外国人労働者をめぐる問題と課題

外国人労働者をめぐる問題と課題

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人手不足に悩む企業や海外事業を行う企業を中心に、外国人労働者の受け入れが拡大しています。しかし、外国人労働者の数が増加するにつれて、不法就労や失踪のようなトラブルにつながる様々な問題点や課題も明らかになってきました。この記事では、外国人労働者を受け入れる企業が知っておきたい問題点や課題と、企業や外国人労働者を対象とした支援について解説します。

外国人労働者数の現状

増加を続ける外国人労働者

厚生労働省がまとめたデータによると、2022年10月末時点での外国人労働者の数は1,822,725人に達し、過去最高を記録しました前年と比べて95,504人の増加(増加率は5.5%)となっています。

在留資格別外国人労働者数の推移

参考:(厚生労働省:「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和4年10月末現在))

新型コロナウイルス対策の影響もあり、2020年と2021年には外国人労働者の数は小幅な増加にとどまっていました。現在では感染防止策が徐々に緩和されつつあり、海外からの人の流れも回復傾向にあります。国内の労働力不足を補うために外国人労働者を受け入れるという政府の方針もあって、今後も外国人労働者の数が増え続けていくと予想されています。

外国人労働者にまつわる問題点

外国人労働者の数が増え続けている中で、外国人労働者にまつわる様々な問題点が明らかになってきました。業務上の問題やハラスメントなどの外国人労働者本人と受け入れ企業の間のトラブルだけでなく、周辺地域にも影響を与えるような社会問題も発生しています。
外国人労働者を受け入れる企業には、これらの問題点とその原因を把握し、責任をもって対応していくことが求められています。

言語や文化の違いによる問題

外国人労働者にまつわるトラブルの大きな原因となるのは、言語や文化の違いです。

コミュニケーションの難しさ

言語の問題によって外国人労働者とのコミュニケーションが少ない状態が続くと、業務上重要な報告や相談が遅れてしまうことがあり、こまめなコミュニケーションは問題点の早期発見や対処のために重要です。結果として、本来問題にならないような些細なすれ違いが、後々大きなトラブルに発展する可能性もあります。
外国人労働者を受け入れる企業は、採用段階で外国人労働者の日本語能力をしっかりと把握し、必要であれば、簡単な通訳ができるスタッフを配置するなどの体制整備が求められます。

また、外国人労働者を採用後も、日本語でのコミュニケーション能力を高める研修を用意するなどのフォローが効果的です。コミュニケーションの改善は、外国人労働者の能力を発揮しやすい環境整備につながります。

文化、慣習の違いによるトラブル

外国には外国の文化や慣習があり、日本人から見ると驚いてしまうような行動に接するケースもあります。逆に、日本人にとっては当たり前のビジネスマナーでも、外国人労働者にとっては理解が難しいものも存在します。
このような文化的な違いが原因となる行動を「非常識」と捉えてしまうと、外国人労働者に対する強いプレッシャーを与えてしまい、相手の文化を否定するような発言や行動はハラスメントや人権問題に発展する恐れもあります。外国人労働者を受け入れる企業は、異なる文化を受け入れ、多様性を尊重する考え方を社員に伝えていく努力が求められます。

外国人労働者との雇用契約の問題

外国人労働者を雇用する場合でも、日本人労働者の場合と同様に、国内の労働法令に従って雇用契約を結ぶ必要があります。

外国人労働者との雇用契約で気を付けるポイント

外国人労働者との労働契約で問題になりやすいのは、在留資格の問題です。在留資格とは、その外国人が日本で活動するために必要となる資格のことです。就労が認められる在留資格を指して「就労ビザ」という呼び方が使われることがありますが、正しい用語ではないので注意が必要です。
外国人労働者が適切な在留資格を取得していない場合には、就労させることができません。また、在留資格によっては、外国人労働者が従事できる業務内容に制限があります。雇用契約は締結したが在留資格の問題で実際には就労できない、という事態を避けるためにも、「適切な在留資格が取得できない場合には労働契約が発効しない」といった特約を付けてリスクマネジメントを行うことが推奨されます。

また、募集・採用から雇用契約締結の段階でも言語の問題に注意が必要です。労働条件などの認識の違いが存在すると、採用後のモチベーション低下やトラブルにもつながりかねません。外国人労働者にとって理解しやすい形で労働契約の内容を説明するため、外国人労働者との契約に関する経験が豊富な専門家のサポートを受けることも有効な対策です。この記事の後半に、企業が利用できる専門家によるサポートを紹介しています。

就労のための在留資格(就労ビザ)の問題

上で解説したように、外国人労働者が日本で働き、報酬を得るためには適切な在留資格の取得が必要です。在留資格の種類によって外国人労働者の働き方に関する制限も異なります。それぞれの在留資格で認められた範囲外の労働を行った場合、外国人労働者本人が不法就労となるだけでなく、雇用主も不法就労助長罪に該当する可能性があります。

不法就労に関する罰則

不法就労を行った外国人労働者は不法入国、資格外活動の罪に問われることになります。不法入国の罰則は、3年以下の懲役もしくは禁錮もしくは300万円以下の罰金です。資格外活動の罰則は、1年以下の懲役もしくは禁錮もしくは200万円以下の罰金、またはそれらの両方と定められています。資格外活動の態様によっては強制送還の対象となる可能性もありますので、非常に厳しい罰則と言えます。

不法就労助長罪は、
1. 事業活動に関し、外国人を雇用するなどして不法就労活動をさせる行為
2. 外国人に不法就労活動をさせるために、自己の支配下に置く行為
3. 業として、外国人に不法就労活動をさせる行為、又は(2)の行為に関しあっ旋する行為
を対象としています。特に注意が必要なのは1.の行為で、これは雇用主が意図していない場合を含みます。外国人労働者を雇い入れる時には、雇用主が主体的に、適切な在留資格が取得されているか、在留資格に対応した業務内容になっているかを確認する必要があります。不法就労助長罪の罰則は、3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処し、又はこれらを併科と定められています。

就労が可能な在留資格の種類

就労が可能な在留資格を大まかに分類すると、①身分にもとづく在留資格、②高度な知識、経験が必要な在留資格、③技能実習、④特定技能に分けられます。
身分にもとづく在留資格には永住者や日本人の配偶者などがあり、就労に関する制限がありません。日本人と同様にあらゆる業務を行うことができます。
高度な知識、経験が必要な在留資格には、通訳やエンジニア、デザイナーなどが該当します。この在留資格は特定の業務を指定して就労を可能にするという主旨であり、他の業務への配置転換には制限があります。

2019年に新たに創設された在留資格である「特定技能」では、経験やスキルをそれほど必要としない単純作業にも従事できます。特定技能の在留資格で従事できる業務分野は特定産業分野と呼ばれ、現在12種類が指定されています。特定技能の在留資格を取得した外国人労働者を雇い入れた後、業務内容を異なる分野の業務に変更する場合には、改めて在留資格の変更許可申請を行う必要があります。
受け入れ企業と外国人労働者の間でトラブルが生じやすい在留資格に「技能実習」があります。技能実習の在留資格を取得して活動する外国人を技能実習生と呼び、誤解されやすいですが、技能実習の目的は、外国人に対して日本の技術、技能または知識を伝えることとされており、労働力不足を補うための制度ではありません。技能実習生は、農業や漁業など、日本人労働者の確保に苦労しやすい業務に従事できます。そのため、安価な労働力と捉えられやすく、劣悪な就労環境が度々問題視されてきました。

技能実習では、あらかじめ認可を受けた技能実習計画に基づいて実習を進める必要があります。技能実習の期間内に実習実施者(企業)を変える、転職のようなことは基本的に認められません(実習先企業が倒産した場合や技能実習3号への移行時など、実習先が変更できる場合もあります)。企業と技能実習生の関係が固定化されやすいため、一度トラブルが生じると、技能実習生の失踪といった大きな問題に発展するケースもあります。

外国人労働者のための労務管理

外国人労働者を受け入れた事業主は、法令に基づいて外国人労働者の労務管理を適切に行なわなければいけません。不適切な労務管理は、不法就労や外国人労働者の失踪の原因にもなりかねないため注意が必要です。

雇い入れや離職に関する手続き

外国人労働者を雇い入れる場合や、外国人労働者が離職する場合には、その氏名や在留資格をハローワークに届け出る必要があります。正当な理由がなくこの届出を怠った場合や、虚偽の届け出を行った場合には、事業主に対して30万円以下の罰金が科せられる可能性があります。

外国人雇用管理指針

政府は「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して 事業主が適切に対処するための指針」(外国人雇用管理指針)を定めて、外国人労働者の就労環境改善を目指しています(厚生労働省:指針本文)。
この指針の基本的な考え方には、大きく2つのポイントがあります。一つは、日本人と同様に外国人労働者にも適用される労働法令や社会保険関係法令を遵守することです。もう一つは、外国人労働者がそれぞれ認められた在留資格の範囲内で能力を発揮できるように、労働条件や安全衛生の向上に努めることです。
指針は「募集・採用」、「労働条件・安全衛生等」、「労働保険・社会保険」、「人事管理・生活支援等」、「在留資格に応じた措置」の5項目から構成されます。外国人労働者の労務管理の注意点は多岐にわたるので、ハローワークや外国人労働者の労務管理に長けた専門家のアドバイスを活用することが推奨されます。

外国人労働者にまつわる社会的問題

外国人労働者にまつわる社会的問題

外国人労働者に関する問題点は、外国人労働者と受け入れ企業の間のトラブルに限られません。場合によっては、地域社会を巻き込んだ大きな問題に発展してしまうケースもあります。法制度の整備や企業の理解向上に向けた活動が進められています。

外国人労働者への差別

日本国内の企業で働く外国人労働者は多くの場合、マイノリティ(少数派)となります。言葉や文化の違い、多様な価値観に対する理解の不足から差別的な言動に至ることも少なくありません。企業内でのマジョリティ(多数派)を形成する日本人の視点では、その行為が許容されうるものかどうかという判断が甘くなりやすいことに注意が必要です。
事業主は、外国人労働者の権利を日本人労働者の権利と同様に保護する責任があります。多様な価値観の尊重、文化の違いを受け入れる寛容さを従業員に教育するなどの対策が必要です。

外国人労働者の労働条件

従来から、外国人労働者は安価で厳しい労働条件の仕事を行う、という偏見が存在しました。先に解説したように、実際には外国人労働者に対しても日本人労働者と同様の労働法令が適用されます。外国人労働者だから、という理由で差別的な労働条件を設定することはできません。
外国人労働者は日本の労働法令に関する知識や情報収集能力が不足している場合があります。そのような事情を悪用した違法な長時間労働や報酬の未払いが多数発生しており、国内外から批判の対象となっています。

外国人労働者と地域住民の摩擦

外国人労働者の数が増えるにつれて、地域社会との摩擦が問題となっています。
2020年にNHKが行った調査によると、日本に外国人が増えることに賛成する人の割合は70%、反対する人の割合は24%となっています(NHK放送文化研究所 外国人増加への期待と不安 ~「外国人との共生社会に関する世論調査から」~)。
しかし、同じ調査で、自分の住む地域に外国人が増えることに賛成する人の割合は57%、反対する人の割合は38%という数字も明らかになっています。つまり、日本に外国人が増えることのメリット(主に経済的なもの)については多くの日本人が納得しているものの、自分の住む地域に外国人が増えることに抵抗を感じる人が一定数いることがうかがえます。外国人の増加に対する不安の理由として、「言葉や文化の違いでトラブルになる」、「治安が悪化する」の2点が大きな割合を占めています。
外国人労働者が仕事で能力を発揮するためには、地域で安定した生活を送ることが重要です。外国人労働者を受け入れる企業には、外国人労働者が地域社会の行事や活動に参加しやすいようなサポートが求められます。行政手続きや地域のルールに関する情報提供など、日本人労働者であれば気にしないような細かな部分からの気配りが重要です。

外国人の存在が治安に悪影響を与えるのでは、という不安を持つ人は確かに存在します。しかし実際のデータを見てみると、その不安が現実化しているとは必ずしも言えません。2011年から2020年までの間、外国人労働者の数が約3倍に増えたにもかかわらず、刑法犯として検挙された外国人の数にはほとんど変化がありませんでした。もちろん、すべての外国人労働者が犯罪と無縁であるとは言えません。適切な就労環境が提供され、地域社会とも良好な関係が構築されていれば、ほとんどのケースで外国人労働者と地域住民の双方をトラブルから守ることができます。

外国人労働者雇用に関するサポート

外国人労働者雇用に関するサポート

ここまで解説してきたように、外国人労働者が日本で働く場合には、受け入れ企業を中心とした様々なサポートを行っていくことが重要です。適切なサポートが受けられない場合には、外国人労働者の能力が十分に発揮されず、もともと狙っていた業務上の成果を得ることは難しくなります。さらには、不法就労などの法令違反や地域社会との軋轢のような大きな問題にも発展しかねません。

外国人労働者へのサポート

外国人労働者の存在は、日本の企業に新たな活力を与え、日本社会や経済の維持・成長に寄与すると期待されています。受け入れ企業や行政機関が協力して、外国人労働者が働きやすい環境になるようにサポートしていかなくてはなりません。

受け入れ企業の取り組み

外国人労働者を受け入れる企業が整えるべきサポート体制については、先に紹介した外国人雇用管理指針に基本的な考え方が示されています。例えば、言語に関することとして、労働条件を母国語や平易な日本語で説明して外国人労働者の正確な理解を促すことや、社内規定等の多言語化が挙げられています。その他にも、地域生活に関する情報提供や、多様性への配慮、苦情・相談体制の整備、在留資格に関することなどが挙げられています。

外国人労働者向けの公的サポート

外国人労働者の適切かつ安定した就労のために、行政機関を中心としたサポート体制が整備されつつあります。限定的ながら、日本各地のハローワークに外国語ができるスタッフが配置され、相談コーナーが設置されています(厚生労働省:「通訳がいるハローワークのご紹介」)。
その他にも各都道府県の労働局が設置する相談コーナーや、労働条件等について母国語で相談できる相談ダイヤルが開設されています。

受け入れ企業の体制整備の促進

外国人労働者に対するサポートは、それぞれの受け入れ企業が責任をもって取り組むべき課題です。しかし、外国人労働者を初めて受け入れる場合には、企業にとって大きな負担にもなります。現在では、外国人労働者に関する知見が豊富な行政機関や専門家によるアドバイスを受けやすい環境が整いつつあります。外国人労働者の活用を目指す企業が外部と連携してこの問題に取り組むことが推奨されます。

受け入れ企業向けのサポート機関や制度

政府は、外国人労働者の雇用管理や職業生活上の問題等について無料で相談できる「外国人雇用管理アドバイザー」という制度を運用しています。外国人労働者の受け入れを希望する企業(もしくは既に受け入れている企業)は、ハローワークを通じて、この外国人雇用管理アドバイザーからアドバイスを受けることができます。相談できる内容は、募集・採用段階から採用後の管理、トラブル対応まで多岐にわたります。
その他には社会保険労務士(社労士)や行政書士などの士業の活用も有効な手段と言えます。外国人の労務管理に精通した社労士や、在留資格の申請に長けた行政書士が多数活躍しています。先に述べた外国人雇用管理アドバイザーも社労士や行政書士の委嘱を受けているケースが多いようです。
特定技能の在留資格を取得した外国人労働者を受け入れる場合に委託できる機関として、登録支援機関があります。特定技能の場合、他の在留資格とは異なり、外国人労働者の就労及び生活をサポートする「支援計画」を策定する必要があります。この支援計画は、事前のガイダンスから生活オリエンテーション、相談・苦情への対応など10項目から構成されます。外国人労働者への対応に不慣れな企業に代わって、この支援計画を策定するのが登録支援機関の主な役割です。

まとめ

上手に活用できれば事業の大きな武器となる外国人労働者ですが、この記事で解説したような問題点や課題も存在します。外国人労働者を受け入れる企業は、このような背景を理解して、適切なサポート体制を構築することが求められています。
これまでに起きてしまった問題の反省もあり、現在では行政機関等のサポート体制も充実しつつあります。企業単体ですべてに対応する必要は無く、企業もまた様々なサポートを受けながら外国人労働者の就労や生活の環境を整えていくことが重要です。

この記事を書いたライター
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佐藤 翔 行政書士、博士(生命科学)

大学教員、大学発ベンチャー企業の取締役を経て独立。 フリーのAIエンジニアとして活動しながら、現在は京都市で行政書士事務所も開業。 外国人人材の獲得や資金調達などの企業支援を中心に活動中。