近年、自動車整備業界では、自動車整備士の不足が深刻化しています。
また、現在自動車整備士として働いている方の中にも、「このまま今の仕事を続けていて大丈夫だろうか」という心配があるそうです。
なぜ、自動車整備業界は深刻な人手不足や、自動車整備士の将来性の不安といった問題をかかえているのでしょうか。
本記事では、自動車整備業界が人手不足に陥っている原因と、人手不足の対策について解説します。
目次
自動車整備業界の人手不足が深刻化している
近年、日本では自動車整備士の人手不足が深刻化しています。
自動車整備士を目指し、専門学校に入学する若年世代が10年間で約半数に減少しているのです。
さらに、年々、自動車整備士の平均年齢が上昇する“働き手の高齢化”も課題として挙げられています。
近い将来、さらに人手不足が進むことが予測されている自動車整備業界。
ここからは、自動車整備業界の人手不足の現状についてご紹介します。
自動車整備士が年々減っている
自動車整備士の人数は、年々減少傾向にあります。
日本自動車整備振興会連合会が公表している「自動車整備白書(令和4年度版)」によると、平成24年~令和4年までの約10年間で、自動車整備士は約1.4万人減少しました。
また、令和3年から令和4年までの1年間でも、自動車整備士の人数は2,638人減少しています。
自動車整備工場の約5割以上が「人手不足を感じている」と回答しており、自動車整備士の人材確保が難しい状況にあるのです。
・参照元:日本自動車整備振興会連合会「自動車整備白書(令和4年度版)」
有効求人倍率は別業界・別業種の4倍以上
自動車整備士の不足が深刻化している自動車整備業界の有効求人倍率は、別業界・別業種の4倍以上です。
有効求人倍率とは、公共職業安定所(ハローワーク)に登録されている求人数に対する、求職者数の割合です。
有効求人倍率が高ければ高いほど、「求職者数よりも企業側の求人が多い」という状態であることが考えられます。
全産業の有効求人倍率は、令和3年度時点で1.05倍でした。一方で、自動車整備業界の有効求人倍率は、同時点で4.55倍です。
自動車整備業界では、自動車整備士の不足に比例して、有効求人倍率が高くなっている傾向にあります。
自動車整備士が不足している原因・理由
平成24年から令和4年までの約10年間で、約1.4万人の自動車整備士が減少している自動車整備業界。
なぜ、自動車整備士の数は年々減り続けているのでしょうか。
ここからは、自動車整備士が不足している原因・理由を3つご紹介します。
自動車整備士を目指す若年世代の減少
自動車整備士のなり手が減り続けている最大の理由は、「少子化による若年世代の減少」です。
自動車整備士になるには、高等学校卒業後、自動車整備科のある自動車整備学校に進学する必要があります。
しかし、近年では少子化の影響を受け、自動車整備学校に進学する生徒数自体が減少し続けているのです。
文部科学省が行った「学校基本調査」によると、自動車整備学校への入学者は、令和3年から令和4年にかけての1年間で激減していることが明らかになっています。
令和3年度の入学者数は8,455人だったのに対し、令和4年度の入学者数は7,373人まで減少しているのです。
なお、平成15年頃までの入学者数は、約1万2千人でした。
当然、入学者数の減少は、自動車整備士の不足に直結しています。
・参照元:学校基本調査(文部科学省)
自動車整備士の高齢化
少子化の影響により、自動車整備士のなり手が不足している一方で、自動車整備士の高齢化も問題視されています。
日本自動車整備振興会連合会の「自動車整備白書(令和4年度版)」によると、自動車整備士の平均年齢は「46.7歳」と公表されています。
専業の自動車整備士で平均52.1歳、ディーラーとの兼業で平均36.8歳です。
40歳という年齢でも、現場では「最も若い」と言われている自動車整備士も少なくありません。
しかし、自動車整備士の高齢化が進むことで、「若年世代との価値観のズレ」による人間関係トラブルが生じる可能性が高くなります。
また、体力面での限界を感じて離職する自動車整備士が多いという課題にも直面している状況です。
・参照元:日本自動車整備振興会連合会「自動車整備白書(令和4年度版)」
離職率の高さ
少子化による、自動車整備士のなり手不足と、自動車整備士の高齢化。
さらには、自動車整備士の離職率の高さも自動車整備士の減少を助長してしまっています。
厚生労働省の「雇用動向調査結果の概要」によると、自動車整備士の離職率は18〜20%と報告されています。
また、自動車整備業界では、自動車整備士の3人に1人が辞めてしまうと言われているのが実情です。
自動車整備士が離職する主な理由は、以下の通りです。
- 残業や労働時間の長さ
- 賃金の安さ
- 休日が不定休かつ少ない
- 人間関係の悩み
- 将来性への不安 など
自動車整備業界は親族経営の企業や工場も多く、馴染めずに辞める自動車整備士が後を絶ちません。
また、休日の少なさや賃金の安さなどから将来性に不安を感じ、離職を選ぶ自動車整備士が多いようです。
自動車整備業界に影響している“若者の車離れ”とは
自動車整備士が不足している理由・原因は、自動車整備業界のなかで生み出されたものばかりではありません。
世間全般的な影響から、自動車整備士の不足につながっているものもあります。ここからは自動車整備業界の人手不足に影響している“若者の車離れ”についてご紹介します。
購入費や維持費の高さ
近年、自動車運転免許を取得したり、自動車を購入したりする若者が減少しています。
それを「若者の車離れ」と呼び、自動車整備業界に大きな影響を与えています。若者の車離れが進んでいる理由は、以下の通りです。
- 自動車の維持費が高いから
- 自動車の購入費が高いから
- 自動車の価格と魅力が見合わないと感じるから など
経済的な理由が主ですが、中には「日常生活で車が必要だと感じないから」という声も挙がっています。
電車やバスなどの公共交通機関の充実により、自動車の魅力が下がってきていることも要因の一つとして考えられます。
公共交通機関の充実
近年、日本では東京都や横浜、名古屋、大阪、福岡などの主要都市を中心に、電車やバス、新幹線などの公共交通機関の充実が図られています。
その理由としては、高齢者や障がい者などの自動車を運転できない方でも、自由に外出できる社会づくりをするためです。
そのため、近年の日本は、自動車を購入しなくても、外出や旅行が自由に楽しめる世の中へと変化し続けています。
その結果、若者の車離れが進み、自動車整備業界の需要が下がってしまっているのです。
若者の自動車に対する関心が低下することで、ドライバーが減るだけでなく、自動車整備士を目指す若者も比例して減少します。
そのため、ドライバーを含め、若者の自動車に関する関心を高めることが重要になるのです。
自動車整備士が不足し続けるとどうなるのか
自動車整備士が不足し続けることで、自動車整備業界全体が経営難に追い込まれるだけでなく、自動車ユーザーにも大きなデメリットが生じます。
ここからは、自動車整備士が不足し続けることで生じるデメリットや問題についてご紹介します。
自動車の整備に時間を要する
自動車整備士が不足し続けることで、まず1番に生じるデメリットは「自動車の整備に時間を要すること」です。
若者の車離れがあったとしても、日本全国に自動車を保有している人は大勢います。
日本全国の自動車ユーザー、一人ひとりが車検や点検、故障、事故などで自動車の整備を依頼するわけです。
しかし、自動車整備士が不足し続けると、これらの整備に対応しきれなくなってしまいます。
整備に時間を要するだけでなく、数週間から数ヶ月単位で自動車を預かることになる可能性も考えられるでしょう。
また、整備に時間を要することで、以下のようなトラブルにも発展してしまいます。
- 整備にかかる時間が長いことで、クレームが相次ぐ
- 自動車を手放したり、廃車にしたりする人が増えることで、中古車販売店や廃車買取業者が対応に追われるようになる
顧客と整備工場の間での揉め事や、中古車販売店・廃車買取業者などの関係各所と整備工場が揉めるなど、さまざまな揉め事に発展する可能性があります。
そうなると、さらに自動車に対する魅力が薄れ、若者の車離れが進むことにもつながるでしょう。
自動車の整備に関する不正が増える
自動車ユーザーや中古車販売店・廃車買取業者などの関係各所との揉め事が続くと、やがて社会的問題として取り上げられることになります。
ここまでくると、自動車整備業界もついに対応の限界を迎えてしまいます。近年、問題視されている指定整備工場での「不正車検の摘発」。
保安基準を満たしていない自動車や、適合検査をしていない自動車が不正に合格となり、街中を走るのです。
指定整備工場の取り消しや営業停止など、非常に重い処分が下される不正車検ですが、自動車整備士の不足により、さらに増えることが想定できます。
自動車整備士の人手が足りないために、実際に行っていない車検・点検を「したこと」にするのは非常に危険です。
今後、このような不正が増えないためにも、自動車整備士の人材確保が重要視されているのです。
自動車整備士の不足に対する国の対策
自動車整備士の不足に対して、国は「深刻な問題である」と受け止め、さまざまな対策を行っています。
国の対策により、“自動車整備士の需要が高まる”・“自動車整備士の給与水準が上がる”など、さまざまな嬉しい効果が期待できるでしょう。
ここからは、自動車整備士の不足に対して、国が行っている対策を3つご紹介します。
国土交通省が設立した対策チーム
平成25年から、国土交通省は自動車整備士人材不足の背景にある課題を解決するため、官民一体となった「対策チーム」を設置しました。
2023年3月に発表された「中間とりまとめ」では、以下の3つの柱が提示されています。今後は、以下の3つの柱を実行するとのことです。
①人材の募集 | ・若年層(小学生・中学生等)へのPR強化を行い、自動車整備士の認知度を早期段階から高める ・高校生等を対象とした整備工場における職業体験を実施し、自動車整備士の職業選択を促す |
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②人材の定着 | ・自動車整備士の働きやすい職場ガイドラインを策定し、事業者の達成状況を評価することで、自動車整備業の職場環境改善を支援する ・国による経営者向けセミナーを開催し、短時間勤務や週休3日勤務などの自動車整備士の多様な働き方の提示について意識喚起する |
③人材の育成 | ・地域の整備事業者が合同で行う先進技術の研修に対する支援 ・整備士養成施設におけるVR教材や最新車両 (安全・環境技術登載車両)等の導入に対する支援 |
女性整備士が働きやすい環境の整備
全国には約1万人の女性自動車整備士がいますが、まだまだ男性自動車整備士の人数が多いことが実情です。
さらなる女性自動車整備士の活躍を後押しするために、国土交通省と自動車整備業界は、平成25年から定期的な勉強会の開催を行っています。
勉強会では、女性自動車整備士が働きやすい職場環境づくりのガイドラインを設け、推進しています。
自動車整備士は、重い部品を持ち上げるといった、肉体労働が多いというイメージを持つ方も少なくありません。
しかし、近年の自動車整備業界では、接客をしたり、重い部品を運ぶサポートツールを活用したりと、女性が働きやすい職場環境が整っています。
特定技能制度による外国人整備士の受け入れ
少子高齢化が進んでいる日本では、若年世代の人材確保に限界があります。
そのため、自動車整備業界では、特定技能制度による外国人整備士の受け入れを積極的に行っています。
また、自動車整備業界では、外国人女性の活躍にも、注目が集まっているのをご存知でしょうか。
現在の自動車整備業界では、女性や外国人の方でも働きやすい職場環境づくりが推進されています。
そのため、国内での人材確保が困難な産業分野である自動車整備業界では、専門的技能を持った外国人自動車整備士が多く活躍しているのです。
自動車整備業界は、「特定技能1号」として、2019年から外国人整備士の受け入れを開始しました。
今後も、日本の自動車整備業界で活躍する外国人労働者の数は増えていく見込みです。
まとめ 自動車整備士の不足は深刻な問題
自動車整備士が不足することで、社会全体にさまざまな影響をもたらします。
自動車整備士が不足し続けることで、自動車の整備に長い時間・期間がかかったり、整備の不正が相次いだりすることが想定できます。
人々が安全なドライブを楽しめる社会を作るためには、自動車整備士の存在が欠かせません。
特定技能制度による外国人整備士の受け入れや、女性整備士が働きやすい職場環境づくりを進めていくことが非常に重要です。