技能実習制度に対する国際的な指摘について

技能実習制度に対する国際的な指摘について

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本来、技能実習制度は外国人に日本の技術を移転することで国際貢献を目指した制度ですが、技能実習生の失踪や過酷な労働条件によるトラブルが頻発したこともあり、国際的に厳しい批判を受けてきました。海外からの指摘を受け、日本政府は法整備などの様々な対策を進めてきましたが、未だ不十分な点が残されています。この記事では、これまでの国際的な指摘の概略を解説し、技能実習制度に対する海外の認識の一部を紹介します。

技能実習制度とは?

技能実習制度とは?

技能実習制度の詳細についてはこちらの記事で解説しています。

技能実習制度の目的

技能実習制度は、国際貢献を目的として開発途上国などの外国人を受け入れ、一定期間OJT(On-the Job Training:働きながらの職業訓練)を通じて日本の先進的な技能を海外に移転するための制度です。

技能実習制度の実態

しかし、そのような目的にも関わらず、技能実習制度は国際的な批判を度々受けてきました。その背景には、一部の技能実習生が低い賃金と厳しい労働条件で労働を強いられていた問題や、技能実習生が来日前に負った借入金の状況などがあります。

技能実習制度の問題を克服し、本来の目的を達成するためには、政府だけでなく外国人を受け入れる企業や関係者が海外から向けられた厳しい意見を正しく理解することが重要です。

日本政府の取り組み

日本政府も技能実習制度に関する国際的な批判、指摘に対して問題意識をもって対応しています。平成5年の技能実習制度創設以来、様々な改革が行われており、現在でも制度の検証や見直しに向けた取り組みが進められています。
この記事では、そのような取り組みの一環として開催されている「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」で使用された資料をベースに、技能実習制度に関する国際的な指摘をまとめました。

女子差別撤廃条約第7回及び第8回合同定期報告審査(2016年)

女子差別撤廃条約とは

女子差別撤廃条約(女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約)とは、男女の完全な平等を達成することを目指して、女子に対する差別を撤廃していくための条約です。外務省によると、2020年10月時点で189の国が締約していて、日本も1985年に締結しています。
この条約は締約国に対し政治、経済、社会のあらゆる活動における女子差別の撤廃のために適切な行動をとることを求めています。適切な取り組みがなされていることを確認するため、締約国はその状況を報告し、審査を受けることになります。

技能実習制度に関する見解

2016年に行われた第7回及び第8回合同定期報告審査では、人身売買や売春による搾取に関する質問の中で、技能実習生が強制労働や性的搾取の目的で利用されないようにするための措置について問われました。
最終的な審査報告書では、日本政府の取り組みを歓迎する一方で、技能実習制度によって日本に来た外国人女性や女児が強制労働や性的搾取を受け続けていることに対する懸念が示されました。

技能実習制度に関する指摘

この審査報告書では、技能実習制度が人身取引や性的搾取に利用されることを防止するための取り組みを強化していくよう勧告がありました。具体的には、技能実習生を受け入れた企業などへの労働査察の強化と、技能実習制度の見直しへの取り組みが挙げられています。

人種差別撤廃条約第10回・第11回定期報告審査(2018年)

人種差別撤廃条約とは

人種差別撤廃条約(あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約)は、人権及び基本的自由の平等を確保するため、あらゆる形の人種差別を失くしていくための条約です。
外務省によると、1969年の発効から2020年10月までに182の国が締約していて、日本も1995年に加入しています。

技能実習制度に関する見解

2018年に行われた第10回・第11回定期報告審査では、その前年に施行された「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」(略称は外国人技能実習法)について、肯定的な評価が示されました。

2017年の外国人技能実習法施行について

この外国人技能実習法には、技能実習生を受け入れる企業や監理団体に対しての監督体制を整備することが盛り込まれています。労働基準法のような既存の法律に加えて、この法律で技能実習生の人権を無視した働き方を禁止する規定が定められています。

技能実習制度に関する指摘

外国人技能実習法が整備されたこと自体は肯定的に評価されましたが、同時に以下の2点に懸念も示されています。

政府の監督強化

法律の整備による実効的な取り組みとして、政府の監視、監督能力の強化が必要とされています。法律の目的を達成するためには、実際に人権侵害にあたる事例の取り締まりを行う監督者の育成が必要です。警察、検察などの捜査機関や労働基準監督官がその能力を発揮して、技能実習制度を悪用した人権侵害を監視していくことが求められます。

外国人技能実習法の効果の把握

法律の施行から1年というタイミングだったため、今後、この法律の効果を正確に把握することが求められました。具体的には、法律に定められた規制が適切に機能するのか、その結果人権侵害につながる事例を防ぐことができたのか、といった点が挙げられます。

自由権規約第7回政府報告審査(2022年)

自由権規約とは

自由権規約とは、国際人権規約という条約の枠組みに含まれる「市民的及び政治的権利に関する国際規約」と呼ばれる条約を指します。外務省によると2020年10月時点で173の国が締約していて、日本は1979年に批准しています。
自由権規約で保護される権利の内容には、人としての平等や、奴隷制や強制労働の禁止、適切な手続きを経ない外国人追放の禁止などが含まれるため、技能実習制度も審査の対象に含まれることになりました。

技能実習制度に関する見解

自由権規約第7回政府報告審査は2022年の11月までに行われました。

労働搾取防止の取り組みに一定の評価

技能実習を行う企業や監理団体に対する実地調査の取り組みに対して、肯定的な評価が与えられています。外国人技能実習法によって外国人技能実習機構が新設され、実地検査の規定も整備されました。
この記事でもすでに解説したように、監視、監督力の強化が課題であるという指摘がなされていました。実地検査はその課題解決への取り組みの一つであり、政府の対応が一定の成果を上げていると言えます。

強制労働の存在に対する懸念

一方で、技能実習制度を悪用した強制労働に当たる事例が引き続き生じていることに対して懸念が示されています。

技能実習制度に関する指摘

具体的な勧告として、以下の4点が示されています。

技能実習制度を含む強制労働の被害者認知の強化

現状では、日本社会に存在する強制労働を認知する機能が不足しており、今後、その機能の強化が求められています。
強制労働という人権侵害行為に対する意識を高め、被害者本人やその周囲が適切な機関にSOSを出しやすい状況を整備することが対策として考えられます。

法執行機関関係者に対する研修強化

被害者や周囲からの通報だけでなく、捜査機関などの職員に対して強制労働の認知に向けた能力向上が求められています。
この報告書では、警察、検察だけでなく労働基準監督官も含めた法執行機関関係者に対して、強制労働を防ぐための専門的な研修の実施を求めています。

苦情申し立て制度の設置

人身売買や強制労働を取り扱う独立した苦情申し立て制度の設置です。先の2つの勧告とも関連しますが、これまで日本には強制労働防止を専門とする機関が存在せず、対応が分散する傾向があります。

強制労働などに関する捜査、訴追、刑罰の強化

この審査に対する日本政府の回答によると、2018年に人身取引で検挙され、2019年3月までに有罪が確定したのは29人となっています。この29人のうち懲役刑に処せられた者の量刑は、最長で7年、最短で10か月でした。
このような状況を受けて、人身取引に対する積極的な捜査、検挙を求めるとともに、量刑の見直しが勧告されました。

アメリカ国務省人身取引報告書(2022年)

アメリカ国務省人身取引報告書(2022年)

ここまでは、日本が締約した条約の目的に沿って審査を受けたものを紹介してきました。次に紹介するのは、アメリカ国務省(日本の外務省にあたる)が公表した報告書の内容です。
2022年版報告書の日本語訳(仮翻訳)は、在日米国大使館のWebページで閲覧できます。

アメリカ国務省人身取引報告書とは

アメリカ政府は、人身取引を「現代の奴隷制度」と捉えています。アメリカ国内での人身取引の取り締まりに取り組むだけでなく、他国の取り組みについての調査、評価を行っています。
報告書の元になるのは、アメリカ政府から送られる質問票の回答と、世界各国で活動するNGOなどから提供される情報です。人身取引に対する取り組みは訴追、保護、予防の3つの視点で評価されます。

各国の取り組みに対するランク付け

アメリカ政府の評価によって、各国の取り組みは4つのランクに分類されます。
日本は2018年と2019年に最上位のランクと評価されていましたが、現在はイタリアや韓国と同じ上から2番目のランクに位置しています。
2022年版で最上位にランク付けされているのは、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツなどのいわゆる「先進国」を中心とした30の国と地域です。

技能実習制度に関する指摘

この報告書では、技能実習制度についての記述が大きなボリュームを占めており、多数の懸念点が指摘されています。技能実習制度が日本の人身取引問題に強く関与しているというアメリカ国務省の認識がよく示されています。

労働搾取被害の認知や保護が不十分

従来から、日本では強制労働などの労働搾取被害が認められにくい状況にあることが指摘され続けてきました。この報告書では、政府が初めて4人の技能実習生を人身取引被害者として認知したことに触れながら、より積極的な政府の関与の必要性を指摘しています。

技能実習制度の目的から外れた実態

日本の技術を外国人労働者に移転するという制度本来の目的とは異なり、一部の例で、技能の教授や育成が十分実施されない仕事に従事していることが問題視されています。この報告書では、技能実習生が事実上の臨時労働者として機能していると指摘されています。

送り出し国の機関への過大な送金

日本に来る外国人労働者に対して、保証金や不明瞭な手数料の支払いが強制されているケースがあります。日本と外国人労働者の送り出し国政府との間では、このような金銭の流れを抑制する合意がなされていますが、実態としては依然として過剰な送金が続いていると指摘されています。

人権侵害にあたる事件が起きている

外国人労働者のパスポートを取り上げる、移動や通信の自由を制限するといった人権侵害にあたる事例が報告されています。その他にも、低い賃金や劣悪な生活環境、脅迫的な言動も労働搾取にあたる可能性があります。

違約金による強制労働

技能実習生として日本に来る外国人に対して、数十万円の違約金を含めた契約を科す送り出し機関の存在が問題視されています。技能実習を辞めた場合は技能実習の在留資格も失うことになり、その不安定な立場から、さらなる労働搾取の被害者となる悪循環も指摘されています。

出入国在留管理庁などの不適切な対応

報告書では、日本国内に在留する外国人の管理を担当する出入国在留管理庁などの対応が不適切、不十分とされています。技能実習生の中には、劣悪な労働環境に耐えかねて、技能実習の仕事から逃げる(失踪する)外国人が存在します。日本では、そのような外国人に対して逮捕や強制送還の措置をとることがありますが、この対応が人身取引の被害者に対するものとしては不当と指摘されています。
また、技能実習を途中で辞めた外国人に対する面接審査を出入国在留管理庁が1万2000件以上行ったにもかかわらず、その中に人身取引被害者として認知された例が無いことを問題視しています。

労働搾取の加害者に対する刑罰が軽い

労働搾取のような人身取引に対して、日本の法律が定める刑罰が軽すぎると指摘されています。実際の事例を見ると、人身取引犯として検挙、訴追されても執行猶予がついたり、罰金刑のみを科されることも多くあります。このような刑罰では、人身取引を抑制する効果が不十分であり、犯罪の凶悪性と比べて十分な対応とは言えません。

技能実習制度に関する勧告

ここまで紹介したような懸念点を踏まえて、報告書では次のような勧告が行われました。

労働搾取や人身取引被害者の認知強化

まずは、強制労働などの労働搾取の被害者を認知する取り組みの強化です。実態と比較して、日本政府が認知している被害者の数が少なすぎるため、見逃されている被害者の存在が問題視されています。

労働搾取被害者に対する行政機関の支援体制

日本では、労働環境を監督する労働基準監督官、外国人の管理を担当する出入国在留管理庁、暴行や脅迫といった行為を取り締まる警察や検察などの機関に労働搾取取り締まり機能が分散してしまっています。この状況では、外国人の被害者から見て、適切なサポートが受けにくくなります。タテ割り行政の弊害とも言えるこの状況を改善し各省庁の職員が連携して労働搾取問題に取り込むことが求められています。

技能実習法の監督執行措置の強化

技能実習法の施行により、技能実習生を受け入れる企業や監理団体への監督機能が強化されましたが、この報告書ではさらなる取り組みが求められています。
具体的には、外国人技能実習機構や出入国在留管理庁の職員に対する研修の実施を始め、技能実習計画の認定前の契約審査、NGOとの連携強化といった監督力強化策が勧告されています。

過大な保証金、手数料などへの対策

外国人労働者が技能実習生として日本に来るために過剰な保証金や手数料を支払うことがあり、日本での事実上の強制労働の原因になっています。
送り出し国との間で締結された協力覚書では過剰な金銭的負担を防ぐことになっていますが、送り出し国側に責任を科すことができておらず、実効的な成果がでていません。強制労働の被害が生じにくい環境づくりのためにも、関連する政策を改め、技能実習生の過剰な金銭的負担を防止することが重要です。

転職の自由の確保

一部の例外を除いて、原則として技能実習生は転職ができません。技能実習生と受け入れ企業の関係が硬直化するため、労働環境や賃金に問題があった場合の改善が困難になりがちです。
技能実習を中断すると在留資格も失うことになるため、元技能実習生は母国へ帰らなくてはなりません。この仕組みが不法滞在を誘発し、さらに強制労働に陥りやすい状況を生み出しています。

身分証の管理に関する法整備

外国人労働者のパスポートや在留カードを企業が「管理」する名目で取り上げ、事実上の強制労働を強いているという事例が度々報告されています。
技能実習生のパスポートや在留カードを取り上げる行為には、2017年の外国人技能実習法で6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金という罰則が定められました。強制労働という犯罪の重大さや、技能実習生以外の外国人労働者は技能実習法の対象とならない事情も鑑みて、この報告書ではさらなる法整備と取り締まりの強化を求めています。

人身取引に由来する違法行為に対する対応

強制労働の一環として、雇用者(人身取引犯)から違法行為を強制される外国人への対応です。強制労働の被害者として認知されにくい状況もあり、強要されて行った違法行為を理由に被害者が逮捕、拘束、強制送還処分を受けることが問題視されています。
違法行為の背景を適切に審査し、外国人被害者に対して不当な処分を科さないような体制の整備が求められています。

労働搾取に対する捜査、刑罰の強化

従来からの指摘と同様に、日本の法律では労働搾取に関する刑罰が十分ではないという点が取り上げられています。現状の不十分な罰則では、技能実習制度を悪用した労働搾取への抑止力となっていません。
より重い罰則を科すことができる法改正と捜査機関の能力強化の両面で対応が求められています。

技能実習制度に対する国際的な指摘の総括

この記事で紹介した4つの国際的な指摘を大まかにまとめると次のようになります。
・技能実習制度には職業訓練による技術移転という本来の目的から乖離した実態がある。
・技能実習制度が悪用されて強制労働や性的搾取のような人身取引の温床となっている。
・日本政府はある程度の対策を行っているものの、いまだ不十分である。
・受け入れ企業や監理団体、送り出し機関への監督強化が必要不可欠である。
・日本として、人身取引に立ち向かう法制度の整備が求められる。
このように、技能実習制度に対する国際的な指摘は技能実習制度そのものを否定しているわけではありません。制度が悪用されることを防げていないことが問題視されている、という認識がより正確と言えます。

技能実習制度に求められること

技能実習制度には評価すべき要素も含まれていますが、国際的な非難を受ける状況が続けば制度の維持は困難になります。特に、多くの国が共有する価値観を示した条約の枠組みで保護すべき人権を損なうような実態は放置できません。
技能実習制度は国際貢献としての役割に加えて、日本の国内の労働力不足を補う働きを担っていることも否定できません。この制度の良い点を活かし、日本国内のみならず諸外国の発展に貢献していくためには、技能実習制度に関わる全ての人が制度や規制を遵守し、悪用を許さない状況を作り上げていくことが重要です。

まとめ

まとめ

技能実習制度を悪用した人身取引事例によって、技能実習制度は国際的に厳しい指摘を受けてきました。日本政府も様々な対策を講じてきたものの、十分な成果にはつながっていません。技能実習制度の信頼回復のためには、政府による制度改革はもちろんですが、技能実習に関わる事業者や関係者が適切な行動を続けていくことも重要です。

この記事を書いたライター
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外国人材に関わる方向けに情報を発信する総合メディア「カナエル」の中の人です。 外国人採用をはじめ、特定技能・技能実習に関する有益な情報を発信します。