技能実習生・特定技能外国人として近年インドネシア人が注目を集めています。歴史的にも日本との関係が深く、親日的な傾向があるインドネシア人には魅力的なところがたくさんあるためです。
日本人との相性もよく、一緒に働きやすい国民性である反面、インドネシア人を雇用する際には宗教についての理解などが必要になってきます。
この記事では歴史や文化、宗教観の解説を通してインドネシア人の国民性と雇用する上でのポイントを紹介します。
目次
インドネシア共和国の基本情報
まずはインドネシア共和国の大まかな基本情報を紹介します。
インドネシアの歴史
インドネシアは最初から今の形だったわけではなく、11世紀ごろまではジャワ島・スマトラ島の各地に古代王国が存在していました。これらの古代王国はインド文明の影響を強く受けたものでしたが、11世紀に入った頃、イスラム文明が定着し、イスラム王国が台頭し始めます。
さらに16世紀にはヨーロッパの列強・オランダが支配権を確立し、ジャワ島西部から徐々に植民地化を拡大させ、20世紀はじめに現在のインドネシア全域を支配下におさめました。
第二次世界大戦後日本の降伏と同時にオランダからの独立を宣言しますが、オランダと独立戦争を経て1949年にインドネシア共和国として独立を果たします。
独立後もオランダとは経済的な対立を繰り返し、一時は国際社会からの孤立を深めましたが、日本からの経済協力や外資の導入によって戦後の復興と経済発展を果たしました。
インドネシアの宗教
歴史の中でヒンドゥー教、仏教、イスラム教、キリスト教に触れてきたインドネシアには、さまざまな宗教を信仰している人がいます。最も多いのはイスラム教で国民の約85%を占めており、次にキリスト教、ヒンドゥー教、仏教が続きます。
信仰する宗教の自由は認められていますが、基本的に無宗教であることは認められていません。異教徒間の結婚は認められていないため、どうしても結婚したい場合は片方が改宗しなければなりません。
インドネシアの文化
インドネシア共和国の公用語はインドネシア語です。しかしインドネシアには約300もの民族が暮らしているため、学校の授業では第二母国語としてそれぞれの民族の言語を学習します。
自分とは異なる民族や宗教の人とインドネシアでは交流するのが当たり前であり、インドネシア人は生活の中でもお互いの文化や宗教観を尊重し合うことを重視します。
また、多民族国家かつ他宗教国家であることから正月は年に4回あります。
インドネシアの食事
日本人と同様、インドネシア人は米を主食としています。米の品種は日本で食べられるものと似たものも多く、互いに違和感なくご飯を食べられることも多いようです。
さらに多民族国家であるため、各民族ごとの郷土料理が存在します。
イスラム教を信仰している関係から豚肉やお酒を口にしないインドネシア人もいますが、実際には本人の信仰度や生活習慣によって個々人にばらつきがあります。
一緒に食事をする際には「イスラム教だから」と一括りにするのではなく、相手に合わせたメニューを考えるようにしましょう。
インドネシアの国内の経済事情
インドネシア2022年の通年GDP成長率はインドネシア中央統計庁の発表によると5.31%でした。ちなみに同年の日本のGDP成長率は1.1%です。
新型コロナウイルスによる消費や投資の低迷から回復し、資源価格の高騰による輸出額の伸びがある一方で、外需は低迷が続いているのが現状です。
また、2020年のインドネシアの人口構成は15〜64歳の労働人口が総人口の68%を占めるのに対し、2050年の推計では66%と2ポイント減少すると予測されています。
しかしインドネシアは将来的にもまだ労働力が豊富な国と言えるでしょう。
インドネシア人の国民性
次にインドネシア人の国民性について解説します。技能実習生・特定技能外国人としてインドネシア人を雇用する際には参考にしてみてください。
スローペースな人が多い
常夏の国・インドネシアは年中何かしらの食べ物が手に入る気候であり、農耕の際にも計画性があまり必要がありません。こうした理由から、インドネシア人には時間に縛られない、スローペースな人が多いと言われています。
時間を守るために焦るということもなければ、〆切等を後ろ倒しにする人も多いです。
さらにジャカルタは世界最大の渋滞都市と呼ばれるほど連日激しい渋滞に見舞われています。時間にルーズというよりも渋滞の感覚が染み付いた結果計画が予定通りに進まないことも当たり前になったという方が正確かもしれません。
ポジティブで楽観的
インドネシア人には常夏の国でイメージされるような楽観的でポジティブな人が多い傾向があります。純粋で無邪気な傾向もあり、帰属意識も高く、周りに親切にできる人も多いです。
よく笑い、よくしゃべるタイプでもあり、仕事の最中でも動画を見せ合い一緒に笑いあったり、無駄話に花を咲かせてしまうこともあります。
中短期的に計画を立てる傾向がある
日本のように「春にたねをまいて秋に収穫」といった計画を立てる必要がない気候であるため、インドネシア人は長期的な計画を立てるのが苦手な傾向があります。
自分で目標を立てるのも苦手である上に、目標に対して逆算して行動するのもあまり得意ではありません。
仕事に慣れるまでは一緒に目標を立て、スケジュール管理を一緒にするとうまくいきます。
プライドが高い人が多い
「ヨーロッパ列強による植民地支配からの独立」という歴史を持つ上に、資源や食糧も豊富で自国内で調達できるインドネシアには大国意識が根付いています。
インドネシア人であることに誇りを持っている人も多く、見下されることを嫌います。
日本人は「昔売った恩は忘れる精神」で接するようにしましょう。
インドネシアと日本の関係
日本はインドネシアの戦後復興や経済発展に協力したといった歴史背景から、インドネシアは全体的に親日的な雰囲気があります。以下ではその背景を詳しく解説します。
日本がインドネシア独立を支援
インドネシアは16世紀ごろからオランダの植民地支配を受けていました。しかし20世紀に入ると大東亜共栄圏を唱えた日本がヨーロッパ列強からのアジア諸国の解放を目指す一環としてインドネシアの独立を支援しました。
また長引く戦争が原因で戦後の復興が遅れたインドネシアを日本は経済的にも支援しました。
インドネシアとオランダの戦争時に活躍したスカルノ大統領が日本国籍を持つ女性であるデヴィ夫人と結婚したことからもインドネシアの親日ぶりが伺えます。
インドネシアでは日本のアニメやアイドルが大人気
日本のアニメや漫画、アイドルといったコンテンツは世界中で人気を集めていますが、インドネシア国内でも日本発のコンテンツは非常に愛されています。
『名探偵コナン』や『ドラゴンボール』といった日本の漫画はインドネシアの書店でも売られており、NHKドラマ『おしん』はインドネシアで爆発的な人気を博しました。
インドネシア人と日本との相性
帰属意識が高く、上下関係をきちんと守り、礼儀正しく努力家な人が多いインドネシア人は、日本人との相性も決して悪くはありません。
スケジュール管理や労働文化の違いからトラブルが発生する可能性はありますが、スローペースな性格を理解すると仕事の生産性も向上します。
他民族・他宗教文化由来の互いに尊重し合うことを重視するだけでなく、親日な傾向があるため、会話も弾みやすいです。
ただし、日本人とは異なりインドネシア人は全体的に大国意識が強い傾向があります。大東亜共栄圏や戦後の経済支援といった過去に売った恩は忘れ、相手を尊重するよう心がけましょう。
特定技能や技能実習生としてインドネシア人を雇用する際のポイント5つ
互いを尊重し合う国民性が特徴的な上に親日な人が多いインドネシア人は以下の5つのポイントを意識して雇用するようにしましょう。
1.明確な目標を掲げる
赤道付近の熱帯に位置するインドネシアは年中食物が収穫でき、計画的に耕作する必要がないため計画性がない人が目立ちます。中長期的な視点で物事を考えるのが苦手な傾向があり、スケジュール感覚もあまりありません。
一緒に仕事をする際には一緒に明確な目標を立てるようにしましょう。スケジュールに沿って伴走することでスケジュール感覚も身につき、自主的に目標管理をするようになります。
また、数字や期日などが明確であればあるほど目標やスケジュールに納得してもらえます。
2.注意するときは1対1で
時間にルーズなのではなく、時間通りにいかないのが当たり前という感覚であるため、インドネシア人のことを「穏やかなのんびり屋さん」と感じることもあるかもしれません。
「穏やかなのんびり屋さん」と同時にプライドが高く大国意識を持ち合わせているのがインドネシア人です。
こうした国民性からインドネシア人は人前で怒られることに慣れていません。一緒に働く中でインドネシア人に対して怒らなければならない時は、別室で1対1で話すようにしましょう。
そしてその際には何が原因だったのかなどを根拠を持って分かりやすく伝えるようにしてください。
3.イスラム教の風習に対する理解と配慮
国民の約85%がイスラム教を信仰していることもあり、技能実習生や特定技能外国人としてインドネシア人を雇用する際にはイスラム教の風習についての理解が必要になってきます。
食事の際には豚肉やお酒を避ける、礼拝の時間や場所の確保、断食月(ラマダン)に対する対応といった配慮が必要な場合もあります。
さらに信仰の度合いは個々人によって異なる上に、インドネシアにはイスラム教以外の宗教を信仰している人もいるため、「特定の宗教を信仰している人」と一括りにするのは非常に危険です。
「イスラム教徒だから」という態度ではなく、「いろんな考え方がある」という姿勢を大切にしましょう。
4.インドネシアは日本よりも労働者保護意識が高い
インドネシアにも日本の労働基準法のようなものがあり、残業や諸手当について定められています。
日本の労働基準法と大きく異なるのは、インドネシアでは労働者保護意識が高いという点です。
残業代の算出方法も異なり、基本賃金にかけられる係数がインドネシアの方が大きいです。従ってインドネシア人を雇用する際には残業代についての説明を丁寧にしなければなりません。
5.転職に対する考え方が異なることを理解する
近年日本国内でも転職は一般的なものになりつつありますが、インドネシアでは転職は以前から当たり前の考え方です。
転職の主な目的は給料で、インドネシア人は今よりも給料がいい仕事が見つかれば簡単に転職してしまいます。
日頃からコミュニケーションを取り、信頼関係を築くよう心がけることで自社に定着してもらえます。
インドネシア人を雇用するメリット3つ
以下ではインドネシア人を雇用する上でのメリットを3つ紹介します。
1.礼儀正しい
多様な宗教の文化が根付いているからこそ、インドネシア人は他人に対する礼儀や言葉遣いを非常に大切にします。
「お互いに礼儀を守ることを通してこそ尊敬の念や敬意が伝わる」
と多くのインドネシア人は考えます。
こうした礼儀を重視する国民性は日本人とも相性がよく、一緒に働きやすいと言えます。
2.努力家な人が多い
農村部では熱心に農業に専念し、都市部では自営業や小規模企業を立ち上げることが日本よりも一般的なインドネシア人は、努力家とも言えます。
積極的に仕事に取り組み、キャリアアップを目指す傾向があるため、日本人と一緒に仕事がしやすいです。
実際にわざわざ日本に来て働こうとするインドネシア人の中には日本語能力の獲得やスキルアップといった目的の人もいます。
3.他の国籍の人ともうまくやれる人が多い
異なる宗教が混在し、約300もの民族が共存している上に、さまざまな言語が日常の中で使われるのが当たり前なインドネシア人は寛容な人が多いです。異なる価値観を持つ人とも簡単に打ち解けることができます。
従って日本人の価値観にもすんなりと馴染みやすい傾向があります。
さらに他の国からも技能実習生・特定技能外国人を雇用している企業にとって、職場にインドネシア人がいることはメリットになることがあるかもしれません。
まとめ
日本人との相性がいいため、インドネシア人は一緒に働きやすいと感じる日本人も少なくありません。
一方でインドネシアは他民族・他宗教国家であるため、一括りに「インドネシア人」として扱うのが難しい面もあります。
実際に技能実習生・特定技能外国人として雇用する際には宗教面などに配慮し、お互いの価値観を尊重しながら信頼関係を築くよう心がけましょう。