日本は少子高齢化が進み、労働力不足が社会問題になりつつあります。日本政府は新しい在留資格の特定技能を設定し、外国人材が建設業界の現場で活躍できる場を作っています。
そんな特定技能の中から今回は「建設」にスポットを当てて、建設業における外国人材の採用のメリットやデメリットを解説します。
建設業界の人手不足が深刻化している中、外国人材を採用するにあたって知っておきたい要件や試験の詳細もともにご紹介します。
目次
建設業界の人手不足が深刻化している
建設業界では今人手不足が、とても深刻な状況になっています。2020年の調査会社による「人手不足に対する企業の動向調査で、従業員が不足している業種の第1位が建設だったことがわかっています。
なんと正社員が不足していると回答した企業は、全体の51.9%と半数以上の数字にのぼっています。
建設業界に新しい人材が入ってきておらず、高齢化も進んでいる証です。日本は今後ますます少子高齢化が進んでいく国です。
建設業界では人手不足が続き、日本人だけでの労働者では建設業界を担う人材が足りない状況は悪化すると予想できるのです。
建設業界の人手不足が深刻化する3つの理由
建設業界がなぜここまで人手不足の深刻化に悩んでいるのでしょうか。その背景には建設業界のイメージや、近年変化した国が定める法律やシステムの影響も受けているのです。
建設業界の人手不足が深刻化している、代表的な3つの理由を詳しく見ていきましょう。
労働基準法改正による労働時間上限の規制
建設業は2024年4月から時間外労働時間に、罰則付きの上限が設けられます。もともと労働基準法は、原則1日8時間、週40時間以内の法定労働時間が定められています。
これをオーバーする場合は時間外労働に該当するのです。
そこで2024年4月からは、時間外労働の時間が、月45時間以内、年間あたり360時間以内が原則になります。やむを得ない事情があり、労働者と事業所の双方の合意があっても、最大で年720時間、月平均60時間までの時間外労働です。
しかしこの時間をオーバーすれば、6ヶ月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金が課せられるのです。
そのため、今建設業界は2024年4月までに労働規制をオーバーしないための環境づくりが求められているのです。
建設業界は長らくの人材不足から、長時間労働が常態化している企業も珍しくありません。この規制によって、ますます苦しい状況に立たされているのです。
インボイス制度導入による一人親方の減少
2023年からのインボイス制度の適用により、一人親方の経営負担が増えたことも人材不足の影響の1つだと考えられています。
「一人親方」とは個人事業主であり、労働者を雇用しないで自分自身や家族経営による事業者のことです。
いわゆる個人事業主のスタイルのため、一定の所得未満であれば消費税の支払い免除がありました。しかしインボイス制度はインボイスの免税事業者に対して消費税支払いを負担させられる仕組みに変わっています。
つまり、これまで納める必要がなかった個人事業主の消費税が、一人親方で負担する必要が出てきてしまったのです。
建設業は1件あたりの報酬単価が高く、消費税の納税が必要になると実質の収入が大幅に減ることにつながります。またインボイスを発行できなければ、元請けとなる企業が消費税を負担する必要が出る分、免税事業者ではない一人親方には仕事を依頼しない例も出てきています。この背景から、一人親方を廃業する人も出てくるのではと問題視されているのです。
建設業界の労働環境のイメージによる希望者減
建設業界の人材不足は、労働環境があまり良くないイメージの影響もあります。建設業界と言えば、仕事がきつい、汚い、辛いといったイメージを抱く若者が少なくありません。
この労働環境を嫌がる若者が多く、頭脳労働のデスクワークが中心であるホワイトカラーの仕事を選ぶ人が増えています。だからこそ、建設業など肉体労働を中心とした業種はどうしても希望者が少ないのです。
その結果人材不足が進み、国内の建設業界の就業希望者のみでは足りない状況です。
建設業界の外国人雇用が今注目されている
建設業界の人手不足の現状を打破するために、外国人材に日本で働いてもらう特定技能「建設」が創設されたのです。
この特定技能は外国人材を受け入れ、建設業界における生産性の向上や国内人材の確保を目的としています。
すぐに建設業界で活躍できる外国人材を戦力として、在留資格を与える仕組みです。これは国が主導で取り組んでおり、建設に関する知識、一定以上の日本語能力がある人材のため、即戦力となる人材を採用できるメリットがあるのです。
建設業界の特定技能が創設された理由
特定技能「建設」は2019年の4月に作られました。特定技能が創設された背景には、国内の人材の不足が大きく、中でも建設業は従業員が不足している業種第1位になるほどの人材不足だと言われています。
しかし一方でアジアをはじめとする発展途上国では、若者の人口に対して仕事が足りない状況です。少子高齢化が進む日本で外国人材を積極採用すれば、日本は人手不足の解消につながり、外国人材は安定した仕事に就けるのです。
この背景から、外国人材の受け入れが進み建設業離れが進んでいる現状を打破するため、特定技能の建設が作られました。
外国人材が働ける建設の特定技能の3種類
業務区分 | 内容 |
---|---|
土木分野 | 型枠施工 コンクリート圧送 トンネル推進工 建設機械施工 土工 鉄筋施工 とび 海洋土木工 その他、土木施設の新設、改築、維持、修繕に係る作業 |
建築分野 | 型枠施工 左官 コンクリート圧送 屋根ふき 土工 鉄筋施工 鉄筋継手 内装仕上げ 表装 とび 建築大工 建築板金 吹付ウレタン断熱 その他、建築物の新築、増築、改築若しくは移転、修繕、模様替又は係る作業 |
ライフライン・設備分野 | 電気通信 配管 建築板金 保温保冷 その他、ライフライン・設備の整備・設置、変更又は修理に係る作業 |
参考元:特定の分野に係る特定技能外国人受入れに関する運用要領)
特定技能建設の対象となる職種は上記の通りです。
現在は大きく分けて3区分あり、土木施設に関わる作業である土木分野、建設物に関わる建設分野、そしてライフライン・設備分野です。
業務範囲は令和4年8月の閣議決定によって大幅に拡大され、以前と比べて任せられる業務の幅が広がっています。
人材不足の建設業界において、強力なサポートになってくれるのです。
建設業界の特定技能1号・2号の違いとは?
特定技能の1号と2号はそれぞれ条件や資格取得によって、在留資格が異なります。
特定技能1号 | 特定技能2号 | |
---|---|---|
在留期間 | 1年以内で個々に指定 (通算5年まで) | 3年・1年・6か月ごとの更新 (更新の制限なし) |
技能水準 | 相当程度の知識又は経験を必要とする技能 | 熟練した技能 (各分野の技能試験の合格が必要) |
家族の帯同 | 不可 | 条件を満たせば可能 |
日本語能力水準試験の有無 | ある | ない |
1号と2号の違いは、家族が帯同ができる点と、2号では在留期間の更新制限がなくなる点です。
2号になると家族とともに日本で暮らせるうえ、さらに更新の制限がないため日本人労働者のように、長期にわたって技術を磨いていけるのです。
最初に特定技能1号を取得し、建設分野特定技能2号に移行可能です。
特定技能1号の建設は、建設分野における一定の知識や経験を要する業務が対象です。2号は求められるレベルが1号より高く、2号は工程を監理する立場を任せられるのです。
建築業界の特定技能評価試験の概要
外国人材は特定技能を取得するために、特定技能評価試験と日本語試験の2つをクリアする必要があります。
特定技能評価試験
特定技能評価試験は学科試験と実技試験に分かれており、1年に数回行われる試験で一定以上の結果を得る必要があります。実技試験は職種ごとに違い、作業試験や判断試験など細かく定められています。
特定技能は業務部分が近年再編された影響で、試験の内容も2024年から変化します。2024年からの特定技能の試験概要の情報は随時更新されているため、公式サイトを参考にしてください。
日本語試験
特定技能「建設」には日本語試験の合格も必要です。即戦力が求められるため、日本で就業や生活ができる最低限の日本語能力があるかチェックするのです。
合格する基準は日本語能力試験JLPTのN4以上であるか、国際交流基金日本語基礎テストの合格が必要です。
ちなみに日本語能力試験のレベルは5段階あり、このN4は基本的な語彙や漢字を使って日常生活の中でも身近な話題の文章を読んで理解できるレベルです。
試験は年に2回あり、外国人材で多い意思疎通が困難という悩みの解消につながり、建設業界での即戦力として活躍してくれます。
技能実習2号修了で特定技能1号への移行も可能
技能実習2号を良好に修了していると、特定技能1号への移行も可能です。
この技能実習は2年10ヵ月以上、かつ技能検定3級、またはこれに相当する技能実習評価試験の実技試験に合格していることが条件です。
ただし普段から外国人材の勤務生活態度の評価が高い場合は、技能実習2号を良好に修了している状態と判断し、試験を免除されるケースもあります。
建設業界で特定技能受け入れをするメリット
建設業界で今特定技能を受け入れる事は、次のように多くのメリットがあります。
日本人に近い作業内容の雇用ができる
特定技能による外国人材は、日本人に近い作業内容の雇用が可能です。特に令和4年からは新区分になり、日本の人材と変わらないような多くの建築や土木設備工事等を任せられるのです。
過去は任せられる作業内容の制限が大きく、外国人材の中で有能な人がいても、すべての仕事を教えられませんでした。
今は幅広い業務を任せられるため、即戦力になるだけでなく長期にわたる建設業界を支える人材となってくれるのです。
日本語能力試験合格者のため意思疎通しやすい
特定技能を持つ外国人材は、あらかじめ日本語能力試験に合格しています。最低限の日常会話や文字なども読み書きができるため、意思疎通しやすいのです。
建設業界の外国人材において長らく、コミュニケーションの円滑化が課題となっていました。そんな中であらかじめ一定レベルの日本語能力があると認められる試験合格が条件のため、問題なくコミュニケーションを取れるのです。
そのため建設会社にとっても新しい外国人材を雇う抵抗がなくなり、すぐに仕事を覚えてもらいやすいメリットもあります。
建設業種の国家資格所有で専任技術者になれる
外国人材も建設業の3年から5年の経験により、国家資格を取得することが可能になりました。
この専任技術者として認められると、土木設備工事、建築設備工事、大工工事、電気工事といった国家資格を所有できます。すると、より幅広い業務に携わってもらえるのです。
例えば一級建設機械施工技師になれば、専任技術者及び監理技術者として現場の全体も任せられるのです。
外国人材は有能であっても、特定技能1号であれば在留期間5年の制限があります。
しかし特定技能1号取得後の実務経験や試験合格により、2号になれば国内の人材と同様に国家資格取得の受験資格を得られます。
すると、外国人材のレベルに合わせてキャリアをステップアップしていけるのです。
建設業界で特定技能受け入れをするデメリット
建設業界で特定技能の受け入れをする事はたくさんのメリットがあります。
しかし一方で知っておきたいデメリットもいくつか存在するのです。
メリットとデメリットを比較した上で、建設業界にどれぐらいの外国人材を招くのか、そしてどうやって付き合っていくのかが今後の課題と言えるでしょう。
受け入れ負担金がプラスされる
建設業界では特定技能1号を採用する際に、受入企業が一般社団法人建設技能人材機構(JAC)へ1号特定技能外国人1人につき毎月受け入れ負担金を支払う必要があります。
この受入負担金は、教育訓練および技能評価試験の実施、試験合格者や試験免除者の就職・転職の支援、受入企業および1号特定技能外国人に対する巡回指導並びに母国語相談ホットライン業務などJACが特定技能外国人受入事業を実施する共同事業に充てられます。
雇用条件に日本人と同等以上の賃金の支払いの義務がある分、会社の実質的な負担は日本人材よりも高額です。
この毎月の受け入れ負担金の費用は、外国人材の資格取得の経緯によって異なりますが一般的に月々1~2万円です。
転職できるため離職されるリスクも高い
特定技能外国人は転職も可能です。そのため今の現場でキャリアを積んだ後に、別の建設会社へと転職されてしまうリスクも高いのです。
ただし、これは日本の労働者と同じことです。考えたいのは外国人材が長く働いてくれる環境を整えることです。
建設業界の人材不足解消のためにも、快適な労働環境や円滑なコミュニケーションなどの、しっかりとしたサポートが求められるのです。
建設業界の特定技能の外国人材を採用する方法
特定技能の外国人材を雇用する企業は「特定技能所属機関」になります。
この特定技能所属機関になってはじめて、次の条件を満たしたうえで外国人材の採用が可能なのです。
国土交通省から「建設特定技能受入計画」の認定を受ける
まずは特定技能の外国人材を受け入れるにあたって、外国人に対する報酬額を詳細に記載した「建設特定技能受け入れ計画」の提出が必要です。
この内容が適切であると国土交通大臣からの認定を受けて、初めて外国人材を受け入れられるのです。
その条件とは主に次の4つです。
- 同一技能を持つ日本人と同等額以上の賃金を支払うこと
- 特定技能外国人に対して月給制で報酬を安定的に支払うこと
- 建設キャリアアップシステムに登録していること
- 1号特定技能外国人材の数が常勤職員の数を超えないこと
つまり外国人材は日本人と同等の賃金の支払いが必要で、かつ常勤している国内の職員の数をオーバーしないことが必要です。
他にも一般社団法人建設技能人材機構(JAC)、またはJAC正会員の建設業界団体への加入も必要です。
外国人材の支援体制の義務の基準をクリアする
外国人材の受け入れには、協議会への加盟が必要なため、一定以上の要件や基準が設けられています。
支援能力を証明するためには、例えば住居の契約の際に連帯保証人になるなど複数の支援が義務付けられているのです。
このような支援業務は、登録支援機関への委託も可能のため相談してみることをおすすめします。
建設業界の外国人材受け入れ費用は?
建設業の場合、協議会に対して外国人材1人につき、受け入れ負担金を毎月一人当たり1.25~2万円の支払いが必要です。これは年会費とは別途支払う必要があり、外国人材1人につき支払う企業の負担は、日本の労働者よりも上乗せになります。
つまり同じ人材を雇うのなら外国人材を受け入れている方が、月々かかる費用負担は大きくなるのです。ちなみにこの費用は特定技能外国人がどのように資格取得をしたかによっても変わってきます。
なお、建設特定技能受け入れ後の講習の実施費用は、令和5年3月1日以降は、JACが負担することに変わります。これまで負担していた参加費が無料になることも発表されています。
まとめ
外国人材は建設業界の人手不足が深刻化する中で、強力な即戦力になってくれます。取り組める業務の内容の差もなくなり、賃金問題も日本人と同等以上の支払いが義務付けられ外国人材が活躍できる環境が作られつつあります。
今後の建設業界を支えてくれる人材だからこそ、外国人材を受け入れるために必要な条件、環境を整えることが大切です。