造船・舶用工業は、日本経済の基幹産業の一つです。近年、業界は、世界的な経済成長や海運需要の拡大を背景に、好調な業績を維持してきました。しかし2020年以降は、新型コロナウイルス感染症の拡大や原材料価格の高騰などにより、業績が悪化しています。
本記事では、現在の造船・舶用工業業界の現状について紹介します。
目次
業界の規模と生産量
世界経済の拡大に伴い、海上荷動き量は中長期的に拡大していくと予想されます。
なぜなら国際貿易がますます活性化していること、また人口増加による消費拡大などの要因があるからです。
この海上荷動き量の増加に伴い、造船・船舶工業の需要も当然増加します。
そして日本の造船・舶用工業は、世界でもトップクラスの実力です。船には、エンジンやポンプ、プロペラ、レーダーなど、様々な部品が必要ですが、どの分野でも競争力を有しており、世界中の豪華客船やタンカー、コンテナ船など、様々な船に使われています。実際平成28年には日本の船の部品の売り上げ、つまり舶用工業分野の日本国内の生産額は、約9,757億円にもなりました。
しかし人手不足に悩まされています。
舶用工業分野では、1,000以上の事業所で約48,000人の人が働いています。
造船業に従事する就労者は約80,000人と言われています。
これからも技術力を磨き、世界中の船を支えていく分野ですが、少子高齢化の影響で技術があっても人手が足りない状況が慢性化しています。
日本の船舶工業の特徴
日本製の船の部品は高い技術力で作られるため、世界で人気です。
その証左に、2016年の日本の船の部品の売り上げは9,757億円で、そのうち約4割にあたる3,870億円は、海外に輸出されています。
安全性や信頼性が高いと信頼されているため、豪華客船やタンカー、コンテナ船など、様々な船に使われています。
日本は主にエンジン、ポンプ、プロペラ、航海用機器などに強みを持っています。
エンジンは船を動かすための動力源で、ポンプは船内の水を汲み上げたり排水したりするために使われます。プロペラは船を前に進めるためのもので、航海用機器は、船の安全な航行を助けるためのものです。
主要な企業
造船・舶用工業業界の主要な国内企業は、以下の通りです。
- 商船:日本郵船、商船三井、川崎汽船
- 海洋構造物:東京電力ホールディングス、関西電力、東京ガス
- 海洋プラント:三菱重工業、IHI、JFEエンジニアリング
業界の課題
韓国・中国との競争激化
日本の船の部品は、世界でもトップクラスの実力を持っていますが、日本の生産額の9,757億円は、中国、韓国、欧州の生産額に負けています。
中国: 約3.1兆円(平成27年)
韓国: 約1.0兆円(平成27年)
欧州: 約7.2兆円(平成18~22年の平均)
韓国と中国は、国産化率向上政策を実施しています。
韓国は、2017年に「造船・海洋産業振興基本計画」を策定し、国産化率を2025年までに70%に引き上げる目標を掲げています。
中国も、2016年に「中国造船業発展戦略」を発表し、国産化率を2025年までに70%に引き上げる目標を掲げています。これらの政策は、両国の造船業の競争力を高め、世界市場でのシェアを拡大することを目的としています。
また欧州の船の部品会社は、中国や韓国と協力しています。
欧州の船の部品会社には、近年、中国や韓国での現地生産やライセンス供与を行うところが増えています。
なぜ中国や韓国と協力するのかというと、まずコスト削減です。
中国や韓国は人件費などが比較的安いため、コストを削減することができます。
また市場拡大を狙っていることも理由です。
中国や韓国は造船業が盛んで、大きな市場があります。
現地生産やライセンス供与を行うことで、これらの市場に参入することができるというわけです。
さらに中国や韓国の技術力を取り入れることで、自社の技術力を向上させることができます。
人材不足
続いての課題は、人材不足です。
近年日本の造船業では人手不足が深刻化しています。
これを解決するために、外国人材の活用が進んでいます。
2019年3月末時点の外国人就労者数は、造船分野で働く外国人就労者は2,873人でした。そのうち、約90%が溶接の仕事に従事しています。出身国は中国、フィリピン、ベトナムが90%以上を占めています。
また 外国人技能実習生は、2018年3月末時点で、5,471人でした。
外国人材の活用には、以下のようなメリットがあります。
・人手不足の解消:外国人材の活用により、人手不足を解消
・技術の継承:熟練工の高齢化が進む中、若い世代に技術を継承
・国際競争力の強化:外国人材の活用により、日本の造船業の国際競争力を強化
しかし同時に外国人人材活用には、以下のような課題があります。
・日本語能力:日本語能力が不足している外国人材
・生活環境:外国人材が安心して暮らせる環境整備
・文化の違い:文化の違いによるコミュニケーション問題
業界の展望
造船・舶用工業業界の展望は、以下の通りです。
- 脱炭素化の進展
- 海運需要の拡大
- 新技術の開発
順番に説明をしていきます。
脱炭素化の進展
脱炭素化の進展により、LNG燃料船や電気推進船などの需要が拡大すると予想されています。
地球温暖化対策の国際的な機運の高まりを受け、海運業界においても脱炭素化への取り組みが加速しています。従来の重油燃料に代わる、環境負荷の少ない次世代燃料船への注目度がますます高まっているのです。
実際、国際海事機関(IMO)は、2050年までに温室効果ガス排出量を半減、2030年までに排出量40%削減という目標を掲げています。この目標達成に向け、船舶燃料の脱炭素化は不可欠です。
その流れを受けて、LNG燃料船が注目されています。LNG燃料船は環境性能と経済性を両立できるからです。
LNG燃料船は、従来の重油燃料船と比較して、SOx、NOx、PM排出量を大幅に削減できます。CO2排出量も約20%削減でき、環境負荷低減に大きく貢献します。さらに、燃料費も重油燃料よりも安価になるケースがあり、経済性も兼ね備えています。
ですがLNG燃料船の普及は簡単ではなく、燃料タンクの安全性や燃料供給インフラの整備が課題です。
日本は、LNG燃料船と電気推進船の技術開発において世界をリードしています。政府は、LNG燃料船の普及に向けた支援策を講じ、燃料供給インフラの整備を進めています。
環境負荷低減と経済成長を両立する、持続可能な海運業界を目指すためには、技術開発と政策支援がますます重要になるでしょう。
海運需要の拡大
また業界全体の展望は非常に明るいと言われています。それは、世界経済の成長や、Eコマースの発展などにより、海運需要は拡大すると予想されているからです。
世界経済の成長は、商品やサービスの需要増加に繋がり、海運需要の拡大を促進します。またEコマースの発展は、オンラインショッピングの増加に繋がり、商品輸送量の増加に繋がります。特に、中国を中心としたアジア地域でのEコマース市場は急速に成長しており、今後も海運需要の拡大に大きく貢献すると予想されます。
それだけではなく、国際分業の深化も、海運需要の拡大に大きく寄与すると考えられています。国際分業の深化は、国境を越えた商品流通量の増加に繋がり、海運需要の拡大を促進するからです。特に製造業における国際分業は近年加速しており、今後も海運需要の拡大に影響を与えると予想されます。
新技術の開発
3DプリンティングやAIなどの新技術の開発により、生産性の向上や新たな製品の開発が期待されています。
3Dプリンティングは、従来の鋳造や切削加工とは異なり、デジタルデータを基に材料を積層して立体物を作る技術です。この技術を用いることで、以下のようなメリットが期待できます。
- 複雑な形状の部品製作: 従来の製造方法では難しかった複雑な形状の部品を、3Dプリンティングによって製作することができます。軽量化や高強度化など、設計の自由度が大幅に向上します。
- 生産性向上: 3Dプリンティングは、従来の製造方法よりも短時間で部品を製作することができます。また、工具や型枠などの必要が少なく、コスト削減にもつながります。
- 新たな製品開発: 3Dプリンティングによって、従来では実現できなかった新しい形状や機能を持つ製品を開発することができます。
またAIは、膨大なデータ分析やパターン認識などの能力を持ち、造船・舶用工業の様々な分野で活用が期待されています。
- 設計: AIは、船体の形状や構造を最適化し、燃費向上や安全性向上に貢献することができます。また設計作業の自動化による効率化も期待できます。
- 建造: 建造工程の管理や作業員の支援を行い、建造時間の短縮やコスト削減に貢献することができます。
- 運航:船舶の故障予測や最適な航路設定などを行い、安全運航や燃費向上に貢献することができます。
以上の3DプリンティングとAIを組み合わせることで、さらに革新的な進歩が期待されます。AIが設計データを生成し、3Dプリンティングで部品を製作するなど、製造工程の完全自動化も夢ではありません。
今後の課題
造船・舶用工業業界が今後も持続的な成長を実現するためには、以下の課題を克服することが重要です。
- 原材料価格の高騰の沈静化
- 人材不足の解消
また脱炭素化の進展や海運需要の拡大などの新たな潮流を捉え、新たな技術や製品の開発を進めていくことも重要です。
造船・舶用工業業界は日本の経済や社会を支える重要な産業であり、今後もその役割が期待されます。
まとめ
最後に記事の内容を簡単にまとめます。
業界の規模と生産量
世界経済の拡大に伴い、海上荷動き量は中長期的に拡大していくと予想されます。
国際貿易がますます活性化していること、また人口増加による消費拡大などが要因です。
日本の船舶工業の特徴
日本の船の部品は、高い技術力で作られるため、安全性や信頼性が高いと信頼されており、豪華客船やタンカー、コンテナ船など、様々な船に使われています。
日本は主にエンジン、ポンプ、プロペラ、航海用機器などに強みを持っています。
主要な企業
商船:日本郵船、商船三井、川崎汽船
海洋構造物:東京電力ホールディングス、関西電力、東京ガス
海洋プラント:三菱重工業、IHI、JFEエンジニアリング
業界の課題
韓国・中国との競争激化
韓国は、2017年に「造船・海洋産業振興基本計画」を策定し、国産化率を2025年までに70%に引き上げる目標を掲げています。
中国も、2016年に「中国造船業発展戦略」を発表し、国産化率を2025年までに70%に引き上げる目標を掲げています。
また欧州の船の部品会社は、中国や韓国と協力して、中国や韓国での現地生産やライセンス供与を行うケースが増えています。
人材不足
近年、日本の造船業では人手不足が深刻化しているため、外国人材の活用が進んでいます。
2019年3月末時点の外国人就労者数 2019年3月末時点では、造船分野で働く外国人就労者は2,873人、そのうち約90%が溶接の仕事に従事しています。
業界の展望
脱炭素化の進展
温室効果ガスの削減のため、LNG燃料船と電気推進船が注目されています。
日本は、LNG燃料船と電気推進船の技術開発において、世界をリードしています。政府は、LNG燃料船の普及に向けた支援策を講じ、燃料供給インフラの整備を進めています。
海運需要の拡大
世界経済の成長や、Eコマースの発展などにより、海運需要は拡大すると予想されています。
新技術の開発
3DプリンティングやAIなどの新技術の開発により、生産性の向上や、新たな製品の開発が期待されています。
今後の課題と展望
造船・舶用工業業界が今後も持続的な成長を実現するためには、①原材料価格の高騰の沈静化、②人材不足の解消が重要です。