2019年4月、日本の造船・舶用工業分野に新たな時代がきました。
出入国管理法(入管法)の改正により、ビザ制限が緩和され、外国人特定技能人材の採用が可能となったのです。これは、深刻化する労働力不足への対策として期待されるだけでなく、日本の造船・舶用工業の更なる発展を支える重要な施策として注目されています。
造船・舶用工業は、日本の経済発展を支える基幹産業の一つです。
ですが高度な技術力と豊富な経験を持つ人材によって支えられてきたこの業界は、近年、国内の人口減少と高齢化の影響を受け、深刻な人手不足に直面しています。
この記事では人手不足の状況と、解決策の1つである特定技能制度について説明していきます。
目次
特定技能とは?
従来の技能実習制度では技能習得に重点が置かれ、即戦力となる人材確保には課題がありました。そのため特定技能制度が、2019年4月に創設されました。
特定技能制度では、一定の技能水準を満たした外国人材を、即戦力として積極的に受け入れる制度です。
取得には技能試験と日本語能力試験をパスする必要があります。
造船・舶用工業とは?
特定技能制度の前に、同業界について、簡単に説明します。
造船・舶用工業は、船舶の建造、修理、改造、および船舶に搭載する機器の製造を行う産業ですが、特定技能においては、同業界は、造船と、舶用工業の2つに分けられています。
造船
造船は、船舶を建造する産業です。
船舶には、タンカー、貨物船、自動車運搬船、クルーズ船、漁船など、さまざまな種類があります。造船では、鋼板の加工、溶接、組み立て、塗装などの作業を行います。
舶用工業
舶用工業は、船舶に搭載する機器を製造する産業です。
船舶に搭載する機器には、エンジン、プロペラ、舵、操舵装置、電気設備、通信設備など、さまざまな種類があります。舶用工業では機械加工、鋳造、鍛造、組み立て、検査などの作業を行います。
人手不足の現状と課題
造船・舶用工業は、日本の経済発展を支える基幹産業の一つですが、国内の人口減少と高齢化の影響を受け、深刻な人手不足に直面しています。
人手不足の現状について、詳しく見ていきます。
地方圏における人手不足の現状
地方圏では都市部に比べて急速に少子高齢化が進み、生産年齢人口が減少しています。また教育や就職の機会を求めて、若者が都市部へ流出する傾向もあります。
中でも造船・舶用工業が活発であった瀬戸内海や九州などの若い人口が急速に減って、人手不足が深刻化しています。
有効求人倍率で見る人手不足の現状
近年の有効求人倍率を見ると、溶接、塗装、鉄工、仕上げ、機械加工、電気機器組立てなど、主要な職種において軒並み高い数値を示しています。特に塗装工、仕上げは4倍以上と、非常に人手不足が深刻化している状況です。
このままだと、将来は企業の生産活動に大きな支障をきたすだけでなく、日本の産業競争力にも影響を与える恐れがあります。
こうした状況を打開するために、2019年4月に特定技能制度が導入されました。
特定技能「造船・舶用工業」で働ける人
特定技能「造船・舶用工業」で働ける外国人材について解説します。
まず初めに、特定技能制度と技能実習制度の違いについて、簡単に説明します。
ともに外国人材の受け入れを目的とした制度ですが、それぞれ異なる目的と特徴を持っています。
1. 技能実習制度と特定技能制度の違い
技能実習制度: 開発途上国などの若年者を対象に、日本の技術や技能を移転し、人材育成を図ることを目的としています。
特定技能制度: 一定の技能水準を満たした外国人材を積極的に受け入れ、日本の特定産業分野における人手不足を解消することを目的としています。
特定技能制度では、技能実習制度と違い即戦力を求めています。
そのため技能試験と日本語試験に合格した即戦力となる人材が対象となります。
2. 特定技能制度の受入れ条件
即戦力を求める制度のため、以下のような条件があります。
- 18歳以上
- 日本語能力試験(JLPT)、もしくは国際交流基金日本語基礎テスト(JFT)を受験し、基準点を獲得すること
- 造船・舶用工業分野の特定技能試験にパスすること
- 留学生として退学・除籍処分を受けたことがある場合や、難民、またイラン・イスラム共和国の方の場合には取得不可
学歴などは一切不問です。
特定技能「造船・舶用工業」の仕事
造船・舶用工業における特定技能は、1号と2号の2つの技能レベルに分けられています。1号は、基本的な技能を有する即戦力人材であり、2号は高度な技能を有する人材です。
従事できる業務は以下の通りです。
1. 溶接
文字通り金属を熱で溶かして接合する仕事で、手溶接と半自動溶接の2種類があります。
手溶接:手作業で溶接を行う伝統的な方法
半自動溶接:機械を使って溶接を行う方法
2. 塗装
金属やプラスチックなどの表面に塗料を塗る仕事で、金属塗装作業と噴霧塗装作業の2種類があります。
金属塗装作業:金属の表面を保護するために塗装を行う
噴霧塗装作業:スプレーを使って塗装を行う
3. 鉄工
鉄骨や鋼板などの材料を使って、建物の骨組みや船体などを製作する
構造物鉄工作業:建物の骨組みなどを製作する
4. 仕上げ
機械部品や工具などを精密に仕上げる仕事です。
以下の3種類があります。
治工具仕上げ作業:工具を精密に仕上げる
金型仕上げ作業:金型を精密に仕上げる
機械組立仕上げ作業:機械部品を精密に仕上げる
5. 機械加工
金属などの材料を機械を使って加工する仕事です。
普通旋盤作業、数値制御旋盤作業、フライス盤作業、マシニングセンタ作業の4種類があります。
普通旋盤作業:旋盤という機械を使って、金属を円筒形に加工する
数値制御旋盤作業:コンピュータを使って旋盤を操作し、金属を精密に加工する
フライス盤作業:フライス盤という機械を使って、金属を様々な形に加工する
マシニングセンタ作業:マシニングセンタという機械を使って、金属を複雑な形に加工する
6. 電気機器組立て
電気機器の部品を組み立てる仕事です。
回転電機組立て作業、変圧器組立て作業、配電盤・制御盤組立て作業、開閉制御器具組立て作業、回転電機巻線製作作業の5種類があります。
回転電機組立て作業:モーターなどの回転電機を組み立てる
変圧器組立て作業:変圧器を組み立てる
配電盤・制御盤組立て作業:配電盤や制御盤を組み立てる
開閉制御器具組立て作業:スイッチなどの開閉制御器具を組み立てる
回転電機巻線製作作業:モーターなどの回転電機の内部に使うコイルを製作する
受け入れ予定人数
造船・舶用工業では、積極的に特定技能外国人を受け入れています。実際、造船・舶用工業の制度開始から5年間での受け入れ目標は1万3,000人でした。
ですが令和5年6月末までに6,377人となっています。
令和4年度末には4,602、また令和4年6月末には2,776だったため、加速度的に受け入れ人数が増えてはいます。
造船・舶用工業の分野では、フィリピン人の受け入れ人数が最も多く、令和5年6月末の時点では、6,377人のうち3,526人、55%をフィリピン人が占め、続いてベトナム人が1,069人、インドネシア人が879人です。
受け入れ目標人数にはまだ届かないため、外国人が働きやすい環境を整えたり、生活のサポートをより充実させたりなど、様々な課題を解決していく必要があります。
特定技能で造船・舶用工業で働くには
造船・舶用工業で働くには、技能実習2号を良好に修了しているか、もしくは、技能試験と日本語能力試験の双方に合格していることが必要です。
ここでは後者、技能試験と日本語能力試験について説明します。
1. 技能試験
「造船・舶用工業分野特定技能1号試験」にパスすることが必須です。
造船・舶用工業は6つの業務区分に分けられていますので、試験はこの6つの業務区分、溶接、塗装、鉄工、仕上げ、機械加工、電気機器組み立てに分かれています。問題はそれぞれの分野で異なります。
本試験にパスすることで最低限の知識があると認められます。
造船・舶用工業分野の特定技能試験は、受験者が希望する場所に、試験監督者を派遣して、随時試験を実施する形式になっています。ですので受験者は、試験の実施場所の確保と、機械設備・試験用機材の準備などを行う必要があります。
以前試験が行われた場所であれば問題ないですが、試験が初めて行われる施設を希望する場合には、その希望を申請する前に、事前に連絡をする必要があります。
ですが準備するのは簡単ではないことから、試験会場と日時が指定された形式もあります。その場合には日本海事協会(ClassNKのホームページにて、情報が掲載されます。
2. 日本語能力試験
技能試験だけではなく、日本語能力試験にもパスする必要があります。
日本語能力試験については、「国際交流基金日本語基礎テスト」「日本語能力試験(N4以上)」のどちらかで基準点に達すれば問題ありません。
国際交流基金日本語基礎テストは合格基準200点以上で、日本語能力試験の場合には、90点が必要です。
受入れ先企業の要件
特定技能外国人を雇用する場合、遵守すべきルールが主に3つあります。
- 外国人と雇用契約を結んでいる
- 外国人を支援する体制を整えている
- 外国人の支援計画を作成する
上記3つは最低限守らなければならないものです。
そして造船・舶用工業ならではのルールとして、「造船・舶用工業分野特定技能協議会」の構成員になる必要があります。造船・舶用工業分野特定技能協議会とは、造船・舶用工業分野の特定技能制度を、円滑かつスムーズに運用するための協議会です。
こちらの構成員になることが必須です。
雇用形態と報酬
特定技能外国人の雇用には、以下のルールがあります。
1. 雇用形態
派遣形態ではなく直接雇用のみ認められています。
農業分野など季節によって繁忙期がある業種では認められていますが、造船・舶用工業業界では派遣は認められていません。
2. 報酬
最低賃金は遵守しなければならず、また日本人と同等の報酬を支払う必要があります。
外国人だからといって、報酬を少なくすることは外国人差別に当たります。
具体的な報酬額は職種、技能水準、経験年数などを考慮して決定されます。
まとめ
最後に内容を簡単にまとめます。
特定技能とは?
特定技能制度では、一定の技能水準を満たした外国人材を、即戦力として積極的に受け入れる制度です。取得には技能試験と日本語能力試験をパスする必要があります。
造船・舶用工業とは?
造船・舶用工業は、船舶の建造、修理、改造、および船舶に搭載する機器の製造を行う産業です。特定技能においては、同業界は、造船と、舶用工業の2つの区分に分けられています。
人手不足の現状と課題
地方圏では都市部に比べて急速に少子高齢化が進み、また教育や就職の機会を求めて若者が都市部へ流出しています。そのために造船・舶用工業が活発であった瀬戸内海や九州などの若い人口が急速に減って、同分野の人手不足が深刻化しています。
実際、近年の有効求人倍率を見ると、溶接、塗装、鉄工、仕上げ、機械加工、電気機器組立てなど、主要な職種において軒並み高い数値であり、特に塗装工、仕上げは4倍以上と非常に人手不足が深刻化しています。
特定技能「造船・舶用工業」で働ける人
技能実習制度と特定技能制度の違い
特定技能制度の目的は、一定の技能水準を満たした外国人材を積極的に受け入れ、日本の特定産業分野における人手不足を解消することです。
そのため技能試験と日本語試験に合格した即戦力となる人材が対象となります。
特定技能制度の受入れ条件
日本語試験と特定技能試験にパスしなければなりません。
日本語試験においては、日本語能力試験(JLPT)か、国際交流基金日本語基礎テスト(JFT)を受験し、基準点を獲得することが必要です。
また造船・舶用工業分野の特定技能試験にパスしなければなりません。
特定技能「造船・舶用工業」の仕事
同分野の仕事は、1. 溶接、2. 塗装、3. 鉄工、4. 仕上げ、5. 機械加工、6. 電気機器組立てに分けられます。
受入れ先企業の要件
特定技能外国人を雇用する場合、遵守すべきルールが主に3つあります。
- 外国人と雇用契約を結んでいる
- 外国人を支援する体制を整えている
- 外国人の支援計画を作成する
また「造船・舶用工業分野特定技能協議会」の構成員になる必要があります。
造船・舶用工業業界の人手不足の解消をお考えであれば、積極的に特定技能外国人を受け入れると良いと言えるでしょう。