農業業界は人手不足が課題になっており、日本の食料自給率の低下の原因でもあります。
なぜ今農業業界は人手不足なのか、その原因と背景をご紹介します。
人手不足で起きる問題と、必要な取り組みと外国人労働者を採用するメリットなども共に解説します。
人手不足解消のために外国人労働者を採用した企業の成功事例などもまとめているため、ぜひ参考にしてください。
目次
農業業界の人手不足の背景と原因
農業業界の人手不足が起きている理由には、さまざまな背景が隠れています。その原因と背景について、代表的な理由をご紹介します。
少子高齢化による後継者不足
少子高齢化の影響で、後継者不足が深刻化しています。若い世代が農業に参入する数も年々減少しており、高齢化が進んでいることが現状です。
農業自体は体力勝負であり、かつ農業は短期間で作業をすべて覚えられる仕事ではありません。この後継者を育成し、実際に一人前に育てるまでには長い時間がかかるため、ますます農業従事者の人数が減っていき、後継者が育たない状況が続いているのです。
都心への人口集中
農家は広い土地が必要であるため、農業は地方が盛んです。しかし、現代では地方在住の若者が東京などの都心部に就職するケースが多くあります。
その結果、地方で農業に従事する人がなかなか増えず、高齢化が進んでいるのです。
農業業界に対するネガティブイメージ
農業と言えば、体力的にきつい仕事であり汚れてしまう、収入が低いといった、さまざまな苦労があるイメージを持つ人が少なくありません。
また、農業の仕事内容を詳しく知る機会が学生のうちにないことも、新しく農業業界に入ろうとする若者や、転職者がいない理由と言われています。
このネガティブイメージにより、農業に魅力を感じない状況から働きたくなるような魅力や憧れを感じられる職業へと変えていく必要が、今後の日本の農業業界の課題と言えるのです。
新規参入のハードルが高い
農業を一からスタートするには、農機具や土地などさまざまな用意が必要です。
この初期投資が高額であることから、農業に興味があってもなかなか始めたくてもできないと考える人もいます。そのため、興味があっても農業をスタートできずに諦めている人も、潜在的にいると考えられています。
また、季節による仕事量の変化による収入の不安定さといった、ある程度の蓄えがないと安心して農業を始められない環境も1つの問題点です。
これらの状況をサポートできる環境づくりや、農業はつらいというマイナスイメージを改善していくことが求められるのです。
得られる所得の低さ
初期投資が必要であることに対して、収益性がそこまで高くないところも農業の問題点と言えます。たとえば、農林水産省による個別経営の農家の経営は、以下のとおりです。
水田作経営:粗収益265万‐農業経営費209万円=農業所得56万円
畑作経営:粗収益905万円‐農業経営費619万円=農業所得286万円
日本人の食卓に欠かせない米づくりはほとんど所得がなく、収益性がとても低いことがわかります。
一方で水産業の漁労収入は900万円で漁労支出は616万円、つまり収益は284万円です。漁業の場合は遠洋であれば、年収500万円~1,000万円と高収入を目指せるケースもありますが、農業は家族経営が多く、継続して外部から人を雇う経済的ゆとりがないことも問題視されています。
このようにほかの産業よりも初期投資がかかるうえ、採算性が高くない業種であることから、新規参入がむずかしく定着しづらいのです。単純に農作物を作るだけでなく、自社農家のブランディング化、農作業の効率化といったコストや労働力の負担の軽減など、所得を増やすための工夫が必要です。
農業の人手不足で起きる3つの問題
農業の人手不足が続くと、日本では国民の生活に関わるような問題が起きかねません。
人手不足の深刻化によって、どのようなトラブルが起きるのか理解し、現状を変えていく必要があると知ることが大切です。
国内の農産物生産量の減少
国内の農産物生産量が減少していくと、いわゆる食料自給率が低下します。現状、日本の食料自給率は38%に留まっています。
これはアメリカやオーストラリア、カナダなどの各国が自給率100%や200%以上を記録している中、日本はほとんどを輸入に頼っていることがわかります。
そして米の消費が減少している一方で、日本の農家の担い手の減少および、土地の狭さによる農地の確保の困難な環境などの影響から、ますます食料自給率は低下するリスクがあるのです。
食料自給率が低下した場合、輸入先の国との関係が悪化すると食糧不足に陥る危険があります。国で作られたものを食べ、一方で米や牛乳などの一部の国産農産物や畜産物は余っていることが現状なのです。
農産物の輸出競争力の低下
日本の農家の数が少ないことは、他国と比べて輸出できる量自体も減少している証です。
この農産物の輸出競争力が低下すれば、輸出目的で生産した農産物を買い取る国がどんどん減るリスクがあるのです。日本の農家にとって輸出による収入も貴重な財源です。
しかし、他国の大量生産による価格を下げるといった売り方には、日本の農産物にはできない可能性があるのです。すると取引先がなくなり、ますます日本の農家が貧しくなる可能性が考えられます。
災害など緊急時の食糧不足
地震や大規模火災、津波など、日本は災害が多い国です。地震などの避難時の食糧が、日本国内での生産そのものが少なければすぐに提供できなくなってしまいます。
緊急時の食糧不足の影響で、ますます人命が脅かされる状況になりかねません。食は生き物にとって欠かせないものだからこそ、農業業界の人手不足の深刻化はそのままいざという時の日本人の命に関わる状況につながるのです。
農業業界の後継者不足解決に必要な取り組み
農業業界の後継者不足に対して、日本ではさまざまな取り組みがスタートしています。今いる農業の働き手の負担を減らすために、考えられている取り組みの例をご紹介します。
ロボット技術などを取り入れたスマート農業化
後継者不足の農業に対して、一部をロボット技術によってスマート化する方法があります。
すると必要な数の後継者がいなくても、ロボットの作業によって従来よりも人員を減らせるのです。
・広い農地を管理するため作業記録の自動データ化
・ドローンを活用した農地の見回り
・AI技術を生かした作物の育成チェック
・虫の被害や病気などにいち早く気づくためのシステム
上記のようにさまざまなスマート農業による効率化が取り入れられ、少ない人員で広い農地を管理する農家が増えています。
これにより、従来よりも人員が少ない状況でもハイレベルな農業経営を目指せます。
法人による農業参入
昔から農家と言えば一族で代々受け継いでいくイメージがありました。現在は農家を継がずに都市部で就職する人が増えており、後継者不足が心配されています。
そこで農業を法人化し、農作業をする従業員を雇うスタイルが注目されています。新卒や中途採用などで人員を採用することで、家族経営の不安がなくなり常に若い世代も農業に従事できるのです。
これは新規参入がむずかしい農家において、若い世代が初期投資なしでいろいろな農作業を経験できるチャンスにもなるのです。
農業の働き手不足に必要な取り組み
農業の働き手不足は、今労働者が足りない状況のことです。
人員を募集してもなかなか新しい人材が入ってこない状況に対して、日本では次のような取り組みが注目されています。
点在している農地を集約する
農地が点在していると、それだけで見回りなどの管理の負担が大きくなります。少ない人員で農地を管理するには、点在している農地を1か所に集約するスタイルが注目されています。
また、採算を合わせるためにも、最低限の耕作面積の確保も重要です。農地の集約化はすぐに実行できるとは限りませんが、所有する農地を整理することで解決につながるケースがあるのです。
短期の農作業従事者を探す
農業はつらい、汚いというネガティブイメージに対して、農業業界の素晴らしさを伝えて、幅広い人員を募ることが大切です。
また、農作物によって必要な人員が変わったり、冬場は仕事がなくなったりすることも大きな課題です。
特に長時間労働や、作業量に対する給料の低さなどは、外部からの人材を確保できない原因です。そこで近年では短期の農業従事者を探すアプリや募集サイトなどが登場しています。
あらかじめ期間が決まっているため農業への参入ハードルが低く、学びの場となっています。
外国人労働者を採用する
2019年4月から、日本の人手不足が深刻化している特定産業分野に、即戦力となる外国人材を採用する在留資格が登場しました。その1つが特定技能「農業」です。
・耕種農業…施設園芸・畑策・野菜・果樹などの栽培
・畜産農業…養豚・養鶏・酪農など
上記の2つに分けられており、ほかにも農畜産物の加工から販売、さらには冬場の除雪作業なども業務内容です。
農業業界に外国人労働者を採用するメリット
農業業界に外国人労働者を採用することは、さまざまなメリットがあります。
労働力追加による生産性の向上
労働力が追加されることで、一気に生産性の向上に役立ちます。特に現状で人材不足により、農地の縮小化をしている農家にとっては、生産数を伸ばして売上アップにつなげられるのです。
しかも外国人労働者の受け入れ数に上限がないことから、農業に従事する外国人労働者に注目が集まっています。
農業の新技術と知識を導入できる
特定技能「農業」を取得している外国人労働者の中には、出身国で農業を学んだ人もいます。すると日本にはない独自の農業技術を学べるうえ、知識として日本の農業に役立てられるのです。
外国人労働者は、これまでにない農業のやり方に気付いたり、ビジネスチャンスになったりと、農業業界に新しい風を運んできてくれる存在です。
コミュニケーションがとりやすい
特定技能「農業」は留学生や、技能実習生の経験がある日本滞在歴が長い外国人が多くいます。
そのため、日本語能力が高い人が多く、まさに即戦力になってくれる存在です。それだけでなく、日本と外国の橋渡しとして活躍してくれるなど農業のグローバル化も期待できるのです。
農業業界で外国人労働者をサポートする方法
特定技能「農業」は外国人労働者が就業先を選べるため、現状の環境が良くなければすぐに辞められてしまうリスクがあります。
安定して働いてもらうためにも、農業業界でできるサポートを検討することが大切です。
農業分野の追加学習と言語学習の場の提供
特定技能「農業」は資格取得のために、農業にまつわる基礎知識を学んで試験をクリアしています。
しかし基本知識だけでなく、その農家の働き方や扱う作物についての追加学習が必要になるところもあるため、学びの場の提供が必要です。
外国人材の雇用は事前に、受け入れ企業は環境を整えるだけでなくさまざまな手続きがあります。たとえば、どのように外国人材の労働環境を整えて、支援するのか詳細を明記した「支援計画書」を作成し、提出する必要があります。この時に農業の学習をどうするのか、支援計画に記載しましょう。
外国人労働者が安心して暮らし、学べる環境にすることが大切です。
特定技能「農業」の取得者はコミュニケーションに問題がないレベルの日本語を習得しています。
しかし農業には専門用語が多く、仕事にまつわる言語教育が必要です。この言語教育の研修期間を設けるなども、外国人労働者が働きやすい環境づくりにつながります。
安全な労働環境づくり
外国人材は生活のサポートにより、安全で安心できる労働環境づくりが必要です。たとえば今の住環境で困った事がないか、通勤がスムーズかといった、仕事だけでなく日々の生活のサポートも必要です。
国際免許がない外国人材のために送迎をするなどが挙げられます。また、お互いに話し合う場を作ったり、交流するためのパーティーやちょっとしたイベントなどといった催しを企画している企業もあります。
外国人労働者の健康管理
外国人労働者にとって、祖国から離れている環境は肉体的にも精神的にも負担がかかります。そもそも病院自体にほとんど行ったことがない外国人労働者もいるため、健康管理が課題の1つなのです。
健康管理も採用している企業の責任の1つであり、受診時にうまく症状を伝えられない、どの病院に行けばいいかわからないというトラブルをサポートする必要があります。
農業業界の人手不足解消の成功事例
農業業界の人手不足を、外国人材の採用によって改善した企業の成功例をご紹介します。
自社の技能実習経験者を積極採用
北海道の有限会社フォーレ白老は、日本人70名、外国人26名の社員構成です。自社の技能実習経験者の中国人、ベトナム人を積極採用しています。
実習生時代から知っている関係性のため、コミュニケーションも円滑で、病院に連れて行った経験もあるなど健康管理のサポートも行っています。
送迎などの生活サポートで外国人を長期雇用
外国人材は運転免許を所有していない人が多く、働きたくても就業場所までの通勤が困難なケースがあります。そこで支援として送迎サポートをしている企業も存在します。
また、居住場所も職場からほど近い距離に寮を用意し、格安の居住費で提供するなど安心して暮らせる場を提供することも、外国人材の居心地の良い職場環境づくりに役立てられます。
自動車・トラクター免許など資格取得の費用を支援
外国人材がより幅広い業務を担当し、スキルを磨くために免許取得を支援する企業もあります。資格取得にかかる費用の一部を支援するなどして、外国人材が活躍できる幅を広げることが、将来的な企業の人材不足解消や農業の技術継承につながるのです。
まとめ
農業業界の人手不足は深刻化しており、農作物の生産量低下による、さまざまな弊害が出ています。農業は人が生きる上で欠かせない仕事だからこそ、人材不足の解消のためにロボットの導入や、外国人労働者の積極採用といったさまざまな取り組みがあります。
特定技能「農業」が作られるなど、即戦力になる外国人材が注目されています。農業の人手不足緩和になり、母国では仕事がない、母国に帰らずに日本で就労したい外国人労働者とのニーズにマッチしているなどのメリットがあります。
ただし、外国人労働者が従事できない農業業務もあるため、制度をよく理解してそのうえで導入のための環境づくりを進めていきましょう。