近年、外食業分野での人手不足が大きな社会問題となっています。
しかし、外国人を雇用したいと希望はするものの「制度が複雑でよくわからない」という事業者や企業の担当者の方も多いのではないでしょうか?
そこで、今回は「外食業分野で特定技能外国人を採用する方法」について、知識がない方でも制度と採用方法について理解できるようにわかりやすく解説します。
目次
「特定技能制度」とは?
特定技能制度の背景
中小・小規模事業者をはじめとした人手不足は深刻化しており、我が国の経済・社会基盤の持続可能性を阻害する可能性が出てきているため、生産性向上や国内人材確保のための取組を行ってもなお人材を確保することが困難な状況にある産業上の分野において、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人を受け入れていく仕組みを構築するために特定技能制度が創設されました。
在留資格「特定技能」とは?
「特定技能」には、2種類の在留資格があります。
「特定技能1号」は、特定産業分野に属する「相当程度の知識又は経験を必要とする技能」
を要する業務に従事する外国人向けの在留資格です。
「特定技能2号」は、特定産業分野に属する「熟練した技能」を要する業務に従事する外国人向けの在留資格です。
外食業分野での特定技能は「特定技能1号」に該当します。
「特定技能1号」のポイントは以下のとおりです。
- 在留期間:1年、6か月又は4か月ごとの更新、通算で「上限5年」まで
- 技能水準:試験等で確認(技能実習2号を修了した外国人は試験等免除)
- 日本語能力水準:生活や業務に必要な日本語能力を試験等で確認(技能実習2号を修了した外国人は試験等免除)
- 家族の帯同:基本的に認めない
- 受け入れ機関又は登録支援機関による支援の対象
「技能実習」との違い
技能実習は受け入れ人数に制限がありますが、特定技能は原則として受け入れ人数に制限はありません。
また、技能実習は原則として転職することができませんが、特定技能では転職することが可能となっています。
技能実習は制度上さまざまな問題が国の内外で指摘されています。
今後は外国人の労働力の受け入れについては、特定技能制度の利用が主流になっていくでしょう。
外食業分野での「特定技能」取得の条件
「特定技能1号」「特定技能2号」いずれも各特定産業分野の試験に合格する必要があります(「特定技能1号」は日本語試験にも合格する必要があります)。
ただし、技能実習1号を良好に修了した技能実習生は、技能実習1号移行対象職種と特定技能1号における分野(業務区分)との関係について関連性が認められる場合、試験が免除されます。
- 外食業分野では、外国人食品産業技能評価機構による「特定技能1号技能測定試験」に合格する必要があります。
- 国際交流基金による「国際交流基金日本語基礎テスト」もしくは、日本国際教育支援協会による「日本語能力試験」に合格しなくてはなりません。
このように、受け入れる外国人に外食業の技能・日本語能力が十分に備わっているという証明が必要となっています。
「特定技能制度」における「外食業」とは?
対象となる業種について
「特定技能制度」における「外食業」とは、以下の日本標準産業分類に該当する事業者が行う業務になります。
すなわち、①「飲食店」と②「持ち帰り・配達飲食サービス業」です。
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「飲食店」の例としては、食堂、レストラン、料理店などの飲食店、喫茶店があります。
一般的な食堂やファーストフード店、カフェなどをイメージするとわかりやすいでしょう。 -
「持ち帰り・配達飲食サービス業」の例としては、持ち帰り専門店、仕出し料理・弁当屋、宅配専門店、配食サービス事業所などがあります。
宅配ピザ店やテイクアウト専門店などがこれに当たります。
なお「飲食サービス業を行っている事業所に当たるか否か」を判断するに当たっては、飲食サービス業を営む部門の売上げが当該事業所全体の売上げの主たるものである必要はありません。
このため、例えば「宿泊施設内の飲食部門や医療・福祉施設内の給食部門などに就労させることも可能」です。
このように「外食業」は、一般的に飲食に関わる業種に広く適用されるものとなっています。
対象となる業務について
1号特定技能外国人は、試験等で立証された能力を用いて、外食業全般(飲食物調理、接客、店舗管理)に主として従事することができます。
ただし、在留期間全体の「一部の期間」において調理担当など、「特定の業務にのみ従事することも可能」です。
- 飲食物調理:客に提供する飲食料品の調理、調整、製造を行う
- 接客:客に飲食料品を提供するために必要な飲食物調理以外の業務を行う
- 店舗管理:店舗の運営に必要となる上記2業務以外のもの
また、当該業務に従事する日本人が通常従事することとなる関連業務(店舗において原材料として使用する農林水産物の生産、店舗における調理品等以外の物品の販売等)に付随的に従事することも可能となっています。
例えば、飲食店内の小さな販売スペースで会計処理を行うことは問題ありません。
外食業分野の「特定技能外国人」を採用する方法
特定技能外国人を受け入れるためには、省令等で定められた基準を満たす必要があります。
特定技能制度の特徴の一つとして、受け入れ機関は、雇用した1号特定技能外国人に対して、日本で生活するために各種支援を実施する義務があります。
特定技能外国人を受け入れた後も、受け入れ機関の義務を確実に履行することが求められます。
受け入れ企業がやるべきこと
「食品産業特定技能協議会」への加入
特定技能外国人を雇用した企業や団体(受け入れ機関)は、1人目の特定技能外国人を受け入れてから、4か月以内にに加入申請を行い、「食品産業特定技能協議会」の構成員になることが求められます。
参考|農林水産省:食品産業特定技能協議会 加入申請フォーム
「1号特定技能外国人支援計画」の策定
1号特定技能外国人を受け入れる受け入れ機関は、当該外国人が「特定技能1号」の活動を安定的かつ円滑に行うことができるようにするための職業生活上、日常生活上又は社会生活上の支援の実施に関する計画(1号特定技能外国人支援計画)を作成し、当該計画に基づいて支援を行わなければなりません。
参考|出入国管理庁:1号特定技能外国人支援計画書
各種届出の提出
受け入れ機関は、出入国在留管理庁長官に対し、各種届出を随時又は定期に行わなければなりません。
a. 「随時の届出」とは?
- 特定技能雇用契約及び登録支援機関との支援委託契約に係る変更、終了、新たな 契約の締結に関する届出
- 支援計画の変更に係る届出
- 特定技能外国人の受け入れ困難時の届出
- 出入国又は労働関係法令に関する不正行為等を知った時の届出
- 外国人を雇い入れた時または離職した時に氏名や在留資格等の情報を届出(地方出入国在留管理局でなくハローワークに届け出ること)
b. 「定期の届出」とは?
- 特定技能外国人の受け入れ状況や活動状況に関する届出
- 支援計画の実施状況に関する届出
参考|出入国管理庁:届出手続
登録支援機関について
受け入れ機関は、特定技能外国人への支援を実施しなければなりませんが、当該支援業務については、「登録支援機関に支援計画の全部又は一部を委託」することもできます。
登録支援機関に支援計画の全部の実施を委託した場合は、受け入れ機関が満たすべき支援体制を満たしたものとみなされます。
採用までの流れ
特定技能制度では、監理団体や送出機関は設けておらず、受け入れ機関は直接採用活動を行うか、国内外の職業紹介機関を活用し、採用活動を行うことになります。
国内での募集であれば、ハローワーク等を通じて採用することも可能です。
「海外から来日する外国人を採用するケース」
- (外国人が)試験に合格又は技能実習2号を修了する
-
特定技能外国人と雇用契約を結ぶ(特定技能雇用契約の締結)
・登録支援機関と委託契約の締結
「1号特定技能外国人支援計画」の一部の実施を第三者に委託したり、その全部の実施を「登録支援機関」に委託することができます(一部の委託を行う場合には、受け入れ機関において、支援体制の基準を満たす必要があります。) - 「1号特定技能外国人支援計画」の策定
- 事前ガイダンス実施
- 「在留資格認定証明書」交付申請を地方出入国在留管理局へ行う
- 「在留資格認定証明書」受領し外国人に郵送
- 在外公館に査証(ビザ)申請
- 入国
- 就労開始
「日本国内に在留している外国人を採用するケース」
- (外国人が)試験に合格又は技能実習2号を修了する
-
特定技能外国人と雇用契約を結ぶ(特定技能雇用契約の締結)
・登録支援機関と委託契約の締結
「1号特定技能外国人支援計画」の一部の実施を第三者に委託したり、その全部の実施を「登録支援機関」に委託することができます(一部の委託を行う場合には、受け入れ機関において、支援体制の基準を満たす必要があります。) - 「1号特定技能外国人支援計画」の策定
- 事前ガイダンス実施
- 「在留資格変更許可申請」を地方出入国在留管理局へ行う
- 「特定技能1号」へ在留資格を変更
- 就労開始
なお、どちらのケースであっても、事前ガイダンスなどの特定技能外国人支援業務は「登録支援機関へ委託することが可能」です。
参考|法務省:特定技能ガイドブック
「特定技能外国人」を採用する際の注意点
雇用形態と雇用期間について
1号特定技能外国人の雇用は「直接雇用」とし、「フルタイム」*で業務に従事するものでなければなりません。
(*本制度におけるフルタイムとは、労働日数が週5日以上かつ年間217日以上であって、かつ、週労働時間が30時間以上であることをいう。)
直接雇用であり「派遣労働が禁止」されていることに注意が必要です。
報酬について
報酬については「日本人と同等額以上」の報酬水準の確保が条件となっています。
このため、例えば、外国人だけ時給制であるとか日本人に支払っている手当が外国人には支払われないなど、日本人と比べて不当な格差がある場合は申請が却下されます。
また、比較対象となる日本人がいない場合であっても「同業他社より著しく低い報酬」であることは許されません。
「特定技能制度」は「安い労働力の担い手として外国人を利用する制度ではない」ということをしっかりと理解する必要があります。
参考|出入国管理庁:特定技能外国人の報酬に関する説明書
就労が禁止されている業務形態について
1号特定技能外国人に対して「風俗営業法」に規定される「風俗営業」「性風俗関連特殊営業」を営む営業所で就労を行わせることは禁止されています。
また「接待」行為も禁止されています。
「風俗営業」 及び「性風俗関連特殊営業」を営む営業所においては、「飲食物調理」「接客」「店舗管理」の業務であっても、1号特定技能外国人を就労させることはできません。
ナイトクラブやキャバレーなど、いわゆる夜のお店での就労はできません。
採用可能人数について
技能実習と異なり「外食業の特定技能外国人」については採用人数の制限はなく、何人でも無制限に雇用することができます。
ただし、外食業全体で5年間で53,000人の受け入れ見込み数となっています。
今後は各企業ごとに上限枠が設定される可能性もあり、政府の公開する情報を注視した方が良いでしょう。
海外の家族について
残念ながら「1号特定技能外国人」の在留資格は本人のみの適用のため、原則として日本で母国の家族と一緒に住むことはできません。
人道上配慮すべき事情があるなど一定の条件を満たせば認められる可能性はありますが、基本的には認められないものと考えてください。
転職について
「1号特定技能外国人」は自由に転職することができます。
また、転職については「1号特定技能外国人支援計画」の項目に「(人員整理等の場合の)転職の支援」があり、権利としても認められています。
ただし、在留資格変更許可申請等の手続きが必要であるため実際には転職のハードルはかなり高くなっています。
雇用する場合の費用の相場
雇用する場合の費用の相場ですが、国籍や人数、人材紹介会社の紹介料、登録支援機関などによって料金が大きく違ってくるのが実情です。
概算になりますが、一人当たり50万円から150万円程度かかると見積もっていた方が良いでしょう。
もちろん、受け入れを自社で行うこともできますが、煩雑な手続きとある程度の法律知識が要求されますので、難しい場合は、登録支援機関の利用を検討することをお勧めします。
まとめ
コロナ禍から落ち着きを取り戻しつつあり、インバウンド需要が急拡大している近年「特定技能外国人」の活躍の場はますます増えており、人手不足にあえぐ外食業にとって「特定技能外国人」の雇用は問題解決の最も有効な手段です。
ぜひこの機会に「特定技能外国人」の採用を検討してみてはいかがでしょうか。
参考|出入国在留管理庁:特定技能ガイドブック・特定の分野に係る特定技能外国人受け入れに関する運用要領