- カンボジア
- ネパール
- ミャンマー
- モンゴル
- スリランカ
- インドネシア
- ベトナム
- バングラデシュ・MEWOE(バングラデシュ海外居住者福利厚生・海外雇用省)
- ウズベキスタン
- パキスタン
- タイ
- インド
- マレーシア
- ラオス
二国間協定が締結されるようになった背景
以前から実施されている「技能実習生制度」では、外国人の日本での失踪や職場での人権侵害などの問題がたびたび発生していました。日本で働きたいと望んでいる外国人労働者から不適切な保証金や手数料を徴収する悪質なブローカーも問題視されています。
このような社会問題を解決するために二国間協定は締結されるようになりました。二国間協定が結ばれることによって外国人が日本で安心して働けるようになるだけでなく、企業もクリーンな手続きを踏んだ外国人だけを雇用できるようになるのです。
特定技能外国人の受入れ・送出しの基本的な仕組み
全ての業種で特定技能外国人を雇用できるわけではありません。日本国内で人材を確保することが困難であるとされた産業分野にのみ適用されるだけでなく、外国人労働者側にも専門性・技能が一定の水準を満たしていることが求められます。
そのためまずは自社が以下の特定技能外国人を受入れられる産業にあてはまるかどうかをチェックする必要があります。
- 介護
- ビルクリーニング
- 素形材産業
- 産業機械製造業
- 電気・電子情報関連産業
- 建設
- 造船・船用工業
- 自動車整備
- 航空
- 宿泊
- 農業
- 漁業
- 飲食料品製造業
- 外食業
人材の確保は現地の送出し機関や、日本国内の受入れのための機関を利用することで行います。
日本国内では雇用関係の成立の斡旋は「職業紹介」にあたるため、厚生労働大臣からの許認可がなければ事業として行うことができません。特定技能外国人の雇用であっても、斡旋業者や仲介業者が許認可を受けた業者かどうかをしっかりと確認しましょう。
また、求人を出す際にも一定の条件を満たしている必要があります。特定技能外国人はパートやアルバイトとして雇用することができず、フルタイムでなければなりません。給与、待遇なども日本人労働者と同じであるかどうかがチェックされます。
二国間協定が締結された国との手続きの流れ
相手国によって用意すべき書類やとるべき手続きが大きく異なります。
以下では特定技能外国人を採用する上での大まかな手続きと、特に手続きが特徴的な国での流れを紹介します。
一般的な特定技能外国人受入れの手続きの流れ
国内・現地の機関を通じて採用した特定技能外国人は、日本で働き生活するためのビザを取得しなければなりません。仕事の内容によって取得すべきビザは異なるため、適切なビザが取得できるよう手続きを進める必要があります。
求人内容や雇用契約の内容などが特定技能外国人を受入れられるものかどうかのチェックもしっかりと行うようにしましょう。
特徴的な手続きが必要な国の例
ベトナム
ベトナムの最大の特徴は「推薦者表」が必要になることです。
これはベトナムの大使館か労働・傷病兵・社会問題省海外労働管理局(DOLAB)に申請することで交付されるもので、政府の承認一覧に自社の名前が記載されることによってベトナムからの人材を受入れが可能になります。
フィリピン
フィリピンでは実際に採用活動をする前にしなければならない手続きがあります。
まず、受入れ企業は駐日フィリピン共和国大使館海外労働事務所(POLO)に申請をし、審査を受ける必要があります。その上で特定技能所属機関としてフィリピン海外雇用庁(POEA)に登録されることによって採用活動が可能になります。
さらにフィリピンから特定技能外国人を受入れる際には、現地の海外労働事務所が公開している認定送出機関一覧の中の機関を経由しなければなりません。
インドネシア
インドネシアの場合、渡航予定のインドネシア人側の手続きに特徴があります。
渡航予定のインドネシア人はビザを申請する前にインドネシア政府が管理する海外労働者管理システム(SISKOTKLN)に登録し、IDを取得しておかなければなりません。
また、受入れ企業はインドネシア政府が管理する労働市場情報システム(IPLOL)に登録することをインドネシア政府は強く希望しています。IPLOLを通じて日本の企業とインドネシアの求職者側の諸条件のすり合わせが行われ、双方の意向が一致した時に雇用契約が締結されます。
タイ
タイでは現地での直接採用活動ができないため、直接雇用をするかタイ労働省認定の送出し機関を経由して採用活動を行わなければなりません。
直接雇用をする場合は、先に雇用契約を結びその上で在留資格証明書を在日タイ王国大使館労働担当官事務所に提出します。
認定を受けた送出し機関を利用する場合は、先に在日タイ王国大使館労働担当官事務所に雇用契約書の雛形認定手続申請をしなければなりません。雇用契約書が認証を受けたあと、送出し機関を利用することができます。
カンボジア
カンボジアから特定技能外国人を受入れる場合には、日本企業側が在留資格申請をする際に採用するカンボジア人から「登録証明書」を提出してもらわなければなりません。
この「登録証明書」は日本企業に採用されるカンボジア人がカンボジア認定送出機関に依頼し、さらに認定送出機関がカンボジア労働職業訓練省(MoLVT)に申請することで交付されます。
ミャンマー
ミャンマーの場合は、実際に渡航する前に採用されるミャンマー人本人がミャンマー労働・入国管理・人口省(MOLIP)に「海外労働身分証明カード」の申請をし、取得している必要があります。
ネパール
ネパールでは在日大使館を利用して求人を出すことも可能です。もちろん現地の送出し機関を利用することもできます。
日本在住のネパール人を特定技能外国人として採用する場合は、地方出入国在留管理官署に在留資格変更許可申請をする必要があります。
さらにネパール人労働者が日本を出国し、帰国する場合、ネパール労働雇用・社会保障省海外雇用局日本担当部門から海外労働許可証を取得しなければなりません。
モンゴル
モンゴルから特定技能外国人を採用する場合、受入れ企業はモンゴル労働・社会保障省労働福祉サービス庁(GOLWS)との間で人材募集に関する双務契約を締結しなければなりません。
特定技能外国人を雇用する上で二国間協定についての注意点
日本で労働力として外国人を雇い入れる上での約束事である二国間協定は、相手国によってとるべき手続きが異なるなどさまざまな注意点があります。
相手国との協定内容によってとるべき手続きが異なる
二国間協定は日本と労働者を送り出す相手国との間に結ばれるものであるため、全ての国と同じ内容のものが結ばれているわけではありません。
そのため雇用する外国人の出身国との間に結ばれた協定内容に従って手続きをする必要があります。
例えば「これまではベトナムから特定技能外国人を採用していたけれど、これからはネパールからも採用しよう」といった場合はネパールの二国間協定に従って採用活動を進めなければなりません。
二国間協定を締結していない国からの人材も雇用できる
日本は2023年3月現在で15ヵ国と二国間協定を締結していますが、これ以外の国からも人材を受入れることはできます。
ただし、二国間協定を締結していない国から人材を雇用しようとする場合、領事館や日本大使館にその旨を確認しなければなりません。
さらに二国間協定が締結されていない国では特定技能外国人として日本で働くための技能試験を実施することができないため、一定水準以上の専門性・技術を持っていることを証明することが難しくなります。
このように雇用しようとすることにはさまざまなハードルがあるため、実際に二国間協定を締結していない国から人材を採用する場合は相応のコストがかかるということを理解しなければなりません。
技能実習生には二国間取決めが適用される
制度の主旨が異なる技能実習生には、二国間取決めが適用されます。同じ国とのものであっても、特定技能外国人についての二国間協定とは内容が異なるため注意が必要です。
特定技能外国人関連の手続きをスムーズに進める方法
外国人材の雇用にはさまざまな手続きが必要になります。しかし全ての手続きを管理するのは業務が非常に煩雑になってしまいます。
労働力を確保し、業績をあげるためにはこうした管理を効率よく行わなければなりません。
以下では特定技能外国人関連の手続きをスムーズに進めるためのサービスや方法を紹介します。
外国人人材管理ツール『dekisugi』
『dekisugi』は特定技能外国人を雇用する上での必要な手続き・管理をスムーズに行えるオンラインツールです。在留カードや書類申請などの期限管理がしやすくなるだけでなく、書類から必要なデータを集めて常に最新の状態で管理することもできます。
外国人人材を雇用する上での業務の進捗を社内の関係部署間で共有ができるのも『dekisugi』の魅力の一つです。お互いに手続き期限などのチェックができるようになるだけでなく、担当者が異動になった場合も業務の引き継ぎもスムーズに行えます。
行政書士等のサービスを利用する
特定技能外国人に関する手続きを得意とする行政書士もいます。こうした行政書士のサービスを利用することで、各種申請や雇用契約の締結時のサポートが受けられます。
中には採用計画段階からのアドバイスができる行政書士もいるため、特定技能外国人の採用に慣れていない企業にはおすすめです。
まとめ
二国間協定は送出し国・受入れ国の双方が利益を享受できることを目的として締結されます。協定のある国からの人材の雇用は手続きがスムーズに行えるだけでなく、自社と人材の間に悪質なブローカーが存在しないなどのメリットもあります。
協定が結ばれた国から人材を雇用する場合は相手国との協定内容を把握するようにしましょう。協定内容を知った上で手続きを進めることで、効率的な人材確保が実現します。