宿泊業界では人手不足が深刻化しています。
原因として長時間労働、サービス業の中でも賃金が低めであること、シフト制による不規則な勤務などがあげられます。
またインバウンドの増加で需要が増え、ホテルの開業ラッシュが起ったため競争が激化して人材の奪い合いになっています。
この記事では人手不足の状況や解決策について説明します。
目次
宿泊業界の人手不足ってどうなってるの?
なぜ、宿泊業界では人手不足が深刻化しているのでしょうか。
4つの観点から説明していきます。
離職率が高い
厚生労働省の発表によると、宿泊業界の離職率は25%を超えており、全業界の中でも高いことがわかっています。
入職者は一定数いますが、それと同じくらいの人材が離職しています。
ホテル業界などに対する憧れから入職をして、現実とのギャップや仕事の厳しさから、やめてしまう方が多いようです。
賃金が低い
残念ながら、ホテル業界の平均給与は全業界の平均より低くなっています。
宿泊業界の平均年収は、全体で328万円です。男性は357万円、そして女性は300万円です。業界全体で見てみると平均年収は443万円で、男性の平均給与は545万円、女性は302万円です。
宿泊業界は景気に左右されやすいため、平均に比べて低調になっています。
長時間労働が多いうえ、休みが取りにくい
ホテル・旅館の運営においては年中無休の24時間営業が一般的です。
この24時間営業が従業員に与える負担は軽視できません。
従事する業務によりますが、フロントやマネージャーなど現場の業務の場合には、長時間労働になったり、不規則な勤務になったりします。
また夜勤などが発生する場合があり、その場合には当然不規則な勤務形態となります。また土日祝日に出勤して平日に休みを取るスタイルとなります。
長期休暇の取得が困難な職場も多く存在しています。
新規ホテルの開業
そして人手不足をさらに加速させている事象として、ホテルの建設ラッシュがあげられます。
以前は、東京五輪開催に向けた新規ホテルの建設がありました。
東京五輪の建設ラッシュの後は一旦落ち着くかとも思われましたが、そうはなりませんでした。
円安などの影響もあり、外国人観光客が増加して、外資系ホテルの進出が進み、宿泊業界では人材の奪い合いが起こっています。
ホテルの人手不足の解決方法について
それでは宿泊業界の人手不足を解消するためには、どうしたらよいのでしょうか。
この章では、①労働環境の改善、②外国人労働者の雇用、③DX化の推進の3つの視点から人手不足の解消について説明していきます。
①労働環境の改善
まず労働環境の改善が、人手不足の解決には必要だと考えられています。
人手不足を解決するには、現在の従業員が辞めないように努力をすることがまず重要です。
1. 従業員に長く働いてもらう
従業員に長期間働いてもらうようにするには、まず満足度を高めることが重要です。具体的には以下の点の見直しが有効だと考えられています。
- 能力に応じた賃金の支払い
- キャリアパスの明確化
- 健康管理・メンタルヘルス対策
- 良好な人間関係
また従業員に長く働いてもらう環境を整えることは、宿泊業界のイメージを変えることにもつながります。
若者には宿泊業界は長時間労働であったり、大変そうであったりというネガティブなイメージを持っている人が多いです。
ですが環境が改善されて長く働く従業員が増えれば、宿泊業界を新たに検討する若者は必然的に増えていくと考えられます。
2. 仕事の負担を減らす
また人手不足解消の方法として、仕事の量を減らしていく方法もあります。つまり業務効率化です。
業務のIT化や、自動化・省力化の取り組みをすることで、従業員の負担を軽減することができます。
またそれだけではなく、ヒューマンエラーを減らすことができます。仕事の負担が多いとミスが多くなりがちですし、業務の内容によってはIT化するほうがミスを減らすことができる場合があります。
②外国人労働者の雇用
外国人労働者を雇用することが、現在は宿泊業界では人手不足解消の有力な一手としてみなされています。
特定技能外国人
特定技能制度が人手不足解消の追い風になっています。
この特定技能制度とは、人手不足が深刻な分野において、即戦力となる技能と日本語能力を有する外国人を、在留資格「特定技能」で受け入れる制度です。2019年4月に施行され、宿泊業を含む12業種で導入されています。
ほかの在留資格と違い、大卒以上の学歴が必要などの条件がないため取得が厳しくはないこと、また日本語試験と技能試験が必須なため即戦力として雇用できること、そして単純労働にも従事できることがポイントとしてあげられます。
この特定技能外国人は、宿泊分野の以下の業務に従事することができます。
- 客室清掃
- ベッドメイキング
- フロント業務
- レストランでの接客
- 調理補助
人手不足を解消することができるだけではなく、多様な人材の確保をすることができます。具体的には、異なる文化や価値観を持つ人材を受け入れるため、サービスの質向上や新たな市場開拓につながります。
そしてこれは国籍によりますが、英語や中国語などの語学に堪能なスタッフを雇用することもできるということです。
近年は国外からの観光客が非常に増えています。
ホテルや旅館などでは、英語はわかるが日本語はわからないという観光客が増えています。ただでさえ人手不足に苦しんでいるため、日本人の中から語学堪能な従業員を多く雇用することは困難です。
ですが外国人人材であれば、母国の第2外国語が英語である場合には研修などを行わずとも、語学に堪能であるというスタッフを雇用できます。
雇用の際の注意点
ここまで外国人労働者を雇用する上でのメリットを中心に説明してきました。
ですが異なる文化圏で育った人材であるため、雇用に当たっては当然気を付けなければならないことがあります。
日本語教育や技能支援
まず日本語試験にパスしなければ特定技能制度は取得できません。
ですがこれは最低限の日本語力はあるという状態であり、日本語が堪能なわけでは決してありません。技能についても同じで、最低限の知識はあるとはいえ、新人スタッフとして雇用するために日本語と技能の面では支援が必要です。
適切な支援を行うことができないと、雇用した外国人人材の成長が見込めないため注意が必要です。
生活支援も必要
また技能実習生として、日本で働いていたというケースもありますが、日本での労働が初めてという特定技能外国人が多いです。そのため住居や生活習慣に関するサポートが必須になります。
特に住居に関しては、敷金・礼金などの日本独自のルールや、保証人の問題などもあり、独力で借りることが困難なため、受け入れ先企業が用意することが義務となっています。
また買い物の仕方やごみの出し方、銀行口座などの作り方などもレクチャーする必要があります。
③DX化の推進
そしてDX化の推進も同時に重要になっていきます。
DXとはデジタルトランスフォーメーションのことです。
現状、ほとんどの宿泊施設がDX化を進めてはいますが、まだまだ整備が遅れているところも多いようです。
DX化については、従業員の仕事量の軽減だけではなく、生産性の向上にもつながります。具体的には、客室管理や予約システムがこれにあたります。さらに自動チェックイン機を導入するなどの試みも、だんだんと広まりつつあります。
経済産業省によると、DXが遅れれば、日本は2025年以降に、毎年12兆円もの経済的損失を被るとされています。
ですがこのDXという言葉は聞いたことがあっても、具体的な意味となると、まだまだ曖昧であるという企業も多いようです。DX化を進めるということは、ただデジタル化を進めるということではありません。
DX化をするには当然デジタル化を進めることは不可欠です。
ですが二つは同じものではありません。DX化とは、デジタル化した顧客データなどを活かして、新たなビジネスモデルを生み出すことを言います。
自動車ナンバーの自動照合
具体的には、自動車ナンバーと宿泊履歴の自動照合などを、このDX化の例としてあげることができます。このシステムですが、駐車場の自動車ナンバーを識別して、過去の履歴と照合し、お客様がリピーターであるか否かを判断するサービスとなっています。
そのお客様が過去に、例えば高額な何かしらのオプションを使っていたとすれば、受付時にそのオプションを勧めれば、今回もそのオプションを利用してくれるかもしれません。
このツールでは、リピーターだと判断したら社内SNSなどに自動的に連絡がいくように設定することなどができます。
効率的な清掃業務
また大浴場などに人感センサーを設置して、大浴場の利用者数が一定人数になると通知が行くようなシステムも登場しています。
これをうまく利用すれば、効率的に清掃をすることができるため、お客様は常にきれいな大浴場を利用できて、スタッフ側は時間で区切らないので、ほとんど利用者がいないにもかかわらず清掃をするという手間を省くことができるようになっています。
ほかにも、受付にチャットボットなどを設置する取り組みなども出てきています。
深夜の時間帯等に、よくある質問などをしっかりと把握したうえでチャットボットを設置しておけば、夜間の問い合わせをチャットボットが解決してくれます。
人手不足だけではなくて、業務負担を大幅に減らすことができる試みとなっています。
まとめ
記事の内容を最後に簡単にまとめます。
まず宿泊業界が人手不足である理由から説明します。
離職率が高い
厚生労働省の発表によると、宿泊業界の離職率は25%を超えており、全業界の中でも高いことがわかっています。
賃金が低い
業界全体の平均年収は443万円で、男性では545万円、女性では302万円です。
しかし宿泊業界の平均年収は、全体で328万円で、男性は357万円、女性は300万円です。
長時間労働が多いうえ、休みが取りにくい
ホテル業務は24時間なために、夜勤などが発生する場合があり、その場合には当然不規則な勤務形態となります。また土日祝日に出勤して平日に休みを取るスタイルとなります。
新規ホテルの開業
円安などの影響もあり、外国人観光客が増加して外資系ホテルの進出が進み、宿泊業界では人材の奪い合いが起こっています。
ホテルの人手不足の解決方法について
従業員に長く働いてもらう
以下の点の見直し・改善が有効だと考えられています。
- 能力に応じた 賃金の支払い
- キャリアパスの明確化
- 健康管理・メンタルヘルス対策
- 良好な人間関係
仕事の負担を減らす
以下が有効です。
- 業務のIT化
- 自動化・省力化
従業員の負担を軽減し、ヒューマンエラーを減らすこともできます。
外国人労働者の雇用
特定技能制度とは人手不足が深刻な分野において、即戦力となる技能と日本語能力を有する外国人を、在留資格「特定技能」で受け入れる制度です。2019年4月に施行され、宿泊業を含む12業種で導入されています。
取得条件が厳しくはなく、また日本語試験と技能試験が必須なため即戦力として雇用できます。
DX化の推進
自動車ナンバーの自動照合
駐車場の自動車ナンバーを識別して、過去の履歴と照合して、お客様がリピーターであるか否かを判断するサービスとなっています。
そのお客様が過去に、例えば高額な何かしらのオプションを使っていたとすれば、受付時に、そのオプションを進めれば、今回もそのオプションを利用してくれるかもしれません。
効率的な清掃業務
大浴場などに人感センサーを設置して、大浴場の利用者数が一定人数になると、通知が行くようなシステムも登場しています。
これをうまく利用すれば、効率的に清掃をすることができるため、お客様は常にきれいな大浴場を利用できて、スタッフ側は時間で区切らないので、ほとんど利用者がいないにもかかわらず清掃をするという手間を省くことができるようになっています。
宿泊業界の人手不足解消のため、DX化を推進し業務の効率化を図ることで、従業員一人ひとりにかかる負担を軽減することが大切になります。
また、負担を軽減するために外国人材を活用するなど労働環境を改善していくことで、従業員が長期的に働ける環境を準備することが求められます。