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「生活オリエンテーション」とは特定技能受け入れ先の義務的支援
特定技能1号外国人を受け入れるためには、生活オリエンテーションが必要です。
生活オリエンテーションでは、日常生活や交通のルール、行政手続きなどについて座学と実地で案内し、日本での生活が問題なく送れることを目的にしています。
生活オリエンテーションは、入国後に受け入れ企業、もしくは受け入れ企業から業務委託を受けた登録支援機関が、8時間以上かけて行います。座学および就業先と住宅近くでの案内が主な内容で、特定技能1号外国人の母国語で行われます。
座学に関してはテレビ電話のZOOMや動画視聴でも問題はありませんが、質疑応答ができる体制は整えねばなりません。
では具体的な内容を以下で解説いたします。
生活オリエンテーションの詳細
日本で生活するための案内
生活ルール・マナー
食品や薬などの購入方法について説明します。
コンビニやスーパー、ドラッグストアなどがどこにあり、それぞれで何が買えるかなどを案内します。家具・家電をネットショッピングで購入する方法まで案内すると親切です(近隣に家電量販店などがあれば実店舗での案内がよいです)。
またごみの分別方法・捨て方、喫煙のルールについても説明します。
特にごみについてはトラブルのもとになります。燃えるゴミ、燃えないゴミ、リサイクルできる資源ごみ、粗大ごみの4つの種類があり、捨てられる曜日が自治体ごとに違うことをしっかり説明します。
また喫煙場所が決まっていることについても案内が必要です。
当たり前のことですが、夜中に大声を出してはいけないことなどもしっかり案内します。
細かい生活ルールの違いが原因でトラブルにならないよう丁寧に話す必要があります。
金融機関の案内
コンビニや郵便局のATMでの引き出し・振込の方法を説明します。利用可能な時間帯や、手数料についても案内が必要です。給与がこれから振り込まれるため、口座開設について、また帰国後のため口座閉鎖についても案内します。
あわせて口座売買や譲渡が犯罪であることを説明します。
交通ルールの案内
「信号の赤や青の表示に従うこと」「歩行者は右側通行、車や自転車は左側通行」など基本的な日本の交通ルールについて案内します。
自転車については、夜間にはライト点灯が必須であること、防犯登録が必要なことを案内します。また自転車の場合でも、自治体によっては保険が義務化されていることについても説明が必要です。
他人から自転車を譲ってもらった場合、防犯登録を一度抹消し、新たに登録する必要があることも案内しておくと親切です。
「自動車を運転したい」という方も、いらっしゃると思います。そのため運転には免許が必要なことを説明し、免許取得と車の自賠責保険などについても案内します。
公共交通機関の利用方法
電車やバス、タクシーなどの公共交通機関の種類、乗り方について案内します。
通勤で電車やバスを使う場合、自宅から職場までの経路や所要時間について説明します。通勤で使う場合には、Suicaなどを使い実際に改札を抜けて乗り込む実例を見せて案内をします。
気象・災害情報の入手方法
災害が生じた際の情報を、母国語で入手できるサイトやアプリを共有します。
具体的には、NHK WORLD-JAPANやSafety tips、japan official travel app、またgoo防災アプリなど、多言語対応しているアプリです。避難指示がページのどこに載るかまで案内します。
家から近い避難場所や、非常用バッグなどを用意しておくことの重要性も案内しておくと親切です。
気象庁のページ(https://www.bousai.go.jp/kokusai/web/index.html)には、災害時に便利なサイト・アプリを紹介するリーフレットが多言語で用意されています。こちらを印刷し、よく見える場所に貼っておくことを案内してもいいでしょう。
日本における違法行為
日本では犯罪行為になってしまう行いを案内します。
悪意がないのに犯罪に関与してしまうこともありますので、非常に重要な案内項目です。
・銃刀法
・大麻や覚せい剤の所持が違法であること
・他人名義の口座から現金を引き出してはいけないこと
・他人のクレジットカードを利用してはいけないこと
などを案内します。また
・在留カードや保険証の貸し借りは禁止であること
・在留カードは常に持ち歩かないといけないこと
・警察官に在留カードの提示を求められたときには、提示をしないといけないこと
なども案内します。警察官に提示を求められたとき「忘れたので提示できません」は日本のルールでは許されません。
また持ち込んではいけない物品なども案内します。
・液体などは持ってくるのに容量が決まっていること
・肉や果物などの食品は持ち込みできないこと
・ブランドのコピー品の持ち込みが禁止であること
なども案内します。
薬についても持ち込み禁止のものがありますので伝えます。
日本での出産・子育て
日本入国後に妊娠したときにはどのような手続きをとるか案内します。
また出産前には、日本人と同等のサービスを受けられること、例えば母子手帳は自治体によっては最大8カ国語にまで対応していること、出産育児一時金などの手当があることも案内します。
教育制度・支援制度
日本語教室や日本語教育機関の情報提供をします。また入学を希望する場合には、入学手続きの補助ができることも案内します。
独学で学ぶための日本語学習教材の情報提供や、社内研修で日本語を学べるのであればそちらの情報提供もおこないます。
雇用契約について
在留資格別の働き方について案内します。
また派遣やパート、契約社員などに関する雇用形態についての知識の共有、給料がどのように払われるのかも説明します。
行政手続きの案内
入国・在留手続き
在留カードや在留資格申請について説明します。
在留カードは日本での生活に必須となり、外出時には持ち歩かねばならないことを案内します。
住民票やマイナンバーなどの手続き
住民票作成や引っ越しの場合に発生する手続きを案内します。口頭での案内だけでは難しいため、案内しながら一緒におこなうことが理想です。
市区町村で住民票が作成されると、自宅に届く通知カードで、マイナンバーが通知されます。マイナンバーは社会保障や税金、災害対策の手続きなどに必要であることを説明します。
また申請すればマイナンバーカードの取得ができることも案内します。マイナンバーカードがあれば、コンビニで住民票の写しが取得できることなどもあわせて説明します。
社会保障・税金に関する手続き
外国人でも国民年金・厚生年金などの年金制度や、健康保険制度への加入は必須となります。そのため当然毎月の保険料などの納付が必要です。
受け入れ先が適用事業所であれば、厚生年金と健康保険は月給から天引きされます。
ですがそうでない場合、加入手続きを自身で行い毎月納付をしないといけません。
万が一保険料の未納があった場合には、在留期間更新や在留資格変更を申請する場合に不許可になる可能性があります。
受け入れ先が適用事業所ではない場合には、保険料の納付を自動振替にするなどの対策もあわせて説明します。
また離職した際には、再就職まで国民年金と国民健康保険に加入することになります。この期間の保険料の納付忘れは日本人にもありがちなミスなので説明すると親切です。
困ったとき相談できる機関の連絡先
支援担当者の連絡先を共有します。
またトラブルが起こった際、相談する機関の連絡先を案内します。
具体的には以下の連絡先です。
1.地方出入国在留管理局
入国や在留に関する相談ができます。
2.労働基準監督署
賃金や残業代の未払いがあった場合、劣悪な労働環境におかれていた場合、また仕事中にけがをしたときなどに相談ができます。
3.近隣の警察署
犯罪に巻き込まれてしまったときや、交通事故にあったときの相談窓口となります。
4.ハローワーク
職業相談から失業給付の受給手続きに関して相談できます。
5.法務局・地方法務局
外国人であることを理由に差別を受けた場合や、人権を侵害された場合に相談できます。
6.市区町村の役所の連絡先
国民健康保険や国民年金、住民税、その他の行政サービスに関して相談できます。
7.弁護士会・法テラス
民事事件・刑事事件などのトラブルに巻き込まれた際、相談できます。
8.大使館・領事館
万が一、パスポートを紛失した際、相談に行かねばなりません。
医療体制と医療機関の案内
職場や住居そばにある医療機関の、場所・受診方法について案内します。
病院で受診する際には、健康保険証が必要であること、問診表を書くことを説明します。問診表を日本語で書くことが難しい方のために、多言語問診票を案内します。
母国語で自分の症状・アレルギー・宗教の関係で食べられないものなどを入力すれば、日本語に変換できます。こちらを印刷して持っていけばスムーズであることを共有します。
特定技能総合保険についても案内します。ただこちらは特定技能のビザを持ってないと入れません。
小児科や耳鼻科、眼科、整形外科、産婦人科など、症状により行くべき病院が違うことも案内します。
その他、通訳がいる病院や、インターネットもしくは電話を利用した医療機関向け通訳サービスが導入されている病院、外国人患者受け入れ体制がしっかり整備されている病院などが、近隣にあるようであれば、その所在地と連絡先を案内します。
JMIP(外国人患者受入れ医療機関認証制度)の認証を受けた医療機関一覧などもあわせて共有します。
防災・防犯・急病時の対処法
台風や地震などに対する備えや、犯罪から身を守る方法を説明します。
地震については、震度5弱以上が予想されるときには、震度4以上の揺れになる可能性のある地域に緊急地震速報が出されます。その際、どのような避難指示や避難勧告が出るかを案内します。
多言語で説明している動画がありますので共有します。
その時、あなたはどうする! 緊急地震速報のしくみと心得 ~緊急地震速報広報用ビデオ~
また火の予防ではタバコの不始末、コンロやストーブの取り扱い、さらに消火器の使い方などを案内します。
警察・消防・救急の呼び方の案内も必要です。
総務省消防庁の訪日外国人のための救急車利用ガイドを共有し、地域によっては海上保安庁(118番)の連絡先も伝える必要があります。
法的保護について
法的に問題がある労働環境の場合、気づいて対処できるように入国管理法や労働関係法令に関する知識を説明します。またそのときの相談先もあわせて共有します。
1.出入国関連の法令違反を知ったとき
不法就労者を雇用していると気づいた場合には、地方出入国在留管理局の窓口で直接、また電話で相談できます。
2.労働関連の法令違反を知ったとき
残業代などの不払いがある、36協定の上限を超える時間外労働などがある場合には、労働基準監督署か、地方出入国在留管理局に相談できます。
3.特定技能雇用契約の違反を知ったとき
労働基準監督署や、地方出入国在留管理局に相談できます。
4.人権侵害があったとき
法務局・地方法務局、もしくは地方出入国在留管理局に相談できます。
まとめ
生活オリエンテーションについて、イメージをつかむことができたでしょうか。
「義務的支援である」という堅苦しい言葉も出てきましたが、簡単に言えば、日本で能力を十分発揮してもらうための支援になります。
日常生活やもしものときの対応については当然のこと、日本語学習についての支援も行うことで、コミュニケーションが円滑になり、より能力を発揮しやすくなります。
丁寧な生活オリエンテーションがあってはじめて、就業先での成長につながるといっても過言ではないでしょう。
本記事が、特定技能1号外国人の受け入れの一助になれば幸いです。