近年、ビルクリーニング業界で外国人労働者の数が増えつつあります。
その背景には、少子高齢化による労働力不足や、ビルクリーニングの需要拡大などがあげられます。
本記事では、ビルクリーニング業界の外国人労働者の課題と展望について紹介します。
目次
ビルクリーニング業界の外国人労働者の現状
出入国在留管理庁によると、2023年6月末時点で、ビルクリーニング業界の特定技能外国人の数は2,700人ほどです。
ビルクリーニング業は、近年非常にニーズが高まっているにも関わらず、それに比べてこの受け入れ数は少ないと言えるでしょう。ではなぜ、受け入れ人数が増えていかないのでしょうか。またそもそも、日本のビルクリーニング業界が人手不足に陥っている理由はなんでしょうか。
なぜ人手不足が起きるのか?
少子高齢化
こちらはどの業種の人手不足でも共通の原因ではありますが、無視できない要因です。日本は少子高齢化が進み、若い人が減っています。清掃の仕事に就きたい人の母数自体が、少なくなっていることが、人手不足の要因の最たるものだと言えるでしょう。
ですが当然、少子高齢化だけが原因ではありません。
仕事のイメージ
清掃の仕事は重労働で汚いという、ネガティブなイメージを持つ人が多いです。
もちろんビルクリーニングの仕事は、大変意義のある仕事です。
ですが汚れた場所を掃除するのは肉体的負担が大きく、休みも少ないと思われがちなため、若者の人気をあまり集めることができていない現状があります。
外国人労働者を増やす
ビルクリーニング業界の人手不足解決には、外国人を雇うことが有効だと考えられています。
そのため政府は2019年に、特定技能制度を導入しました。
この特定技能制度を利用すれば、ビルの清掃などの知識・技能を持つ外国人に、一定期間日本で働いてもらうことができます。
この特定技能外国人が増えると、以下のようなメリットがあります。
人手不足の解消
もちろん、最大のメリットは、人手不足の解消です。
ビルクリーニング業界は、慢性的な人手不足に悩まされています。
ですが特定技能外国人が増えれば、人材不足を解消し、安定した事業運営が可能になります。
コスト削減
人手不足解消だけが、特定技能外国人を受け入れるメリットではありません。
人が集まらないと募集のために予算を割かねばなりません。またそれでも集まらないのであれば、応募者にアピールするために、高額な給与などを設定して、人を集めないとなりません。
ですが特定技能制度を利用することで、募集のための膨大な予算を割いたり、企業が不適切だと思えるほど高額な給与を設定したりしなくても、すでに技能を持った外国人を雇用することが可能です。
多様性のある職場環境
また特定技能外国人の受け入れは、職場に多様性をもたらします。
日本人スタッフが、新しい文化や考え方を学ぶ機会にもなります。従業員のモチベーション向上や国際的な視野の広がりにもつながります。
24時間稼働体制の実現
また人手が増えることで、24時間体制を実現することができます。
昼間の業務だけではなく、夜間の仕事もビルクリーニング業では若干存在しています。
外国人労働者と日本人労働者を組み合わせることで、24時間稼働体制を実現することができます。
これはつまり、夜間や早朝の清掃など、人手不足が深刻な時間帯の清掃業務も担うことができ、それにより企業は競争力を高めることができます。
ビルクリーニング業界の外国人労働者の課題
特定技能外国人が増えれば、様々なメリットを享受できます。
しかし、ビルクリーニング業界の外国人労働者には、同時に様々な課題があります。例えば日本語や日本の文化習得、職場環境への適応などです。
まず日本語習得の課題について、4つの観点から説明します。
課題1:日本語習得がスムーズに進まない
外国人労働者は、日本語の学習においてつまずきがちです。
それは主に以下にあげる理由のためと考えられています。
時間的な制約
まず時間的な制約のため、日本語学習ができない場合が多々あります。
多くの外国人労働者は、仕事と生活の両立に追われており、日本語学習のための十分な時間確保が困難な状況にあります。
また仕送り額を増やすため、料理は全て自炊で賄う外国人が多く、家事や慣れない日本での買い物などでも、大きく時間を割かれてしまっています。
学習機会の不足
それだけではなく、日本語教育機関や企業内での日本語研修など、外国人労働者にとっての学習機会が十分に整備されていない地域があります。
学習意欲が高くても、企業が協力的でないと、外国人労働者の日本語力を伸ばしていくことができません。
学習環境の整備
学習スペースや設備が不足して、集中して学習できる環境が整っていない場合もあります。もちろん、自宅や、図書館や喫茶店での学習は可能です。
ですが企業側が、学習スペースなどを用意するなどの措置をとることが、外国人労働者の学習意欲を高めることは間違いありません。
指導者の不足
こちらも深刻な問題です。
日本語教育に精通した指導者、また外国人労働者の指導経験を持つ指導者が不足しており、質の高い教育を提供できない場合も多いです。
課題2:日本語の学習の費用が負担となっている
また経済的な理由で、日本語学習がスムーズに進まない場合もあります。
経済的な理由については、主に次の2点があげられます。
順番に説明をしていきます。
経済的な負担
日本語教育機関の授業料や教材費は、外国人労働者にとって大きな経済的な負担となります。
そのため日本語学習用の教材を購入する費用を負担する、もしくは企業側が無償で提供するなどのサポートは大変有効だと思われます。
また近年では、ボランティアの日本語教室が非常に増えています。
ですので地域にボランティアの日本語教室がある場合には、外国人労働者にそちらの紹介を積極的にしていくと良いでしょう。
ですが残念ながらボランティアの日本語教室などを利用できない地域も少なくありません。
支援制度の不足
日本語学習支援制度や、奨学金制度など、経済的な負担を軽減するための支援制度は、まだまだ十分だとはいえません。
積極的に外国人労働者を受け入れていくのであれば、これらの支援制度をより充実させていくことも大切だと考えられています。
課題3:日本文化の理解
また日本文化や慣習を理解する機会が十分にないことも、課題とされています。
ここでは外国人労働者の日本文化の理解に関して説明していきます。
日本文化の理解不足によるトラブル
日本の文化や慣習を理解していないために、日常生活や職場でトラブルが発生する可能性があります。
中でも代表的なトラブルとして、ゴミの分別などの「ゴミ出し」があげられます。
ですが「ゴミ出し」をはじめとした生活トラブルは、丁寧なサポートで激減させることができます。
これらトラブルの発生を防ぐため、しっかりしたサポートが求められます。
情報不足
日本の文化や慣習に関する情報が、外国人労働者にとって分かりやすい形式で提供されていない場合があります。
ただこの点もサポートで改善することができますので、企業努力で解決することが可能です。
生活相談窓口の不足
生活上の困りごとや悩みについて相談できる窓口が十分に整備されていない場合があります。
ビルクリーニング業界の課題解決の方法
日本語学習に関する課題の解決方法について以下にまとめます。
企業による日本語学習支援
企業が日本語教育機関と連携して、勤務時間内や休日に日本語学習の機会を提供すると、学習意欲のある外国人の学びに大きなプラスをもたらします。
またボランティアの日本語教室がある場合には、初回のみ付き添って担当者が一緒に行くなどをすることも有効です。
政府による支援制度の拡充
日本語学習支援制度や奨学金制度などを拡充し、経済的な負担を軽減することも有効です。
今後、特定技能外国人は、日本の産業を支える存在になるという意見も出てきています。少子高齢化がますます進むため、政府や自治体が日本語学習のための支援制度を確立することも有効だと思われます。
指導者育成
日本語教育に精通した指導者や、外国人労働者の指導経験を持つ指導者を育成することも、重要になってきます。
優秀な指導者の不足は、特定技能外国人がさらに日本語スキルを伸ばす上での障害となります。
これらの取り組みを通じて、外国人労働者が安心して日本語学習に取り組める環境を整備することが、ビルクリーニング業界における人材確保と、質の向上には有効だと考えられています。
ビルクリーニング業界における外国人労働者活躍のための取り組み
今後、ビルクリーニング業界における外国人労働者の役割は、ますます重要になってくるでしょう。少子高齢化による労働力不足がさらに深刻化する中、外国人労働者の力は欠かせません。またビルクリーニングの需要拡大が見込まれており、外国人労働者の活躍がますます期待されています。
そのためここからは、外国人労働者の展望などについて説明していきます。
特定技能制度
外国人労働者に活躍してもらうための近年最大の取り組みが、特定技能制度です。
特定技能制度は、高度な専門知識や技能を有する外国人労働者を受け入れる制度です。ビルクリーニング、介護、農業、漁業など、12の分野で人手不足が深刻な業種が対象となっています。
特定技能1号と特定技能2号の2種類があり、それぞれ求められる技能レベルや在留期間が異なります。特定技能1号であれば5年ですが、2号であれば更新を続ければ制限なく在留して、ビルクリーニング業界で業務に従事できます。
業務の効率化
また業務の効率化が重要で、具体的にはマニュアル化などが考えられます。
日本語が苦手だったり、日本の働き方がよく分かってなかったりしても、業務をマニュアル化し、それを落とし込むフローをしっかり作れば、少ない人数で効率的に仕事を回すことができます。
多くの外国人労働者に働いてもらうことも大切ですが、一人一人の仕事の質を向上させることも外国人労働者の活躍にとっては欠かせません。
労働環境の改善
労働環境の改善により、外国人の就職意欲を高めることができます。
具体的には、長時間労働や低賃金の是正、メンタルヘルス対策の強化などが考えられます。
就労意欲を高めるだけではなく、企業への信頼が増し、長期間働いてくれるようにもなります。
まとめ
最後に本記事の内容を、簡単にまとめます。
ビルクリーニング業界の外国人労働者の現状
出入国在留管理庁によると、2023年6月末時点で、ビルクリーニング業界の特定技能外国人の数は2,700人ほどです。
なぜ人手不足が起きるのか?
少子高齢化
清掃の仕事に就きたい人の母数自体が、少なくなっていることが、人手不足の要因の最たるものだと言えるでしょう。
仕事のイメージ
清掃の仕事は重労働で汚いという、ネガティブなイメージを持つ人が多いです。
外国人労働者を増やす
特定技能制度を利用すれば、ビルの清掃などの知識・技能を持つ外国人に、一定期間日本で働いてもらうことができます。
ビルクリーニング業界の外国人労働者の課題
課題1:日本語習得がスムーズに進まない
時間的な制約、学習機会の不足、学習環境の整備、指導者の不足などが問題となっています。
課題2:日本語の学習の費用が負担となっている
日本語教育機関の授業料や教材費は、外国人労働者にとって大きな経済的な負担となり、またボランティアの日本語教室が非常に増えていますが、それら施設がほとんどないエリアもあります。
課題3:日本文化の理解
代表的なトラブルとして、ゴミの分別などの「ゴミ出し」があげられます。また日本の文化や慣習に関する情報が、外国人労働者にとって分かりやすい形式で提供されていない場合があります。
ビルクリーニング業界の課題解決の方法
企業による日本語学習支援、政府による支援制度の拡充、指導者育成などが重要です。
ビルクリーニング業界における外国人労働者の展望
日本語や日本の文化の習得、職場環境への適応など、外国人労働者が直面する課題の解決が重要です。特に在留制限のある特定技能1号から、在留に制限のない特定2号に移り長く日本で働いてもらう場合には、日本語力の向上と、日本の文化に馴染んでいくことは不可欠です。
外国人労働者の活躍に向けた取り組み
特定技能導入が、外国人労働者の活躍に向けた近年最大の取り組みです。
また業務の効率化も重要です。
業務をマニュアル化し、それを落とし込むフローをしっかり作れば、少ない人数で効率的に仕事を回すことができます。
労働環境の改善も大切です。外国人の就職意欲を高めることができるためです。
上記のことを意識して、これから外国人人材を受け入れる予定の方は、特定技能の受け入れを前向きに検討するとよいでしょう。
また、すでに受け入れているのであれば、現状の支援体制に不備などがないかを改めて確認するとよいでしょう。