製造業は長く日本経済を支えてきた産業です。
しかし少子高齢化の影響を受け、現在製造業では人手不足が叫ばれています。
こうした問題を外国人材によって解決することを目的として制定された特定技能制度では、製造業に該当する「素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業」も対象産業として定められています。
この記事では製造3分野とされる「素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業」の概要及び在留資格1号と2号の違い、製造業における従来の技能実習制度などについて解説します。
目次
特定技能「素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業」とは
現在日本では少子高齢化の進行を受け、国内のさまざまな産業で人手不足が叫ばれています。特定技能制度はこうした問題を海外の人材によって解決することを目的として2019年に施行された制度です。
製造業は長く日本経済を支えてきた産業ですが、その製造業でも現在は人手不足が著しく、こうしたことから製造業は制度の制定当初から対象産業に含まれています。
ただし、制定当初は製造3分野として素形材産業分野、産業機械製造業分野、電気電子情報関連産業分野に分かれていましたが、2022年に統合され、現在は一つの分野として扱われています。
経済産業省の管轄
特定技能の12産業分野はそれぞれ関連省庁の管轄下に置かれており、製造業である「素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業」分野は経済産業省が管轄しています。
従って「素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業」として特定技能外国人を雇用する企業は経済産業省が管轄する製造業協議会に加入し、その方針に従うことになります。
産業機械製造業の在留資格認定証明書の一時交付停止と2022年の統合
2019年に始まったコロナ禍ではさまざまな産業が大きな影響を受けることになりましたが、製造業もまたその中の一つです。
人々の生活が大きく変化したことによって半導体装置や産業用ロボットの需要が高まり、製造業は急激な人手不足に見舞われました。
その結果、特定技能外国人の需要が高まり、2022年2月末には当時はまだ独立した産業分野だった産業機械製造業分野での受け入れ人数が5,400人になり、受け入れ見込み数だった5,250人を超えてしまいます。
これを受け、2022年4月、当時の産業機械製造業分野では特定技能の在留資格認定証明書の交付が一時停止されることになりました。
一方で、当時の現場からは製造3分野が特定技能制度において異なる産業分野として扱われることによる弊害について指摘する声もありました。
こうした問題を解決するために、2022年5月に製造3分野は「素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業」として統合されることになります。
「素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業」はさらに以下の3つの区分に分類される
特定技能制度において「素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業」はさらに以下の3つの区分に分類されます。
機械金属加工区分
素形材製品や産業機械等の製造工程に関わる作業
従事する主な業務
- 鋳造
- 鍛造
- ダイカスト
- 機械加工
- 金属プレス加工
- 鉄工
- 工場板金
- 仕上げ
- プラスチック成形
- 機械検査
- 機械保全
- 電気機器組立て
- 塗装
- 溶接
- 工業包装
想定される関連業務の例
- 原材料・部品の調達・搬送作業
- 各職種の前後工程作業
- クレーン・フォークリフト等運転作業
- 清掃・保守管理作業
電気電子機器組立て区分
電気電子機器等の製造工程、組立工程に関連する作業
従事する主な業務
- 機械加工
- 仕上げ
- プラスチック成形
- プリント配線板製造
- 電子機器組立て
- 電気機器組立て
- 機械検査
- 機械保全
- 工業包装
想定される関連業務の例
- 原材料・部品の調達・搬送作業
- 各職種の前後工程作業
- クレーン・フォークリフト等運転作業
- 清掃・保守管理作業
など。
金属表面処理区分
表面処理等の作業
従事する主な業務
- めっき
- アルミニウム陽極酸化処理
想定される関連業務の例
- 原材料・部品の調達・搬送作業
- 各職種の前後工程作業
- クレーン・フォークリフト等運転作業
- 清掃・保守管理作業
など。
参考:特定技能1号の各分野の仕事内容(Job Description)|出入国管理庁
1号の在留資格取得のための技能試験
特定技能の在留資格を取得するためには、各産業ごとに設けられた技能試験に合格することと、日本語試験によって相応の日本語能力を有することを示さなければなりません。
以下ではまず、素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業での特定技能の在留資格取得に必要な技能試験について解説します。
技能試験は業務区分ごとに設けられている
技能試験は、産業分野ごとに存在する業務区分ごとに分けて設けられています。
機械金属加工区分に含まれる技能
鋳造、鍛造、ダイカスト、機械加工、金属プレス加工、鉄工、工場板金、仕上げ、プラスチック成形、機械検査、機械保全、電気機器組立て、塗装、溶接、工業包装
電気電子機器組立て区分に含まれる技能
機械加工、仕上げ、プラスチック成形、プリント配線板製造、電子機器組立て、電気機器組立て、機械検査、機械保全、工業包装
金属表面処理区分に含まれる技能
めっき、アルミニウム陽極酸化処理
試験概要
素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業の技能試験はコンピューター・ベースド・テスティング(CBT)方式で実施されます。
これは試験会場でコンピュータを使用し、試験を受験する方式です。受験者は試験問題をコンピュータ上で回答することになります。
また、試験の実施者も採点や合否判定などがスムーズにできるだけでなく、問題の印刷等試験実施にかかるコストを大幅に削減できるというメリットがあります。
受験場所
日本国内
国内各地の試験会場
日本国外の実施地域
- バングラデシュ
- カンボジア
- インド
- インドネシア
- モンゴル
- ミャンマー
- ネパール
- フィリピン
- スリランカ
- タイ
- ウズベキスタン
- ベトナム
年間実施回数
3回
2号との違い
特定技能の在留資格には1号と2号があり、2号は1号よりもさらに熟練した技術を持ち、管理業務等も任せられる在留資格です。
制度の施行当初、2号の在留資格が認められていたのは「建設」と「造船・舶用工業」のみでしたが、現在は拡大され「素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業」でも2023年から2号の在留資格が設けられました。
特定技能2号の在留資格を取得すると、在留資格の更新回数に制限がなくなり、要件を満たすことで家族の帯同も可能になります。
さらに1号では永住権を取得することは認められませんが、2号であれば要件を満たせば可能になるといった違いがあります。
取得のためのルートは2つ
「素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業」では特定技能2号の在留資格を取得する上でのルートが2つ存在します。
まず「日本国内に拠点を持つ企業の製造業の現場における3年以上の実務経験を有すること」という両方のルートに共通する条件があります。
特定技能2号評価試験ルート
2つあるルートのうち1つは「特定技能2号評価試験ルート」と呼ばれるもので、以下の3つを全て満たすことが求められます。
- ビジネス・キャリア検定3級取得 (生産管理プランニング区分、生産管理オペレーション区分のいずれか)
- 製造分野特定技能2号評価試験の合格 (機械金属加工区分、電気電子機器組立て区分、金属表面処理区分のいずれか)
- 日本国内に拠点を持つ企業の製造業の現場における3年以上の実務経験を有すること
技能検定ルート
もう一つのルートは「技能検定ルート」と呼ばれるもので、以下の2つの条件を全て満たすことが求められます。
- 技能検定1級取得 (鋳造、鍛造、ダイカスト、機械加工、金属プレス 加工、鉄工、工場板金、めっき、アルミニウム陽極 酸化処理、仕上げ、機械検査、機械保全、電子 機器組立て、電気機器組立て、プリント配線板製 造、プラスチック成形、塗装、工業包装のいずれか)
- 日本国内に拠点を持つ企業の製造業の現場 における3年以上の実務経験を有すること
在留資格「特定技能」を取得するための日本語試験
「素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業」の産業分野に限らず、特定技能の在留資格を取得するためには相応の日本語能力を有していることを示さなければなりません。
以下では在留資格取得にあたって日本語能力の指標となる日本語試験について解説します。
在留資格取得にあたって求められる日本語水準
特定技能の在留資格を取得するには、「生活や業務に必要な日本語能力」を有していることが求められます。
具体的には、
- ややゆっくりと話される日常的な会話(買い物や家族情報、近所や仕事での話など)の内容をほぼ理解できる。
- 基本的な語彙や漢字が使われた身近な話題の文章を読解できる。
日本語試験は2種類ある
日本語能力の指標として扱われる日本語試験には
- 日本語能力試験(JLPT)
- 国際交流基金日本語基礎テスト(JFT)
日本語能力試験の場合はN4以上、国際交流基金日本語基礎テストの場合はA2レベル以上を取得することが求められます。
2号の取得の際には不要
特定技能1号の在留資格取得の際には相応の日本語能力があることを示す必要がありますが、2号を取得する場合は原則として日本語試験の受験は不要です。
製造業における従来の技能実習制度
現在日本では、さまざまな産業で外国人労働者の活躍が目立っていますが、製造業は国内産業の中で最も多くの外国人労働者を受け入れている産業と言われています。
外国人の日本での労働に関する制度として、特定技能に先立ち実施されていた技能実習制度を取り入れ、実習生を受け入れている企業は製造業には非常に多いです。
しかし、技能実習制度はあくまでも日本の技術を母国帰国後に活かしてもらうことを目的とした制度です。人手不足の解消を目的として活用することは制度の主旨に反することになります。
また、技能実習は期間が3年~5年と定められていることから、長期的に人材を確保するには不向きな面があります。
技能実習制度の廃止と新制度「育成就労」
本来の目的は国際貢献である技能実習制度は、人手不足の解消のために活用することは認められていません。
しかし、実際には人手不足の解消目的で活用されていることも多く、本来の制度の目的と活用の実態にずれが生じているのも事実です。
こうした本来の制度の主旨と実態の乖離を解消し、外国人労働者と日本の産業の両者がメリットを享受できるようにするため、技能実習制度に代わる新たな制度「育成就労」が設けられることになりました。
育成就労制度は人手不足の解消と人材の育成の両方を目的とする制度となっています。
特定技能1号への移行を前提とする在留資格でもあるため、従来の技能実習では2号としての実習期間を終えると母国に一定期間帰国しなければならなかったのが、育成就労制度では帰国を経ず特定技能1号の在留資格の取得ができることになります。
製造業で特定技能を雇用する際に便利なオンラインクラウドツール「dekisugi」
日本人を雇用する場合とは異なる手続きや対応が求められるため、特定技能を雇用する場合関連業務が大幅に増え、担当者の負担となるケースが存在します。
「dekisugi」はこうした特定技能雇用関連の業務を簡略化し、負担を大幅に軽減させるオンラインクラウドツールです。
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まとめ
製造業は長く日本経済を支えてきた産業ですが、進行する少子高齢化の影響を受け深刻な人手不足が叫ばれる産業でもあります。
一方で外国人を雇用することには日本人の雇用にはないメリット・デメリットが存在します。
健全に特定技能など外国人材を活用し、産業を再活性化させるためにも、制度を適切に活用するよう心がけましょう。