現在の技能実習制度に多くの批判があることを考慮し、2024年6月21日に改正入管法等が公布されました。その中で技能実習制度を廃止し育成就労制度を創設することが規定されました。
施行日は「公布日から3年以内(=遅くとも2027年6月)」であることは決まっていますが、具体的な日程は未定です。
従来の技能実習制度の目的は「国際貢献」、つまり日本の技術を発展途上国の人材に伝えることでした。
ですが実際には労働力の確保が目的となっていました。労働力として使い捨てられているという批判があり、実際、人権侵害や劣悪な環境に耐えられず失踪する実習生が多くいます。
育成就労制度ではこれらの問題の解決を目指しています。
まず従来の技能実習制度とは目的が違い、「人材の確保と育成」を制度の新しい目的として掲げています。また条件はありますが自分の意思での転籍ができるようになる予定です。
そのほか従来よりも、日本で長く労働できる環境が整えられます。
具体的には、取り組みの一つとして、特定技能制度へスムーズに移行できるようになることが予定されています。
従来の技能実習制度にはミスマッチがあり、特定技能へ移行できない職種が数多くありました。そのため長く日本で働きたいと思っていても帰国せざるを得ない外国人人材が多くいます。
ですが新制度では、対象外になる分野が生じる可能性もありますが、ほとんどの業種で特定技能に移行できるような環境を整えることを予定しています。これが実現できれば、キャリアアップの道筋が明確になります。外国人人材は長期間日本で働くことができ、また日本の受け入れ先企業にとっては、長期間日本の産業を支えてくれる優秀な外国人人材が確保できます。
育成就労制度となることで、たくさんの点で、改善が見込まれる予定です。
ですが一方で、手続きなどの面では従来と大きく変わると思われる部分があるため、ひとつひとつ慎重に確認していくことが必須です。数多くの手続きなどの変更点がありますが、本記事では、その中でも技能実習計画書に代わる予定の「育成就労計画」について解説します。
目次
新制度・育成就労計画〜制度の目的と理念〜
技能実習制度から育成就労制度へと法改正が行われます。
まずは、この法改正により何が変わるのかを簡単に確認していきます。
当然ただの名称変更ではありません。目的を含めて様々な面で変革があります。
育成就労計画の作成や手続きなどの前に、最も重要な育成就労制度に法改正することで何が変わるのかをまず説明します。
「国際貢献」から「人材確保」と「人材育成」
まず目的と理念が変わります。
従来の技能実習の「国際貢献」という形骸化した建前を廃止して、日本の労働力不足を補う「人材確保」の制度である旨が明確化されました。
技能実習制度は「国際貢献」を目的にしているため、本来は日本で技能を修得し、母国で生かすことが必要です。
しかし実際は母国には学んだことを活かせる産業がないことが多く、労働力不足を補う人材確保の制度となっていました。
今回の法改正で、目的を「人材確保と育成」とすることで、多くの職種で長く日本で労働し、技能に習熟できるような体制を整える予定です。
特定技能制度へのスムーズな接続
育成就労制度では、人材育成と日本社会への長期的な定着を目指していて目的が変わります。
そのためほとんどの職種で特定技能制度へスムーズに移行できるようになる予定です。
特定技能へのスムーズな接続ができれば、外国人人材はキャリアプランをはっきりさせることができますし、受け入れ先企業には長期間の育成ができるため、技能により習熟した外国人人材を長く確保できるというメリットがあります。
ただ受入分野は、特定産業分野と原則一致の予定ですが、対象外分野が出てくることはあり得ますので、その点には注意が必要です。
育成就労計画の変更点や主な記載事項
法改正に伴い、従来の技能実習計画から育成就労計画へと変わりますが、変わるうえでの変更点と、従来の技能実習計画を参考に主な記載事項について確認していきます。
育成就労計画となるうえでの変更点
前述のとおり、ほとんどの職種で技能実習から特定技能に移行できるようになる方針です。
ただし、受入分野は特定産業分野と原則一致予定ですが、対象外の分野が出てくる可能性もあります。
外国人人材にとってはキャリアパスの面などからメリットがあり、日本社会にとっても、技能に習熟した外国人人材が定着してくれるため、恩恵は大変大きいです。
ただ当然ながら、それに伴って、従来の技能実習計画と作成・認定の面で違いが出てきます。
技能実習計画の場合には1号、2号、3号のそれぞれの段階で認定をする必要があります。技能実習3号に移行できない職種の場合には、そもそも2号までしか計画の作成がありませんでした。
従来の技能実習ではこのように各段階での作成となっていますが、育成就労制度では違います。
それぞれの段階での作成ではなく、当初から3年間の計画の作成となります。
これは技能実習から特定技能にスムーズに移行してもらうことを視野に入れているためです。当初から3年間の計画を作成して、認定を受けるという流れなため、より長期的な目線での計画作成が必須となります。
また職種によっては、今まではそこまで長期の視点を持って、外国人人材の育成に取り組んでいなかったのではないでしょうか?
目的が「国際貢献」であれば当面の技術・技能を教えるだけで問題ありませんでした。
ですが育成の視点が入るため、長期間の計画書の作成が必要となる予定です。
主な記載事項
さて、育成就労計画となることで、長期間の計画書の作成が必要となる旨を説明いたしました。
では育成就労計画には、どのような内容を記載すれば良いのでしょうか?
ここでは、育成就労計画の主な記載事項について解説します。
まだ施行まで時間があるため、不明な部分が多いのが現状です。
出入国在留管理庁は、公式ホームページで育成就労計画の認定手続きの基本的な流れは変わらないと発表しています。
記載事項についても、もちろん変更があるはずですが、軸となる部分は共通するのではないかと考えられます。ですのでここでは、従来の技能実習計画を元に育成就労計画での主な記載事項について説明します。
そもそも育成就労計画とは
育成就労計画とは文字通り、実施者が育成就労外国人に、どのような業務に従事してもらうかの計画を記載するものです。
従来の技能実習計画では、記載事項が10項目あります。
育成就労制度では、初めから3年間の計画を作成して、認定を受けることが必要です。現行はOTITが技能実習計画を認定しています。
ですが育成就労制度では、外国人育成就労機構が設置されるため、OTITに代わりこの外国人育成就労機構が認定を行います。
技能実習計画書の記載事項
従来の技能実習計画では、10項目の記載事項があります。
受け入れ先企業の多くは、技能実習計画を、監理団体と相談しながら作成しています。
育成就労計画の場合にも監理団体改め監理支援機関と相談しながら作成することになる見込みです。
(監理支援機関となっても、国際的なマッチングや受け入れ先企業に対する監理や指導、外国人人材の保護などの主だった業務は変わりません)
以下で従来の技能実習計画の10項目の記載事項について、説明いたします。
そしてそれをベースとして決められるであろう育成就労の場合には、記載項目がどう変わるのかを見ていきます。
申請者の名称・住所
誰が・どの法人が、技能実習(育成就労の場合は育成就労)を行うのか記載します。
(法人の場合には、法人名+法人代表者の名前を記載します)
そしてその個人・法人の住所の記載が必須です。
法人役員の氏名と住所
法人の場合のみ、必要です。
文字通り法人役員の氏名と、住所の記載が必要です。
技能実習を行う事業所の名称と所在地
技能実習生が、技能実習(育成就労の場合は育成就労。以下同)をする場所の記載です。
どこにあるどの法人が申請をして、実際にはどこで技能実習を受けるのか、計画に記載しなければなりません。
同じ場所のことも多いので、その場合には同じ内容を記載します。
異なる場合には、実際に業務に従事する事業所の名称・住所を記載します。
技能実習生の氏名と国籍
また当然ですが、どこの国から来た誰なのかも、計画に記載しなければなりません。
技能実習の区分(第1号、第2号、第3号)
この記載事項は、育成就労計画となった場合にはなくなるか、変更される見込みです。
技能実習制度では、第1号、第2号、第3号とわかれていますので、何号なのかの記載が必要となっています。
また技能実習生の受け入れ形態の記載が必要です。
企業単独型か、団体監理型かを記載します。
現在はそのため、「第1号」企業単独型技能実習のように記載しています。
ただ技能実習の区分がなくなるため、新たな項目と一緒に併記することになるか、受け入れ形態だけを記載する項目ができるかの、どちらかになるのではないかと思われます。
技能実習の目標・内容と期間
従来の技能実習では、技能等の移転による国際協力(貢献)を目的としていました。
そのためどれくらいの期間で、どのような技能実習を受けて、最終的にどのような技能を習得するかを、詳細に記載することが必須です。
技能実習の内容には、必須業務と関連業務、周辺業務の3つの区分があります。
それぞれで期間と内容を決めて、記載が必要です。
そして最終的な目標は、1号の場合には、客観的に技能があるかどうかが判断できる、技能実習評価試験に合格することになっています。
ここが育成就労計画となると、今までとは変わってきます。
従来と違い、期間や内容に関して記載する内容のボリュームが格段に増えると予測できます。また最終的な目標は、特定技能に移行するための試験に合格することになる可能性が高いと思われます。
技能実習の実施に関する責任者の氏名
責任者名の記載が必要です。
この責任者は、従来の技能実習制度では、技能実習責任者と呼ばれています。
現在の技能実習責任者は、文字通り責任者で、技能実習に関わる職員の監督者です。
誰でもなれるわけではなく、技能実習責任者講習という講習を修了しており、なおかつ常勤であることが条件です。
育成就労制度でも、同様に責任者が必要となるはずなので、名称は変わりますが責任者の氏名を記載することになると思われます。
監理団体の名称・住所・代表者氏名(団体監理型の場合)
団体監理型の場合には、記載が必要です。
ただ現状、技能実習制度ではほとんどの場合が団体監理型となっています。
そのため大体の場合には、記載が必要となるはずです。
技能実習生の待遇(報酬、労働時間、休日、住居や居住費など)
労働基準関係法令の遵守が必須となりますので、受け入れ先企業は従来と変わらず、労働条件の確保と改善に取り組むことが必要で、それに即した待遇の記載が必須です。
待遇についても記載が必要です。
技能実習制度では、入国1年目から、労働基準法上の労働者として認められます。
育成就労制度でも変わらず、外国人人材は労働基準関係法令の適用を受ける見込みです。
労働基準関係法令の遵守が必須となりますので、受け入れ先企業は従来と変わらず、労働条件の確保と改善に取り組むことが必要で、それに即した待遇の記載が必須です。
その他、主務省令で定める事項
以上の10項目の記載が必要となります。
書類作成における具体的な注意点と対策
従来の技能実習制度では、技能実習1号、2号、3号のそれぞれの段階に応じた技能実習計画書を、作成しています。
ですが前述の通り育成就労制度では、3年間まとめての計画書が必要となります。
従来とは大きく異なる点であり、より長期的な目線での計画の作成が必須となります。
また手続きについて、補足いたします。
まず現在の監理団体は、監理支援機関と名前を変えます。
もちろん名称が変わるだけではなく、従来よりも監理・支援・保護機能の強化をする予定となっています。
また外国人人材の意向による転籍が可能となる予定ですが、転籍の申し出があった際には、関係機関と連携してサポートする役割も担う予定です。
また監理団体として認可されていても、監理支援機関として育成就労制度に関わる業務を、そのまま行うことはできません。
新たに監理支援機関の許可を受ける必要があります。
ただ監理団体の優良要件は、監理支援機関でも認められる方針です。
ただ優良措置は、手続きの簡素化などになる予定で、こちらの詳細については主務省令などで具体化される予定です。
まとめ
最後にこの記事の内容を振り返ります。
「国際貢献」から「人材確保」と「人材育成」
技能実習→育成就労となることで、目的と理念が変わります。
技能実習制度では「国際貢献」が目的でした。
ですが育成就労制度では、「人材確保」と「人材育成」を目的としています。
特定技能制度へのスムーズな接続
ほとんどの職種で、特定技能制度へスムーズに移行できるようになる予定です。
ただ受入分野は特定産業分野と原則一致の予定ですが、対象外分野もあり得ますのでその点には注意が必要です。
育成就労計画の変更点
技能実習計画の場合には1号、2号、3号のそれぞれの段階で認定します。
ですが育成就労では、当初から3年間の計画の作成予定です。
主な記載事項となると考えられる項目
- 申請者の名称・住所
- 法人役員の氏名と住所
- 育成就労を行う事業所の名称と所在地
- 育成就労外国人の氏名と国籍
- 区分(企業単独型か、団体監理型か)
- 育成就労の目標・内容と期間
- 育成就労の実施に関する責任者の氏名
- 監理団体の名称・住所・代表者氏名
- 育成就労外国人の待遇(報酬、労働時間、休日、住居や居住費など)
- その他、主務省令で定める事項
技能実習計画を参考に、以上10項目が記載事項として検討されています。
書類作成における具体的な注意点と対策
技能実習制度:技能実習1号、2号、3号のそれぞれの段階に応じて技能実習計画書を作成
育成就労制度:3年間まとめての計画書が必要
そのため、長期的な目線での計画の作成が必須です。







