日本では少子高齢化が進んでいて、特に若い世代の労働力が不足しがちな状況が続いています。 特に、日本人に人気のない業種では採用に苦労している事業者が多く、新たな人材獲得戦略として外国人労働者に対する注目が高まっています。 外国人労働者の受け入れはメリットも多いものの、法制度の理解不足や外国人労働者へのサポート体制の不備が大きなトラブルにつながる可能性もあります。 この記事では、外国人労働者の受け入れのメリットとデメリットに加えて、注意すべき点や雇用方法の簡単な解説をしています。
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目次
外国人労働者雇用の現状
厚生労働省では、外国人労働者の受け入れ状況を「「外国人雇用状況」の届出状況まとめ」として毎年公表しています。
(厚生労働省:「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和3年10月末現在)
この資料を基に外国人労働者雇用の現状を解説します。
外国人労働者の数は過去最大
2008年以降、国内の事業主に雇用されている外国人労働者の数は増加を続けていて、2021年には約173万人に達し、過去最大を記録しました。 2020年と2021年は新型コロナウイルスの影響で外国人の入国が少なかったため、外国人労働者の増加はわずかでした。 今後、日本に入国しやすい状況になれば、外国人労働者の数がさらに増えると見込まれています。
産業別の外国人労働者数
産業別に見ると、製造業に従事する外国人労働者が最も多く約47万人、以下、サービス業(他に分類されないもの)の約28万人、卸売、小売業の約23万人、宿泊業、飲食サービス業の約20万人と続きます。 これらに分類されない産業に従事する外国人労働者も約55万人いることから、外国人労働者の活用が幅広い業種で進んでいることがわかります。
外国人労働者の国籍
外国人労働者の国籍をみると、ベトナムが最も多く、約45万人で全体の約26%を占めています。次いで中国(約40万人)、フィリピン(約19万人)の順となっています。その他にもネパール、インドネシア、韓国などのアジア圏が大きな割合を占めていますが、近年では、ブラジルやペルーといった南米出身の外国人労働者が増加しつつあります。
外国人労働者受け入れのメリット、デメリット
外国人労働者の受け入れによって、企業に新たな活力が加えわり、日本人労働者だけでは達成できない成果につながる可能性があります。 反対に、外国人労働者特有の課題や問題が生じる可能性も指摘されています。
外国人労働者を雇用するメリット
人材の確保
外国人労働者を受け入れるメリットとしてまず挙げられるのは、事業に必要な人材の確保につながることです。
給与水準が低い仕事や、肉体的または精神的に負担の大きい(そのようなイメージがある)業種、地方の事業者などでは十分な数の労働者を確保できないケースが増えています。
日本人労働者だけでなく外国人労働者に目を向けることで、対象となる労働者の総数が増え、多くの応募者を集められる可能性が高まります。
日本人の若者は都市部を好む傾向が強く、地方の事業者の求人に対する応募が少ないことが課題となっています。
都市部と地方の好みについて、外国人労働者の中には日本人の若者とは異なる考え方を持っている人も多いと言われています。
都市部では見つけにくい日本の伝統的な風土を強みとして、外国人労働者へのアピールに取り組む自治体や事業者も増えてきました。
新しい感性や能力の獲得
外国人労働者を受け入れることで職場に新たな感性を取り入れることができます。 異なる文化背景や教育から生まれる新しい発想は、従来の課題を解決するブレイクスルーにつながることもあります。 日本人は建設的な議論を行う習慣が少なく、活発な意見交換が行われにくい傾向があります。 外国人労働者を受け入れることで、日本人労働者を含む社内の議論が活発化し、従来では考えにくかった新しいアイディアが生まれる可能性も期待できます。 より実務的なメリットとして、外国人労働者の語学力が、事業の新たな強みとして加わる効果もあります。 例えば、今後復活が見込まれるインバウンド市場への対策として、SNSやYouTubeを通して海外に外国語で情報発信するような取組みが想定されます。
海外でのビジネスチャンスの拡大
日本を訪れる観光客へのビジネスだけでなく、より積極的に事業を海外展開したい場合にも外国人労働者のスキルが役立ちます。 海外展開に関するビジネス上の判断を正確に下すためには、現地の文化や習慣、法律などの理解も重要なポイントとなります。 自社の業務内容と現地の言語、状況などの両方を理解できる外国人労働者を確保できれば、海外進出の大きな助けとなります。
外国人労働者を雇用するデメリット
社内でのコミュニケーションが難しい
外国人労働者を受け入れた場合に想定されるデメリットには、コミュニケーションの難しさが挙げられます。 日本語が堪能な外国人労働者であっても、職場で使われる日本語や日本人の習慣を完全に理解してもらうことは困難です。 文化の違いから、何気ない言葉や行動が大きな誤解を呼び深刻なトラブルに発展することもあります。 日本人同士であれば「なんとなく」で通じるものも一つひとつ丁寧に伝えていく、などの対策を職場全体で共有することが重要です。
就労のための資格(就労ビザ)取得が必要
外国人労働者が日本で報酬を得て働くためには、従事する業務に対応する「在留資格」を取得する必要があります。
就労可能な在留資格は、一般に「就労ビザ」と呼ばれています。
「就労ビザ」は正式な名称ではありませんので、Web上で情報収集をする時には「就労ビザ」という言葉が何を指しているのか注意する必要があります。
在留資格の種類によっては、従事できる業務に制限があります。
外国人労働者の受け入れを検討する場合には、外国人労働者にしてもらいたい業務がどのような在留資格に該当するのかを事前に調べておかなくてはいけません。
いざ外国人労働者を雇用するとなった時に、在留資格が取得できない事態に陥らないように、余裕を持った準備が必要です。
在留資格に関する手続きに不安がある場合には、この分野に詳しい行政書士に相談することもできます。
外国人労働者へのサポートが必要
外国人労働者を雇用した後には、外国人労働者の能力を活かして長期間働いてもらえる環境づくりが重要です。 そのためには、事業者がある程度のコストをかけてサポート体制を構築していく必要があります。 例えば、職場全体に対して行う外国人労働者とのコミュニケーションに関する指導や、外国人労働者を速やかに戦力化するための研修の実施に関するコストがかかります。 十分なサポートが行えない場合、外国人労働者の早期の退職によって、採用コストの回収ができなくなるリスクが高まります。
外国人労働者の受け入れに関する問題点
外国人労働者を上手に活用できれば、人材に関する悩みを解決し、事業に活力を与えることも可能です。 一方で、外国人労働者の受け入れには次のような問題点があることも指摘されています。 外国人労働者の受け入れを検討している経営者の方は注意が必要です。
外国人労働者は安価な労働力ではない
過去には、日本の給与水準が出身国(例:東南アジア諸国)の給与水準よりも高額であることを背景に、低い賃金で厳しい労働環境を受け入れてくれる労働者とみなす風潮がありました。 しかし、現在では日本と諸外国の給与水準の差は小さくなっていて、かつてのような考えでは外国人労働者を受け入れることが難しくなっています。 当然ながら、外国人であることを理由に差別的な労働条件で働かせることは禁止されています。 例えば、外国人労働者であるからといって最低賃金を下回る給与で働かせることはできません。 これは技能実習生も例外ではなく、仮に受け入れ先企業との間で最低賃金を下回る額で契約を結んだ場合でも無効となり、最低賃金額での契約がなされたものとみなされます。
文化や習慣の違いがトラブルの原因になりやすい
日本人の一般的な感覚を外国人労働者に押し付けてしまうと、外国人労働者に強いストレスを与えてしまいます。
ストレスによる労働意欲の低下は、仕事の能率を下げてしまう、職場での人間関係を悪化させる、といった問題につながります。
長期にわたって外国人労働者の能力を発揮してもらうためには、会社全体で異なる考え方と上手に付き合う必要があります。
例えば、日本では一般的では無い宗教を信じている外国人労働者の場合、食事や生活スタイルにも理解が必要です。
日本人にとって当たり前の行為でも、文化背景によっては許容できない行為と取られる可能性があることを心に留めておくことが重要です。
外国人労働者の習慣や文化に対する理解の不足はハラスメントの原因になる危険性もあります。
いわゆるパワハラ防止法と呼ばれる労働施策総合推進法は、事業主に対しパワーハラスメントの防止を義務付けています。
2022年4月からは中小企業もこの義務の対象となっていますので、これから外国人労働者を受け入れようと考えている事業主は注意が必要です。
不法就労にならないように注意が必要
外国人労働者が不法就労の状態にならないようにするためには、在留資格の申請や更新手続きを外国人労働者任せにせず、事業主が積極的にサポートしながら確実に手続きを進めることが重要です。 就労が認められる在留資格を取得していない外国人を雇用している場合には、事業者も不法就労助長罪に問われる可能性があります。 この場合の罰則は3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金、またはこれらの両方とされています。
外国人労働者の雇用方法
外国人労働者が日本で働くための在留資格(就労ビザ)
外国人労働者が日本で働くために必要な在留資格には次のような種類があります。 業務内容や外国人労働者の学歴やスキルによって取得できる資格が異なるため、注意が必要です。
高度な専門的な知識、経験が必要な在留資格
外国人労働者のスキルや実務経験が条件を満たしていれば取得できる在留資格です。 業務内容によって「経営・管理」や「医療」、「研究」などの区分が設定されています。 例えば、この種類の在留資格である「技術・人文知識・国際業務」には、工学系の技術者や語学力が必要な通訳者などが該当します。 業務内容によって区分されていることを逆に捉えると、外国人労働者が従事する業務内容がこれらの区分に該当しない場合は、この種類の在留資格を取得できないということになります。 この種類の在留資格は条件が厳しく、在留資格を取得できる外国人人材は限られています。 それぞれの区分ごとに、大学や専門学校の卒業や一定の期間を超える職歴などが要件として設定されているため、外国人労働者の学歴や職歴の十分な確認が必要です。
知識、経験の条件がゆるやかな在留資格
この種類の在留資格では、専門的知識やスキルを必要としない単純作業のような業務にも従事することができます。
この種類の在留資格には、「特定技能」というものがあります。
特定技能は、日本の労働力不足を補うことを目的として2019年に新設された新しい在留資格です。
一定程度の知識や経験がある外国人労働者であれば、①の在留資格に該当しない介護やサービス業などでも就労できることが特徴です。
特定技能の対象となる業種は広く設定されていて、介護や宿泊業、外食業を含む12分野の業務に従事することができます。
特定技能はさらに1号と2号に分かれています。
2号ではより熟練した技能が要件とされますが、在留期間の上限が無いことや家族の帯同が認められるというメリットがあります。
2022年11月時点では、特定技能2号で働ける分野は「建設」と「造船・舶用工業」の2つだけとなっています。
現時点では公式な発表は為されていないものの、近い時期に2号の対象となる分野が拡大される可能性が報道されているため、今後の動向に注意が必要です。
(日本経済新聞:外国人就労「無期限」に 熟練者対象、農業など全分野)
特定技能は外国人労働者に要求される知識や経験の水準がゆるやかな在留資格なので、雇用へのハードルはそれほど高くありません。受け入れのためには書類作成などで専門的な知識が必要になった場合には、登録支援機関からサポートを受けることができます。
登録支援機関は、外国人労働者が日本で安定的かつ円滑に活動できるように支援を行います。
事業者と登録支援機関が協力することで、負担を軽減しながら確実に外国人労働者の受け入れを進めることができます。
特定技能と混同されやすい在留資格に、外国人への研修を目的とする「技能実習」というものがあります。
技能実習の目的は外国人労働者に日本の技術、技能または知識を伝えることが目的なので、労働力不足を補う目的の特定技能とは全く異なります。
技能実習には最大で5年間までの期間制限があります。
技能実習を良好に修了した場合には、在留資格を特定技能に変更できる制度も用意されています。
技能実習の在留資格で従事できる業務としては、農業、漁業、建設、食品製造、繊維・衣服、機械・金属、その他の分野で80職種が指定されています。
特定技能と技能実習の主な違いを表にまとめると以下のようになります。
特定技能 | 技能実習 | |
---|---|---|
制度の目的 | 不足する労働力を補う | 研修による技術移転 |
在留期間 | 1号:最大5年 2号:上限なし | 最大で5年 |
雇用可能な業種 | 介護等の12分野 | 農業、漁業、建設等の80種 |
知識・技術の条件 | 1号:一定程度の知識または経験が必要 2号:熟練した技能が必要 | 無し |
家族の帯同 | 1号:基本的に不可 2号:一定の条件で可能 | 不可 | 受け入れ方法等 | 事業者が独自で行うことができる 登録支援機関からのサポートを受けることも可能 | 外国の送り出し機関と提携する 監理団体から紹介を受ける |
身分に基づく在留資格
「永住者」、「日本人の配偶者等」、「永住者の配偶者等」、「定住者」の在留資格を取得している外国人には就労に関する制限がありません。 業種を問わず、幅広い業務に従事できるので、活躍の場も広くなります。 このタイプの在留資格を取得するためには一定の身分上の条件を満たすことが必要です。
資格外活動
就労が認められていない在留資格であっても、一定の制限下で、報酬を受ける就労が認められる場合があります。例えば、「留学」の在留資格を取得している留学生は、本来の活動(留学)を阻害しない範囲で、1週間当たり28時間以内の就労が許可されることがあります。 資格外活動を行うためには、事前に「資格外活動許可申請」を行い、許可を受ける必要があります。
外国人労働者を雇用する手順
外国人労働者を受け入れるためには様々な事前準備が必要になります。 ここでは、外国人労働者が実際に働き始めるまでの流れを解説します。
外国人労働者の募集と選考
外国人労働者へのアプローチ方法には日本人労働者へアプローチとは違う注意が必要です。 選考の段階ではまだ海外に居住している外国人労働者も多いため、面談や情報のやり取りも日本人と同じようには進みません。 在留資格取得の見込みを把握するためにも確実なコミュニケーションが求められるので、経験豊富な外国人人材紹介会社や監理団体を介した採用活動も効果的です。
内定、雇用契約
外国人労働者と労働契約を結ぶ前の段階から、在留資格の取得を意識しておく必要があります。 従事する業務と在留資格の要件が合致しなければ、在留資格の申請が認められません。 もし在留資格の申請が認められない場合には、その外国人労働者を雇用することはできなくなります(不法就労に該当する)。 在留資格の取得が認められない場合に備えて、雇用契約書には、在留資格の取得を条件として効力を発揮するという条項を付加しておくことが望ましいと言えます。 将来のトラブルを避けるためにも、外国人労働者向けの雇用契約書の準備が大切になります。 雇用契約書の作成にあたっては、在留資格の申請に詳しい専門家のアドバイスを受けることが効果的です。
在留資格の確認と申請
在留資格の申請は管轄の入国管理局に対して行います。 在留資格の申請は基本的に申請者(外国人労働者)本人が行うことになっていますが、日本での手続きに不慣れな外国人労働者には事業者が積極的にサポートする必要があります。 具体的な手続きは、外国人労働者の状況によって異なりますが、代表的な例をご紹介します。
日本の大学に留学している外国人を卒業後に雇用するケース
この場合、「留学」の在留資格から雇用した後に従事する業務に対応する在留資格へと変更する「在留資格変更許可申請」を行うことになります。 例えば、大学で機械工学を学んだ学生を雇用し、エンジニアとして勤務させる場合には「技術・人文知識・国際業務」への変更を申請できます。
すでに就労可能な在留資格を取得している外国人を雇用するケース
すでに在留資格を取得している外国人を雇用する場合には、在留カードで在留資格を確認することが重要です。 在留カードの表面には在留資格の名称と共に、「就労制限の有無」が記載されています。例えば、「永住者」や「日本人の配偶者」の在留資格の場合、この欄には「就労制限なし」と書かれていて、業務内容の制限を受けることなく雇用できます。 就労制限の有無の欄に「就労不可」と記載されていても、資格外活動許可を受けていれば一定の範囲で就労することができます。外国人雇用状況の届出
事業者は外国人労働者を雇い入れた時、または外国人労働者が離職した時には外国人雇用状況の届出を行う必要があります。 この届出は事業者の義務とされているので、届出をしない場合や、事実と異なる届出を行った場合には30万円以下の罰金の対象となる可能性もあるので注意が必要です。
まとめ
外国人労働者の受け入れは、人手不足の解消や新しいビジネスチャンスの創出などのメリットをもたらします。 しかし、在留資格の手続きや外国人特有の問題に対して十分なサポートができない場合には、不法就労や退職のリスクもあります。 外国人労働者の受け入れにあたっては、この記事で解説したメリット、デメリットを総合的に検討して判断することが重要です。 実際に受け入れを進める時には、知識や経験が豊富な外部の専門家の知識も借りながら、ひとつひとつの課題に対処していくことが成功への近道になります。