日本では、少子高齢化の急速な進行により、要介護高齢者の人数が増え続けています。その一方で、要介護高齢者の介護を担う人材の不足問題が生じているのです。少子高齢化による“要介護高齢者の急増”と“介護人材の不足”が今後も進むことが予測されている日本では、外国人労働者の雇用を積極的に促進しています。本記事では、外国人労働者を雇用するうえで欠かせない4つの制度や、外国人労働者を雇用するメリット・デメリットについて解説します。
目次
日本の介護施設が外国人労働者を必要としている背景
日本の介護施設・介護事業所のほとんどが、深刻な人手不足に悩んでいます。少子高齢化の日本では、介護の担い手となる若年世代が少なく、外国人労働者を雇用することで人手不足の解消を目指そうとしているのです。ここからは、日本の介護施設が外国人労働者を必要としている背景について、詳しく説明していきます。
介護業界がかかえる人手不足の状況とは?
日本の介護業界では、深刻な人手不足問題をかかえているのが現状です。その原因として、以下のような点が挙げられます。
・高齢化により、高まっている介護サービスの需要に供給が追いついていない
・少子化により、介護の担い手となる若年世代が減少傾向にある
・介護職の給料は、全産業の平均給与額と比較すると低い傾向にある
とくに、介護業界の人手不足の原因となっている“介護職の給料の安さ”については、介護職員処遇改善加算を導入し、国を挙げて問題解決に取り組んでいます。しかし、それらの加算が介護職の給料アップに反映されていないケースもまだまだ多く、介護職の人員確保も追いついていないのが現状です。
2023年現在の外国人労働者の受け入れ状況
厚生労働省が公表している「介護分野における外国人の受け入れ実績等」によると、2023年時点の介護業界における外国人労働者の受け入れ状況は、以下の通りです。
資格名 | 在留者数 |
---|---|
EPA介護福祉士・候補者 |
3,257人(うち資格取得者635人) ※2023年1月1日時点 (国際厚生事業団調べ) |
在留資格「介護」 |
5,339人 ※2022年6月末時点(入管庁調べ) |
技能実習 |
15,011人 ※2022年6月末時点(入管庁調べ) |
特定技能 |
17,066人 ※2023年1月末時点(入管庁調べ) |
日本では、介護業界の深刻な人手不足問題を解決するため、外国人労働者の雇用制度を整備しています。とくに、2008年から施行された「EPA」は、外国人労働者を雇用するための代表的な制度の1つです。「EPA」とは、経済連携協定の略称で、経済交流や連携強化の一環として、介護人材の候補者を海外から受け入れる制度です。EPAにより、日本で介護職として働く外国人労働者の人数は年々増加傾向にあります。 2008年からEPAによるインドネシアからの外国人労働者の受け入れが始まり、2009年にはフィリピン、2012年にはベトナムと、受け入れ国も増え続けてきました。特別養護老人ホームや介護老人保健施設、介護療養型施設、有料老人ホーム、グループホーム、デイサービスなど。日本全国にある804ヵ所の介護施設で、EPAによる外国人労働者の受け入れ実績があります。
日本の介護施設が外国人労働者を雇用するための4つの制度
日本の介護施設が外国人労働者を雇用するために、以下の4つの資格制度が設けられています。
・在留資格「介護」
・「特定活動(EPA介護福祉士)」
・「技能実習」
・「特定技能1号」
ここからは、それぞれの資格制度のしくみや概要について解説していきます。外国人労働者の雇用を検討されている方は、必ずご確認ください。
在留資格「介護」
在留資格「介護」とは、2017年9月1日に創設された、外国人労働者の在留資格です。外国人労働者には、一般的に、日本に在留する期間が定められています。その点、在留資格「介護」には、在留期間更新の制限がありません。在留資格「介護」は、日本語能力試験でN2以上に合格することが取得条件です。外国人労働者が在留資格「介護」を取得する方法は、以下の2つです。
・日本の介護福祉士養成校に通い、介護福祉士の資格を取得すること
・「技能実習」や「特定技能」などで日本へ入国後、日本の介護施設で3年以上の実務研修
を積み、介護福祉士の資格を取得すること
日本語能力試験と介護福祉士国家試験に合格した外国人労働者が取得できる資格のため、日本の介護現場で即戦力として活躍することが期待されます。
「特定活動(EPA介護福祉士)」
「特定活動(EPA介護福祉士)」とは、インドネシア・フィリピン・ベトナムの介護人材を育成し、経済連携を強化するための資格制度です。「特定活動(EPA介護福祉士)」では、母国の看護学校や看護過程を卒業した外国人労働者が日本の介護施設・介護事業所で即戦力となって働きます。「特定活動(EPA介護福祉士)」は、日本で介護福祉士の国家資格を取得することが目的です。そのため、入国4年目の介護福祉士国家試験に不合格だった場合、母国に帰国しなければなりません。介護福祉士国家試験に合格した場合、在留資格「介護」の資格制度に移行するため、日本で永続的に働くことが可能です。
「技能実習」
「技能実習」とは、発展途上国を中心とする海外へ、日本の介護知識・技術を伝授していくことが目的の資格制度です。「技能実習」には1・2号合わせて3年の在留期間がありますが、技能実習評価試験・専門級に合格することでプラス2年(3号)、通算5年間の実習を行うことができます。しかし、実績を積んでいる監理団体からの紹介でない限り、5年間の技能実習をすることは一般的には認められていません。在留期間後は母国へ帰国し、日本で学んだ介護知識・技術を伝えます。「技能実習」では、訪問介護事業所に従事することは原則禁止とされています。さらに、「技能実習」では日本語能力の向上も必要です。入国時の日本語能力の要件はN4ですが、1年後にはN3に向上することが必要条件です。ただし、学習計画を提出することで2年間は就労し続けることができます。
「特定技能1号」
「特定技能1号」とは、人手不足が深刻化している業界・業種に人材を補うことが目的の資格制度です。介護業界も、人手不足が深刻化している業界・業種の1つとして認められています。特定技能には1号と2号の2つがあり、その違いは以下の通りです。
・「特定技能2号」:在留期間に制限なく日本で永続的に働くことができます。
・「特定技能1号」:5年の在留期間内であれば、日本で働くことができます。
現時点では、介護業界では、在留期間に制限がない「特定技能2号」を雇用することは認められていません。介護業界では、5年の在留期間がある「特定技能1号」のみ雇用できます。「特定技能1号」の在留資格を得た外国人労働者が在留期間を無制限に延長するには、介護福祉士国家試験に合格し、在留資格「介護」に移行する必要があります。「特定技能1号」も「技能実習」と同様に、訪問介護事業所での労働が認められていません。
「特定技能1号」を雇用する流れ
日本の介護施設が「特定技能1号」を受け入れるまでの流れは、外国人労働者が日本在住か否かによって異なります。外国人労働者の在留状況による、受け入れの流れは、それぞれ以下の通りです。
・日本語能力と特定技能試験に合格する、もしくは技能実習2号を修了する
・在留資格変更許可の申請をおこなう
・日本の介護施設に入社する
・日本語能力と特定技能試験に合格する
・在留資格認定証明書の交付申請をおこなう
・外国人労働者が日本に来日する
・日本の介護施設に入社する
日本在住の外国人労働者を特定技能1号として受け入れる場合、実際の勤務開始までに要する準備期間は約3ヶ月~4ヶ月です。一方で、海外(母国)在住の外国人労働者を特定技能1号として受け入れる場合、実際の勤務開始までに要する準備期間は約5ヶ月~7ヶ月です。採用者は、外国人労働者の在留状況によって、勤務開始までの準備期間が異なることを理解しておく必要があります。
外国人労働者を雇用するメリット
日本の介護施設で外国人労働者を雇用することには、どのようなメリットがあるのかと悩む方も少なくありません。ここからは、外国人労働者を雇用するメリットを3つご紹介します。
介護人材の不足が解消できる
日本は少子高齢化問題をかかえているため、要介護高齢者の人数に対して、介護の担い手となる若年世代が少ない傾向にあります。外国人労働者を雇用することで、介護現場の人手不足を解消し、より高品質な介護サービスを提供できるようになります。
若い労働者が獲得できる
日本の介護施設では、30代〜50代の介護職が多く活躍しています。少子化により、若い労働力の確保が難しいことが背景要因にあるからです。しかし、外国人労働者を雇用することで、20代や30代の若い労働力の獲得が比較的容易にできるようになる点が最大のメリットです。
地域を問わずどの介護施設でも人材が集まる
都心部から離れた地域や離島など、高齢者が多いものの、若年世代が少ないという地域でも、採用が比較的簡単におこなえるという利点があります。外国人労働者の中には、もともと離島や高齢者の多い地域で育った方も多いため、地域を問わずどの介護施設でも人材を集められる可能性があります。
外国人労働者を雇用するデメリット・課題
日本の介護施設で外国人労働者を雇用することには豊富なメリットがある一方で、デメリットや課題も存在します。ここからは、外国人労働者を雇用することのデメリットや課題について、3つご紹介します。
言語がうまく通じない場合がある
利用者様の中には、方言を使われる方も多くいらっしゃいます。外国人労働者は方言が理解できていない方も多いため、勘違いで間違った対応をしてしまう可能性があります。外国人労働者を雇用する場合は、日本人の介護職による見守りが欠かせません。
在留期限があるため長期雇用が難しい
在留資格「介護」以外の在留資格をもつ外国人労働者には、在留期限があります。時間をかけて教育しても、長く働いてもらうことができないことが課題です。長く働ける人材を探している場合は、在留期間の制限がない在留資格「介護」を取得した外国人労働者に来てもらう必要があります。
教育・指導の負担が大きい
外国人労働者を雇用するには、写真付きのマニュアルを用意したり、教育担当となった介護職に教育や指導の方法を教えたりする必要があります。教える側の準備が大変なため、「これなら時間がかかっても日本人の人材を集めた方がいいかも…」と考えてしまう方も少なくありません。
外国人労働者の受け入れに困った時は
人手不足の解消に向けて、日本では多くの介護施設で外国人労働者の受け入れをおこなっています。その一方で、言葉の壁や文化の違いに直面し、うまく仕事が進まないという事態に直面することも少なくありません。ここからは、外国人労働者の受け入れにこまったときの対処法を2つご紹介します。
まずは受け入れ態勢を整える
日本の介護施設で外国人労働者を受け入れるには、まずは受け入れ態勢を整える必要があります。受け入れ態勢が整っていないことで、外国人労働者が働きにくさを感じたり、人間関係のトラブルにつながってしまったりする可能性が高くなります。外国人労働者が働きやすい職場環境づくりの一例は、以下の通りです。
・悩みや相談を話しやすい職場の雰囲気を作る
・外国人労働者への教育や指導の仕方をマニュアルで統一する
・利用者様やご家族の方、地域の方々が、外国人労働者と交流する機会を設ける
日本人と外国人では、使用する言語以外にも、ものごとの考え方や文化、慣習など、異なる点がいくつも生じるのは当たり前のことです。そのため、「このくらい言わなくてもいいだろう」という考えで仕事を進めると、思わぬ意見や考えの食い違いが生じてしまう可能性があります。外国人労働者を受け入れるためには、教育の仕方や業務上のルールをマニュアル化したり、利用者様やご家族の方の理解を得たりと、さまざまな準備が必要です。
必要に応じて補助金の活用を
外国人労働者を受け入れるには、人件費や資格取得支援などのコストがかかります。公益財団法人東京都福祉保健財団では、外国人介護従事者の受け入れに役立つ4つの補助金制度を実施しています。
・介護施設などによる外国人介護職員とのコミュニケーション促進支援事業
・介護施設などによる留学生受入れ支援事業
・経済連携協定にもとづく外国人介護福祉士候補者受入れ支援事業
・外国人技能実習制度にもとづく外国人介護実習生の受入れ支援事業
外国人介護従事者の雇用を検討している方は、ぜひ、補助金制度やセミナー会について公益財団法人の公式サイトをご確認ください。
まとめ 外国人労働者の受け入れに悩んだらまずは制度を理解しよう
人手不足に悩み、外国人労働者の受け入れを検討している介護施設は多くあります。外国人労働者の雇用に踏み切る前に、まずは資格制度の理解が必要です。また、受け入れ態勢が十分に整っていないと、外国人労働者を雇用後、人間関係のトラブルが生じてしまう可能性が考えられます。外国人労働者を受け入れるメリットやデメリット、注意点を事前によく調べてから検討することが大切です。