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特定技能「産業機械製造業」とは
2019年4月に人手不足解消のため特定技能が新設されました。
当初従事を認めている業種は14に分類されていました。ですが2022年5月に、製造3分野と呼ばれる素形材産業、産業機械製造業、電気・電子情報関連産業分野が「素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業分野」の1つに統合されました。同年8月には、この製造業分野の業務区分を19から、現場の実態に沿った内容に改めるため3区分に統合されました。
本記事では「製造3分野」のなかの「産業機械製造業」で従事できる業務やその取得方法について解説します。
概要
産業機械とは、工場や建設現場などで利用される機械全般を指し、例えば運搬機械や建設機械、ボイラや原動機、また業務用洗濯機などがそうです。そのほか鉱山機械、環境装置、プラスチック機械など日本の産業を行ううえで欠かせない機械が該当します。
「産業機械製造業」とは、日本の製造業を支える縁の下の力持ちである重要な仕事です。
非常に重要な仕事ではありますが、製造業全体の課題である「残業の多さ」から若者の担い手が減少しています。
また人口は都市部に集中していますが、土地の安い地方に工場を設けている企業が大半です。そのため都市部への人口流出も、人材確保が困難になっている原因の1つです。
交付を一時停止中
現在、特定技能「産業機械製造業」分野では在留資格認定証明書の交付が、一時停止されています。この産業機械製造業分野の特定技能取得者の人数が、受入れ予定人数の5250人を超えるためです。
ですが特定技能1号への在留資格の変更や在留期間の更新については、条件を満たしていれば可能です。詳細は出入国在留管理局のこちらのページにありますので併せてご参照ください。
「産業機械製造業界」の現状
残業機械製造業界の現状について、簡単に説明します。
人手不足
日本は少子高齢化のため、人手不足が年々深刻化しています。
現在多くの業界が人手不足に苦しんでおり、企業の実に65%以上が人手不足に悩まされているとわかっています。
中でも製造業、特に産業機械製造業の人手不足は深刻です。
製造業特有の残業の多さから若者の担い手が不足しており、人口は都市部に集中していますが製造業の工場は地方に集まっています。
また一方でロボットなどの産業機械の需要は年々高まっています。
そのため産業機械製造業に関連する職業の有効求人倍率は、3倍近い数値をつけており、中でも金属プレス工、プラスチック製品製造工の人材が特に不足しています。
技能実習「産業機械製造業」
製造業の業界では、人材の面で外国人労働者に助けられており、数多くの外国人労働者が事業所での生産活動に従事しています。
ですが母国よりも単価が高い日本での長期間の労働を望む技能実習生が多いなか、技能実習期間は3年間と決められていました。そのため帰国せず不法就労者となってしまうケースが数多く見られ、長年問題視されていました。
ですが特定技能が導入され、労働期間が+5年間となりました。不法就労者を大幅に減らすことも導入理由の1つです。
受け入れ企業の注意点
注意点が2点あります。
まず受け入れ予定人数を超過しているため一時的に受け入れを停止している点です。
また特定技能人材は、技能実習生と違い転職が可能なため、職場環境によっては5年間フルで同じ業務に従事してもらえるとは限らない点にも注意が必要です。
特定技能「産業機械製造業」で従事できる業務※
令和4年8月30日の閣議決定で、従事できる業務区分は「機械金属加工」「電気電子機器組立て」「金属表面処理」の3区分になりました。詳しくは経済産業省の「製造業における特定技能外国人材の受入れについて」をご参照ください。
詳細な内訳は以下の通りです。
①機械金属加工
- 鋳造
- ダイカスト
- 金属プレス加工
- 工場板金
- 鍛造
- 鉄工
- 機械加工
- 仕上げ
- プラスチック成形
- 溶接
- 塗装
- 電気機器組立て
- 機械検査
- 機械保全
- 工業包装
②電気電子機器組立て
- 機械加工
- 仕上げ
- プラスチック成形
- 電気機器組立て
- 電子機器組立て
- プリント配線板製造
- 機械検査
- 機械保全
- 工業包装
③金属表面処理
- めっき
- アルミニウム陽極酸化処理
上記のなかの「ダイカスト」は、高熱で液体化させた金属を金型に流し込み、鋳物を短時間に大量生産する手法です。また「仕上げ」については、工具や工作機械を使って部品を加工してブラッシュアップすることを指します。
「機械検査」は測定機器などを利用して機械部品の検査を行うことで「機械保全」は工場などの設備機械のトラブルなどを未然に防ぐための業務になります。
雇用形態・報酬
フルタイムの直接雇用のみ許可されています。
農業などの一部業種では派遣雇用が認められていますが(農閑期があるため)、産業機械製造業業界では直接雇用以外認められていません。
また報酬は日本人と同等以上を支払う必要があります。
能力で差をつけることは問題ありません。ですが「外国人である」ことを理由に低賃金にすることは許されません。
雇用期間
在留期間は通算5年です。
「通算」ですので2年働き、1年間帰国するなら、日本に再入国後3年働くことができます。
受け入れ人数
技能実習の場合と違って、特定技能では介護と建築以外では、会社ごとの受け入れ人数は決まっていません。
雇用するためにかかる費用
特定技能外国人の雇用のためには、雇用前・雇用後でそれぞれ費用がかかります。
雇用前にかかる費用
送り出し機関への手数料:20~40万円
海外から呼び寄せる場合にはこれくらいかかり、呼び寄せる国によって金額が前後します。
人材紹介会社への手数料:30〜90万円
年収の10〜30%がかかります。上記金額は年収300万円の場合の金額です。
在留資格申請の委託費:10~20万円
雇用後にかかる費用
登録支援機関への支援委託費:年間24~36万円
一人当たり月2~3万円の計算です。
在留資格更新申請に関する委託費:5万円〜15万円
特定技能1号「産業機械製造業」の取得方法
特定技能「産業機械製造業」の取得方法は、特定技能評価試験と日本語試験に合格する、もしくは技能実習生2号から移行する方法の2つです。
「特定技能評価試験」に合格する
産業機械製造業の分野で、即戦力となる力があることを証明するため、経済産業省の定める「製造分野特定技能1号評価試験」に合格しなければなりません。
試験は以下の19の区分で行われます。
- 鋳造
- 鍛造
- ダイカスト
- 機械加工
- 金属プレス加工
- 鉄工
- 工場板金
- めっき
- アルミニウム陽極酸化処理
- 仕上げ
- 機械検査
- 機械保全
- 電子機器組立て
- 電気機器組立て
- プリント配線板製造
- プラスチック成形
- 塗装
- 溶接
- 工業包装
「産業機械製造業」分野特定技能評価試験
公益社団法人国際人材革新機構が運営しており、現地で行われる試験は現地の言葉で出題されます。学科試験と実技試験が課され、コンピューター・ベースド・テスティング(CBT)方式、もしくはペーパーテスト方式で行われます。
また今後は、実技試験で制作などを行うことが予定されています。
学科試験は65%以上の点数で合格となり、実技試験は60%以上取得で合格です。
問題サンプル
ダイカストのサンプル問題は以下の通りです。経済産業省のサイトより引用します。
引用開始
次章のうち、正しいものはAを、誤っているものはBをマークしなさい。
問題1 品物を運ぶときは、作業を早く行うために重くても無理をしないで運ぶ。
問題2 水準器は取り付け面の水平や垂直を調節するときに使われる。
問題3 ダイカストマシンのタイバーの間隔とは、固定型と可動型の間をいう。
問題4 ダイカストマシンでは、動作順序や動作条件などを制御する方法の一つとしてシーケンス制御は使用されない。
引用終わり
以上のような真偽式の問題や、A~Dまでのどれかといったような選択式の問題が課されます。
その他実施される試験の問題サンプルは、経済産業省のWebサイトに掲載されていますので併せてご確認ください。
日本語試験
日本語能力を測る試験には以下の2種類があります。
- 国際交流基金日本語基礎テスト
- 日本語能力試験
難易度はほぼ同じでどちらかに合格する必要があります。
国際交流基金日本語基礎テストでは、日本語での日常会話の力を測定します。
日本語能力試験には、レベルは5段階あります。最も易しいN5は日本語の基礎、N1では高いレベルの日本語力が問われます。この日本語能力試験を選んだ場合には、N4に合格することが必要です。N4では、日本語で日常会話がある程度できること、簡単な日本語の文章であれば読むことができるかをチェックされます。
技能実習2号を良好に修了
2つ目の方法は、技能実習2号からの移行です。
技能実習とは日本の技術を海外の人材に教える研修制度です。
どの技能実習生も特定技能に移行できるわけではなく、技能実習生のなかで技能に習熟しているもの、つまり技能実習生2号である場合には無試験で特定技能に移行可能です。
より詳細に説明すると、技能実習を2年10ヵ月以上で修了し、技能検定3級に合格している場合には移行できます。もしくは、技能検定3級相当の技能実習評価試験の実技試験に合格している場合も「良好に修了」扱いになり移行可能です。
また技能実習生に関する評価調書の書面がある場合にも「良好に修了」扱いになります。
特定技能外国人を受け入れるには
特定技能外国人を受け入れるためにはいくつかの条件を満たす必要があります。
受け入れ体制を整える
まず、受け入れ態勢を整える必要があります。
具体的には、日本での生活に困らないように、入国前の事前ガイダンスをはじめ、出入国送迎、住居の確保、生活オリエンテーション、日本語学習、日本人との交流促進、相談苦情対応などの支援です。
これらの義務的支援は、過去2年間、外国人材の受け入れ実績がない場合には登録支援機関に委託する必要があります。
受け入れ側企業が対象産業に該当している
産業機械製造業分野で特定技能外国人を受け入れるためには、受け入れ側企業が対象産業である必要があります。経済産業省の「製造業における特定技能外国人材の受入れについて」において、以下の19種類のいずれかに該当していなければならないことが示されています。
- 鋳型製造業(中子を含む)
- 鉄素形材製造業
- 非鉄金属素形材製造業
- 機械刃物製造業
- 作業工具製造業
- バルブ・コックを除く配管工事用附属品製造業
- 金属素形材製品製造業
- 溶融めっき業(表面処理鋼材製造業を除く)
- 電気めっき業(表面処理鋼材製造業を除く)
- .金属熱処理業
- その他の金属表面処理業(アルミニウム陽極酸化処理業に限る)
- ボルト・ナット・リベット・小ねじ・木ねじ等製造業
- はん用機械器具製造業(消火器具・消火装置製造業を除く)
- 生産用機械器具製造業
- 業務用機械器具製造業(医療用機械器具・医療用品製造業及び武器製造業を除く)
- 電子部品・デバイス・電子回路製造業
- 電気機械器具製造業(内燃機関電装品製造業を除く)
- 情報通信機械器具製造業
- 工業用模型製造業
上記の産業に該当しているか否かは、直近1年間の「製造品出荷額等」が発生しているかどうかで判断されます。この「製造品出荷額等」とは、直近1年間の製造品出荷額、加工賃収入額、くず廃物の出荷額、そしてその他の収入の合計金額のことです。
特定技能協議会への加入
「製造業特定技能外国人材受入れ協議・連絡会」に加入しなければなりません。
これは経済産業省がまとめ役を務め、経済産業省のほか法務省、地方自治体、そして「製造業3分野」の素形材産業・産業機械製造業・電気・電子情報関連産業で構成されています。
特定技能人材を円滑に送り出し、かつ不正などから守るために存在しています。
この協議・連絡会には特定技能人材受け入れ前に加入しなければならないので、注意が必要です。
まとめ
最後に今回の内容を簡単にまとめます。
特定技能「産業機械製造業」とは
特定技能「産業機械製造業」とは、産業機械製造業界が人口の都市部への流出などが原因で深刻な人手不足に陥っているため、人材不足解決のために新設された制度です。
特定技能「産業機械製造業」で従事できる業務
特定技能「産業機械製造業」では①機械金属加工、②電気電子機器組立て、③金属表面処理の3区分の仕事に従事することができます。
特定技能外国人を受け入れるには
受け入れには①受け入れ体制を整える、②受け入れ側企業が対象産業に該当している、③特定技能協議会への加入することの以上3つの条件を満たさねばなりません。
以上になります。