身分系の在留資格である定住者は、特定技能や技能実習などの就労系の在留資格とは異なり就労制限がなく更新制限もありません。従って長期間雇用することが可能です。
さらにパートやアルバイトなどの雇用形態にも縛りがありません。
一方で身分が変わることによって在留資格を維持できなくなる可能性があるだけでなく、複雑な事情を抱えている人が多い在留資格でもあります。
この記事では在留資格「定住者」の概要を解説し、特定技能や技能実習を雇用する場合との違いを解説します。
在留資格「定住者」とは
在留期間
在留資格には技能実習や特定技能など就労系のものと、身分系のものが存在します。そうした中で「定住者」は身分系の在留資格に含まれます。
定住者の取得条件は幅広く、政策的理由や人権・人道上の配慮によるものも存在するため全体を把握するのは非常に困難です。
就労に関する制限がないため、特定技能や技能実習などの就労系の在留資格のように業務範囲や雇用形態などに配慮する必要はありません。
一方で定住者ではなくなるなどのリスクは存在するため、雇用する企業は本人が定住者の在留資格を取得している理由を理解する必要があります。
在留期間
在留期間は6ヵ月・1年・3年・5年のパターンがあり、在留期間は個々の外国人に対して法務大臣が指定します。
定住者として1年以上の在留資格を持つ外国人であれば、その配偶者もまた定住者としての在留資格の取得が認められます。そのため特に配偶者がいる外国人の場合は1年以上の在留資格を取得することが望ましいです。
取得のポイントは日本との結びつき
定住者の在留資格の取得要件のポイントは日本との何らかの結びつきの有無です。
具体的には日系人や、日本人や永住外国人と結婚したものの配偶者と離婚・死別した場合などが挙げられます。
また、定住者の中には難民など複雑な事情を抱えている人も少なくありません。
さらに加えて素行に問題がないことも在留資格取得をするにあたって重要になってきます。
在留資格の更新は必須
永住者には在留期間というものは設けられておらず、在留資格の更新も必要ありません。
一方で定住者は在留期間があり、期限がくる前に更新しなければならないという違いがあります。
在留資格の更新等の手続きは基本的には本人が行いますが、もし在留資格の内容に疑わしい点があることに気づきながらも雇用を続けた場合は不法就労を助長したとみなされる恐れがあります。
定住者に限らず全ての外国人は、雇用する際に必ず在留資格の期限および活動範囲等を確認するようにしましょう。
「永住者」とは?「定住者」との違い
在留資格「永住者」の概要
永住者は永住権を取得した外国人であり、在留期間や活動範囲に制限のない在留資格です。
取得条件には、
- 素行が善良であること。
- 自身で生計を立てる資産や技術を有すること。
- 他に本人が日本に在留することが日本にとって利益であることが認められること。
など、複雑で厳しい条件が設けられています。
「帰化」と混同してしまう人も少なくありませんが、帰化と永住者は異なるものであるため注意が必要です。
帰化は日本国籍を取得することを指すものであるため、在留資格制度から外れることになります。
一方で永住者はあくまでも国籍はそのままで日本で生活することができる在留資格です。活動範囲や在留期限が設けられていないものの、国籍は日本ではないため雇用などの場では外国人として扱う必要があります。
その他就労に制限のない在留資格
定住者と永住者は就労に制限がない在留資格となっています。これらの在留資格を持つ外国人であれば活動範囲を気にすることなく雇用できます。
さらに「日本人の配偶者等」、「永住者の配偶者等」の在留資格を持つ外国人も活動範囲に制限がありません。あくまでも国籍は外国人ではありますが、日本人とほぼ同様に雇用することができる在留資格です。
現在就労に制限のない在留資格は定住者、永住者、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等の4つとなっています。
定住者の例
定住者には大きく分けて「告示定住者」と「告示外定住者」があります。
「告示定住者」は国があらかじめ出している告示で正式に認められている定住者である一方で、「告示外定住者」は告示には書かれていない特別な事情がある場合の定住者です。
さらに告示外定住者はすでに日本にいる人のみが取得できる在留資格です。従ってどんな理由があったとしても日本に呼び寄せる形では取得できないということになります。
告示定住者
概要としては日系人二世や三世や、日本人や定住者として1年以上の在留資格を持つ外国人の配偶者およびその実子・養子などが該当します。
また、インド、インドネシア、カンボジアなどからの第三国定住難民、中国残留邦人やその配偶者・実子・養子も告示定住者として在留資格の取得が認められます。
告示外定住者
告示外定住者にはさまざまなものがあるため、一概に分類することができません。
以下では告示外定住者の一例を紹介します。
難民
日本は難民認定申請が認められにくい国ですが、もし無事認定を受けた場合は定住者の在留資格が付与されます。
離婚や死別などによるもの
定住者や永住者、日本人の配偶者として在留資格を取得したものの配偶者と離婚・死別した場合も「告示外定住者」となります。
これは告示外定住者の中でも比較的多い事例です。
離婚・死別した場合、原則としては配偶者としての身分を失うことになりますが、夫婦生活があった期間や、生活していけるだけの収入や財産があること、一定水準以上の日本語能力があること、納税などの公的義務を行っていることなどの条件を満たしている場合は例外として認められることになります。
ただし、雇用する側が「告示外定住者」として認められるかどうかの判断ができるわけではないため、配偶者として定住者の在留資格を持っている人を雇用する場合は在留資格を失うリスクについて考慮することをおすすめします。
日本で10年以上教育を受けた子弟
例えば就労系の在留資格を持つ外国人の家族の子供で、義務教育(小学校3年以降)から高校まで10年以上日本で教育を受けている場合は在留資格を定住者に変更することが認められます。
「日本で働く外国人の子供」として日本で生活するためには、家族滞在の在留資格を取得することになります。しかし学校を卒業し、自立した場合はその在留資格を失うことになります。
こうしたことから従来は子供は適切な在留資格を取得するか、本国に帰国するしかありませんでした。
しかし告示外定住者として定住者の在留資格を取得できるようになったことにより、日本で育った外国人の子供は卒業後も日本で生活を続けることができることになりました。
定住者は雇用できる?
定住者は活動範囲に制限が設けられていません。
従ってどんな業種の仕事でも雇用することができます。
例えば技能実習や特定技能のみが就労が認められているような業種であっても定住者であれば就労することができます。
また、正社員だけでなく派遣やパート・アルバイトでも雇用できるなど、雇用形態にも制限がありません。副業としての雇用も可能です。
さらに本人の学歴・職歴・資格などによる縛りもありません。
就労系の在留資格の場合人材の配置転換に際して在留資格に配慮しなければならない場合もありますが、定住者であればそうした配慮も必要ありません。
日本人とほぼ同様に雇用できるため、雇用する側としては扱いやすい在留資格と言えます。
定住者を雇用する場合のポイント
日本人とほぼ同様の雇用が可能な在留資格「定住者」ですが、在留資格制度に則った上で雇用する必要があります。
誤った認識のまま雇用してしまうと罰せられる恐れもあるため、定住者だからといって何も考慮しなくてもいいというわけではありません。
以下では定住者を雇用する場合のポイントをいくつか紹介します。
「定住者」でなくなるリスクがある
定住者は身分系の在留資格であるため、身分を維持できなくなった場合は在留資格が認められなくなるリスクがあります。
例えば日本人や外国人定住者の配偶者として定住者の在留資格を持っている人が、配偶者と離婚・死別した場合などが該当します。この場合引き続き定住者としての在留資格を維持できるケースも存在しますが、そうではないケースもあるため雇用する側はそのリスクを意識する必要があります。
また、収入や財産状況によっては定住者として在留資格を更新できなくなることもあります。さらに犯罪や違法行為、税金の滞納なども更新できなくなる要因となるため注意が必要です。
長期での海外出張などによって在留資格取得要件を満たさなくなる可能性がある
雇用形態や業務内容などに縛りのない在留資格であるものの、海外出張が多い業務内容である場合などは注意が必要です。
日本から離れている期間が長すぎてしまうと、定住者の在留資格の取得要件を満たさなくなる恐れがあります。
雇用する側は仕事における海外滞在期間について配慮する必要があります。
家族の帯同
定住者の在留資格を持つ外国人は、一定の条件のもとで家族の帯同が認められています。
在留資格が1年以上ある場合は配偶者の帯同が可能になります。
さらに未成年かつ未婚の実施であれば「定住者」として日本に呼び寄せることも可能です。
「難民」について
定住者を雇用する上で最も注意しなければならないのは「難民」です。
「難民」を名乗る人の中にはあくまでも自称であり正式に認められているわけではないという人も少なくありません。難民申請手続中の外国人は定住者ではないため在留カードには「定住者」ではなく「特定活動」と書かれます。
難民申請が認められることで難民としての定住が可能になりますが、日本はその申請が下りにくい国と言われています。
申請が不許可になった場合は帰国しなければならないため、難民申請手続中の外国人は非常に立場が不安定です。
雇用にはリスクがあるということを理解しましょう。
定住者にとっての「保証人」
定住者として日本で暮らす外国人を雇用すると、企業は本人や関係者から身元保証人になってほしいといった依頼を受けることがあります。
この場合の保証人とは借金の保証人のようなものではなく金銭的債務を負うものではありません。
「自分たちはこの人が日本の法律に則った生活ができる善良な人であることを知っている」
ということを第三者に証明するための存在です。
特定技能・技能実習を受け入れる場合との違い
以下では定住者を雇用する場合と、特定技能・技能実習を受け入れる場合との違いについて解説します。
特定技能・技能実習は就労に制限がある
特定技能・技能実習は就労系の在留資格であるため活動範囲が在留資格によって定められています。
従って企業は在留資格で定められた範囲内でしか雇用することができません。範囲を超えた場合は罰則の対象となることがあります。
例えば産業分野「製造業」として特定技能の在留資格を持った外国人を、在留資格の変更等をせず飲食店で雇用することは認められません。
定住者の場合はこうした在留資格の変更手続きをしなくても転職や人材の配置転換が可能です。
全ての外国人労働者は日本人と同等の待遇で雇用する必要がある
これは就労系・身分系に関係なく、全ての在留資格を持つ外国人にあてはまることですが、外国人だからという理由で給料を安く設定するなどの行為は認められていません。
給料および待遇を日本人と同等以上で雇用する必要があります。
定住者の場合は正社員ではなく派遣やアルバイト等の雇用形態でも就労が可能ですが、この場合も他の日本人労働者と同等の待遇で雇用しなければなりません。
パート・アルバイトとして雇用するのであれば「定住者」
特定技能・技能実習はパート・アルバイトとしての雇用が認められません。正社員・フルタイムでの直接雇用であることが求められます。
副業も認められていないため、「日中は本業で働いて夜の空いた時間は別の場所でアルバイトをする」といったこともできません。
パート・アルバイトなどの雇用形態として雇用するのであれば定住者の在留資格を持っている必要があります。
短期間での人材確保であれば「特定技能」を
定住者は更新が許可される限り在留資格を維持できます。そのため長期間での雇用を考えている場合は定住者が向いている可能性もあります。
一方で特定技能や技能実習の在留資格には在留期限や在留資格の制限が設けられています。
従って長期間の人材確保には特定技能や技能実習は向いていません。
また、技能実習は国際貢献を目的とした制度であり、人手不足の解消のための人材確保には不適切な制度です。
短期間での人材確保を目的とする場合は特定技能制度を利用するようにしましょう。
まとめ
定住者は就労系の在留資格と異なり、活動範囲の制限が設けられていません。そのため日本人を雇用する場合とほぼ同様の手続きで雇用できます。
雇用する側としては便利な反面、「定住者」を名乗る外国人の中には複雑な事情を抱えている場合もあるため実際に雇用する前には必ず在留資格を確認しましょう。