日本の宿泊業は、新型コロナウイルス感染症のまん延により、一時的な業界の需要低下・売上低下・人材の離職などの問題が相次ぎました。新型コロナウイルス感染症が「第五類」に分類されて以降も、まだまだ人手が足りない状況が続いています。本記事では、日本の宿泊業で働く外国人労働者の仕事内容や、「特定技能試験」の概要についてご紹介します。
目次
日本の宿泊業で外国人労働者が必要とされている理由
近年、日本の宿泊業では、外国人労働者が必要とされています。なぜ、日本人労働者ではなく、外国人労働者なのでしょうか。また、どのような理由で外国人労働者を必要としているのでしょうか。ここからは、日本の宿泊業で外国人労働者が必要とされている理由を2つご紹介します。
少子化による働き手不足
現代の日本では、年々少子高齢化が進行し続けています。その結果、働き手となる若年世代はどんどん減少しているのです。そのため、宿泊業で働き手となる日本人人材がなかなか集まらず、外国人労働者の手助けが必要な状況になっています。
コロナ禍による一時的な経営難のため
2020年1月頃に流行した新型コロナウイルスのまん延防止のため、旅行や外泊を控える人が一気に増加しました。宿泊業は、コロナ禍による大きな影響を受けた業界の1つです。宿泊業を利用するお客様が一気に激減し、一時的な需要低下・売上低下・経営難・人材の離職などが起こりました。2023年5月頃に新型コロナウイルス感染症は最も危険度が低いとされる「第五類」に分類されました。しかし、コロナ禍による業績悪化・人手不足は現在も解決していないのが現状です。
日本の宿泊業で働く外国人労働者に必要な「特定技能試験」とは
「特定技能」とは、2019年4月に創設された新たな在留資格です。日本国内の数ある業界の中で、特に人手不足が深刻な業界に、一定の専門スキル・技能・日本語能力がある外国人労働者を推奨しています。数ある業界の中で、「宿泊業」は人手不足が深刻な業界の1つです。人手不足の宿泊業で働く外国人労働者に必要な「特定技能試験」について解説していきます。
特定技能試験が行われる目的
日本には、求職者の競争があるほど人気の分野・職種があります。特に「大手企業」と呼ばれる企業への入社は、新卒者であれば誰でも憧れるはずです。しかし、その一方で、求職者が募らない分野・職種があるのも実情です。それは、体力勝負の介護業界や自動車整備業界など…。高品質な接客を必要とする宿泊業も、新卒者にとっては「難しそう」と感じる業界です。高い専門性や技術、スキルが求められる業界の人手不足を解消するために、「特定技能試験」に合格した外国人労働者を求めているのです。
宿泊業の特定技能試験には1号と2号がある
宿泊業の「特定技能」は以前まで、1号のみでした。しかし、2023年に対象分野の拡大について見直された結果、2023年秋頃から、宿泊業も「1号」と「2号」の2つに分けられました。基本的に、特定技能試験を初めて受験する場合は、「特定技能1号」からです。特定技能1号で実務経験を積んだ後、熟練した技能を有している外国人労働者のみ受験可能な「特定技能2号」に移行することができます。
宿泊業の「特定技能試験」の概要について紹介
外国人労働者が日本の宿泊業で働くには、「特定技能1号」または「特定技能2号」の取得が必要です。「1号」と「2号」、それぞれの受験資格や試験科目、合格基準についてご紹介します。
特定技能試験の受験資格
外国人労働者が「特定技能1号」または「特定技能2号」を受験するためには、受験資格となるいくつかの条件を満たす必要があります。「1号」と「2号」、それぞれの試験を受けるために必要な受験資格についてご紹介します。
1号の受験資格
宿泊業の「特定技能1号」の受験資格は、以下の通りです。
・受け入れ先の業界で即戦力として活躍するために必要な専門スキルや
知識、経験を有していること
・「日本語能力試験N4以上」を有していること
「特定技能1号」の取得後は、最短5年の在留期間内、「家族の帯同」を行わないことが条件のため、家族と長い期間同居することができません。
2号の受験資格
宿泊業の「特定技能2号」の受験資格は、以下の通りです。
・受け入れ先の業界で熟練した技能を有していること
・試験日の前日までに、宿泊施設において複数の従業員を指導しながら、フロント・企画・ 広報・接客・レストランサービス等の業務に2年以上 従事した実務経験を有した者
「特定技能2号」の取得後は、一定の条件を満たせば「日本での永住許可申請の提出」と「家族の帯同」も可能になります。
受験に必要な手続きの方法
「特定技能1号」と「特定技能2号」を受験する際に必要な手続きは、それぞれ異なります。ここからは、特定技能の受験に必要な手続きをご紹介します。
1号の手続き方法
外国人労働者が宿泊業の「特定技能1号」を受験するためには、まず「PROMETRIC」というサイトで、ID作成を行います。その後は、以下の7stepで受験予約を行います。
step.1 IDを登録する
「PROMETRIC」の「試験予約」のページにて、「IDはこちら」をクリックします。その際、「ID取得における注意事項」が表示されるため、しっかり内容をご確認ください。IDの重複登録は禁止です。
step.2 メールアドレスとパスワードを登録する
次に、メールアドレスの登録を行います。メールアドレス登録後、パスワード設定の画面が表示されます。「英数字6文字以上・14文字以内」での入力が必須です。
step.3 個人情報を入力する
「氏名」「電話番号」「住所」などの個人情報を入力することで、「PROMETRIC」への登録が完了します。なお、日本国内で受験する場合は、顔写真の登録も必要です。
step.4 試験予約をする
「PROMETRIC」への登録完了後は、登録したIDとパスワードでログインし、「試験を予約する」の項目をクリックします。「受験する試験の選択」や「生年月日・性別・国籍などの特別項目」の入力、「試験日時・会場の検索」を行い、受験会場や日時を決定します。
step.5 顔写真をアップロードする(日本国内での受験の場合)
日本国内で「特定技能1号」を受験する場合、確認書やスコアレポートに表示するための「受験者本人の顔写真」のアップロードが必要です。規格を満たさない顔写真を登録すると、受験を断られることがあるため、要注意です。
step.6 支払い方法を選択する
受験費用の支払いは前払いです。以下の4つの支払い方法から、支払い可能な支払い方法が表示されます。
・クレジットカード
・eウォレット
・PayPay
・バウチャー
step.7 受験予約の完了
受験料の支払いが完了すれば、予約完了となります。「PROMETRIC」へのログイン後、試験の内容や当日に必要な持ち物、会場の地図が記載されている「確認書」を各自で印刷してください。もし、予約内容の変更やキャンセルを行う場合は、「PROMETRIC」にログインし、「変更」または「キャンセル」をクリックします。しかし、「試験によって」「期限切れ」の場合、手続きを行うことができません。
2号の手続き方法
「特定技能2号」を受験するには、特定技能1号と同様に、「PROMETRIC」というサイトにログインします。手続きの手順は特定技能1号と同じですので、上記の手順を参照してください。
試験科目・試験の実施方法
「特定技能1号」と「特定技能2号」の試験日当日、どのような試験科目が出題されるのでしょうか。また、試験はどのように実施されるのでしょうか。「1号」と「2号」、それぞれの試験科目・試験の実施方法についてご紹介します。
1号の試験科目
2024年4月17日〜2025年3月10日に実施されている「特定技能1号・試験科目」の最新情報をご紹介します。今後、受験予定の方は是非、参考にしてみてください。
試験名称 | 宿泊分野特定技能1号評価試験 |
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試験に使用される言語 | 日本語 |
受験資格 |
・試験日当日、満17歳以上であること (インドネシアが国籍の場合、満18歳以上であること) ・受け入れ先の業界で即戦力として活躍するために必要な専門スキルや 知識、経験を有していること ・「日本語能力試験N4以上」を有していること |
実施形式 | 会場にあるコンピュータを使用して、回答する「CBT方式」 |
問題数 |
学科試験:30問 実技試験:6問 |
試験時間 | 60分 |
2号の試験科目
2024年5月7日〜2025年3月10日に実施されている「特定技能1号・試験科目」の最新情報をご紹介します。今後、受験予定の方は是非、参考にしてみてください。
試験名称 | 宿泊分野特定技能2号評価試験 |
---|---|
試験に使用される言語 | 日本語 |
受験資格 |
・試験日当日、満17歳以上であること (インドネシアが国籍の場合、満18歳以上であること) ・試験日の前日までに、宿泊施設において複数の従業員を指導しながら、 フロント・企画・広報・接客・レストランサービス等の業務に2年以上 従事した実務経験を有した者 ・試験申し込みをする前に、「宿泊業技能試験センター」のホームページ の申請フォームにて、指定の様式の実務経験証明書を提出すること |
実施形式 | 会場にあるコンピュータを使用して、回答する「CBT方式」 |
問題数 |
学科試験:50問 実技試験:20問 |
試験時間 | 60分 |
特定技能試験の合格基準
「特定技能1号」と「特定技能2号」は、それぞれどのような合格基準なのでしょうか。また、試験の難易度は高いのでしょうか。「1号」と「2号」、それぞれの合格基準をご紹介します。
1号の合格基準
「特定技能1号」の学科試験・実技試験を合わせて65%以上の得点があれば、合格できます。2021年9月に行われた試験では、281名の受験者数に対して、合格者数は173名でした。そのため、合格率は61.57%となります。
2号の合格基準
宿泊分野の「特定技能2号」を取得するには、「宿泊分野特定技能2号評価試験」に合格する必要があります。試験を受けるには、以下の実務経験が必要です。
・宿泊施設において複数の従業員を指導しながら、フロント・企画・広報・接客・レストランサービス等の業務に2年以上従事したこと
・実務経験を証明する「実務者経験証明書」を宿泊業技能試験センターの公式サイトからダウンロードし、提出時に申請番号を発行してもらい、申し込みを行うこと。
2号の試験に合格するには、学科試験および実技試験それぞれの正答率が65%以上必要となります。
日本の宿泊業で外国人労働者が従事できる仕事内容
日本の宿泊業で、外国人労働者が従事できる仕事内容には、具体的にどのようなものがあるのでしょうか。ここからは、外国人労働者が日本の宿泊業で従事できる仕事内容を5つご紹介します。
フロント
フロント業務とは、ホテルや旅館に来られたお客様のチェックイン・チェックアウト、電話での予約受付などがメイン業務です。また、お客様に周辺の観光地を紹介したり、ホテル発着ツアーの手配をしたりと、業務内容は多岐にわたります。
企画・広報業務
企画・広報業務とは、宿代の割引キャンペーンや特別プランを考案したり、館内の案内チラシを作製したりすることがメイン業務です。最近では、ネット検索やSNSの利用で宿の情報を得るお客様が増えているため、宿の公式ホームページやSNSの作成も担います。
接客業務
接客業務とは、お客様にホテル内もしくは旅館内を案内し、部屋までお連れする業務です。また、宿泊客から電話がかかってきた場合への対応も行います。
レストランサービス業務
レストランサービス業務とは、ホテル内もしくは旅館内にある厨房やオープンキッチンで、料理の下ごしらえや調理、盛り付けなどの業務を担います。また、お客様の注文への対応や、配膳・片付け・皿洗いなど、多岐にわたる業務内容のいずれかを担当します。
ベッドメイキング・清掃業務
外国人労働者が担当する業務内容は、上記でご紹介したフロント業務や企画・広報業務、接客接遇業務、レストランサービス業務などです。しかし、ベッドメイキングや清掃業務などの単純労働も、行うことが可能です。また、お客様が少ない日に限って、ベッドメイキングや清掃業務を行うこともあります。
宿泊業で外国人労働者を雇用するには?
宿泊業で外国人労働者が働くには、企業側が外国人労働者の受け入れ・雇用に関する準備を行う必要があります。外国人労働者の雇用を検討している宿泊業は、以下の準備を行う必要があります。
支援体制を整える
宿泊業で外国人労働者を雇用するためには、以下の支援体制の準備が必要です。
・事前ガイダンス
・出入国送迎
・日本語学習
・住宅確保
・相談苦情対応 など
これらの支援体制を整えるには、以下の2つの方法のいずれかを選択する必要があります。
・法律で定められた支援体制を自社内で構築し、行う
・支援体制のすべて、または一部を『登録支援機関』に委託する
企業内で支援体制を構築するには、「過去2年間の外国人労働者の受け入れ実績があること」と「通訳を雇うこと」が条件となります。そのため、「登録支援機関」に委託する企業が多いです。
宿泊分野特定技能協議会に加入する
宿泊業で外国人労働者を雇用するためには、国土交通省が設置している「宿泊分野特定技能協議会」に加入する必要があります。外国人労働者を受け入れた日から4ヶ月以内に加入することが義務付けられているため、早めに手続きを行いましょう。
※なお、24年2月15日の運用要領変更で、全ての分野で6/15以降の申請においては協議会への事前加入が必要となりました。
まとめ
日本の宿泊業では、コロナ禍による一時的な打撃を受け、現在もまだまだ失った売上や人材などが戻りきっていません。特に、海外からお客様が来られる機会が多いホテル・旅館などでは、外国人労働者を雇用することで、スムーズな接客が実現します。是非、人手不足に悩む宿泊業では、外国人労働者の雇用を検討してみてください。