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特定技能「素形材産業」とは
特定技能は2019年4月に新設された人材不足を解消するための制度になります。
特定技能「素形材産業」は、今では特定技能「素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業」となっていますが、もともとは「素形材産業」という1つの分野でした。2022年5月に製造3分野(素形材産業分野、産業機械製造業分野、電気・電子情報関連産業分野)が統合され、特定技能「素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業」になりました。
本記事では特に特定技能「素形材産業」について解説します。
「素形材産業界」の現状
素形材産業界の現状を簡単に説明します。
人手不足
急速に進む少子高齢化の影響により、現在、多くの業界が深刻な人手不足に陥っています。
なかでも製造業の人手不足は厳しく、経済産業省のものづくり白書によれば大企業・中小企業全体の94%が人手不足に悩まされているとわかっています。
また大企業・中小企業全体の32%が人手不足により業務の遂行に影響が出ているとアンケートに回答しており、今後ますます深刻化すると考えられています。
素形材産業の関連職種である鋳造や鍛造、金属プレスなどの有効求人倍率は2.8倍にまで上昇しており、このままでは2025年には6万人以上の人材が不足すると予測されています。
同業界を志す若者が少なく、今後も肉体労働を含むことなどから若者の人気を集める見込みは薄いのが実情です。
受け入れ可能な人材
特定技能「素形材産業」では、人材不足のある程度の解消が狙える21,500人が受け入れ目標人数です。そのためもあり、特定技能での人材受け入れルールはそこまで厳しいものではなく、18歳以上の即戦力であれば問題ありません。具体的には業務のスキルと日本語能力があれば、日本に短期ビザで入国して試験に合格すれば取得可能です。
受け入れ方法
受け入れ方法には主に以下の2つがあります。
- 留学生に対する資格取得の支援
- 技能実習生に対する資格取得の支援
順番に説明します。
留学生に対する資格取得支援
留学生であればすでに日本にいるために渡航費の手配費用などがかからず、語学力の心配も少ないため、資格取得支援をし特定技能を取得してもらうことはコストパフォーマンスが非常にいい方法です
技能実習生に対する資格取得支援
技能実習生からの移行もスムーズです。
ただ地方出入国在留管理局への申請が必要です。
また注意点として、技能実習生ならだれでも移行できるわけではありません。技能に習熟している技能実習生のみ、つまり技能実習2号所持者のみです。
すでに受け入れている技能実習生がいる場合、もしくは過去に受け入れていた技能実習生を呼び戻せる場合には、きわめて有力な候補となります。
特定技能「素形材産業」で従事できる業務※
令和4年8月30日の閣議決定で、従事できる業務区分は「機械金属加工」「電気電子機器組立て」「金属表面処理」の3区分になりました。詳しくは経済産業省の「製造業における特定技能外国人材の受入れについて」をご参照ください。
3区分の詳細な内訳は以下の通りです。
①機械金属加工
- 鋳造
- ダイカスト
- 金属プレス加工
- 工場板金
- 鍛造
- 鉄工
- 機械加工
- 仕上げ
- プラスチック成形
- 溶接
- 塗装
- 電気機器組立て
- 機械検査
- 機械保全
- 工業包装
②電気電子機器組立て
- 機械加工
- 仕上げ
- プラスチック成形
- 電気機器組立て
- 電子機器組立て
- プリント配線板製造
- 機械検査
- 機械保全
- 工業包装
③金属表面処理
- めっき
- アルミニウム陽極酸化処理
雇用形態・報酬フルタイムの直接雇用のみ許可されています。
農業などの一部業種では派遣雇用が認められていますが(農閑期があるため)、素形材産業では直接雇用以外認められていません。
また報酬は日本人と同額を支払う必要があります。
能力で差をつけることは問題ありません。ですが「外国人である」ことを理由に低賃金にすることは許されません。
雇用期間
在留期間は通算5年です。
「通算」ですので2年働き、1年間帰国するなら、日本に再入国後3年働くことができます。
受け入れ人数
技能実習の場合と違って、特定技能では介護と建築以外では、会社ごとの受け入れ人数は決まっていません。
雇用するためにかかる費用
特定技能外国人の雇用のためには、雇用前・雇用後でそれぞれ費用がかかります。
雇用前にかかる費用
送り出し機関への手数料:20~40万円
海外から呼び寄せる場合にはこれくらいかかり、呼び寄せる国によって金額が前後します。
人材紹介会社への手数料:30〜90万円
年収の10〜30%がかかります。上記金額は年収300万円の場合の金額です。
在留資格申請の委託費:10~20万円
雇用後にかかる費用
登録支援機関への支援委託費:年間24~36万円
一人当たり月2~3万円の計算です。
在留資格更新申請に関する委託費:5万円〜15万円
特定技能1号「素形材産業」の取得方法
特定技能「素形材産業」の取得方法は2つあります。
1つ目は特定技能評価試験および日本語試験に合格すること、2つ目は技能実習生2号から移行する方法です。順番に解説します。
「特定技能評価試験」「日本語試験」に合格する
技能実習生でない場合には「製造分野特定技能1号評価試験」及び日本語試験にパスする必要があります。
「素形材産業」分野特定技能評価試験
特定技能評価試験は経済産業省が運営を行っており、学科と実技で構成されています。
コンピュータ・ベースド・テスティング(CBT)方式か、ペーパーテスト方式で実施されています。また今後、実技試験で制作などの作業試験を課すことが検討されています。
合格基準は学科試験では65%以上正解、実技試験は60%以上正解で、海外で実施される試験は実施国の現地語で行われます。
サンプル問題
鋳造のサンプル問題は以下の通りです。経済産業省のサイトより引用します。
引用開始
次の文章のうち、正しいものはAを、誤っているものはBをマークしなさい。
(機械金属加工区分共通:安全衛生)
問題1 品物を運ぶときは、作業を早く行うために重くても無理をして運ぶ。
問題2 水準器は取り付け面の水平や垂直を調べるときに使われる。
引用終わり
鋳造や鍛造、ダイカストなど、実施される試験のその他の問題サンプルは経済産業省のこちらのWebサイトに掲載されていますので併せてご確認ください。
日本語試験日本語能力を測る試験には以下の2種類あります。
- 国際交流基金日本語基礎テスト
- 日本語能力試験
難易度はほぼ同じでどちらかに合格する必要があります。
国際交流基金日本語基礎テストでは、日本語での日常会話の力を測定します。
日本語能力試験には、レベルは5段階あります。最も易しいN5は日本語の基礎、N1では高いレベルの日本語力が問われます。この日本語能力試験を選んだ場合には、N4に合格することが必要です。N4では、日本語で日常会話がある程度できること、簡単な日本語の文章であれば読めるかができるかをチェックされます。
技能実習2号を良好に修了2つ目の方法は、技能実習2号からの移行です。
技能実習とは日本の技術を海外の人材に教える研修制度です。
どの技能実習生も特定技能に移行できるわけではなく、技能実習生のなかで技能に習熟しているもの、つまり技能実習生2号である場合には無試験で特定技能に移行可能です。
より詳細に説明すると、技能実習を2年10ヵ月以上で修了し、技能検定3級に合格している場合には移行できます。もしくは、技能検定3級相当の技能実習評価試験の実技試験に合格している場合も「良好に修了」扱いになり移行可能です。
また技能実習生に関する評価調書の書面がある場合にも「良好に修了」扱いになります。
ただ1点注意点があります。
技能実習2号の職種と、特定技能1号の職種に対応関係がなければなりません。
例えば技能実習2号の職種がダイカストなら、ダイカストの業務が含まれる機械金属加工区分の特定技能1号には移行できます。しかしダイカストの業務を含まない職種である金属表面処理区分では、特定技能1号へ移行できません。
特定技能外国人を受け入れるには
特定技能外国人を受け入れるためには、以下の3つの条件を満たさねばなりません。
順番に解説します。
受け入れ体制を整える※
まず、受け入れ態勢を整える必要があります。
具体的には、日本での生活に困らないように、入国前の事前ガイダンスをはじめ、出入国送迎、住居の確保、生活オリエンテーション、日本語学習、日本人との交流促進、相談苦情対応などの支援です。
これらの義務的支援は、過去2年間、外国人材の受け入れ実績がない場合には登録支援機関に委託する必要があります。
受け入れ側企業が対象産業であること※
素形材産業分野で特定技能外国人を受け入れるためには、受け入れ側企業が対象産業である必要があります。経済産業省の「製造業における特定技能外国人材の受入れについて」において、以下の19種類のいずれかに該当していなければならないことが示されています。
- 鋳型製造業(中子を含む)
- 鉄素形材製造業
- 非鉄金属素形材製造業
- 機械刃物製造業
- 作業工具製造業
- バルブ・コックを除く配管工事用附属品製造業
- 金属素形材製品製造業
- 溶融めっき業(表面処理鋼材製造業を除く)
- 電気めっき業(表面処理鋼材製造業を除く)
- 金属熱処理業
- その他の金属表面処理業(アルミニウム陽極酸化処理業に限る)
- ボルト・ナット・リベット・小ねじ・木ねじ等製造業
- はん用機械器具製造業(消火器具・消火装置製造業を除く)
- 生産用機械器具製造業
- 業務用機械器具製造業(医療用機械器具・医療用品製造業及び武器製造業を除く)
- 電子部品・デバイス・電子回路製造業
- 電気機械器具製造業(内燃機関電装品製造業を除く)
- 情報通信機械器具製造業
- 工業用模型製造業
上記の産業に該当しているか否かは、直近1年間の「製造品出荷額等」が発生しているかどうかで判断されます。この「製造品出荷額等」とは、直近1年間の製造品出荷額、加工賃収入額、くず廃物の出荷額、そしてその他の収入の合計金額のことです。
特定技能協議会への加入
また「製造業特定技能外国人材受入れ協議・連絡会」への加入も必須です。
この協議・連絡会は、経済産業省が設置した組織で特定技能「素形材産業」制度を適切かつ、スムーズに運用するための組織です。
特定技能を申請する前に加入をしなければならず、加入手続きはオンラインで完結します。
まとめ
特定技能「素形材産業」について、最後に簡単にまとめさせていただきます。
特定技能「素形材産業界」
素形材産業は深刻な人手不足に陥っており、なかでも鋳造や鍛造、金属プレスなどに従事する人材が足りていません。この人手不足を解決するために、特定技能「素形材産業界」が新設されました。21,500人を受け入れ目標人数としています。
受け入れ可能な人材
特定技能人材になることは難しくなく、18歳以上の即戦力であれば原則誰でも資格はあります。
実際に特定技能になるためには最低限の日本語能力と、即戦力として働くための技能が求められます。
受け入れ方法
受け入れ方法は様々ありますが、主に留学生に対する資格支援と、技能実習生に対する資格支援が最も効率的な方法です。
特定技能「素形材産業」で従事できる業務
従事できる仕事は①機械金属加工、②電気電子機器組立て、③金属表面処理の3区分に分かれています。
特定技能1号「素形材産業」の取得方法
特定技能1号「素形材産業」を取得するには「特定技能評価試験」と「日本語試験」に合格する、もしくは技能実習2号を良好に修了しなければなりません。
特定技能外国人を受け入れるには
特定技能外国人を受け入れるには①受け入れ体制を整える、②受け入れ側企業が対象産業である、③特定技能協議会へ加入する、以上3点を満たさねばなりません。
以上になります。