農業業界で特定技能・技能実習生を雇用する場合のポイントや受け入れ企業が満たすべき要件等を解説

農業業界で特定技能・技能実習生を雇用する場合のポイントや受け入れ企業が満たすべき要件等を解説

外国人雇用技能実習

季節や地域によって繁忙期・閑散期の差が激しい農業業界で働く人材には柔軟な配置が可能であることが求められます。
これまでにも農業では技能実習生の活用が進められていましたが、技能実習生は業務範囲や実習時間に対する業務の時間配分が定められているため人材の流動性が低く、不便な面もありました。

一方人手不足解消を目的として設けられた特定技能制度は農業においては転職だけでなく派遣での雇用が認められているなど、人材の流動性が高く活用しやすいというメリットがあります。
この記事では農業業界における特定技能を中心に、雇用する場合のポイントや技能実習との違いなどについて解説します。

農業業界でも特定技能外国人を雇用できる?

農業業界

近年農業業界でも特定技能外国人の活用が進められています。
以下では農業業界での在留資格・特定技能が作られた背景と、具体的な業務範囲及び業務範囲について注意すべきポイントを解説します。

人手不足の課題解決の糸口としての特定技能

屋外での過酷な環境での労働が多く、労働環境が季節や天候に大きく左右されるなどが原因となり、現在日本国内では農業に従事する労働者が著しく減少しています。
農業は多くの人の生活に関わる産業であるため、労働力不足は早急に解決しなければならない課題です。

こうした労働力不足の問題を解決するために農業分野も特定技能制度での対応産業として、特定技能の在留資格を持った外国人を雇用できるようになりました。
母国での関連業務への従事経験などが問われないため、農業における特定技能の在留資格は比較的取得しやすいという特徴があります。

特定技能外国人が従事できる業務の範囲

特定技能の在留資格は外国人の日本での就労目的で設けられたものではありますが、どんな業務にも就労できるわけではありません。在留資格で定められた範囲内での業務にのみ就労が認められています。
例えばインド料理店での料理人としてのビザを取得した外国人を、在留資格の変更手続きなしに建設業で特定技能として雇用することはできないのです。 もし外国人が在留資格で認められていない業務で働いていた場合、働いていた本人だけでなく使用者側も罰せられる恐れがあります。

従って農業分野での特定技能の在留資格を取得した外国人は農業産業の中でも特に定められた業務にのみ従事させなければなりません。
農業分野での特定技能の在留資格で認められている業務範囲は以下の通りです。

耕種農業全般 畜産農業全般
農業タイプ 田畑などに種をまき、育てる 家畜の飼育など
具体例 畑作
野菜や花の栽培
ビニールハウスなど専用施設での栽培
果樹の栽培
養豚・養鶏・養牛など食肉用の家畜の飼育
酪農

その他特定技能の在留資格では、

  1. 運搬業務
  2. 販売作業
  3. 冬季の積雪への対応

など、業務に関連して付随的に発生する労働への従事も求められています。
ただし、あくまでも「付随的」であることが重要であり、特定技能外国人をそうした業務にのみ従事させることは認められていません。

業務範囲について注意すべきポイント

農業分野の特定技能の在留資格で、上記の「耕種農業」と「畜産農業」の両方の業務に同時に従事することは認められていません。
そのため耕種農業で在留資格を取得した外国人は耕種農業にのみ、畜産農業で在留資格を取得した場合は畜産農業にのみ従事することになります。

また、「耕種農業」では栽培管理の業務が、「畜産農業」では飼育管理業務が含まれている必要があります。 これらの業務が含まれておらず、野菜の選別や家畜の飼料運搬など付随的な業務のみを任せることは認められていないため注意が必要です。

農業では特定技能外国人の派遣としての雇用が可能

農業

特定技能は基本的には直接雇用が条件となっていますが、制度の活用が認められている12産業の中でも農業と漁業だけは派遣雇用も認められています。
なぜ農業と漁業のみが例外的に派遣雇用が認められているかというと、他の産業に比べこの2つの産業は繁忙期と閑散期が季節の変化、地域によって生じるという特徴があるためです。
人材の過不足度合いが季節・地域によって大きく変わるため、高い人材の流動性が求められることから派遣での雇用が認められています。
派遣が認められることによって例えばある地域では耕種農業が繁忙期を迎えており、ある地域では耕種農業が閑散期である場合でも、農業分野の中でも耕種農業で在留資格を取得している外国人であれば派遣雇用によって異なる事業主の下で働くことが可能になります。

特定技能外国人を雇用するために受け入れ企業が満たすべき条件

条件

国内の全ての農家で特定技能外国人を雇用できるわけではありません。特定技能として外国人を雇用するためには以下の条件を満たす必要があります。

直接雇用

直接雇用の場合、事業者は以下の条件を満たしている必要があります。

  1. 農林水産省の「農業特定技能協議会」への加入及び協議会への必要な協力を行うこと
  2. 過去5年以内に労働者を6ヵ月以上雇用した経験があること
  3. 「誓約書」の作成と地方出入国管理局への提出

派遣雇用の場合

派遣雇用の場合、事業者は以下の条件を満たしている必要があります。

  1. 過去5年以内に労働者を6ヵ月以上雇用した経験があること。または、派遣先責任者講習などを受けた者を派遣先責任者に選任していること
  2. 派遣事業者を通す場合、派遣事業者との間に労働者派遣契約を結ぶこと
  3. 「誓約書」の作成と地方出入国在留管理局への提出

派遣雇用の場合は過去の労働者の離職状況などについても厳しいチェックが行われます。

協議会への加入

特定技能外国人を雇用する事業者は農林水産省が主体となって運営している「農業特定技能協議会」に加入しなければなりません。
協議会への加入は雇用する特定技能外国人本人についての在留資格の申請などを行う前に手続きを済ませる必要があります。
会費は無料です。 協議会に加入した事業者は協議会に対し、必要な協力を行うことが義務付けられています。また、もし期間内に入会手続きができなかった場合は特定技能外国人の受け入れができなくなってしまうため注意が必要です。 以前は外国人材の受け入れ後4ヵ月以内に加入手続きを行えばよかったのですが、法改正により2023年6月15日以降は事前加入となりました。

農業業界で特定技能外国人を雇用する方法

農業業界

以下では農業で特定技能外国人を雇用する方法として代表的なものを紹介します。

技能実習2号を修了した外国人を雇用する

技能実習2号を修了した外国人の場合、関連する業務であれば在留資格を特定技能1号に移行させることが可能です。
例えば耕種農業で技能実習を受けた外国人の在留資格を、耕種農業での特定技能の在留資格に変更することで雇用ができるということが農業ではできます。

在留資格を技能実習から特定技能に移行させる方法があまり活用されていない産業分野もある中で、農業では比較的一般的に行われています。 コロナ禍では母国に帰ることが難しくなった技能実習生が在留資格を移行させるケースも目立ちました。
在留資格を移行させることによって、これまで働いていた技能実習生にさらに長く働いてもらうことが可能になります。

海外にいる外国人を特定技能として雇用する

人材紹介サービスなどを活用し、海外にいる外国人と雇用契約を結び、特定技能の在留資格を取得させた上で日本で働かせる方法も一般的です。

留学生を雇用する

日本に留学しに来ている留学生を雇用する方法もあります。留学先卒業後に在留資格を特定技能に切り替えて雇用するのです。 すでに日本での生活にある程度慣れている留学生はコミュニケーションが取りやすく、生活に関する支援もしやすいという特徴があります。

農業業界における技能実習生

牛

特定技能の他にも技能実習生制度を活用している農家も少なくなく、現在日本国内の農業で働いている外国人のほとんどが技能実習生として日本に来ている外国人です。 農業産業での特定技能外国人の活用が認められる以前から技能実習制度は農業で活用されてきました。

しかし技能実習生は原則として期間は最長で5年となっています。人手不足解消のために長く働いてもらうことは不可能です。
また、技能実習の在留資格では従事できる業務の範囲が特定技能に比べて限定的である上に、業務内容によって従事できる時間の配分も決まっています。 そのため柔軟性に欠け、季節によって業務内容が大きく変わる農業では活用しにくいという面があります。

技能実習生が従事できる業務の範囲

技能実習生

在留資格「技能実習」では耕種農業であれば「畑作・野菜」「果樹」「施設園芸」に、畜産農業であれば「養豚」「養鶏」「酪農」の業務に従事することが認められています。 それ以外にも農畜産物を使用した製品の製造や加工作業にあたることも可能です。

ただし、技能実習では業務への時間配分が在留資格で定められており、定められた割合を超えてその業務を従事させることは認められていません。
農産物の加工業務などの関連業務は実習時間全体の2分の1以下に、冬季の除雪作業など周辺業務は実習時間全体の3分の1以下におさえる必要があります。 他にも技能実習の場合繁忙期のみ雇用することは認められていません。
季節によって業務内容や忙しさが大きく変わる農業において技能実習制度は少々柔軟性に欠ける、不便な制度と言えます。

特定技能と技能実習の違い

特定技能と技能実習の違い

技能実習制度はすでに農業での活用が進んでいますが、制度の都合から技能実習生は柔軟な活用が難しい人材でもあり、さまざまな課題を抱えています。
一方特定技能は対応できる業務範囲が広く、派遣での雇用も認められているため、閑散期と繁忙期の波が激しい農業では比較的柔軟に活用できる人材です。
以下では特定技能と技能実習の違いについて具体的に解説します。

在留資格による違い

技能実習生は海外現地にいる外国人を受け入れることでしか雇用することができません。従って相応のリスクとコストがかかってしまいます。 一方特定技能は海外にいる外国人を雇用する以外にも採用ルートがいくつか存在します。
留学生などすでに日本に在住している人の在留資格を切り替えて雇用する方法もあれば、別の事業者で技能実習生として働いていた外国人を雇用することも可能です。

業務内容の違い

外国人が日本で仕事をする場合、取得した在留資格で定められた範囲内の業務にしか携わることができません。
農業における技能実習は業務範囲が限られている上に実習時間全体に対する従事する業務の労働時間の割合も決められています。
範囲や時間を超えて業務に従事させることが認められていないため、繁忙期の人手不足や閑散期の人材過剰を招くこともあります。

一方特定技能の場合は技能実習に比べて認められている業務範囲が広く、時間配分に関する制限もありません。さらに農業では派遣での雇用も認められています。
従って農業の場合、特定技能の方が柔軟に活用できると言えます。

制度の主旨による違い

特定技能と技能実習は制度の主旨が異なります。
技能実習制度は日本での労働を通して培った技術や知識を母国の経済・技術発展に役立ててもらうことを目的とした制度です。
他方、特定技能制度は少子高齢化により日本国内で進んでいる人手不足の問題を、海外の労働力によって補うことを目的として作られました。

そのため人手不足解消のために技能実習生を雇用することは認められていません。 人手不足を解消したい場合は特定技能を活用する必要があります。

受け入れ可能人数の違い

技能実習と特定技能では1事業者あたりの受け入れ可能人数が異なります。
技能実習の場合、例えば夫婦二人で経営している農家であれば技能実習1号の実習生を2人までしか受け入れることはできません。
特定技能であれば1事業者あたりの受け入れ人数に上限がないため、必要な人材を確保しやすいです。

まとめ

繁忙期と閑散期の季節・地域差が激しい産業分野である農業と漁業は特定技能で活用が進められている12産業の中でも例外的に派遣での雇用が認められているなど、特殊な業界です。
技能実習と異なり特定技能であれば柔軟な人材配置が可能になります。
今後も業界内で活用が進んでいくのではないかと考えられるため、人手不足を解消したいと考える農業事業者は特定技能外国人の活用もおすすめします。

この記事を書いたライター
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カナエル運営事務局

外国人材に関わる方向けに情報を発信する総合メディア「カナエル」の中の人です。 外国人採用をはじめ、特定技能・技能実習に関する有益な情報を発信します。