少子高齢化の影響で、若い労働力は慢性的に不足しています。
そこで政府は2019年4月に在留資格「特定技能」を新設しました。
特定技能「建設」であれば、日本語の読み書きや、建設業に関する知識が問われる学科試験と、実際に建設現場で作業する能力が問われる実技試験にパスすれば取得が可能です。
取得後は即戦力として、現場で活躍できます。
この記事では、そんな建設業界の労働力不足を解決する特定技能「建設」について、基礎から解説をしていきます。
特定技能「建設」の基礎知識
2019年4月に、外国人労働者を受け入れやすくする制度「特定技能」が始まりました。
建設業ではすでにこの制度を利用して、人手不足解消のために積極的に外国人労働者を受け入れています。
この特定技能は12分野あり、外国人労働者の技能レベルや経験に応じて、1号と2号の2つに分かれています。
特定技能1号は建設現場で働くための、一定の知識を持つ外国人労働者が対象です。
特定技能2号は、それ以上の高度な知識や経験を持つ外国人労働者が対象となっています。
取得のための学歴などは不要で、試験にパスすれば問題ありません。
この特定技能の導入後、建設業界では、急速に外国人労働者の受け入れを進めることができました。技能実習生とは違い、最低限の日本語がわかる即戦力のスタッフであるため、指示などがしやすく現場にスムーズに入っていけるためです。
建設業界の現状
建設業界に、そんな特定技能が導入された背景について、説明します。
加速する人手不足
建設業界全体が労働力不足で困っています。
実際2020年には、建設業の企業の半数以上が「従業員が不足している」と回答しました。
また、建設業の従業員の年齢層を見てみると、2009年には8.1%だった65歳以上の割合が、2019年には16.4%に増えています。つまり10年間で建設業の従業員の高齢化が急速に進んでいるのです。
この建設業の高齢化は少子高齢化に伴う現象なため、簡単に食い止めることはできません。
また若い労働力が年々減少しています。
その理由は、主に以下の3つです。
- 働く環境がきつい
- 働き方が現代の若者に合わなくなっている
- 若者が建設業に興味を持っていない
建設現場の仕事は、主に肉体労働で体育会系の雰囲気が強く、若者には馴染みにくいという声があります。
人手不足を解消するためには、建設現場で働く環境を整えることが重要です。
そのため例えば長時間労働や過重労働を減らすことで、建設現場で働く人が離職するケースを極力少なくするような努力をさまざまな企業が行ってきました。
ですが働きやすい環境を整えたとしても、建設業で働きたいと思う人は増えませんでした。
在留資格 特定技能1号と特定技能2号
そんな建設業界の人手不足解消のため導入された特定技能は、1号と2号にわかれています。
ざっくりとした違いは前述しましたが、以下になります。
特定技能1号:建設現場で働くための、一定の知識や経験がある
特定技能2号:それ以上の高度な知識や経験がある
より詳細には主に以下の5つの違いがあります。
- 在留期間の上限
- 永住権の要件を満たせる
- 求められる技能水準
- 外国人の義務的支援
- 家族帯同
以下で、順番に解説します。
在留期間の上限
まず在留期間が、1号と2号では全く異なります。
特定技能1号は最長5年までしか在留できませんが、特定技能2号は更新する限り上限なく在留できます。更新し続ければ実質的に永住が可能です。
永住権の要件を満たせる
永住権の取得のためには、10年間の在留が必要です。ですが技能実習と特定技能1号で在留した期間は、その10年に含めることができません。
一方で、特定技能2号の場合には、取得してから10年を超えると永住権の申請ができます。
求められる技能水準
特定技能1号は、ある程度の知識や経験があればよいのに対し、特定技能2号は、熟練した技能が求められます。
建設分野で言えば、特定技能1号はたとえば「指導者の指示・監督を受けながら配管加工・組立て等の作業に従事」するのに対し、特定技能2号は「複数の建設技能者を指導しながら、配管加工・組立て等の作業に従事し、工程を管理」するレベルまで求められます。
つまり建設の特定技能2号では、指導・管理の能力も必要です。
外国人の義務的支援
特定技能1号では外国人支援が必須です。
具体的には、
- 住居の確保
- 日常生活の最低限のサポート
- 日本語学習に関するサポート
などが必要です。
ですが2号では不要です。
家族帯同
特定技能1号では家族帯同ができません。
一方で、特定技能2号では、配偶者と子供を本国から呼び寄せることが可能です。
つまり特定技能2号の外国人労働者は、家族と一緒に日本で生活することができます。
取得すると、どんな仕事ができるのか
特定技能「建設」では、①土木区分、②建築区分、③ライフライン・設備区分の3区分で、外国人人材を採用することができます。
それぞれの区分で、どのような業務に従事できるのかを下記にまとめます。
土木区分
- 型枠施工
- コンクリート圧送
- トンネル推進工
- 建設機械施工
- 土工
- 鉄筋施工
- とび
- 海洋土木工
- その他(土木施設の新設、改築、維持、修繕に係る作業)
建築区分
- 型枠施工
- 左官
- コンクリート圧送
- 屋根ふき
- 土木
- 鉄筋施工
- 鉄筋継手
- 内装仕上げ
- 表装
- とび
- 建築大工
- 建築板金
- 吹付ウレタン断熱
- その他(建築物の新築、増築、改築若しくは移転、修繕、模様替又は係る作業)
ライフライン・設備区分
- 電気通信
- 配管
- 建築板金
- 保温保冷
- その他(ライフライン・設備の整備・設置、変更又は修理に係る作業)
取得するためには?
技能試験と日本語試験にパスする必要あり
建設分野の特定技能1号の取得のためには、技能試験と日本語能力試験の両方に合格する必要があります。
建設の特定技能1号の試験には、土木、建築、ライフライン・設備の3つの区分があり、1つの区分しか受験できません。
また日本語能力試験においては、国際交流基金 日本語基礎テスト、もしくは日本語能力試験で求められるラインをパスする必要があります。
受験資格
特定技能においては、受験資格として学歴などは一切要求されていません。
以下の2点のみです。
- 試験日に17歳以上であること
- 日本国内で試験を受験する場合には、在留資格があること
ちなみに2の在留資格は、短期滞在のものでも問題ありません。
技能試験
技能試験についての詳細をまとめます。
学科試験
試験時間は60分で、問題は30問です。
正しいか、正しくないかで回答する真偽法と、2~4択式の選択形式で出題されます。
合計の65%以上正解で合格です。
実技試験
実技試験の試験時間は、40分と少し短めに設定されています。
問題は20問で、出題形式は真偽法、2~4択式で出題されます。
こちらも合計の65%以上正解で合格です。
日本語試験
「日本語能力試験」と「国際交流基金日本語基礎テスト」のどちらかに合格する必要があります。
日本語能力試験(JLPT)では、N4レベル以上が必要です。
また国際交流基金日本語基礎テストの場合には、A2レベル以上が必要です。
技能実習生からの移行
本来、特定技能を取得するためには、試験が必須です。
ですが技能実習生から移行する方法もあります。
技能実習から特定技能への移行には以下の2つの条件があります。
- 技能実習2号を良好に修了していること
- 技能実習の職種・作業内容と、特定技能1号の業務に関連があること
技能実習を2号まで良好に3年間修了して、移行する特定技能1号の業務と関連があれば、試験は全て免除となります。また技能実習時と関連がない業務をしたい場合でも、技能実習2号を良好に修了している場合は日本語試験は免除されます。
採用方法について
採用するため、やらなければならないことについて説明します。
建設特定技能受入計画認定
建設分野の場合には、他の特定技能11業種とは外国人を採用する流れが若干異なります。
なぜなら建設特定技能受入計画認定を受ける必要があるためです。
この建設特定技能受入計画認定に、外国人労働者に支払う給料などについて記載します。その後、作成した建設特定技能受入計画認定を提出して、国土交通大臣の認定を受けます。
認定の審査基準は、一般社団法人 建設技能人材機構のホームページによると、以下の7点とされています。以下引用します。
- 受入企業は建設業法第3条の許可を受けていること
- 受入企業及び1号特定技能外国人の建設キャリアアップシステムへの登録
- JACへの加入及びJACが策定した行動規範(資料7参照)の遵守
- 特定技能外国人の報酬額が同等の技能を有する日本人と同等額以上、安定的な賃金支払い(月給制)、技能習熟等に応じた昇給
- 賃金等の契約上の重要事項を書面で事前説明(外国人が十分に理解できる言語)
- 1号特定技能外国人に対し、受入れ後、国土交通大臣が指定する講習・研修を受講させること
- 国又は適正就労監理機関((一財)国際建設技能振興機構(FITS))による受入計画の適正な履行に係る巡回指導の受入れ
より詳細を知りたい場合には、一般社団法人 建設技能人材機構のホームページをご参照ください。
上記内容の主な部分を噛み砕いて説明すると、
- 同一賃金同一労働
- 給与は月給制で支払う
- 建設キャリアアップシステムに登録している
- 1号特定技能の外国人の数が、常勤職員の数を超えていない
主だった部分として、上記4点がポイントとなります。
また企業は建設業の許可を取得して、一般社団法人建設技能人材機構(JAC)またはJAC正会員の建設業者団体に加入することが必要です。
義務的支援
また特定技能外国人を受け入れるには、義務的支援をする必要があります。
日本に初めてきている場合には、日本のルールがわからず言葉を話すこともできないため、物件の契約も困難です。
ですので義務的支援として住居を用意したり、電車の乗り方を教えたり、住居の近隣の案内をしたり、また給与を振り込む口座の開設の案内をしたりなど、さまざまな支援をしなければなりません。
受け入れ先企業の義務ですが、「登録支援機関」に委託することができます。
ノウハウがない場合には、「登録支援機関」に委託すると良いでしょう。
費用について
特定技能1号の外国人を雇用する際の費用は、採用するルートによって変わってきます。
まず建設業界では共通の費用として、「受入れ負担金」が発生します。
受け入れ先企業はJAC(一般社団法人建設技能人材機構)に毎月、「受入れ負担金」を支払う必要があります。
受入れ負担金は、以下の通りです。
海外試験合格者(JACが指定する海外教育訓練を受ける場合):年額24万円
海外試験合格者(JACが指定する海外教育訓練を受けない場合):年額18万円
国内試験合格者:年額16万5千円
試験免除者(技能実習2号修了者等):年額15万円
受け入れ負担金にプラスして、JACまたはJACの正会員である建設業者団体への会費がかかります。
JAC正会員は年会費36万円、賛助会員は年会費24万円です。
特定技能外国人の毎月の給与ですが、これは同一賃金同一労働のルールがあるため、毎月の給与は、日本人と同等以上でなければなりません。
またこのほかに、登録支援機関に委託するのであれば、委託費用が別途かかります。
まとめ
最後に全体の内容を簡単にまとめます。
建設業界の現状
加速する人手不足
建設業界全体が労働力不足です。
実際2020年には、建設業の企業の半数以上が「従業員が不足している」と回答しました。
また2009年には8.1%だった65歳以上の割合が、2019年には16.4%に増えています。
また若い労働力が年々減少しています。
在留資格 特定技能1号と特定技能2号
特定技能1号は建設現場で働くための、一定の知識や経験を持つ外国人労働者が対象です。
特定技能2号は、それ以上の高度な知識や経験を持つ外国人労働者が対象となっています。
取得するためには?
技能試験と日本語試験にパスする必要あり
建設分野の特定技能1号の取得のためには、技能試験と日本語能力試験の両方に合格する必要があります。
採用方法について
建設特定技能受入計画認定
建設特定技能受入計画認定を受ける必要があります。
この建設特定技能受入計画認定に、外国人労働者に支払う給料などについて記載します。その後、作成した建設特定技能受入計画認定を提出して、国土交通大臣の認定を受けることが必要です。
義務的支援
義務的支援として、住居を用意したり、電車の乗り方を教えたり、住居の近隣の案内をしたり、また給与を振り込む口座の開設の案内をしたりなど、さまざまな支援をしなければなりません。
受け入れ先企業の義務ですが、「登録支援機関」に委託することができます。
費用について
同一賃金同一労働のルールがあるため、毎月の給与は、日本人と同等以上でなければなりません。
そして受け入れ負担金と、JACまたはJACの正会員である建設業者団体への会費がかかります。