現在ミャンマー人は日本の介護職を中心としたサービス業界で非常に注目を集めています。仏教の教えに基づいた思いやりの精神が介護などの現場で生かされるのではと期待する人がミャンマー・日本両方にいるためです。
日本人に対する好感度も高く、温和で真面目に働く傾向がミャンマー人にはあり、今後もミャンマー人を技能実習生や特定技能外国人として雇用したいと考える日本企業は増加するでしょう。
この記事ではミャンマー人を雇用する際のポイントや魅力を、文化や国民性、歴史などから解説します。
目次
ミャンマー連邦共和国の基本情報
技能実習生や特定技能として雇用する上でのポイントの前に、まずはミャンマーの歴史や文化、経済についての概要を解説します。
ミャンマーの歴史
11世紀、現在のミャンマー地域でビルマ民族によるパガン王朝が成立します。その後もミャンマー地域ではいくつか王朝が誕生しますが、19世紀になると列強の一つであるイギリスとの戦争が始まり、1885年にはイギリスの植民地となります。
第二次世界大戦では大東亜共栄圏をうたう日本軍と共にイギリスからの独立を目指しますが、日本の敗戦後は再びイギリス領に逆戻りしてしまいました。
1947年、ビルマ独立義勇軍の将軍であったアウン・サンの暗殺をきっかけにビルマ連邦としてイギリスからの独立を果たします。
しかしその後も内戦状態が続き今に至ります。
ミャンマーの文化
ミャンマーでは国民の9割が仏教を信仰しており、国全体に仏教の教えが深く根付いています。日常生活の中でも仏教の教えを守る人が多く、日本で働く場合もミャンマー人は朝晩にお祈りをする人は少なくありません。
犯罪が少なく、ミャンマー国内の街を歩いていると治安のよさを感じると語る外国人もたくさんいます。
またミャンマー人には姓がなく、名前しかありません。例えばアウン・サン・スー・チー氏ですが、「スーチー」と呼ぶのは本来失礼に当たります。全体で一つの名前なので、親しい間柄でなければ略して呼び合うことはありません。
ミャンマー人の挨拶
挨拶を交わす習慣がないため、「出勤時も無言のまま」というのが一般的なミャンマーの挨拶文化です。
日本のように出勤時に「おはようございます」などと挨拶を交わすことはありません。
挨拶から会話がスタートするのではなく、「昨日何食べた?」「お元気ですか?」といった問いかけから会話をスタートさせます。さらに目下の人から声をかけるのがマナーとされているのもミャンマーの挨拶文化の特徴といえるでしょう。
ミャンマーの経済
ミャンマーの2023年の経済成長率は不安定な国内社会情勢が継続することが予想されるため、コロナ禍前の6〜7%には及ばず、前年比2.8%と予測されています。
ミャンマー全体の平均月収は約1〜2万円です。これはアジアでは最も低い賃金であり、日本をはじめとする外国に出稼ぎに出る若者は今後も数多くいることが予想されます。
貧困率は過去5年で倍増し、現在は国民の約半数が貧困状態となっています。民間では食糧不足などの問題も生じており、国連の推計によると国民の3人に1人が人道的な支援を必要としているとされています。
国民の就業機会の減少がこうした貧困状態の主な原因とされています。
国内での格差も広がっており、ミャンマー国内の最大都市ヤンゴンでは賃金が高騰しているのに対し、地方では平均賃金が依然として低い状態が続いています。
ミャンマーと日本の関係
第二次世界大戦時、日本はミャンマー(旧・ビルマ)のイギリスからの独立を支援してきたという歴史があります。
しかし第二次世界大戦が終結し、イギリスからの独立を果たした後も国内では内戦が続きました。
1988年には軍事政権が発足しますが、国民民主連盟(NLD)の書記長、アウン・サン・スー・チー氏が自宅に軟禁されるなど、依然として政権が不安定な状態が続いています。
世界各国がミャンマーの軍事政権の非人道的な動きを批判し、制裁を決める中で日本は対話によって暴力の即時停止や被拘束者の解放、民主的な政治体制の早期回復を働きかけるだけで具体的な制裁には二の足を踏んでいます。
日本は1988年にミャンマーで発足した軍事政権をいち早く承認した国です。ミャンマーの将校の中には日本の防衛大学での留学経験がある人も多く、こうした理由から日本は具体的な制裁に踏み切れずにいます。
一方でヤンゴン郊外のティラワ港経済特別区の道路、上下水道、電力網、光ファイバーケーブルといったインフラ整備に日本企業が携わったという関係性もあります。こうしたインフラが整備されたことによってミャンマー経済は今後成長することが予想されます。
ミャンマー人の国民性の特徴
以下ではミャンマー人の国民性の特徴を紹介します。
世界一慈悲深い
国民の9割が敬虔な仏教徒であるミャンマーは、イギリスの慈善団体・チャリティーエイド基金が発表している「世界寄付指数」で世界第1位に輝いたことがあります。
「世界寄付指数」は過去一ヶ月以内に「金銭を寄付したか」「ボランティア活動をしたか」「見ず知らずの人を助けたか」の3項目を元に算出される数値です。
このことからミャンマー人は「世界一慈悲深い国」と世界的に評価されています。
日々の生活の中でも「より良い来世のために現世を良く生きる」という意識の下で生活している人が多く、他人を助けることに対する抵抗があまりありません。
ミャンマー人の仏教信仰を土台にした優しさは一緒に働く上でも発揮されるでしょう。
目上の人を敬う
敬虔な仏教徒であるため、ミャンマー人は礼儀を重んじる傾向があります。目上の人を敬う姿勢も国全体を通して徹底されており、家庭内でも両親や上の兄弟に対して敬語を使うのが一般的です。
先生や上司といった目上の人にも素直に従うため、技能実習生や特定技能として雇用したミャンマー人に対して「真面目」と感じることもあるかもしれません。
家族思い
核家族化が進んでいる日本とは異なり、ミャンマー人は親族で一緒に暮らすような大家族が一般的な家族構成です。
「家族のために頑張る」といった言葉の「家族」には両親や兄弟だけでなく、祖父母といった親族も含まれています。
不安定な社会情勢が長く続き、年々格差が広がり貧困層が厚みを増しているミャンマーでは、より多くのお金を稼ぐために外国に出稼ぎに出る人も少なくありません。
日本で働くミャンマー人も、日本に来た動機を尋ねると、
「自国で働くよりも日本で働いた方が家族・親族のためになる」
と回答する人が目立ちます。
素直で温和
素直で温和なのもミャンマー人の国民性の特徴です。
この性質は仏教の教えが深く根付いていることから生まれるものであると同時に、日本での収入という実質的な目的からくるものでもあります。
「稼ごう」という意識が非常に強いため、指示されたことはしっかりとこなす上に向上心もあるのがミャンマー人の国民性です。
さらにミャンマー人にとって仕事をし、家族を養うことは現世での功徳を積み、来世での幸せを願う行為です。
技能実習生・特定技能外国人として雇用したミャンマー人からはこうした宗教面と経済面での背景からくる性質を感じられると、雇用主の間では評判になっています。
今技能実習・特定技能としてミャンマーが注目されている理由
ミャンマーからの技能実習生は過去10年で約10倍にまで増加しました。
これまで日本国内の技能実習生と言えばベトナムと中国が主でしたが、ミャンマーほどの増加率を見せた国はありませんでした。
現地の送り出し機関の間でも日本からの問い合わせが増えていると話題になっており、特に介護関係の企業からの問い合わせが増えているとのことです。
これはミャンマー人の気質が日本人と相性がいいこと、そして仏教徒ならではの思いやりの気持ちが介護現場で生かせることからだと考えられています。
ミャンマーは平均年齢が27.7歳と非常に若く、労働力となる若い人材が多くいる国です。にもかかわらず長引く不安定な政権情勢のために国内では低賃金で働くしかなく、格差も広がり、貧困から抜け出すのが困難であるという実情も抱えています。
こうした背景から多くのミャンマー人はよりたくさん稼げる外国で働きたいと望んでいます。
介護人材が不足している日本と、外国で働くことでしっかり稼ぎたいというミャンマー人は互いのニーズを補いあえることから、現在ミャンマーは技能実習生・特定技能外国人として注目を集めています。
技能実習・特定技能としてのミャンマー人の魅力4つ
以下では技能実習・特定技能としてのミャンマー人の魅力を4つ紹介します。
1.日本人との相性がいい
仏教を信仰していることから、ミャンマー人は日本人との相性が比較的いい傾向があります。仏教の教えに基づいた他人を思いやる気持ちや、素直さ、礼儀を重んじる態度など、日本人と共通する部分も多いです。
ただし、ミャンマーで信仰されている仏教は上座部仏教と呼ばれるものであるため、日本で一般的な大乗仏教とは少し雰囲気が異なるということを忘れないようにしましょう。
信仰を守るために日本に来ても毎日お祈りをするミャンマー人も多く、雇用する際にはこうした宗教上の習慣について理解する必要があります。
2.モチベーションが高い
不安定な社会情勢が長く続いているため、ミャンマーの若者の多くが自国の平和と発展を強く願っています。
また、ミャンマーは現在アジアで最も平均賃金が低い国であり、国内の平均月収は1〜2万円です。
こうしたことからミャンマー国内で働くよりも日本で働いた方が圧倒的に稼ぎになるということが、ミャンマー人が日本に来る主な動機となっています。
社会情勢や経済的な背景からミャンマー人は仕事に対するモチベーションが非常に高いです。技術を習得することに熱心であるだけでなく、簡単に諦めたり辞めたりすることもありません。
3.日本語の上達が早い
ミャンマー人も他の国からの技能実習・特定技能と同様日本で働くために現地で日本語を学ぶものの、来日した段階ではあまり日本語が上手ではない人が多いです。
しかし、日本に来てからの上達のスピードは非常に早いと言われています。
歴史的な関係も深く、アジアの先進国である日本に対しミャンマー人は憧れを抱いている傾向があり、日本語も熱心に学ぼうとします。さらにミャンマー国内では日本車が人気であるため、日本に親近感を抱いている人もいます。
4.相手に対する思いやりを非常に大切にしている
ミャンマー人の仏教の教えに基づいた思いやりは、異国の人と交流する際にも発揮されます。
日本人だけでなく全ての人に対して思いやりの気持ちを大切にできるので、他の国からの技能実習生とも仲良くできる人が多いでしょう。
さらにこうした思いやりの気持ちは介護職やサービス業などでも発揮されます。介護の現場ではミャンマー人の職員の評価は非常に高く、施設利用者であるお年寄りから人気者として扱われることも珍しくありません。
技能実習・特定技能ミャンマー人を雇用する際のポイント3つ
実際に技能実習・特定技能としてミャンマー人を日本で雇用する際には意識しなければならないポイントがあります。
以下ではそのポイントを3つ紹介します。
1.技術を教える仕組みづくりが必要
ミャンマー国内では「技術を互いに教え合う」という発想があまり根付いていません。
仕事の現場でも技術を先輩が後輩に積極的に教えるということはあまりなく、雇用する日本人としては技術がミャンマー人の間で伝わりにくいと感じる場面もあるかもしれません。
こうした特徴からミャンマー人を雇用する場合は技術を伝える仕組みづくりが重要になってきます。マニュアルを作成する、研修を充実させるといった工夫をするようにしましょう。
2.信頼関係の構築が重要になってくる
上下関係を守り、礼儀を重んじるミャンマー人は、仕事の中で不満があってもはっきりと言うことはあまりありません。
指示に対して素直に従っているようでも、実は不満を溜め込んでいるという可能性も高いです。
一人で不満を抱え込ませないためにも、信頼関係の構築が重要になってきます。また、素直に言う通りに働いてくれるからといって無理難題を押し付けないよう配慮する姿勢も心がけましょう。
3.ミャンマー人の名前の呼び方
姓がなく、敬称も自分の名前の一部として扱うのがミャンマー人の名前文化です。ミャンマー人は自己紹介をする際にも自分の名前に敬称をつけるのが普通であり、そうした点が日本人とは大きく異なります。
略称で呼ぶのは親しい間柄の人だけで、家族間でもフルネームで呼び合うのが一般的です。
ミャンマー人を名前で呼ぶ際には略称で呼ぶのではなく、きちんとフルネームで呼ぶようにしましょう。
まとめ
敬虔な仏教徒が国民のほとんどを占めるミャンマー人は、現在日本の介護現場を中心に注目を集めています。国内の社会情勢や経済的な背景から、日本で働きたいというミャンマー人も多いです。
そのため今後日本でも特に介護やサービス業といった業種でミャンマー人の技能実習生・特定技能外国人が増えていくことが予想されます。