2020年1月頃に流行した新型コロナウイルス感染症により、大きな影響を受けてしまった航空業界。航空業界では、新型コロナウイルス感染症の流行前から、人手不足が問題視されていました。新型コロナウイルス感染症の流行前と流行後で、航空業界の人材確保にどのような変化があったのでしょうか。本記事では、航空業界における人手不足の現状と、外国人労働者のはたらきについてご紹介します。
航空業界とは?
そもそも、航空業界とは、具体的にどのような企業・会社のことを指すのでしょうか。航空業界は、以下の2つの事業に大別されます。
・航空会社
・空港運営会社
ここからは、それぞれの事業について詳しく解説していきます。
航空会社
航空会社は、航空機を運航することで、人や物を運ぶ事業です。大規模航空事業者である「メガキャリア」と、格安航空会社である「LCC(ローコストキャリア)」の2つに大別されます。事業規模が異なる分、提供するサービスにも多少の違いや差があります。
メガキャリア
メガキャリアとは、価値の高いサービスを提供している大規模航空会社のことです。多様な運航路線を整備したり、映画やビデオゲームなどの機内エンターテイメントを充実させたり、質の高い機内食を提供したりしています。こうしたサービスがある航空会社は、「FSA」や「FCS」とも呼ばれています。
LCC
LCCとは、安価なサービスを提供している格安航空会社のことです。短距離の直通路線を高頻度で稼働させたり、頻繁に利用されていない空港周辺を拠点に航空機の運航を行ったりと、運行の効率化を図っています。また、機内サービスの簡素化により、利用料の削減を図っていることも特徴です。
空港運営会社
日本国内の空港運営会社には、「国が管理する空港」「国が出資する資金で運営している空港」「地方自治体が管理する空港」など、さまざまな運営・管理の空港があります。2016年から空港運営会社の民営化が始まり、関西・伊丹・仙台・高松・福岡などの空港がそれぞれ、民間委託での運営に切り替わりました。国が管理する空港の中には、滑走路のみ国が管理運営し、旅客ターミナルなどは民間運営にしているという空港も存在します。運営・管理はさまざまでも、サービス内容は一律です。空港運営会社では、「航空機の離着陸」「空港での物販」「旅客への飲食の提供」などのサービスを提供しています。
航空業界が抱える課題とは
航空業界が行う事業は、人を運ぶ「旅客分野」と、荷物を運ぶ「貨物分野」の2つに分けられます。そのうち、旅客分野の需要は2020年1月頃の新型コロナウイルス感染症の流行により、大きく低下しました。ここからは、航空業界が抱えている2つの課題について詳しく解説していきます。
新型コロナウイルス流行の影響
航空業界は、2020年1月頃から流行した新型コロナウイルス感染症の影響を受け、一時的に需要が著しく低下しました。IATA(国際航空運送協会)によると、旅客の輸送距離を示す「有償旅客キロ(RPK)」は、2020年の時点で、前年比65.9%減となっています。また、航空業界は以前の3分の1まで業務を縮小せざるを得ない状態となりました。2021年秋頃からは、新型コロナウイルス感染症のワクチン開発が進んだため、日本国内の旅客数が少しずつ増えていきました。それでも、外国人観光客の入国が制限されたり、日本国内の感染者数が急激に増加したりと、航空業界の需要はなかなか高まりません。2024年現在も、新型コロナウイルス感染症の流行状況によって、運航停止となる恐れがある状態です。
パイロットの人手不足
航空業界ではパイロットの人手不足が深刻化しています。LCC(格安航空会社)の成長による給与水準の低下や、路線の拡大などが影響し、世界的にパイロットの不足が深刻化しているのです。また、新型コロナウイルス感染症の緩和・収束により、航空業界の需要が一気に高まる可能性もあります。国際民間航空機関(ICAO)によれば、2030年には全世界で98万人のパイロットが必要になると予測されている状態です。日本国内でも、パイロットの給料引き上げや育成システムの強化などに取り組んできましたが、人材確保が追いついていません。そのほか、人手不足が深刻化しているグランドハンドリングは外国人労働者でも働くことが可能なため、職種に応じて外国人労働者の雇用を推進しているのです。
航空業界の課題解決に外国人労働者
航空業界では、2030年に全世界で98万人のパイロットが必要になると予想されているだけではありません。さらには、航空業界内で令和5年度までに1,300人の外国人労働者を雇用することが目標として掲げられていました。そして新たに今後5年間で4,400人の目標設定が明らかになっています。ここからは、外国人労働者の方が航空業界で活躍するために必要な技能や条件について詳しくご紹介します。
受入れ予定人数
国土交通省の「航空分野における特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針」によると、外国人労働者の受け入れ予定人数に関して、以下のように示されていました。
しかしながら、その後の新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響による大きな経済情勢の変化を踏まえ、令和5年度までは当面、1号特定技能外国人の受け入れ見込み数を「最大1,300人」とし、これを1号特定技能外国人の受け入れの上限として運用する。
出入国在留管理庁の調査では、2023年12月末時点で、空港グランドハンドリングに従事する外国人労働者を627人、航空機整備に従事する外国人労働者を5人受け入れています。
求める人材
外国人労働者が航空業界で勤務するにあたって、必要な在留資格は「特定技能1号」です。特定技能1号の中でも、“空港グランドハンドリング業務”が対象になるものと、“航空機整備業務”が対象となるものに分けられています。航空業界での勤務を希望する外国人労働者の方は、自分自身が希望する業務内容に合わせて在留資格を取得する必要があります。
外国人労働者の主な業務内容
航空業界に従事する外国人労働者の業務内容は、主に「空港グランドハンドリング」と「航空機整備」の2つです。どちらの業務に従事できるかは、取得している「特定技能1号」の種類によって決まります。それぞれの詳しい業務内容は、以下の通りです。
・空港グランドハンドリング:航空機の誘導やけん引の補佐、貨物・手荷物の仕分けや積荷作業、客室の清掃や遺失物の捜査を行う
・航空機整備:次のフライトまでに整備を行う「運航整備」、機体の隅々まで整備を行う「機体整備」、計器類やエンジンなどの整備を行う
なぜ外国人労働者なのか
パイロットやその他の職種の人手不足が深刻化している航空業界。なぜ、日本人労働者の雇用ではなく、外国人労働者の雇用を推進しているのでしょうか。それは、日本が少子化による「働き手の不足問題」を抱えているからです。ここからは、外国人労働者を雇用することで期待できる航空業界の改革についてご紹介します。
コロナ禍収束後に向けた対応を行うため
2020年1月頃に流行した新型コロナウイルス感染症は、2023年5月頃に危険性が最も低いとされる“5類感染症”へと移行しました。そのため、国際航空運送協会(IATA)は、2024年の総旅客数は過去最多の“約47億人”、運航便数も過去最多の“4010万便”になると予測しています。航空業界の需要回復に伴い、新型コロナウイルス感染症の流行後、目立っていなかった人手不足が再び目立つようになることが想定できます。コロナ禍収束後、航空業界の需要回復とともに人材確保ができるよう、外国人労働者の雇用に力を入れているのです。
航空業界全体の経営改善を行うため
新型コロナウイルス感染症の流行がなければ、航空業界の経営はどうなっていたでしょうか。減便や運休を行う必要もなく、安定した経営状態が保てていたことでしょう。しかし、新型コロナウイルス感染症の流行で、大きな打撃を受けた航空業界の経営状態は、2024年現在も完全に回復していません。今後、航空業界では経営状態を改善するため、サービス品質の見直しに力を入れます。その際に、人手不足という課題に悩まないよう、外国人労働者の雇用を推進し、ある程度の人員を確保しようという考えです。
航空業界の職種紹介
航空業界に関わる職種は数多く存在します。ここからは、航空業界で活躍するスタッフや、それぞれの役割について詳しくご紹介します。
航空整備士
航空整備士とは、航空機の整備や点検、保守および整備スケジュールの管理を行う職種です。航空機の小さな変化に気づき、事故や故障を未然に防ぐという高い観察力が求められます。専門学校で航空整備士の資格を取得している方を募集していますが、企業によっては、工業高等専門学校や理系学部の大学・大学院卒業者の採用も積極的に行っています。入社後に実務経験を積みながら、航空整備士の資格取得を目指すこともできるからです。
ディスパッチャー(運航管理)
ディスパッチャー(運航管理)とは、航空機の運航前に、気象情報や航空機の状態、貨物の重量などの情報に基づいて飛行プランを作成する職種です。2年間の実務経験を積んだ後、「運行管理者技能検定」に合格することで、ディスパッチャー(運航管理)として活躍できます。
グランドハンドリング
グランドハンドリングとは、到着した航空機の誘導や貨物コンテナの搭降載、航空機のプッシュバックなどの地上支援業務全般を担う職種です。それぞれの業務内容に応じて、「大型特殊自動車免許」や「危険物取扱者」などの資格が必要になります。
パイロット
パイロットとは、航空機を操縦して乗客や荷物を安全に目的地まで送り届ける仕事です。パイロットになるには、「定期運送用操縦士」の資格が必要になります。専門学校で必要なカリキュラムを学んで資格を取得する方法と、航空会社が募集する「自社養成パイロット」に応募して、訓練を受けて資格を取得する方法の2つがあります。
客室乗務員
客室乗務員とは、航空機内で乗客への接客サービスや、離着陸時の手荷物の収納やシートベルトの確認、緊急時の誘導などを行う職種です。
グランドスタッフ
グランドスタッフとは、空港のチェックインカウンターで、航空券の発券や搭乗手続き、手荷物の預け入れの対応などを行う職種です。
航空管制官
航空管制官とは、空港にある管制塔から目視で航空機を捉え、離着陸の許可や飛行場面の走行距離の指示などを出す国家公務員です。また、空港から離陸した航空機をレーダーで捉えて誘導したり、各方面からの到着機の着陸順序を決定したりする役割を持ちます。
入国審査官
入国審査官とは、空港で外国人の出入国審査や日本人の出帰確認を行う国家公務員です。また、日本への在留審査や難民認定に関する調査業務なども行います。
税関職員
税関職員とは、輸出入貨物の審査や検査、密輸入の取り締まりを行う国家公務員です。空港貨物などの通関業務を主に担います。
今後の航空業界における外国人労働者のはたらき
新型コロナウイルス感染症の流行による打撃や、職員の人手不足問題を抱えている航空業界では、外国人労働者の雇用に力を入れて取り組んでいます。それは、日本の少子化により、若い働き手を確保することが困難であるからです。航空業界では今後、外国人労働者の活躍により、業界全体の経営状態を改善させていくことを目指しています。
まとめ
日本の航空業界では、業界の需要を高めるためにさまざまな策を考案しています。新型コロナウイルス感染症や、その他感染症の流行による移動制限がある場合でも、移動せずに旅を楽しめるバーチャルトラベルや、通販など。新サービスを展開することで、航空業界の持続性を保つという策です。また、チャーター機を活用し、遊覧ツアーを実施したり、機内食の通販を展開したりと、さまざまな新事業をスタートさせています。航空業界は今後、新型コロナウイルス感染症の緩和・収束により、さらなる発展や成長が見込まれています。