育成就労は従来の技能実習制度に代わる新たな制度として2027年に施行される予定の制度です。
制度が切り替わることによって受入企業は長期的な人材や、日本語能力の高い人材の確保が可能になります。
また、日本が外国人材にとってより働きやすく魅力的な国になることも、制度を刷新する重要な目的の一つです。
この記事では技能実習・特定技能制度との比較を交えつつ新制度「育成就労」について制度の概要や移行までのスケジュール等を解説します。
目次
2027年に始まる「育成就労」とは
これまで多くの日本企業が、技能実習制度か特定技能制度を活用し、外国人材を雇用してきました。
しかし少子高齢化の進行に伴い、人手不足は各産業で年々深刻化しているだけでなく、技能実習制度は国際社会からも人権上のさまざまな問題を抱えているとの指摘を受けています。
こうした問題を解決することを目的として、令和6年6月21日に「出入国管理及び難民認定法及び外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律の一部を改正する 法律」が公布されました。
これによって今後技能実習制度が抜本的に見直され、「育成就労制度」が創設されることになりました。
育成就労制度の概要
育成就労制度は人材の育成と確保を両立させ、外国人が日本国内で長期的に働きやすくすることを目的として創設された制度です。
これによって外国人材は日本での3年間の就労を通じて特定技能1号の水準を身につけることが可能になります。
また、国際貢献という文脈がなくなり人材確保に重きがおかれることになります。
制度創設の背景
技能実習制度は国際貢献が目的の制度であるため、人手不足の解消を目的として活用することは認められていません。
また、人手不足の解消を目的として設けられた特定技能制度への在留資格の移行ハードルも高いとされており、技能実習制度は長期的な人材の確保に不向きな制度でした。
一方、技能実習生の中には多額の借金をした上で日本に来る人も少なくなく、人材の流通過程で人権に関わる問題も数多く発生しています。
さらに人材確保の各国間の競争は年々激化していることから、今後も外国人材から選ばれる国であり続けるための工夫や対応が一層求められます。
こうした問題を解決し、より働きやすい環境を整え外国人材にとって日本がより魅力的な国になるために、創設された制度が育成就労制度です。
制度の基本方針
育成就労制度では基本方針および適切な受入上限人数は産業分野ごとに定められます。
育成就労制度では技能実習制度における「技能実習計画」に代わり、育成就労期間中の業務・技能・日本語能力等に関する目標や実際の業務内容等を定めた「育成就労計画」の認定を受けることになります。
また、技能実習制度での監理団体に代わり、育成就労制度では厳しい基準をクリアし、認定を受けた機関である「監理支援機関」が雇用関係の成立や人材の斡旋等を行います。
新制度「育成就労」の特徴
以下では在留資格取得条件、在留期間や対応職種など、育成就労の特徴を解説します。
制度の目的
技能実習制度は人材育成を通した国際貢献を目的とした制度であるのに対し、育成就労は
「特定技能1号水準の技能を有する人材を育成するとともに、当該分野における人材を確保すること」
を目的とした制度です。
国際貢献色は見直され、日本国内での人材確保に重きがおかれた制度であり、すでに活用が進んでいる在留資格「特定技能1号」への移行を見据えた人材確保が可能になります。
在留期間
育成就労の在留期限は3年間となっています。
ただし、3年間の在留期限で特定技能1号の技能試験等で不合格になった場合は、最長1年まで再受験のための在留継続が認められます。
対応業種・職種
育成就労は特定技能1号への移行を見据えた在留資格であるため、対応職種は既存の特定技能制度で定められた、
- 介護
- ビルクリーニング
- 工業製品製造業
- 建設
- 造船・舶用工業
- 自動車整備
- 航空
- 宿泊
- 自動車運送業
- 鉄道
- 農業
- 漁業
- 飲食料品製造業
- 外食業
- 林業
- 木材産業
の、16分野の業種となっています。
従来の技能実習制度での職種・業種とは異なるため、今後受け入れを検討する場合には注意が必要です。
育成就労の技能・日本語レベル
育成就労の在留資格では、取得に際して日本語能力A1相当以上あるいは日本語能力試験N5以上の能力、またはこれに相当する認定日本語教育機関等による日本語講習の受講が求められます。
しかし技能水準についての要件はありません。特定技能のように在留資格取得のための技能試験対策は不要です。
また、実際の就労期間中に、
- 技能検定基礎級
- 各分野ごとに設定された特定技能1号移行に必要となる日本語能力水準を有することを示す日本語試験等
の2つに合格すると、転籍が可能になります。
(詳細は次項の「転職の条件」をご参照ください。)
在留資格「特定技能」への移行について
特定技能1号の在留資格取得には、
- 日本語能力A2相当以上あるいは日本語能力試験N4相当以上の能力
- 各業種における相当程度の知識又は経験を必要とする技能
を有していることを試験等で示す必要があります。
育成就労から特定技能1号に移行する場合も、国内で開催される技能試験などに合格することで在留資格を移行することができます。
また、育成就労としての在留期間の途中であっても以下の条件、
- 日本語能力・技能水準が特定技能1号の水準を満たしていること
- すでに在籍している育成就労の受入機関で一定期間以上就労していること
を満たしていれば特定技能1号への移行が認められます。
条件付で転職が可能になる
従来の技能実習制度では技能実習生の転職は原則認められていませんでしたが、育成就労では一定の条件を満たせば転職が可能になります。
転職の条件
本人の意向により転職する場合の条件としては、
- 同一業務区分内であること
- 同一機関での就労が1〜2年(分野ごとに期間を設定)を超えていること
- 技能検定試験基礎級等及び一定水準以上の日本語能力に係る試験への合格
- 転籍先が適切と認められる一定の要件を満たしている
が定められています。
さらに技能実習制度でも認められていた「やむを得ない事情」については転籍の範囲が拡大・明確化されると同時に手続きが柔軟化される予定です。
人材の確保や監理を行う「監理支援機関」
従来の技能実習制度では、非営利団体である監理団体が技能実習生が日本で安心して働けるよう人材と受け入れ機関の双方をサポートしていました。
しかし育成就労では「監理支援機関」が雇用関係の成立や人材のあっせんのサポート、適正な就労状態が実施されているかどうかの監査などを行います。
監理支援機関は許可制となっており、従来の監理団体よりもより厳格な基準を満たさなければ運営が認められません。
さらにこれまで監理団体として技能実習生関連の業務をしていた機関であっても監理支援機関としての許可を受けなければ、育成就労における監理支援事業を行うことはできないことになっています。
なお、監理支援機関になるための要件としては、「営利を目的としていない法人であること」や「事業を適正に遂行する能力を有していること」などが設けられるのではないかと考えられますが、2024年秋時点では未定となっています。
人手不足解消のための人材確保と人材育成の両方が可能になる
従来の技能実習制度は人材育成を通した国際貢献が目的の制度であったため、人手不足解消のために活用することは認められていませんでした。
また、在留期限も最長で5年までとなっており、長期的な人材確保には不向きな面もありました。
育成就労制度に切り替わることによって、人手不足の解消を目的として外国人材を活用できるようになるだけでなく、特定技能1号に移行することで長期的な人材確保が可能になります。
育成就労と従来の制度特定技能・技能実習との違い
以下では育成就労と従来の特定技能・技能実習制度の違いを比較します。
育成就労 | 特定技能1号 | 特定技能2号 | 技能実習 | |
制度の主旨 | 特定技能1号水準の技能と 日本語能力を有する人材を育成するとともに、 当該産業分野における人材の確保。 |
特に人手不足が深刻化しているとされる 当該産業分野における、 即戦力となる人材の確保。 |
特に人手不足が深刻化しているとされる 当該産業分野における、 熟練した技能を有する人材の確保。 |
人材育成を通した技能移転による国際貢献。 |
在留期間 | 3年(特定技能1号の試験不合格と なった場合は再受験のために 最長1年の在留継続が認められる) |
通算で上限5年とし、 1年・6カ月・4カ月ごとに更新 |
3年・1年・6カ月ごとに更新 (在留資格更新の上限はなし) |
技能実習3号まで移行したとして、最長5年。 |
技能水準 | 要件なし。 | 産業分野に属する相当程度の 知識又は経験を必要とする 技能を有していることを試験等で確認。 |
産業分野に属する熟練した技能を 有していることを試験等で確認。 |
要件なし。 |
日本語水準 | 日本語能力A1相当以上 あるいは日本語能力試験N5以上の能力、 認定日本語教育機関等による 日本語講習の受講によって これに相当する日本語能力を身につけること。 |
日本語能力A2相当以上 あるいは日本語能力試験N4以上。 |
試験等での確認は不要。 | 要件なし。 (介護職種のみ日本語能力試験N4相当以上) |
対応職種・業種 | 特定技能1号の受け入れ分野に準じ、16分野。 (詳細未確定) |
16分野 | 11分野 | 91職種167作業 |
転職の可否 | 条件を満たせば可能。 | 可能。 | 可能。 | 不可。 |
外国人材や受け入れ機関を サポートする団体 |
監理支援団体 | 登録支援機関 | 監理団体 | |
永住権の取得 | 不可 | 不可 | 条件を満たせば 可能になる可能性がある。 |
不可。 |
家族の帯同 | 不可 | 不可 | 条件を満たせば可能。 | 不可。 |
「特定技能」とは
制度の目的と概要
特定技能は人手不足の問題が著しく進行している産業分野における、労働力確保を目的としています。
業務遂行に必要な日本語能力及び技能を持つ、即戦力となる人材が確保できるのが特徴です。
課題
特定技能制度では、各産業分野ごとに受け入れ見込み人数が設定されていますが、その設定人数が適切なものかどうかについては産業ごとに議論されています。
また、キャリアパスの構築が不十分であるため、外国人が中長期的に活躍しにくいのが現状です。
その他にも、特定技能外国人を取り巻く労働環境の見直しや支援の実態についての問題、都市部への人材集中などの問題が存在します。
「技能実習」とは
制度の目的と概要
技能実習制度は日本での就労を通し、技能や知識を身につけ、母国での発展に貢献してもらうことを目的とした国際貢献色の強い制度です。
そのため人材を確保するために活用することは認められていません。
課題
制度の主旨や目的と運用実態との乖離が、日本国内だけでなく国際社会からも批判されています。
また、技能実習生は転職が認められていないなど、労働者としての立場が非常に弱いのではないかという指摘もあります。
さらに日本語能力が不十分であったり、監理団体による監理・支援等の体制が不十分なのではないかという指摘もあります。
制度移行完了までのスケジュールイメージ
従来の技能実習から育成就労へと制度を移行させるにあたって受け入れ機関だけでなく、すでに日本で働いている技能実習生もさまざまな対応が必要になる可能性があります。
以下では2024年秋の段階での、制度の移行完了までのスケジュールイメージを紹介します。
2027年に施行開始予定
まず、育成就労制度の新設など出入国管理法などの改正案は、2024年に閣議決定されました。
そして実際の施行開始は2027年に予定されています。
2030年までは移行期間
制度の施行開始は2027年を予定されていますが、既存の技能実習制度からの移行完了時期は2030年とされています。
つまり受け入れ機関や技能実習生など関係者・関係機関は2030年までに完全移行を目指すことになります。
技能実習からの移行イメージ
新制度「育成就労」は2027年に施行され、2030年に移行が完了する予定です。
そのため育成就労制度施行前に雇用した技能実習生についても入国や申請時期によって異なる対応が必要になる可能性があります。
以下では育成就労制度施行前後に想定される技能実習生の移行イメージを解説します。
2027年育成就労制度施行前後に想定される技能実習3パターン
2024年の現段階では技能実習から育成就労への移行イメージとして以下の図のようなものが想定されています。
A.入国後に育成就労が施行開始となった技能実習生の場合
Aの矢印は、施行開始以前に技能実習生として日本に入国し、実習期間中に新制度が施行となった外国人材のケースです。
この場合は引き続き技能実習生として実習を行うことができます。
B.育成就労の施行前に技能実習として申請し施行後に入国した技能実習生の場合
Bの矢印は、入国前に在留資格や入国に係る申請をしたものの、実際の入国日が施行後になる外国人材のケースです。
この場合は、認定を申請した実習計画の内容が、実習の開始時期を施行日から3ヶ月以内とするものであれば、施行日以後であっても技能実習生として入国できる場合があります。
また、技能実習計画は施行日以後に認定されることもあります。
C.育成就労施行前に実習を終え帰国した技能実習生の場合
Cの矢印は、新制度の施行前に技能実習を終え、一度母国へと帰国した技能実習生の場合です。
この場合外国人材は再度技能実習生として日本に入国することはできません。
ただし、過去に技能実習を行っていた期間や職種によっては育成就労として再入国できる場合があります。
「育成就労」受入機関にとってのメリット
従来の技能実習に代わり育成就労が施行されることによって、受入機関と日本で働く外国人材の双方にこれまでとは異なるメリット・デメリットが生じます。
以下ではまず、育成就労によって生じる、受入機関にとってのメリットを紹介します。
高い日本語能力を持つ人材を確保できる
技能実習は在留資格取得に際して日本語能力の要件が設けられていなかったため、業務中に日本語でのコミュニケーションに問題が生じることも多々ありました。
特定技能1号への移行を前提とした在留資格である育成就労は、在留資格取得にあたって初級レベルの日本語能力を有することを試験等で示す必要があります。そのため、技能実習生よりも高い日本語能力を持つ人材を確保できるというのが特徴です。
尚、育成就労後のキャリアパスとして見込まれる特定技能1号の在留資格の取得に際して求められる日本語能力は具体的に、「日常生活や職場など限られた場面であれば日本語でコミュニケーションがとれる」となっています。
人材を長期的に確保できる
育成就労は人材の確保を目的とした在留資格であり、特定技能1号への移行を前提としています。技能実習生のように実習終了後に帰国する必要もありません。
そのため長期的に人材を確保できます。
「育成就労」受入機関にとってのデメリット
一方で育成就労に制度が切り替わることによって、受入機関側にはデメリットが生じる可能性もあります。
受入にかかるコストが増える
従来の技能実習制度には日本で働く技能実習生側の負担が大きいことや労働環境が適切でないなどの問題が存在しました。
育成就労はそうした問題を解消することを目的として創設された制度です。
育成就労制度の下ではこれまで外国人材が母国の送り出し機関に支払っていた手数料や渡航費を受入機関側が負担することになります。そうすることで悪質な仲介業者を排除することが狙いです。
さらに基準が厳しくなったことにより、賃金や労働時間、労働環境の見直しが求められる可能性も考えられます。
転職されるリスクがある
技能実習制度では外国人材の転職は原則として認められていませんでしたが、育成就労では条件を満たせば転職が可能になります。
また、技能実習とは異なり転職が認められている特定技能制度でも、外国人材にとっての転職のためのハードルが非常に高く、事実上転職ができないという問題もこれまで存在しました。
そうした外国人材にとっての転職ハードルを下げる取り組みも今後は進められる予定です。
そのため育成就労制度では、日本に呼び寄せ、雇用した外国人材に転職されるリスクが生じることになります。
業種によっては外国人材を確保できなくなる可能性がある
育成就労で対象となる業種は、特定技能1号と同じ12の産業分野となっています。
技能実習制度では現在91職種167作業が対応職種・業務となっていますが、全ての職種が特定技能における12分野に対応しているわけではありません。
そのため技能実習制度では外国人材を雇用できた業種でも、育成就労へと制度が切り替わることによって外国人材を雇用できなくなることが考えられます。
特定技能における産業分野も今後見直しがなされることが予想されますが、決して少なくない企業が制度の移行による影響を受けることになるでしょう。
日本で育成就労として働く外国人材にとってのメリット
従来の技能実習制度が抱えていた課題を解決し、日本を外国人材にとってより魅力的な国にすることを目的とした上での新制度の創設です。
そのため育成就労制度には外国人材にとってのメリットが数多く存在します。
負担する費用が減る
母国以外の国や地域に出稼ぎに出る外国人の中には借金をする人も少なくなく、借金の完済に時間がかかってしまうケースも存在します。また、悪質なブローカーによる人権侵害も問題視されてきました。
しかしこれまでの技能実習制度では外国人材側が負担していたさまざまな費用を、育成就労では受入機関が負担することになります。
そのため外国人材が日本で働くにあたって負担するべき費用が減ることになるだけでなく、悪質なブローカーが排除されるので安全に日本で働けるようになります。
転職が可能になる
技能実習制度では転職が認められていませんでしたが、育成就労では外国人材の転職が可能になります。
さらに外国人材の転職の在り方そのものが見直されるため、事実上転職できないという状態も改善されるでしょう。
基準の厳格化により労働環境が改善される
育成就労では従来の技能実習よりもさまざまな基準が厳格化されます。そのため、技能実習制度下では存在した外国人の労働基準や人権に関する課題が改善され、外国人材にとって日本がより働きやすい国になるでしょう。
現時点での不明点等
現時点(2024年秋時点)での不明点等は以下の通りです。
不明点など | 不明な理由 |
---|---|
2027年の施行日 | あくまでも「予定」であるため 変更される可能性あり。 |
2030年移行期間 | あくまでも「予定」であるため 変更される可能性あり。 |
育成就労制度での受入産業分野 | 特定技能制度での受入産業分野の見直しによって 変更される可能性あり。 |
監理支援機関として 認められるための要件 |
詳しい内容は現段階では未定。 |
まとめ
新制度「育成就労」では、従来の技能実習・特定技能制度に存在したさまざまな課題が改善されることになります。
受入期間・外国人材ともに対応が必要になることが考えられる反面、より健全な信頼関係が構築されることにより、双方が利益を享受できるようになります。
制度の切り替えに柔軟に対応できるよう、2027年に予定されている施行日までに必要な対応をし、スムーズに移行できるよう備えましょう。