脱退一時金とは、今まで支払ってきた年金保険料を、払い戻すことができる制度です。
この脱退一時金は、外国人が退職して、帰国をした際に申請するものです。
手続きやフローについては複雑な部分がありますので、この記事では、脱退一時金について詳細に解説していきます。
目次
「脱退一時金」は外国人のための制度
脱退一時金は、前述の通り、支払った年金保険料の一部を払い戻すことができる制度です。
なぜそのような制度があるかといえば、外国人労働者であったとしても、規定以上の時間、労働をする場合には、社会保険の加入が強制されるからです。
ですが年金をもらうためには、年金保険料は10年以上支払わなければなりません。
もし10年未満で帰国をする場合には、支払った年金がその外国人労働者には完全に無駄な出費となってしまいます。
そのような事態にならないように、年金保険料の一部を払い戻すという制度があります。
つまりこの脱退一時金とは、途中で帰国する外国人のための制度です。
社会保険へスムーズに加入してもらえる
この脱退一時金は、外国人のための制度です。
ですが企業側にもメリットがあります。
外国人労働者の中には、社会保険への加入を拒否する方がいらっしゃいます。
例えば母国の家族への仕送りで、数年後帰国を考えているのであれば、加入のメリットを感じなくて当然です。
ですが日本のルールでは、加入は必須です。
こういった場合に脱退一時金について丁寧に説明をすると、スムーズに加入してくれる場合がほとんどです。なぜなら加入を拒否している理由は、「払った社会保険料が無駄になることを心配している」ためが大半なためです。
それでも外国人労働者が不安を感じているようであれば、支給額の目安などを計算して提示すると良いでしょう。
脱退一時金を支給するための条件
脱退一時金には支給条件があります。
まず脱退一時金は外国人のための制度ですので、「日本国籍ではない」ことが支給の1つ目の条件になります。また「日本に住所がない」ことも必須条件です。
続いて、年金の加入期間が6ヶ月以上10年未満であること、そして障害年金を受ける権利を持ってない、過去に持ったことがないことが条件になります。
最後に、社会保険の資格を喪失して2年未満であることも条件になります。
まとめると、以下になります。
- 日本国籍ではない
- 日本に住所がない
- 年金の加入期間が6か月以上10年未満
- 障害年金を受ける権利を持っていなくて、過去に持ったことがない
- 社会保険の資格を喪失してから2年未満
支給対象外となるケース
脱退一時金には、支給対象外となるケースがあります。
- 年金の被保険者となっている
- 日本国内に住所がある
- 障害基礎年金などの年金を受けたことがある
- 最後に社会保険の資格を喪失してから2年以上経っている
脱退一時金は帰国した場合に受けられる払い戻し措置ですので、日本に住所がある場合には当然受けられません。帰国してからの申請となります。
また年金の被保険者になっているときも受けられません。
手続きフロー
手続きは出国後
脱退一時金の支給条件に「日本に住所がないこと」という項目が入っています。
なぜなら10年以上払わないと支給されない年金を、10年未満の支払いで帰国してしまった場合の救済措置だからです。
そのため帰国が決定してもすぐ手続きすることはできません。
必要書類
必要書類は以下の2点です。
- 脱退一時金請求書
- 添付書類
どちらも外国人労働者が、自身で請求しなければなりません。 上記の書類について、順番に説明します。
脱退一時金請求書
まず「脱退一時金請求」を用意します。
これは日本年金機構のホームページよりダウンロードできます。
また「ねんきんダイヤル」に電話して郵送を依頼することもできます。
年金事務所、自治体の国際化協会でも入手可能です。
脱退一時金請求書は、14ヶ国語に対応しており、具体的な対応言語は以下です。
- 英語
- 中国語
- 韓国語
- ポルトガル語
- スペイン語
- インドネシア語
- フィリピノ(タガログ)語
- タイ語
- ベトナム語
- ミャンマー語
- カンボジア語
- ロシア語
- ネパール語
- モンゴル語
この脱退一時金請求書には、脱退一時金の支給を受ける際に注意事項などが記載されているため、必ず一読しましょう。
添付書類
続いて、添付書類について見ていきます。
主に以下の4〜5点が必要になります。
パスポートの写し
脱退一時金の申請者が、本人であることを証明しなければなりません。
そのためパスポートの氏名、生年月日、国籍、署名、在留資格が確認できるページのコピーが必要となります。
住民票の除票の写し
日本国内に住所がないことを確認できる書類が必要です。
住民票の除票の写しでもよいですし、パスポートの出国日が確認できるページの写しでも問題ありません。
ただし例外として、帰国前に市区町村に転出届を提出している場合は、添付せずで問題ありません。
金融機関が発行した証明書
金融機関が発行した証明書が必要です。
証明書でなくても、請求者本人の口座名義であることと受取先金融機関名、支店名、支店の所在地、口座番号が確認できる書類であれば問題ありません。
こちらに関しては1点注意点があります。
実は脱退一時金は、ゆうちょ銀行と、インターネット銀行の一部では受け取ることができません。上記以外の金融機関の口座とその証明書の用意が必要となります。
基礎年金番号通知書
年金の加入期間を確認するために、基礎年金通知書や年金手帳など、基礎年金番号がわかる書類の添付も必要です。
委任状(代理人が請求手続きを行う場合)
企業が代理人となって、代わりに請求手続きを行う場合には委任状が必要です。
もし外国人労働者に代わって企業が行う場合には、あらかじめ脱退一時金請求書と、添付書類を用意してもらうと手続きがスムーズです。
手続きの注意点
請求手続きの注意点
請求手続きには、注意点があります。
こちらは日本年金機構のホームページに記載がありますので、一部を引用して紹介します。
①脱退一時金を受けとると、脱退一時金を請求する以前のすべての期間が年金加入期間ではなくなってしまいます。したがって、脱退一時金を請求するかどうかは、将来、日本の老齢年金を受け取る可能性などを考えた上で慎重に検討してください。
②日本年金機構等が請求書を受理した日に、住所がまだ日本にある場合には、脱退一時金は請求できません。このため、住んでいる市区町村に転出届を提出した後で、脱退一時金を請求してください。
③出国前に日本国内から請求書を提出する場合は、請求書を住民票の転出(予定)日以降に日本年金機構等に提出してください。
④脱退一時金の支給額は、日本での年金制度への加入期間に応じて、支払った保険料の一定の月数を上限として計算されます。
⑤国民年金と厚生年金保険の両制度の期間の合算は行いません。脱退一時金の支給額はそれぞれの保険期間に基づいて計算されます。
上記5つの点に注意が必要です。
社会保障協定について
社会保障協定とは、簡単に言えば年金の加入期間を合算できる制度です。
具体的に話すと、日本にいる間に日本で納めた保険料を母国で納めていたのと同じ扱いにできる制度です。
社会保障協定を結んでいる国の方の場合は、年金の受け取り方については
①加入期間を通算して将来年金としてもらう
②脱退一時金として受け取る
以上の2点から選ぶことができます。
社会保障協定を結んでいる国は以下になります。
- ドイツ
- イギリス
- 韓国
- アメリカ
- ベルギー
- フランス
- カナダ
- オーストリア
- オランダ
- チェコ
- スペイン
- アイルランド
- ブラジル
- スイス
- ハンガリー
- インド
- ルクセンブルク
- フィリピン
- スロバキア
- 中国
- フィンランド
- スウェーデン
上記の国に該当する場合には、年金として受け取るのか、脱退一時金として受け取るのか、ヒアリングをした方が良いです。
脱退一時金はいつ支給される?
脱退一時金の支給目安は、請求書の受付の大体4ヶ月後です。
請求書の受付後の流れについて、簡単に説明します。
書類に不備などがなく、無事に受付されると送金されます。
またこの送金と同時に、「脱退一時金支給決定通知書」が送付されます。
ちなみに脱退一時金は日本円では支払われません。
支給対象の国ごとにドルやユーロなど、外国の通貨で日本の銀行を通しての支払いとなり、支給が決定した月の平均為替レートを元に金額が決まります。
脱退一時金の計算方法
脱退一時金の大体の計算方法について説明します。
注意点として、脱退一時金の正確な金額は、年収が確定してからでないと計算できません。
そのためあくまで「大体の値」であることをご理解ください。
脱退一時金の概算の計算方法は、年収×9%です。
例えば年収300万円で、社会保険加入期間が3年であれば以下の計算式となります。
年収300万円×3年×9%=支給概算額810,000円
目安として伝えるとよいでしょう。
脱退一時金の注意点
脱退一時金に関して、トラブルになりやすい点を説明します。
外国人労働者が手続きを行う
まず脱退一時金の支給手続きは、外国人労働者自身が行わなければなりません。
ただし委任状があれば代理人が行うことができます。
企業が全部代行できるわけではない旨を、事前にしっかり伝えておかないと、手続きを忘れて支給されないというトラブルに発展する場合があります。
リスク回避のため、外国人自身が行うことは事前にしっかり伝えておきましょう。
加入履歴はリセット
加入履歴が完全にリセットされることを、しっかり伝える必要があります。
帰国後に再来日する可能性があること、また前述の社会保障協定があるためです。
再来日して、再度日本で働いて年金を支払うのであれば、脱退一時金を受け取らない方がメリットがある場合があります。受け取った場合、加入履歴がリセットされ将来年金を受け取ることができなくなります。
また中国など、社会保障協定を結んでいる国の場合も注意が必要です。
受け取らなければ年金の加入期間を通算できます。
ですが受け取ると、年金の加入期間がリセットされて支払っていなかったことになり、将来受け取る年金の金額に影響してしまいます。
まとめ
最後に脱退一時金について簡単にまとめます。
「脱退一時金」は外国人のための制度
脱退一時金とは、今まで支払ってきた年金保険料を払い戻すことができる制度です。
外国人労働者であったとしても規定以上の時間、労働をする場合には社会保険の加入が強制されます。
ですが年金をもらうためには、年金保険料を10年以上支払わなければなりません。
10年未満で帰国をする場合には、支払った年金がその外国人労働者には完全に無駄な出費となってしまいます。
そのような事態にならないように、一部を払い戻すという脱退一時金制度があります。
社会保険へスムーズに加入してもらえる
企業は脱退一時金について外国人に丁寧に説明するべきです。
説明をすることにより、社会保険にスムーズに加入してもらえます。
加入を拒否している理由は、「払った社会保険料が無駄になることを心配している」ためがほとんどなためです。支給額の目安などを計算して提示するとさらに良いでしょう。
脱退一時金を支給するための条件
以下になります。
- 日本国籍ではない
- 日本に住所がない
- 年金の加入期間が6か月以上10年未満
- 障害年金を受ける権利を持っていなくて、過去に持ったことがない
- 社会保険の資格を喪失してから2年未満
支給対象外となるケース
以下のケースでは、支給対象外となります。
- 年金の被保険者となっている
- 日本国内に住所がある
- 障害基礎年金などの年金を受けたことがある
- 最後に社会保険の資格を喪失してから2年以上経っている
手続きフロー
手続きは出国後となり、必要書類として「脱退一時金請求書」「添付書類」が必要です。
添付書類は以下のものになります。
- パスポートの写し
- 住民票の除票の写し
- 金融機関が発行した証明書
- 基礎年金番号通知書
- 委任状(代理人が請求手続きを行う場合)
手続きの注意点
中国など、年金の加入期間を合算できる社会保障協定を結んでいる国が母国の場合には、特に注意が必要です。
脱退一時金はいつ支給される?
脱退一時金の支給目安は、請求書の受付の大体4ヶ月後です。
脱退一時金の計算方法
目安は年収×9%です。
例えば年収300万円で社会保険加入期間が3年であれば、以下の計算式となります。
年収300万円×3年×9%=支給概算額810,000円
外国人労働者が手続きを行う
まず脱退一時金の支給手続きは、外国人労働者自身が、行わなければなりません。
ただし委任状があれば、代理人が行うことができます。
加入履歴はリセット
加入履歴が完全にリセットされることを伝える必要があります。
帰国後に再来日する可能性があること、また社会保障協定があるためです。