外国人の従業員に人事や労務のことを説明するときに、どのように説明すればよいか頭を悩ませている人事担当の方も少なくないと思います。外国人社員を受け入れるということは、社内の仕組みを見直したり、社員の理解も得る必要があります。また、外国人社員だからこそ発生する労務もあります。
外国人の雇用を考えている企業の人事担当者なら知っておきたい、税のこと労務のことなども解説していきます。
目次
以下より本記事の資料を請求する
外国人社員とのコミュニケーションが大切
企業などの人事部は、従業員などの「人」と、指揮・命令系統など「組織」と経費やコストなど「金」を管理して、制度設計などを通して適正な配置や公平な評価などによって、社員と信頼関係を築いていくのも役割となります。日本人の社員だけでなく、外国人の社員との間にも人間関係を含めたコミュニケーションをつくっていくことが大切です。
人材採用募集をしている企業は、どのようにして優秀な外国人を採用できるかが重要となります。外国人を採用する場合は外国人の応募者との間で、調整をして、採用後にどれだけ生産性の高い労働をしてもらうことができるのかが重要となり、業務の支援や人事制度設計も重要な業務となります。
人事部の担当者や管理職は、外国人が文化や習慣の異なる日本の企業に勤務することを、外国人の立場にたち、精神的に大きな負担となることを十分理解した上で、コミュニケーションや支援をするための努力や工夫をおこない、外国人との信頼関係をつくっていくことが必要となります。
「人」は、人事部の文字通り中心となるキーワードであり、「人」とは、コミュニケーションを介して管理していくことになり、特に外国人社員の場合は、日本人とは違い、コミュニケーションには、制度を含めた工夫が必要となります。「人」と「組織(制度)」と「金(賃金)」が人事部門の大きなテーマとなります。
法令遵守していることがとても重要
人事や労務管理でもコンプライアンス遵守は重要です。労働基準法を守ることは当然ですが、それに加え、人権意識、環境問題なども重要です。
昭和までの日本では、終身雇用制度が当たり前の時代が続いていて、解雇されることは、ほとんどありませんでした。サービス残業が従業員と経営者の暗黙の了解のもと当然のものとなってしまっている企業もありましたが、近年は、雇用や労働形態の多様化や人権などの権利意識の高まりなどから、未払い残業代の請求や有給休暇取得などの権利の主張が盛んになっています。
外国人を雇用する場合は、外国人と信頼関係をつくるために十分なコンプライアンス意識が要求されます。労働時間の管理・労務管理や有給休暇の取得方法などのルールを言葉の壁を越えて明確にして、そのための人事制度設計も必要になります。企業のコンプライアンス意識が低いと、外国人は「外国人だから差別されているのかな?」と感じたり、企業が信用できないと考えるようになり、離職につながってしまう可能性も考えられます。
トータル人事制度導入の検討
「トータル人事制度」とは、企業において評価・目標管理・賃金・人材育成などの制度をトータルに管理する人事制度のことです。勤続年数によらず、業績によって社員を評価して公平で適正な賃金に反映させ、社員のモチベーションを高めることが目的です。
外国人を雇用した場合、募集時や採用時に注意すべき点、就労ビザの取得が必要になるなど、一般の日本人を採用する場合と違い、対応すべきことが広く多くあります。人事部門が縦割り組織で給与と評価する部門・制度設計する部門がバラバラでは、外国人の採用・雇用への対応が難しい部分が多いため、外国人を雇用する企業にはトータル人事制度が必要になります。また、雇用の契約書や就業規則の作成、給与計算や人事評価の方法、メンタルのサポートなど、社内の人事制度の整備が必要不可欠です。
トータル人事制度は、人事評価や賃金、人材育成などの制度をトータルに連動させる制度なので、この連動がうまくいかないと社員のモチベーションが下がってしまいます。特に、外国人は賃金に対する関心が高いため、制度の運用には十分な注意が必要です。
重要なことは、適切な人事評価ができているかという点です。外国人の場合、日本人と比べるとハンディキャップを背負って日本の企業で働いているので、一律なトータル人事制度の運用では、モチベーションが下がってしまうこともあるので注意が必要です。
従業員の評価制度は公正に
外国人社員を雇用する場合も公正な評価制度が必要です。評価制度は公正が原則で、それは外国人社員に対しても同じです。母国を離れて日本で働く外国人は、日本人から差別されているのではないかという不安が多かれ少なかれあり、不当に評価されるのではないかという心配が常にあります。
外国人の社員は、日本の給与水準にあこがれて来日し、自分の能力やキャリアを伸ばしたいと思っています。自分の能力がどれくらい上がったのか、日本でのキャリアになるのか、その評価に注目していますので、評価が公正でなければ、不信感からモチベーションを下げてしまう可能性があります。
公正な評価制度は不可欠で、外国人社員が知りたい時に見られるプロセスも含めた透明で持続可能な制度の運用が必要です。
給与制度が明確になっているか
外国人の社員のモチベーションを上げるには明確な給与制度が必要です。
世界的に見れば、日本の給与制度は、少し異質なところがあります。日本では、昭和から終身雇用をベースにした年功序列の賃金制度が主流で長年に渡り勤続することで、従業員のライフサイクルに合わせた賃金上昇となり、社員の生涯に渡っての生活保障としての役割を果たしてきました。近年では、本人の会社への貢献度で、給与を決める職能給も導入されているとはいえ、ベースは年功序列賃金制度のままです。
世界的には欧米を中心に、給与は仕事の困難度や職務の重要度で決まる職務給や職能給が基本になっています。外国人の社員にとっては、職能給の本質である同一労働同一賃金の原則がベースなので、給与制度の明確化が必要となります。
外国人の労務管理に関係する法令
労働関係法令は、日本人社員だけでなく外国人の社員にも適用されます。この法令は、雇用から退職まで適用されます。
労働関連の法律は、労働基準法・労働契約法・労働安全衛生法・労働組合法・労働関係調整法・最低賃金法・男女雇用機会均等法・パートタイム労働法・労働者派遣法などです。
労働関係調整法は、主として労働争議(ストライキ・職場からの締め出しなど)の予防や解決を目的とする法律です。これらの労働関係法令は、外国人労働者が日本の企業に採用されて就労すれば、外国人にも適用されます。
労働基準法第3条では「使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、 差別的取り扱いをしてはならない」と定められています。
就業規則には労働条件を規定する
外国人労働者に対しても、就業規則は労働条件を規定します。
就業規則とは、企業で使用者が労働基準法等に基づいて、その企業の労働条件などを具体的に細かく定めた規則集のことです。常時10人以上の労働者を使用する使用者は就業規則を作成することが義務づけられています。就業規則は企業内の就業上の規則ですが、労働基準法第89条により就業時間や賃金など労働条件の記載をする必要があります。
労働契約法第7条では、合理的な就業規則を労働者に周知させていた場合には就業規則の規定が労働契約となるとして、就業規則は労働契約となります。就業規則は、労働契約となる契約期間・就業時間・給与・退職に関することなどの労働条件を記載します。
就業規則は、使用者と労働者の約束であり、労働者の意見を反映することが重要です。当該事業所の労働者の過半数で組織された労働組合があれば、その労働組合、組合がない場合は、過半数労働者から選任された代表者が使用者に対して就業規則に対する意見を述べます。
作成された就業規則は所轄労働基準監督署に、届出書、就業規則の原本2通、労働者代表の意見書を提出します(規則第59条)。また、作成時だけでなく、変更した場合も、労働基準監督署に提出します。
外国人社員に対応した就業規則
日本で雇用された外国人の社員にも日本人の社員と同様に就業規則が適用されます。
適用される外国人の従業員を定義して、外国人を採用する時の提出書類などを就業規則に規定して周知しておかなければなりません。ここで注意したい点が、外国人の社員だけに適用される専用の就業規則を作ることは認められてない、ということです。労働基準法3条では、国籍の違いなどを理由にして、賃金や労働時間などの労働条件を変更することが禁止されています。このため、新しく就業規則を作成するのではなくて、従来の就業規則を外国人労働者にも適応するように見直します。
職務内容や雇用形態により、労働条件を変えることは可能ですが、日本人の社員と外国人の社員を差別的に取り扱うことはできません。 外国人社員にかかわる事項は、在留資格や在留期間を考慮した規定となるようにします。例えば、在留期間更新などの申請にかかる時間を就業扱いとするのか、不就業とするのかを決めておくなどです。
絶対的必要記載事項は、就業規則に必ず記載しなければなりません。これは、労働基準法で定められていることで、日本人と同様に外国人が従業員である場合も適用される法律です。
絶対的必要記載事項
- 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇ならびに交代制の場合には就業時転換に関する事項
- 賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期ならびに昇給に関する事項
- 退職に関する事項(解雇の事由含む)
外国人社員の解雇で注意するべき点
日本人と同様、外国人の社員も「合理性のある理由」がなければ、企業側から解雇することはできません。
外国人を日本で採用するには、入管法で定められている在留資格の活動内容に該当していなければなりません。つまり、法務省令で定める上陸許可基準に適合している必要があります。それらの在留資格該当性や基準適合性が就労活動できる在留資格を受けるための要件であり、外国人との労働契約は、地位が特定された契約や専門職としての契約ということになっています。
解雇は、労働契約法の第16条に規定されています。「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」とされており、企業の使用者は、社会的に相当で、合理性のある理由がなければ従業員を解雇することはできません。そのため、外国人社員が契約内容の責務ができない場合には、「職務遂行の能力がない」「地位や専門職として適格性がない」とされ、解雇が検討されることになります。
能力不足や不適格の場合の解雇は、外国人を含むすべての従業員が解雇の有効性を争われるものではなくて、当該の従業員がどのような立場で採用されたのか、能力の不足や不適格の原因は何かによって判断されます。外国人が地位を限定された場合や専門職として採用された場合、一般の社員の解雇の有効性よりも、より広く解釈されることがあります。
外国人社員への安全配慮
外国人社員に対しても企業は安全配慮義務を履行しなければなりません。海外で働く日本人社員、外国人社員も安全配慮義務の対象になります。
社員は、会社や上司などの使用者が指定した勤務場所に配置され、使用者から渡される道具や会社の設備などを使って仕事をします。労働契約法の第5条において「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」とあり、使用者には労働契約に基づいて、本来の責務として、賃金支払義務を負うほか、安全配慮義務を負うことを規定しています。
社員の職種、業務内容、労務の提供場所などの具体的な状況によって必要な配慮をしなければなりません。安全配慮義務は、それぞれの職場でいろいろなケースが考えられるために基準を設定することはむずかしいですが、外国人の社員に対して、具体的にどのような義務が求められるかは、外国人の母国の文化や言語なども考慮に入れる必要があります。
企業は安全配慮義務違反による債務不履行 (民法第415 条)や不法行為責任(民法第709条)に違反しないようにしなければなりません。
外国人の就業環境をチェックして、十分な対策をしなければなりません。外国人社員へのアドバイスや指導、外国人社員からの相談は、社内の上司や外部などの専門家などと気軽に相談できるようにしておきます。
外国人社員の税法上の区分は「居住者」と「非居住者」
外国人社員は、「居住者」と「非居住者」で税法上の区別をします。
外国人の社員に給与を支払う場合は、日本人の社員と同じように給与から所得税を源泉徴収します。外国人の社員が居住者かまたは非居住者なのか、居住者の場合であれば、非永住者か永住者であるかが課税のポイントです。
この区分の判定によっては、給与などの課税範囲や課税方法、課税所得の計算方法が違ってきます。居住者と非居住者とを区分する場合、日本の国内の住所、当該社員の生活の場所の有無と滞在期間によって判断されます。
所得税法では「居住者とは、日本国内に住所があるか現在まで引き続き1年以上居所 (当該社員が、生活して住んでいる場所)を有する者」と規定されています。日本で働くために日本に入国した外国人は、原則として居住者の推定を受けます。ただし、雇用契約などで日本での滞在期間が1年未満の場合は、非居住者と推定されます。
居住者は、非永住者と永住者に区分されます。非永住者は、日本国籍を持っていない者で、その上、過去10年以内に日本国内に住所または居所を有する期間の合計が5年以下である個人のことを指します。永住者は、非永住者以外の居住者となります。
住所の推定
居住者と非居住者の区分の場合の「住所」とは、所得税法では定義されていませんので、民法の規定を準用しています。
民法では、住所について「各人の生活の本拠をその者の住所とする」 とされており、 「生活の本拠であるかどうかは客観的な事実によって判定する」 となっています。滞在地が2か国以上ある外国人の場合、職務内容や契約などによって外国人の生活の中心がどこかで住所が推定できる「外国人登録」は住所推定の参考になりますが、外国人登録だけで判断できるものではありません。
国内に住所があるかどうかを推定する場合の判断材料として、所得税法施行令第14条と第15条に規定されていて、在留資格や在留期間だけで判断されません。
外国人社員も給与から源泉徴収が必要
源泉徴収とは、給与、報酬、利子、配当や使用料等の支払者が、支払う時に所得税や法人税などの税金を差し引いて、国などに納付する制度のことです。源泉徴収された税金を源泉徴収税と言います。源泉徴収制度の有無、源泉徴収義務者の納付時期や過不足の調整の方法は国によって違います。
会社員の場合であれば、毎月の給与から税金を差し引いて納税する制度です。給与を支払う会社が社員の代わりに所得税を徴収して、まとめて国に納税する制度です。各人が個別に納税したり、国側も各人からの納税を管理すると、手間がかかるためこのような仕組みになっています。個人と行政の両方にメリットがあるので、制度としてこのようになっています。
外国人の社員の源泉徴収は、「居住者」「非永住者」「非居住者」の区分の判別がポイントです。
居住者の源泉徴収
居住者と非居住者の区分によって居住者とされている外国人の社員は、会社が外国人社員から「給与所得者の扶養控除等(異動) 申告書」の提出をもらって、給与などを支払う都度に扶養する親族等の数に応じて 「給与所得の源泉 徴収税額表」で税額を計算して、源泉徴収をします。年末の給与などを支払う時に「年末調整」 によって、外国人の社員が納付する所得税の精算を実施します。
非居住者の源泉徴収
非居住者は年末調整の対象者から除外されているために、年末に納税額の過不足を調整することはできません。日本の国内に住所がなく、現時点まで継続的に1年以上居所がなくて非居住者として判断された外国人の社員に対する源泉徴収は、原則、給与などから源泉徴収する所得税率は、一律で20%の源泉分離課税となります。
日本国内の滞在期間が183日を超えない短期滞在者の非居住者は、日本が各国と締結している租税条約によって、課税の免除または源泉徴収率の軽減を受けることができる場合があります。
外国人社員の年末調整で注意すること
外国人の社員の年末調整の手続きで注意することは、次の4点になります。外国人の社員の年末調整手続きは、基本的には、日本人の社員とほとんど同じですが、多少、違う点があります。
- 「居住者」「非永住者」「非居住者」の区分を行います
- 保険料控除については、外国政府や外国企業との契約については控除できません
- 国外居住の親族がいる場合、扶養控除を受けることができますが、書類が必要になります
- 租税条約による特例を適用できるが、書類が必要になります
外国人社員の住民税の取り扱い
日本国内で個人所得に課税されるには、国税の所得税と地方税としての住民税となります。地方自治体の住民税は当該地区の住民であるということで課税されます。一般的な住民税とは、都道府県民税と市区町村民税の両方を合わせた呼び方です。
住民税は所得税と同じく、居住の形態に基づき居住者と非居住者に分類され決められます。その年の1月1日時点で居住者として日本に居住している外国人または居住して1年未満であっても、通常1年以上継続して居住することを必要とする職業の外国人は、住民税の納税義務者です。
住民税は、前年の所得金額に応じて課税される所得割と所得金額に関係なく定額で課税される均等割などがあります。所得割と均等割は1月1日現在で日本国内に居住する者が課税の対象で、各市区町村が 市区町村民税と都道府県民税を合わせて徴収します。
居住していなくても、事務所や家屋を持っている者に対して均等割部分が課税されます。
住民税の徴収
住民税の課税方法は、その年の1月1日の住所地と前年の1月1日から12月31日までの所得がベースなので1月1日時点で日本にいなかったり、学生などで収入がなかった場合は、その年の住民税は課税対象になりません。
非居住者区分となる外国人は、非課税となり、住民税の納税義務者となりません。住民税は国籍に関係なく給与支払者の企業からの給与支払報告書や住所地の市区町村を管轄する税務署に提出されている確定申告を基に計算されます。
住民税額は毎年4月以降に各市区町村で決定され、給与支払者である企業や個人へ通知されます。納税方法は納税義務者個人で 納付する普通徴収と給与支払者である企業が納付する特別徴収があります。
租税条約
租税条約は、二重課税の排除と脱税の防止などを目的として、国家間で締結される国家間の条約です。
外国人社員の課税範囲
外国人社員の課税範囲は、居住者、非居住者、永住者、非永住者の区分の違いで異なります。
居住者の課税範囲
居住者と判定された外国人の社員は、所得税の課税範囲を決める場合に、日本の国内または国外の所得によって、課税される範囲が違うために永住者と非永住者との区分に気をつけます。
非永住者とは、居住者の中で、日本国籍がなくて、なおかつ過去10年以内に日本の国内に住所や居所があった期間の合計が5年以下の個人となります。
永住者は非永住者以外の居住者となります。永住者の課税範囲は、世界中の労働やサービスの提供によって得た所得が課税の対象となります。非永住者の課税範囲は、国内で得た所得および国外で得た所得のうち、国内で支払われたもの、または国内に送金されたものが課税の対象となります。
永住者、非永住者とも日本国内の所得は課税範囲となるので企業が外国人社員に給与を支払う場合は、永住者や非永住者に関係なく、日本人の社員と同じように所得税を源泉徴収することになります。
非居住者の課税範囲
非居住者への課税の範囲は、日本の国内の勤務などでの国内で生じた所得だけが課税対象の範囲となります。外国人社員が海外での労働やサービスの提供に対する給与などは、その支払が日本で行われたり、日本へ送金されたとしても日本では課税対象とはなりません。
外国人社員だけに発生する税務
母国の家族が扶養家族かどうかの判断
会社の給与から控除される源泉所得税額は、社員から「扶養控除等(異動) 申告書」を提出してもらい、提出された申告書の扶養親族等の数で「源泉徴収税額表」を使って算出します。外国人の社員の場合には、外国人の母国の扶養親族に生活費を送金していれば、 原則、扶養控除の対象にできます。外国人の社員が扶養親族と居住地をいっしょにしていなくても、生計を一にしているとして判断できます。
送金額の基準については、規定されていませんが、送金証明書などで 「生活費相当 が送金されている事実が確認できる」ことや「被扶養親族が仕事をしていない等、多額の所得がない」ことなどから判断します。
休暇などで一時帰国する際の渡航費用
出向や転勤によって日本で長期間勤務する外国人の社員が、休暇などで母国に一時帰国することを、 ホームリーブ(Home Leave)制度といいます。
ホームリーブにかかる諸費用を会社が負担した場合、要件を満たせば、その費用に関する税務上の取り扱いは、給与所得とはせず、所得税の課税対象外経費として処理することが認められます。会社がその渡航費用を支給しても非課税扱いとなります。
日本国内で2年以上の長期間勤務する外国人社員に対して、就業規則などに規定されている勤務期間を経過するごとに休暇のための帰国を認めて、帰国のための往復の運賃でその旅行の運賃、時間、距離等の事情に合わせて最も経済的で合理的と認められる通常の旅行の経路や方法によるものに相当する部分については、課税しなくてもよいとされています。
この非課税の取扱いについては、当該の外国人社員と同一生計の配偶者やその他の親族を含むとされています。
家族の来日費用
日本の国内で働く外国人の社員の家族を日本へ呼び寄せるための来日の費用を会社が負担した場合、外国人の社員に対する給与などとして課税の対象となります。 ただし、家族の来日が観光目的ではなく、一定の要件を満たす場合であれば、非課税となることもあります。
社宅の貸与
社宅には、会社が所有している社有社宅と、賃貸物件を会社が借り上げて社員に使わせる借上社宅との2種類があります。 外国人の社員に社宅を貸与する場合は、経済的な利益となり、外国人社員の国内源泉所得となります。賃料を給与控除せずに、無料で貸与する場合、賃貸料相当額が給与として課税されます。一部が有料の場合であれば、賃貸料相当額の50%以上の賃料を控除していれば課税されません。50%未満の場合は、賃貸料相当額と賃料との差額相当額が給与として課税されます。
外国人社員が帰国する際の税務
帰国時の所得税
1年の途中で母国などの本国へ帰任するなどの理由で、外国人の社員が帰国する場合は、非居住者となるので、その年の1月1日から出国までの間に確定した日本の源泉所得については年末調整をします。年末調整の方法は、一般的な12月に実施する年末調整と同じです。配偶者控除や扶養控除なども受けることができます。年末調整の対象とならない外国人の場合や確定申告が必要な場合は、出国の日までに納税管理人を選任します。
納税管理人は、会社の顧問税理士などに依頼することが多く、外国人が出国した後の所得税に関する申告や納付を行います。納税管理人を選任した場合は、所轄の税務署に 「所得税・消費税の納税管理人の届出書」を提出します。
帰国時の住民税
外国人社員が母国などに帰国する場合、住民税についても納税管理人を選任する場合があります。
出国時期が1月から5月末までの場合に未納分の住民税を一括徴収して納税は終わりますが、その年の1月1日に日本国内に住所があるために、翌年の住民税が発生します。その年の6月から翌年の5月までの住民税を納付するときに外国人社員は出国しているために納税管理人を選任することになります。市区町村によっては、雇用企業が納税管理人となってもよい場合もあります。 納税管理人を選任したら管轄の市区町村の窓口へ 「納税管理人申告書」を提出します。
出国の時期が6月から12月末で、未納分の住民税を給与から一括徴収し納付ができる場合は、納税管理人を選任する必要はありません。
退職金の源泉徴収
外国人の社員に退職金を払う場合は、所得税を源泉徴収します。退職金には、退職したことで支払われるものが含まれるために、本来の退職金のほかに功労金等を支給した場合でも、退職金になります。 所得税の源泉徴収では「退職所得の受給に関する申告書」の提出の有無で源泉徴収されます。
「退職所得の受給に関する申告書」の提出を受けている場合は、外国人の社員の勤続年数で課税される退職所得金額を計算して、その金額に税率をかけて源泉徴収する税額を算出します。
退職金から控除される退職所得控除額は「退職所得控除額の計算の表」で計算し、勤続年数に1年未満の端数がある場合は、1年にします。退職金の支給額から、退職所得控除額を控除した残額の2分の1が 課税される退職所得の金額となります。この課税退職所得金額を「所得税額の速算表」を使って源泉徴収額を出します。
「退職所得の受給に関する申告書」の提出がない場合は、退職金の支給額に、勤続年数や退職所得控除額に関係なく20%の税率で計算した所得税を源泉徴収します。
まとめ
外国人を雇用するためには法令を遵守していることが重要で、日本人社員と外国人社員の双方が働きやすい環境づくりをしていくことが、企業に求められます。外国人を雇用するための受け入れ態勢を整えていけば、人材不足を解消できるだけでなく、企業としてのパワーアップも期待できます。