特定技能1号を雇用する受入機関には、出入国在留管理庁やハローワーク等への定期的な届出が義務付けられています。
出入国在留管理庁に定期的に届出なければならないものの一つに「特定技能所属機関による支援実施状況に係る届出」というものが含まれます。
これは特定技能1号の雇用の実態や支援計画の実施状況などを報告するためのものであり、「相談記録書」は一連の届出の中の一つに数えられるものです。
受け入れ機関には雇用する特定技能から相談・苦情を受けた場合適切に対応する義務が課せられています。相談記録書はその義務に基づき作成・提出しなければなりません。
この記事では受入機関に義務付けられている定期届出の中でも、特に相談記録書について解説します。
目次
「特定技能所属機関による支援実施状況に係る届出」とは
特定技能の受入機関が提出する相談記録書は、定期的に届け出なければならない「特定技能所属機関による支援実施状況に係る届出」の中の一つです。
そのためまずは「特定技能所属機関による支援実施状況に係る届出」について解説します。
特定技能1号の受入機関に課せられた義務
特に特定技能1号を雇用する場合、受入機関にはさまざまな義務が発生します。その義務の中の一つが出入国在留管理庁やハローワークに対する定期的な届出です。
受入機関は特定技能の雇用の実態や支援計画の実施について定期的に届け出なければなりません。
「特定技能所属機関による支援実施状況に係る届出」で受入機関は、相談記録書だけでなく定期面談報告書や生活オリエンテーション、非自発的離職時の転職支援の実施報告など雇用する特定技能外国人の実際の労働や支援計画の実施状況などについて報告することになります。
届出期間
「特定技能所属機関による支援実施状況に係る届出」をはじめとする特定技能外国人の受入機関に義務付けられた定期報告は以下で定められた四半期に一度、当該四半期の翌四半期の初日から14日以内に届け出なければなりません。
- 第1四半期 : 1月1日から3月31日まで
- 第2四半期 : 4月1日から6月30日まで
- 第3四半期 : 7月1日から9月30日まで
- 第4四半期 : 10月1日から12月31日まで
届出の内容と書式の入手方法
届出時の書式は出入国在留管理庁のページからダウンロードできます。
特定技能所属機関による支援実施状況に係る届出|出入国管理庁
必ずその書式を使わなければならないというわけではなく、自身で作成したとしても正式な書類として認められますが、記入ミスや不備を防止するためにも出入国在留管理庁の参考書式をダウンロードすることをおすすめします。
届出の内容は、
- 生活オリエンテーションの確認書(届出期間内に生活オリエンテーションを実施した場合に提出)
- 相談記録書(届出期間内に相談・苦情への対応をした場合に提出)
- 定期面談報告書
- 転職支援実施報告書(届出期間内に特定技能外国人の非自発的離職があり、転職支援を実施した場合に提出)
- 支援未実施に係る理由書(届出期間内に実施予定だったが、実施しなかった支援がある場合に提出)
「相談記録書」は定期的に届け出なければならないものの一つ
以下では受入機関が定期的に届け出なければならない「特定技能所属機関による支援実施状況に係る届出」の中の一つ、「相談記録書」について解説します。
特定技能1号に対する支援の中の一つ「相談・苦情への対応」に基づいて作成・提出する
日本での生活・労働に慣れていない人が多い特定技能1号を雇用する受入機関には、彼らが日本での労働・日常生活および社会生活を円滑におくれるよう適切な支援をしなければならないという義務が課せられています。
そうした支援の中には「相談・苦情への対応」が含まれており、受け入れ機関は雇用する特定技能1号の外国人から職場や日常生活について相談や苦情を受けた場合、適切に対応しなければなりません。
相手の外国人が十分に理解できる言語で対応するだけでなく、受け入れ機関にはその内容に対し助言や指導等を行うなど適切な対応をすることが求められます。
相談記録書への記載事項
相談記録書には以下のことを記載します。
- 相談受理日
- 相談者の氏名・性別・国籍・地域・生年月日・在留カード番号といった情報
- 相談内容
- 対応結果
- 対応者の氏名
さらに相談内容が労働基準監督署やハローワークなどが関係するものだった場合は、関係する行政機関の名称およびその日付も記載する必要があります。
記入する際のポイント
日本での生活に慣れていない人も少なくないため、特定技能1号を雇用すると日常の中のさまざまなことについて相談を受ける可能性があります。
以下では実際に相談記録書を記入する際のポイントを解説します。
雇用する特定技能外国人の仕事や生活に全く関係のない些細なこと以外は記入する
日本での生活に慣れていない外国人は、日本での生活に慣れている人にとって意外なことで困ってしまうことがあります。
「エアコンから変な音がする」
「部屋の鍵を失くした」
「給与の振込先を変更したいが誰に頼めばいいのか分からないから支援担当者に聞いてみた」
「住民票を取得したいがどこに行って手続きをすればいいのか分からない」
これらは日本での生活に慣れている人からすると非常に些細なことですが、相談記録書には些細なことであっても記載し提出しましょう。
些細なことでも記入することのメリット
上記の例のように、外国人はこちらが思いもよらないような些細なことで困ってしまうことも少なくありません。
だからこそ、どんなに些細なことでも記録しておくと、異なる担当者が対応に当たる場合や、異動時などの引き継ぎ業務がスムーズに行えるようになります。
また、こうした情報は新しく別の特定技能外国人を雇用する際のトラブル防止策に役立てることもできます。
対象期間内にあったことを記載する
相談記録書は定められた四半期ごとに定期的に提出するものであるため、提出書類には対象期間内にあったことが記載されている必要があります。
対象期間外に受けた相談・苦情は記載しないよう気をつけましょう。
定期面談との違い
特定技能1号の受入機関に義務付けられている支援の中には、「相談・苦情への対応」の他に「定期面談」があります。
定期面談は相談・苦情への対応とは異なるものであるため、対応の仕方や届出の内容も異なります。
定期面談の目的
特定技能外国人を雇用する場合であっても、日本人の雇用と同様に受入機関は相手と結んだ雇用契約を確実に履行しなければなりません。
定期面談は特定技能外国人と締結した雇用契約が、互いに守られているかを確認するために実施するものです。
定期面談を通して特定技能外国人の労働環境が適切なものかどうかを確認し、問題の有無を双方が確認します。
そしてもし問題が発覚した場合は、受入機関は適切に対応しなければなりません。
定期面談の実施者
定期面談は支援責任者・担当者が行います。
相手の外国人が十分に理解できる言語で実施しなければならないため、通訳等が必要になる場合もあります。
また、面談を実施する支援責任者・担当者は会社と外国人本人の両者にとって中立の立場を守らなければなりません。
相手が正直に話せるよう、定期面談は監督的立場の人を同席させないなどの配慮をした上で実施しましょう。
2024年から対面での定期面談が義務化
新型コロナの影響で、特定技能1号への定期面談をオンラインテレビ電話や電話で実施することも認められていましたが、2024年からは対面での実施が義務となりました。
そのため2024年現在は定期面談は直接対面で行わなければなりません。
定期面談で確認すること
定期面談では例えば以下のことについて確認します。
- 締結した雇用契約が守られているか
- 実際に従事している業務と雇用契約・在留資格で定められた業務に食い違いがないかどうか
- 毎月適切に賃金を受け取っているかどうか
- 労働時間や休日等が適切かどうか
- 暴行・脅迫・監禁等の不法行為を受けていないかどうか
- 日常生活や健康にトラブルがないかどうか
「定期面談報告書」の提出が不要になるケース
以前は定期面談時に発覚した問題の有無に関係なく、面談についての報告書は定期的に届け出なければなりませんでした。
しかし、令和6年4月1日からは問題が認められなかった場合には定期面談報告書の提出が不要になりました。
ただし、不要になることがあるのはあくまでも「提出」であって、定期面談報告書の作成そのものはこれまで通り行わなければなりません。定期届出時には提出が不要だったとしても、何らかの事情で入管などから提出を求められる可能性も考えられます。
特定技能関係の他の書類と同様、定期面談報告書も所定期間保管しましょう。
相談・苦情への対応は支援計画に基づいて行う
特定技能1号への相談・苦情への対応は、受入機関に義務付けられている支援の中に含まれています。受入機関は雇用する特定技能1号外国人の相談・苦情に対し適切に対応することが求められます。
受入機関が実施する支援には、必ず実施しなければならない義務的支援と必要に応じて実施する任意的支援が存在します。
相談・苦情への対応についての義務的支援
相談・苦情への対応は相手の外国人が十分に理解できる言語で実施することが義務とされています。また、内容に応じた助言や適切な対応をすることも義務とされています。
出入国在留管理庁や労働基準監督署、ハローワークなど行政機関が関係する場合は相談内容に対応する機関で適切な手続きを行い、必要であれば手続きのサポートも行わなければなりません。
相談・苦情への対応についての任意的支援
相談・苦情への対応窓口の設置や、相談先の電話番号・メールアドレスなどをあらかじめ提供するといった配慮をすることは義務ではなく、任意的に行うことができます。
特定技能の相談・苦情への対応のポイント
特定技能外国人から相談・苦情を受ける場合は個人情報の取扱に注意しましょう。相談・苦情を伝えたことで本人が職場で不当な扱いを受けることのないよう配慮する必要があります。
また、相談や苦情はいつ寄せられるか分からないものでもあるため、相談窓口の設置などいつでも受けられる体制を作っておくことも望ましいです。外国人本人の勤務形態に合わせて対応できる体制を整え、休日や夜間も可能な限り受け付けられるよう工夫しましょう。
さらに受入機関は必要な場合は行政機関や医療機関への同行、手続き等のサポートをすることも求められます。
特定技能関連の業務を簡略化するオンラインクラウドツール「dekisugi」
相談記録書は些細なことも記載しなければならない上に、担当者間で共有することが望ましいものである反面、管理が非常に大変なものでもあります。
特定技能を雇用する際には相談記録書以外にもさまざまな書類の作成や管理業務が増えることになり、担当者の業務を圧迫する恐れもあります。
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まとめ
日本に来るまでは異なる文化・価値観で生活していた外国人は、日本人にとって意外なことで困ってしまうことも少なくありません。受け入れ機関は、雇用する特定技能1号の労働・日常生活全般についての相談・苦情に適切に対応することが義務付けられています。
定期的に提出しなければならない相談記録書には、些細なことと感じてしまうことでも記録しましょう。そうすることによって担当者間の業務の引き継ぎや、トラブル防止策を講じる上で活用できる材料にすることができます。